はぐりんくえすと   作:楯樰

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12 養殖と戦闘と

 ふじもん、へぶめるろーと共に校庭へ出ると既に女子クラスの面々は出揃っていた。

 

 視線を彷徨わせていると、目を凝らしていたゆんゆんと目が合う。

 

 出てくる男子たちを伺っていたのか。目が合った途端、顔が綻ばせゆんゆんは小さく手元で手を振ってきた。……かと思えば、どどんことふにふらに揶揄われてる。

 

 そしてそれを一瞥したあるえは、俺たちのいる方へと微笑んできた。

 

「なあ、ゆんゆんさん今さっきの俺に手振ってなかったか?」

 

「振ってねぇよ。……それよりもあるえさん「微笑んでないから」最後まで聞けやてめェ!」

 

 やすけときくもとがお互いに首をホールドしようとして、まるで肩を組んでるみたくなってる。

 

 すぐにでも笑顔で手を振り返したい。けど、仲違いしてばかりとはいえ、少しだけ罪悪感がわいて二人の前では憚られた。

 

「……はぁ。俺らに春は来るのかねぇ……」

 

「言わぬが花だ、共犯者よ。時がただ過ぎゆくのを、今はただ見送るしかあるまい。我らが雪解けは、いずれ、かならずや訪れるであろうさ」

 

「だといいなぁ……」

 

 ふじもんとへぶめるろーが何か言ってる。

 

「……あの、二人とも。俺を挟んでよくわかんない(はなし)すんのやめてくんない?」

 

 そう言ったら両方から殴られた。理不尽!

 

 

 

 校庭でマントを靡かせる一人の男が居る。

 

「──……我が名はぷっちん。アークウィザードにして、上級魔法を操る者! 紅魔族随一の担任教師にして、やがて校長の椅子に座る者……! さて男子クラス諸君。聞いているとは思うが君たちの担任、我が旧友にして悪友じぇいすは、今日はフォローにあたる。そして総指揮はこの俺だ。奴が下、俺が上! ……では改めて、事実をこの場の全員が共有できたところで、何か質問がある者は?」

 

 ウチの担任が居ないからって滅茶苦茶言ってるな、この人。真面目な時とおチャラけてる時との落差が激しいんだよなぁ……。

 

「先生、じぇいす先生も同じ名乗りをしてましたけど、どっちが随一なんですか?」

 

 クラスメイトの『にょっきまる』が手を上げて言った。

 

「いいかな男子諸君……仮にアイツの方が結婚して子供がいるとしても給料の高い俺の方が優秀だということに違いはない」

 

 一瞬、苦虫を噛み潰したような顔をして、一息で言い切った。

 

 すると、今度は女子クラスの誰かが手を上げる。ええっと、確か『ねりまき』だったか。

 

「でも確か生徒数で給料変わるって……」

 

「よーし、それじゃ各々、此処にある好きな武器を取れー! 武器を持っている者は自分のを使って良いぞー!」

 

(((……誤魔化した……!)))

 

 誤魔化されてあげよう。婚期に焦る大人の姿を見ていると、俺としてはやるせなさを感じてしまう。

 

 しかし無理矢理、誤魔化そうとして言いながら指した地面に置かれている物は、先ほどからずっと気になっていた。

 

 様々な武器の山。そして特筆すべき、その大きさ。

 

「せ、先生! 武器が大きすぎてどれも持てそうにないんですが……」

 

「お、男の俺たちも、その、持てないとは言いませんけど! 流石に大き過ぎて、取り回しが難しいと思うんですけど!」

 

 どれもこれも、度を超して大きい。

 

 あるえの身の丈をも超える大剣や、めぐみんの身体よりも大きな刃を持つ斧。

 

 オーガですら振り回せそうもない、巨大な鉄球が付いたモーニングスター。

 

 ……こんなものを子供に振り回させるのか、頭大丈夫か。と内心思っていると、その一つをぷっちん先生がひょいっと。

 

「コツは自らの身体に宿る魔力を肉体の隅々まで行き渡らせることだ。それにより、我々紅魔族は一時的に肉体を強化させることができる。今日までの授業を通して、優秀なこの俺が受け持っている女子たちは勿論、男子の君たちにもその基礎は叩き込まれているはずだ。意識さえすれば、この俺のように、自然とその力を使いこなすことができるだろう!」

 

 お世辞にも強靭とは言えない細身な体格。しかし、実際に巨大な大剣を軽々と持ち上げ、片手で手にしている。

 

 それを見たあるえが前に出る。そして、彼女は自分以上に大きい大剣を持とうと──

 

「……我が魔力よ、我が血脈を(めぐ)り、我が四肢に力をッ!?」

 

 あるえの手によって、難なく大剣は持ち上がる。持ち上げた本人も驚いているようで、その大剣を軽々と振り回し、風を切る音を豪快に鳴らし。丸くした目でその残像を追う。

 

「…………。そ、そうだ! いいぞ、あるえ! よくできているじゃないか! あとでスキルアップポーションをやろう……!」

 

「え、あ、はい……? ふふっ、我ながら、自分の才能が恐ろしいよ」

 

 戸惑いながら返事をするあるえは、表情を取り繕い、妖しく笑う。大剣の刃を地面に立てる様は、アンバランスさを感じるも堂に入っている。

 

 そんな彼女を見て、ぷっちん先生の話をすっかり信じ込んだみんなは、キラキラと目を赤く輝かしながら各々好きな武器を手に取っていく。

 

「この子、私の持てる全ての力を注いでも壊れないだなんて……! さあ、あなたには名前をあげる! そう、今日からあなたの名前は……!」

 

「フッ!! ……へえ、今の素振りにも耐えるなんて、中々の業物ね。いいわ、これなら私の命を預けられる……!」

 

 女子には、ハルバートや長剣を手にして語りかける者や。

 

「俺は魔法職だ。……だが、いつ、俺が剣を使えないと錯覚した?」

 

「ようやっと巡り合えたか! 我が半身に……!!」

 

 男子には拾った片刃の長剣や長槍を手にして、思い思いに魔力を込めている者も。

 

 誰もが、ぷっちん先生の言う事を信じて武器を手に取って行く。既に持っていたあるえは訝しそうに大剣を持ったり、離したり、素振りをしてみたりしていた。

 

 めぐみんは周囲を見て、一番大きくて重そうな大斧を持とうとして苦戦している。

 

 そしてゆんゆんは……銀の短剣を握りしめたまま、その様子を立ち尽くしたまま見ていた。

 

 ……人見知りと、疎外感を感じてるな、あれ。

 

 多分、自前のがあるからって行かなくて、取りに行こうと思い直したけど、集団に飛び込むのに躊躇している……といったところか。

 

 まったくもう。ゆんゆんは……そういうところも可愛いんだけどさ。

 

 すす、と近寄って声を掛ける。

 

「ゆんゆん、別に自前のがあるからって、使っちゃいけないわけじゃないぞ?」

 

「あ、はぐりん……そう、そうよね! 私も、行ってくる……!」

 

 無事合流。ふにふらに「あれなんか良いんじゃない?」と、言われゴテゴテした装飾の長剣に、ゆんゆんは微妙な顔をしながら手を伸ばす。

 

 ──……これでみんな気が付いたと思うけど。

 

 メッキが施されてそれっぽく見えているだけで。全部軽い木を使った木製だ。

 

 それに遅れて気が付いたゆんゆんが先生に指摘し、めぐみんはバランスのとりにくい大斧を放り投げて、小ぶりの木剣を手に取る。

 

 魔力云々で俺たちは自分の身体を強化できるようになっている……というのは先生の紅魔族的誇張だった。

 

 

 

 ……武器を選び終え、短槍を肩に担いだへぶめるろーが近づいてきて耳打ちしてくる。

 

「お前、あるえさんに支援魔法かけてたろ?」

 

 さあ、なんのことやら。心当たりは全然ないのでわっかんないな。

 

 

 

 ▽

 

 

 

 ──盗賊なんかのスカウト職が覚えられる《敵感知》スキル。

 

 これは対象からの敵意が薄いと反応が疎らになる。故に、人畜無害なカモネギやペット化したモンスターなどは《敵感知》から洩れることがある。

 

 しかし、このスキルには抜け道がある。スキルレベルにもよるけど、保有者の思い込みで、どこからを敵と見做すか、その範囲を狭めたり広げたりすることができる。

 

『でも、それは当然のことだ。敵を作るかどうかは自分自身なのだから』──という、親父からの受け売り。

 

「負けるつもりは無いんだけどなぁ……」

 

 ぐしゃ、と下半身を氷漬けにされて身動き取れない角の生えた兎の頭を、愛用の『ひのきの棒』で叩き潰す。

 

 倒したのは、可愛らしい外見で油断させ、その鋭利なツノで一撃。駆け出し冒険者の町周辺にも生息してる『一撃ウサギ(ラブリーラビット)』と同種の肉食系の魔物だが、紅魔の里の近郊に住んでるこいつらは、遥かに強い。

 

 この森においては掃除屋としても機能している。ファイアードレイクや一撃熊の肉を貪り食ってるから、本来は群で狩りをするモンスターだが此処では群れを為さない。

 

 死んでいるならともかく、生きているファイアードレイクなどからすれば格好の餌だから。

 

 しかし、強いモンスターがいるとはいえ、森のヒエラルキーの頂点に位置しているのは紅魔族のニートや趣味人なので、こちらから手を出さなければ積極的には襲ってこない。だから見かけても手を出すな、撫でようとするなと子供の頃に教えられる。

 

「容赦ねえなぁ……」

 

「お前は人の心が分からない」

 

 ふじもん、お前そこまで言うか。

 

「だってモンスターだし。それにお前ら、これが死体に群がって貪り食ってるところ見たことあるか? 可哀想なんて言葉絶対忘れるから。マジで」

 

 思い出しただけでも寒気がする。……その死体がモンスターじゃなかったのもトラウマになってる原因の一つだ。

 

「詳細を聞きたくはあるが……」

 

「……実感篭っててなんか怖い。わかった、気をつけるよ」

 

 わかってくれたならいい。容赦はするなよ、と忠告だけして次のモンスターを探す。

 

『モンスター殺すべし、慈悲は無い』と考えていると《敵感知》に反応があった。

 

「次、へぶめるろーが……いや、待て」

 

「どうしたはぐりん?」

 

 この反応は……強すぎるな。とても弱らされたモンスターなんかじゃない。……でもって、あっちは女子たちが入って行った方向だ。

 

 ……ぷっちん先生がいるだろうけど。──でも!

 

「悪い、ちょっと俺別行動する。先生に何か言われたら、そうだな。邪神の気配を感じたって言っといて! 『パワード』!」

 

「ちょ、おい! 待てよ!」

 

「何ッ!? 『レジスト』、『プロテクション』!」

 

 つい荒っぽい返事になった。

 

「……勝てよ!」

 

「ああ! 『ヘイスト』!」

 

 こういう時は下手に返事しない方が良いって、授業で習った。

 

 

 

 ──見つけた!

 

「てめェ、近づいてんじゃねぇぞクソ野郎! 『デコイ』ッ!!」

 

 罵倒と一緒にブーメラン状に凍らせた『ひのきの棒』を『投擲』して、囮スキルを発動した。が、一瞬だけこっちに敵意が向いただけで、まだ意識は女子達に向かってる。あんまり効かなかったか!

 

『はぐりん!?』

 

 でもそれで十分だ。間一髪だったけど前に出れた。手元に帰ってきたブーメランを解凍し、再凍結。切れ味高めの長剣に仕立て上げる。

 

 ここにいるのは、めぐみん、ゆんゆんにあるえ……それからどどんことふにふらか。全員顔見知りだ。

 

 相手は二足歩行。黒い毛皮に包まれた角有り。爬虫類顔にクチバシ。……悪魔だな、これ。里の周辺じゃ見たことないし。

 

 撤退戦か。苦手なクルセイダーの真似事して五人も守りながら倒すのはちょっと無理がある。

 

「どど、どうしてはぐりんが!?」

 

「《敵感知》だね?」

 

「知ってるのあるえ!?」

 

「その通り! 説明の手間が省けて助かる──ッ!?」

 

「危ないッ!」

 

「はぐりんっ……!!」

 

 奴のするどい爪を剣で防ぐとゆんゆんやあるえから悲鳴があがる。

 

「っ!? てか、早く先生呼んで来い!」

 

 あまり力は強く無い。でも保有してる魔力からして、養殖で残されてたモンスターほど弱くも無い。

 

「ゆんゆん、逃げますよ! 決して振り返ってはいけません! はぐりん! 此処は貴方に任せて先に行きます!」

 

「嗚呼、任せろッ──!!」

 

 ただ『ひのきの棒』を凍らせただけと侮るなかれ。10分の1もの魔力を注ぎ込み作った氷の長剣は下手な鉄剣よりも遥かに硬く鋭い。『剣術』スキルを使えば、加工前の鉄のインゴットすら叩っ切れる自負はある。

 

 だから──

 

「キシャアアァァアァァア!?!?」

 

 斬り飛ばした爪が煙と消えた。痛覚はあるのか後に退がる。悪魔は本体を地獄に置いてると教わったけど、なるほどな。こうして死体は残らないわけか。

 

 ゆんゆんやあるえ達はちゃんと逃げられただろうか。気になってチラ見を──

 

「え!? なんで居るの!?」

 

 まだ二人逃げてないでそこに居た。

 

「だ、だって! はぐりん一人残して逃げるなんて……!!」

 

 ああ、もう、ゆんゆんは!

 

「てかどうしてあるえも!」

 

「そんなの私もゆんゆんと同じだよ! …………美味しいネタを見逃せないしね」

 

「……? ん、なんて言った……? って、ちょっとゆんゆん冒険者カード出して何を」

 

「うう、わ、私が《中級魔法》を覚えたら……!」

 

「あるえ! そこのバカなことしかけてるゆんゆん止めといて──ッ!」

 

 警戒し、様子を伺っていた悪魔が攻撃を仕掛けてこようとするのを《敵感知》で感じ取る。

 

 振り向き様に『クリエイト・ウォーター』で水を飛ばして牽制する。

 

 必要以上の魔力を込めたそれを警戒したのか、攻撃をやめて悪魔が翼を羽ばたかせ後ろに飛ぶも、その程度で避けられるほどの水量じゃなく全身に命中する。

 

 距離離れてたし魔法でも使うつもりだったか……?

 

「……ゆんゆん、こうして彼が守ってくれてるんだ。御伽噺のお姫様みたいに、ここは大人しく守られていようじゃないか」

 

「あるえ……でも、あるえは心配じゃないの……!?」

 

「心配だよ。けれど信じてもいるから。……だから、ゆんゆんも信じて。私たちの好きな人は、こんなところで負けたりなんてしないって」

 

「……っ。うん……」

 

 聞こえてきた会話に力がみなぎってくる。その信頼には応えないと。絶対に負けられない。

 

 相対する悪魔から伝わってくる敵意が薄れた。めぐみん達が逃げた方向を見てる……? 

 

 なんか目的が……逃げるつもりかコイツ! 今は目的を探るよりも逃げられたらまずい! 手負いの状態で、逃がすものか!

 

「『フリーズ』バインドッッ!!」

 

 女子クラス担任も使っていた、まだ使えない魔法名を唱え、ありったけの魔力を込めて発動すると、(ごう)と手元から冷気は吹き荒ぶ。

 

「ギシャアアア!?!?」

 

 一瞬にして悪魔は凍った。……うーん、思った以上の効果が。

 

 ああ、なるほど。まぐれとはいえ予め濡らせられたのが功を奏したようだ。

 

「お、終わったの……?」

 

「やったのかい、はぐりん……?」

 

 この分厚い氷が割れるとは思わないが、念のため警戒は解かずに近づき……──その爬虫類頭を刎ね飛ばした。

 

「ふう。……終わったよ、二人とも。もう大丈夫」

 

 氷を溶かして『ひのきの棒』に戻す。

 

「……今のって初級魔法、よね?」

 

「うん。やっぱり聞いてただけじゃ駄目だね。ふふ、凄いよはぐりん! 初級魔法で悪魔を倒すだなんて!」

 

「あ、うん! はぐりん、凄く格好良かったよ!」

 

「や、……て、照れる……」

 

 今になって支援魔法の効果が切れる。……ははは。

 

 ……はあ。二人に情けない姿を見せなくてよかった。

 

 

 

「お前たち、大丈夫か──!?」

 

 ウチの担任の先生の声が聞こえてくる。

 

 もしかして、へぶめるろー達が言ってくれたのだろうか。

 

 中身が消えて残った氷を見て、怒られるのを覚悟しながら冒険者カードを見た。

 

 最新の討伐記録には先ほどの悪魔が記されている。

 

 そして……俺が《上級魔法》取得に必要なポイントは1.5倍の45ポイント。

 

 ――その必要だった45ポイントが貯まり《上級魔法》スキルが取得可能になっている。

 

 あーあ、結局最後まで楽じゃなかった。……あんまり『養殖』の意味なかったなぁ……。

 

 

 

 ▽

 

 

 

「なるほど。それで倒したと。……初級魔法で、なあ……。確かにお前は他の生徒たちよりも手は掛からなかったし、家では画期的な教育を受けていると俺も聞いている。でもな、あまり無茶はするなよ……」

 

「はい……」

 

 流石、子持ちのじぇいす先生の言葉は重みが違う。素直に反省しようと思えた。

 

 確かに無茶した。悪魔と交戦する前に確認したレベルは2しかなく、あのウサギを倒していなかったらレベル1で抗戦する羽目になっていた。

 

 ぷっちん先生じゃこうはいかないだろうなぁ。何かしらおチャラけて台無しにするのが目に見えてる。

 

 あれさえ直せば普通に良い先生だし、保険の先生もちょっとは振り向いてくれるだろうに。

 

「聞いてるのか、はぐりん!」

 

「すみませんでした!」

 

 

 

 あの場に居た事情の聴取と、説教をされた職員室を退出して教室に向かう。

 

 多分、邪神の封印の件で駆り出されたのだろう。俺の話を聞いて担任以外の先生は渋々出ていったし。

 

 ──あの悪魔の乱入のせいで野外授業の『養殖』は中止だ。早々に学校にも帰った。

 

 ゆんゆんやあるえ、それから担任にはもう言ったけど、もう少しの間、上級魔法が獲得できる状態で(とど)めておく。折角だから卒業の近い奴らや、めぐみんたちと卒業時期は合せておきたい。

 

 冒険者カードを取り出して、改めて見る。

 

 ……うーん、こんなにスキルポイントを貯めたのは初めてだから、中々壮観だ。

 

「まぁ、めぐみんはもっと貯めてたけど。……あれ、よく魔が差さないよなぁ」

 

 もしかすると貧乏性……というか実際貧困に喘いでいるから貯金みたいなことは得意なのかもしれない。

 

 俺はなぁ……ちょっと自信ないんだよなぁ。今にも手がうっかり滑って何かスキルを取得しかねない。

 

 母さんに預けとこうか。……いや、やめとこう。勝手に『転職(クラスチェンジ)』させられかねない。

 

 改めて冒険者カードを見る。上に掲げて、透かすようにして仰ぎ見た。

 

 もうすぐ卒業、か。……なんだか、寂しさが込み上げてきた。

 

 

 

 ――やっぱり要りません。スキルアップポーションは他の人に回してください。

 

 ――アークウィザードではなく、『冒険者』を選んだ俺が貰っちゃいけませんから。

 

 ――ただ、こうして学校に通っていたいんです。《上級魔法》を取得するまででいいので。

 

 

 

 ……嗚呼。やっぱり学校、楽しかったなぁ……。

 

 

 

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