【完結】 セブルス・スネイプの天国   作:トライアヌス円柱

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タグに「ガールズラブ」を付けるべきか考えましたが、取り敢えず保留に
なにぶん初心者のため、ご助言ありましたら感想欄にいただけると助かります。


3話 誰かを好きになったこと

 

 

 

 「いいえ、全く。私も世間一般では許容されない相手を愛しているから、貴方の気持ちの幾ばくかは理解できるわ」

 

 

 無論、違うところも多いけれど、と続いた彼女の言葉が上手く聞き取れなかったほど、スネイプは驚く。まったく、自分は何度この女性に驚かされれば気が済むのか、とさらに自嘲する思いも湧いてきたが、今はそれよりも彼女に尋ねたい気持ちが優先した。

 

 「貴女も……?」

 

 「ええ、私が彼女を愛することを、両親親戚は認めてくれなかったもの」

 

 「………!」

 

 『私が彼女を愛すること』。今このブルネットの【女性】は間違いなく口にした。女性である彼女が愛する対象への二人称も【彼女】ということは………

 

 「ええ、私が愛する人も女性。世間一般で言う同性愛者よ。私」

 

 特に気負うこともなく、いっそ清々しいほどにさらりと告げるその姿。

 

 「そう、か」

 

 しかし、そうなると彼女の先ほどの言葉も頷ける。自分は人妻、彼女は同性。それぞれ『世間一般では許容されない相手』を愛しているのだ。

 

 「ただ、私の場合は多くの点で貴方と重なり、大きな点で貴方と異なる」

 

 「それはいったい?」

 

 「私とあの子は幼馴染で、長いあいだ交流していたというところは貴方と同じだけれど、今でも一緒にいるところが、貴方と違う」

 

 「ああ、それは確かに、大きな違いだ」

 

 普通なら気持ちを大きく揺さぶられる場面だったかもしれないが、感情を波立てることなく会話が出来ているのは、どこまでも淡々とした彼女の語り口のせいだろうか、とスネイプは思いながらも、やはり想い人と相思相愛であることを羨んだ。

 

 「でもそれは、私が貴方より優れていたとか勇気があったとか、そういう話じゃないわ。きっと、私は貴方より幸運だったのね」

 

 「そのあたりの所感を尋ねても?」

 

 「私はこんな性格だから、はっきりと自分の気持ちを告げたりしなかったわ。そうしたことは、いつもあの子がやってくれた。どこかに行くのも、いつも言い出すのはあの子。内にこもりがちな私の手を、時には鬱陶しいほどに引っ張ってくれたのがあの子だった」

 

 

 ……その関係は、自分とリリーに通じるものがある。陰気でプライドだけは高い自分を、いつも外に連れ出し一緒に遊んでくれたのが、リリー・エバンズだった。

 

 

 「告白してくれたのも、あの子よ。私のことが好き、これからも一緒にいようって言ってくれた言葉に、私は嬉しかったくせに『そんなの当たり前じゃない』と気取って返していたのだから、今思えばお笑い草ね」

 

 彼女は苦笑して自身の過去を語った。この女性が笑顔になったのはこれが初めてかも知れない。

 

 そこが、自分との違いだ。スネイプはリリーから告白を受けたことなどない。そして話を聞いたところから想像するに、どうやらこのブルネットの女性の恋人の性格は、割とジェームズ・ポッターに似たところがあるように思える。どこか暴走しがちな恋人に対し、静かで落ち着いた雰囲気の彼女。なるほど、凹凸が見事に嵌まり、バランスが良いように見える。やや異なるものの、ジェームズ・ポッターとリリーの関係にも通じるものがある。

 

 しかし、翻って自分はどうだろうか。スネイプは自問する。自分とリリーが一緒にいても、それは自分が一方的に依存している関係になるのではないだろうか? やはり自分の存在は彼女の迷惑でしかなかったのでは? 自己嫌悪感が極まっている彼は、そんなことまで考え始めた。

 

 「顔が暗くなっているわ。何か悪い事を考えてる?」

 

 「いや、私は貴女のような人に愛される魅力がないことに、改めて気づいただけのことだ」

 

 「……まあ、話を聞く限り貴方は今自己嫌悪する気持ちが大きくなってるでしょうし、仕方がないことだと思うけれど、同じ女としての立場で言わせてもらうと、きっと貴方の想い人も、貴方と過ごしていて苦痛であったことは無いと思うわ」

 

 ここで『女として』という前提をされたからには、スネイプは反論しづらい。どうあっても彼は男性で、女性の気持ちを計り知ることが困難なのだから。同性ならば、そのハードルは下がることは理解できる。

 

 「だって、仕事でもない限り、一緒に居て苦痛な人間となんて、すぐ離れるでしょう? 貴方とその人は幼馴染で一緒に遊んでいたのだから、間違いなくその人にとっても、貴方との時間は楽しいものだったと思う」

 

 「そうか。そうであれば、いいな」

 

 「ええ、きっとそうよ。少なくとも私なら、不愉快な相手とはさっさと縁を切っているわ」

 

 「確かに貴女ならそうしそうだ」

 

 「あら、元気が出た?」

 

 「まあ、多少は」

 

 

 スネイプの精神状態がやや回復したことを確認したあと、ブルネットの女性は話を続ける。

 

 

 「貴方が自身の話をしてくれたお返しという訳ではないけれど、私もあの子との関係の話をさせて貰うわ。それが貴方の悩みの解決の糸口になるかは分からないけど、いいかしら」

 

 「ああ、構わない」

 

 スネイプも、女性の意図は察することができる。彼女とスネイプは、愛する人に関して共通事項が多い。長年の幼馴染であること、その愛が世間では許容されづらいことなど。だが、彼女は愛する人と今も一緒におり、自分は彼女と遠く離れて且つ、その身を危険に晒させてしまった。

 

 自分と彼女の違いを堀り下げることで、この先自分がすべき事が見えてくるかもしれない、スネイプは漠然とそう感じた。

 

 「さっきも話したけれど、私があの子と一緒になることを、両親も親戚も大反対したわ。私の家系は信心深い人間が多かったから、同性愛など言語道断だって」

 

 「なるほど、それはそうだろう」

 

 イギリスはプロテスタントが主流だが、カトリックほどではないにしろ、同性愛は許容されない。

 

 「向こうの家族は一応は認めてはくれたのだけれど、やっぱり心の底では反対だったみたい。友人たちは応援してくれたけれどね。それでもやっぱり家族への説得は難航したわ」

 

 「しかし、今でも貴女たちは一緒にいるということは、説得に成功したのだろう?」

 

 「いいえ、駆け落ちしたの」

 

 「!?」

 

 流石に今度は絶句した。この落ち着いた女性と「駆け落ち」という単語のギャップに、脳が理解するのに数秒の時間を要することとなる。

 

 

 「そ、そうか。それはまた、思い切ったことをしたものだな……」

 

 なんだか自分はさっきから彼女の言葉にこんな相槌しか打ってないような気もするが、とりあえず先を促すスネイプだった。

 

 「あなたなら聞いていて分かると思うけど、もちろん言いだしたのはあの子よ。でも、駆け落ち先の街は少し騒がしくてね……」

 

 「騒がしい?」

 

 「IRAの過激派が多かったの。その頃は大分落ち着いて来ていたと思っていたのだけれど、また活発になり始めたようだった。死者が出る事件が頻繁に起こっていったわ」

 

 「……それは」

 

 おそらく、魔法族が原因だ。その『騒ぎ』なるものの正体は、IRAのテロ活動ではなく、死喰い人による『マグル狩り』だろう。こうして当事者に話を聞くことで、改めて自分が所属していた集団がやらかしていた事の愚かさと迷惑さが分かる。

 

 魔法省も今はまともに機能していないので、隠蔽も上手く出来ていないことは知っている。ましてや死者が出てしまえば、『何か』にその責任を押し付けるしかない。そのスケープゴートに選ばれたのが、IRAというわけだ。

 

 「それもね、大学時代の同級生がそこでIRAに参加して活動していたから、彼と旧知だった私たちも同類とも見なされて、元々他所者だった私たちは、街を出るほかなかったわ」

 

 「………苦労をしたのだな」

 

 本来は迷惑をかけた、と言いたいところだが、言うわけにはいかないスネイプだった。こうして関わり、好意的な印象を抱く相手に死喰い人が害を及ぼしていたことを実感すると、自分の選択の過ちを痛感できる。

 

 ああ、本当にそうだった、自分がマグルを蔑視するような言葉を言うたびに、「そんな言葉を使っては駄目よセブ」とリリーはいつも注意してくれていたというのに。

 

 出自に対するコンプレックスの塊だった自分は、そんなことにすら気付かなかった。リリーが死喰い人と闇の魔術を嫌うのは、何と当たり前のことだろうか。

 

 

 「しかし、そうなると実家に戻ることになったのか?」

 

 「いいえ? 今度はアメリカに渡ろうとしたわ」

 

 もう驚くのはやめよう。そう思うスネイプだった。

 

 「『よーし、じゃあ自由の国に行こう。あそこならどんな恋愛も自由だよ』なんてあの子は息巻いてたけど、実際調べてみたらアメリカはこの国よりも同性愛に非寛容だったりしたのよね。まあ、地域によるけれど」

 

 「なるほど」

 

 「だから、カナダにしたの。同じイギリス連邦だし、アメリカより同性愛に寛容だし、あの子の親戚もいたしで、それなりに条件が良かったから」

 

 物静かな雰囲気とは裏腹に行動力の塊だな、と感心しながらも、だからこそスネイプは彼女に尋ねる。このことを尋ねずにはいられないし、この問こそが重要だと感じる。

 

 きっと、この問への彼女の返答に、自分が進むべき道の標があると、漠然とした予感を抱く自分がいる。

 

 

 「家族や故郷を捨ててまで、彼女と一緒にいることに後悔はなかったのか?」

 

 「ないわ。彼女と一緒にいない私は、私じゃない。いえ、家や宗教、IRAごときを理由に彼女を見捨てる私は、私じゃないわね。」

 

 

 

 彼女の返答には、一切の淀みはなかった。そしてだからこそ、スネイプはさらに尋ねる。

 

 

 「なぜ、そこまで出来る? 自分の周囲の環境、培ってきた成果、そうしたものをすべて捨てて、たった一人を優先できる?」

 

 「男の人ってそういうところあるわよね。立場とか周囲とか、そうしたことを気にかける。それが悪いとは言えないし、男だから女だからっていうのも、もしかしたら関係ないのかしら。でも、そうね、それって、そんなにおかしいこと?」

 

 「………」

 

 「誰かを大事に思うことを、明確に説明することが出来ないと、それは偽物かしら。私は、ただ自分の気持ちに正直でいただけよ。彼女が好き。誰よりも大事。だから彼女を優先した、それだけよ。………そこに、万人が納得できる理由はないし、いらないわ。けれど私はこの選択に納得してるし、後悔もしていない。」

 

 「すべては自分の気持ち、それだけだと……」

 

 「ええ、たったそれだけだし、それだけあれば十分すぎる。身勝手な女だと笑うかしら」

 

 

 その『たったそれだけ』が、今までのスネイプには出来なかったのだ。

 

 

 「……いや、笑えない。すくなくとも、貴女は自分の中の優先すべきものを誤っていないように思う」

 

 

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