ってわけで始めます。
「とんぬら、なんてどうだろう? ……故郷の雷神にあやかった名前、なんだけど」
「いいと思うんだけど、ごめんね……それ近所の子がつけてたわ。それもこの子と同い年の子に」
「異世界どうなってんだ……? そもそも俺たちのせいか? いや紅魔族の感性が……」
「ふふふ……ね、他に何もないんだったら……────なんてどう? あの子と音も似てるし、いいかなって……ねえ、大丈夫?」
「……いや、とんぬらもだけど、こっちでその名前を聞くとは思ってなくてさ。うん、いいと思うよ。幸運と、ドラゴンのブレスにも負けない力強さを感じる、いい名前だよ」
「そう? あなたみたいにモテちゃいそうで、ちょっと思うところあったんだけど……」
「…………ごめん、本当にその感性はわからないんだけど、なんかごめんね」
「……うん、でもあなたの国でもそんなふうに言われてたなら縁起がいいのかもね。……私の可愛い赤ちゃん。あなたの名前は────」
▼
「はぐりん! ちょっと出てきてくれー!」
「わかったー」
呼ばれて玄関に顔を覗かせると自己紹介を受けた。
ここ紅魔の里の族長とその娘であるらしい。今まで接点がなかったのが不思議だが、従兄弟の家とウチとを行き来するしかなかったから当然といえば当然か。
顔を合わせると何事か呟いていたが族長の後ろに隠れてしまう。なんだか可愛らしい子だ。
「は、はじめまして……ゆ、ゆんゆんです……」
「こら、ゆんゆん。ちゃんとご挨拶しないと。学校で教わってるだろう?」
同い年ぐらいの女の子。ゆんゆんはそう言ってまた、この里の族長を名乗るおじさんの後ろに隠れる。
可愛い、とは思ったけど、紅魔族の人たちは美人やイケメンが多いから当たり前だった。
「……だってあんなの恥ずかしいんだもん」
「はあ。ゆんゆん……。すまないね、うちの娘はどうにもちょっと変わっていて」
やっぱり可愛い子だ。ゆんゆん、か。
「いえ、気にしてませんよ。むしろ余所者の僕からしてみれば気になりませんから。じゃあ、はぐりん?」
「うん。俺、はぐ……じゃなかった。えっと──我が名ははぐりん! いずれ紅魔族一の冒険者となる者! ──これでいいのかな? よろしくお願いします」
父さんの返事よりも先に族長が褒めてくれる。
「凄いじゃないか! その歳で立派な名乗りが出来るだなんて。野望もまた良し。この子に爪の垢を煎じて飲ませたいぐらいだ」
「お父さん! 冗談でもやめてよぉ!」
ローブを引っ張って揺するゆんゆん。確かに嫌だろうけど、多分今のは言葉の綾というやつじゃないだろうか。誰も本気で爪の垢を煎じて飲ませようとしているわけじゃないだろう。実際、大人2人は苦笑いしている。
見上げていていた視線を落とすと、ゆんゆんと目があった。さっと、また族長さんの後ろに隠れてしまう。
「いや、それにしてもタナーカ。他所の人が我々に理解があるとは思いもしなかったよ。ましてや、
「僕もです。こうして誰かと家族を作るなんて、思いもよりませんでした。……改めてお礼を言わせてもらいます。素性の定かでない、自分を受け入れてくれてありがとうございます」
「なに、運命という導きに従ったまでだよ。君も彼女もね」
「……。っははは! はい、そうですね」
ウィンクをかまして見せるおじさんはなんとも茶目っ気に溢れていた。
そんな父親が恥ずかしいとばかりに、ゆんゆんは俯いて顔を赤らめた。
まだ大人同士で話すらしく、ゆんゆんと遊んでくるように言われた。
「外に出てようか」
手を取ってそう言ってみると、彼女は小さく頷く。
「いいよね、父さん」
「あんまり遠くに出歩くなよ?」
「うん。行こ!」
「う、うん……!」
うちの母さんの仕事はポーション作り。里の外、王都ってところにも売ってるぐらい。ちなみに父さんは冒険者。僕は有名な冒険者なんだぞと自慢してたけど、母さんの方が稼ぎはいいらしい。一本ウン千万エリスのものをしょっちゅう売りに出している。材料の調達は主に父さん。こんな高い物でも買い手がいるから凄いものだ。ぼったくってないだろうかとちょっと不安になる。
そんなわけで割と裕福なうちの家は比較的大きい。隠れるところならたくさんある。
「──というわけで。かくれんぼしよっか!」
母さんの工房に入らなきゃいいだけだ。
「え!? あ、あの……ちゃんと見つけてくれる?」
「かくれんぼで2人しかいないのに、見つけないわけないじゃん?」
何か変なことを言うな、この子は。
「……。最後まで気付いてもらえなかったことがあって」
「うわぁ……酷い友達だ」
「え、友達?」
「そうじゃないの?」
「どう、だろう……」
じゃなかったら誰と遊んでたんだろう。
「一緒に遊べるんなら友達でしょ。だからえっと、俺とも友達になれるだろうし」
初めてのことでちょっと緊張する。こうして誰かに友達になって欲しいというのは初めてだ。
「ほ、本当!? ……わたしなんかが友達になっていいの?」
俺は恥ずかしかったわけだけど。この子はなんで急に悲しいことを言うのか。
「どうしてそんなに卑下するのさ。とにかくかくれんぼしよう! 君のことは絶対見つけるからさ。ちゃんと俺のことも見つけてくれよ?」
「……うん!」
泣きそうだったけど、なんとか泣かせずに済んだようだ。女の子泣かせたなんて知られたら、大人にこっぴどく叱られる。
ぼっち、というやつなのかなあ、と思いつつ、かくれんぼをした。
……見つけてもらえなかったのって、ゆんゆんが隠れるの上手すぎたんじゃないかな。
「あの、さっきはごめんなさい! はぐりんの爪の垢が汚いとかそういう意味で言ったんじゃなくて!」
「いや、普通に汚いと思うし別に謝ることないからね!?」
ゆんゆんと仲良くは、なれたと思う。可愛いけどやっぱり、ちょっと変わってる子だ。
▽
里の中心から外れたところに建つぼろ屋。いや、ひょいざぶろーおじさんの家。
「よう、めぐみん」
「おや、はぐりん。今日はなにを持ってきたのですかー! とう!」
家の外にある野草をぶちぶちと引きちぎっていためぐみんが襲いかかってくる。
「あ!? 挨拶もそこそこに人のオヤツを取っていくのどうなんだよ」
いつものことだけど。相変わらず清貧を尊んでいるようだ。
「はい、これはぐりんの分です」
「いや、元々俺の……まあいいけどさ」
揚げたパンの耳に砂糖をまぶしただけのお菓子。此処で買うと砂糖はちょっぴり高かったりするけど、王都にいけば里で買うよりも安く買える。
「ううう。久しぶりに硬いものを口にしました。はぐりんは我が家の救世主です……」
口の周りに砂糖をつけてめぐみんはそんなことを言う。
「大袈裟だろ。いや、大袈裟だよな? ……不安になってきた」
「あながち冗談じゃないのです。……妹がもうすぐ生まれるので、母は家から出られず、主に栄養のあるものは母が。だというのに父はペースは落としているものの、ガラクタをいくつもいくつもいくつもいくつも……」
「ああ、わかった。わかったから。全部持ってって。ゆいゆいさんにもあげてくれ」
「ありがとうございます……」
食い物とお金が絡んでくると、どうもめぐみんはいつもの調子ではなくなってしまう。
「ところで、はぐりんは今日はどうして?」
「ああ、そうだった。父さんが良かったら晩ご飯食べに」
「行きます。お弁当箱持ってっていいですか?」
どうして親戚でこんなに貧富の差がうまれるのか、俺にはちょっとよくわかんなかった。
▽
少し準備してから来るとのことで、めぐみん
「痛っ……あ、ごめん! ……っしょ、大丈夫?」
その帰り道、家の影から飛び出してきた女の子とぶつかってしまう。
さっさと立ち上がり手を差し出して、立ち上がるのを手伝う。
何か急いでたんだろうか。ちょっと年上の女の子のようだ。眼帯を片目につけている。お洒落かな。
「ああ、うん。気にしないでくれ。……なるほど、お話みたいなことにはならないか」
?? ……なにいってるんだろう。持っていたらしいペンと手帳をなにやら書き込み始めた。
「大丈夫? 怪我してない?」
「ん、ああ。ありがとう。色々と為になったよ」
「為になったって……。ちょっと待って」
お互い、尻餅をついた時に服も土で汚れてしまってる。
手も汚れて……って怪我してるじゃん。
「『クリエイトウォーター』、『ヒール』! はい、綺麗になった。ごめんね、急いでたの邪魔したみたいで」
「いやいいんだ。急いでいたわけじゃないから。……今のは《初級魔法》と、《回復魔法》かな? どうしてもうそんなものとってるんだい? ……というか『冒険者』なのか君は」
「いやあ、親の方針でさ。まあ俺自身望んで選んだことなんだけど」
「とても興味をそそられるよ。詳しく聞かせてもらっても、いいかな?」
一貫して大人びた、落ち着いた口調に変わりはないけど、好奇心が昂っているのは感じ取れる。
「そう? ならちょっと話そうか」
それに、こんな期待された目で見られたら話さないわけにもいかない。紅魔族的にも。
そういや名乗ってなかったな。……こういうのは「れでぃ・ふぁーすと」だと父さんが言ってた。
「我が名はあるえ! 紅魔族随一の発育にして、やがて作家を目指す者!」
「我が名ははぐりん! いずれ紅魔族一の冒険者となる者!」
お互いに名乗って、得心がいった。なるほど、作家志望なのか。……それで。ぶつかってきた訳はとんと見当つかないけど。
「よろしく、はぐりん。私に面白い話を聞かせてくれ」
「こちらこそ。よろしく、あるえさん」
内心、そんな面白い話でもないんだけど、と思いながら、適当な岩を椅子がわりにして座る。
「さて、何から話そうか。取材なら誇張せずに話すよ。まずは……そうだ。俺の父さんの話でもしようか」
「君のお父上の話か。さっきの方針というのはお父上が?」
「そう。まあ、母さんはあまりいい顔してないんだけど。……というのも、父さんも『冒険者』の冒険者なんだ」
「なるほど。……それで?」
「結構有名な冒険者らしいんだけど、俺もそういうのにちょっと憧れててさ。それに、スキル色々使えるし」
「でも、本来の職業には劣るという話だよ」
「でも、回復魔法と攻撃魔法を同時には使えない。……冒険者はよく器用貧乏になるって言われてるらしいけど、父さんは普通の紅魔族を超える魔力を持っている。そして俺には父さんと母さん譲りの魔力がある。だから、器用万能になれる。物語に出てくる勇者のように」
「……そういえば、元勇者候補の冒険者が紅魔族と運命を交叉させたと、父に聞いた覚えがあるけれど、君は……」
「さあ? でももし仮に勇者と呼ばれてたなら……俺は元勇者の息子、って事になるのかな?」
手帳へ書き込むそのペンの動きは先ほどから止まらない。そんなに面白い話だっただろうか。誇張なしで、とか言いながら途中からちょっと盛ったところあるけど。黒髪だけど、父さん自身は勇者候補だったなんて一言も言ったことないし。
ちょっと出身が知れず、ちょっと名前が紅魔族っぽくないだけで。
もしかしたら滅多にないらしいけど外へ行った紅魔族の誰かの子孫かも知れないし。
体のどこかにある痣も、もしかしたら世代を経て消えてしまったのかも知れないから。
でも『テレポート』を連続して使えるなんて父さんぐらいじゃないだろうか。
「まあそんな父さんが冒険者やってるから、俺も結構外に連れて行ってもらうことがあってさ。……まあそれで、さっき見せた魔法も関わってるんだけど、ちょっと里の大人たちの間でゴタついてたらしくて。俺、学校まだ通った事ないんだよね」
「道理で見かけない顔だと思ったよ。それで君のことを見たことが無かったんだね」
「まあ、親戚ぐらいしか俺の顔知らないかも。……定期的に里の中うろちょろしてたけど、従妹のめぐみんぐらいだもんなぁ、仲良いのは。一応朝、一人友達できたけど。ゆんゆんって子」
「へぇ、ゆんゆんが一人目。じゃあ私がふたり目だね」
「へ……ん、よろしく。あるえさん」
そう言うと彼女は薄く微笑んでみせる。なんで紅魔族は総じて美人が多いのか。……顔がいいからちょっと気恥ずかしい。
…………なんか意識してるみたいで更に恥ずかしくなってきた。
「めぐみんと従兄妹って話だけど、もしかして同い年かい?」
「そうだけど」
「じゃあ私とも同い年だ。彼女とはクラスメイトでね。ゆんゆんとも。あと、そんなかしこまらなくてもいいよ」
「……。あ、うん」
……すごいな、紅魔族随一の発育は。伊達じゃない。めぐみんが基準だったからてっきり年上かと。
大丈夫、男子の成長はちょっと女子より遅いって聞くし。せめて彼女よりかは背は高くなりたい。
まだ俺はめぐみんよりちょっと身長高いくらいだけど……。ああ、そうだ。ちょくちょくめぐみんを晩ご飯に誘えるか話してみようか。
紅魔族随一のロリっ子なんて通り名になったら従妹と言えど可哀想すぎる。
それから少し外の話をしていると、日が傾いてきた。
「ああ、もうこんな時間か。すっかり日が暮れてしまったね。ありがとう、また話を聞かせてくれるかい?」
「いいよ。その時までにしっかり話のストックを作っておくよ」
「うん、楽しみにしている。……それじゃあ、またね」
「うん、また学校で」
そう言って別れを告げて、家に帰った。
また学校で、か。そうだ、明日から学校生活だ。……楽しみだなぁ。
あるえが好きです。
あの澄まし顔を滅茶苦茶にしてやりたい。
具体的には表情筋ゆるゆっるになるほどの恋させたい(切望)
tips 人見知りの族長の娘
懐疑心は隔たりを生んだ。
羞恥心は恐怖を煽った。
いつの日か忘れられた彼女は、その日初めて見つかった。
tips 作家志望の少女
百聞は一見にしかず。されど百見は一験に及ばず。
享受するだけでは飽き足らず、筆をとる。
出会いは唐突に。事実は時に、小説よりも奇なりと知った。
tips 紅魔の里に腰を据えた冒険者『タナーカ』
『超がつくほどの魔力』持ちらしい。
あとリアジュウバクハツシロと、よく同じ黒髪黒目の冒険者達に言われながら、惚気て鼻の下を伸ばしているとか。
1話の長さは?
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3000字程度
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4000字程度
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5000字程度
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6000字程度
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7000字以上