はぐりんくえすと   作:楯樰

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遅くなりました。


17 夜更かしと膝枕と

 ゆんゆんを送り届けた後、病治療ポーションの作成にとりかかる。

 

 ファイアードレイクの胆とマンドラゴラの根。そしてゆんゆんが持ってきてくれたカモネギのネギ。適切な処理を施して病治療のポーションは日付が変わるころには完成した。

 

 ──ゆんゆんへのお詫び。そして新しく彼女の友人になってくれるであろう二人への心づけ。二人の懸念……ふにふらの弟くんが元気になれば、姉のふにふらも、友達想いのどどんこも憂いなくゆんゆんと仲良くなってくれるだろう。

 

 ……知ったのは最近のこと。だが、すぐに作れないわけじゃなかった。

 

 自分の都合で──ゆんゆんの善意を利用しようとした二人に思うところがあって、今の今まで取り掛かれなかった。

 

 私情で困っている人を助けないのは、英雄になりたい身としてどうなのか。

 

 誰かの為とはいえ好きな子を騙そうとした者に施しを与える事は、英雄と言えるのか。

 

 その問いへの答えは得た。

 

「んんん~~~」

 

 大きく伸びをする。

 

 ……もう寝よう。母さんにお礼を言って寝台に潜り込んだ。

 

 

 

 ──翌朝、通学路にて。

 

「おはよう。……? どうしたの、なんだかすごく眠そうだけど……」

 

「……あー……うん……おはよう。まぁ、気にしないで。……寝不足なだけだから」

 

 頭痛い。眠い。

 

「ちょっと、本当に大丈夫?」

 

 痛む頭を押さえていると心配された。

 

「あーごめんごめん。……はい、これ。ゆんゆんに」

 

「え、私に? というかポーションって……その、今は私よりはぐりんが必要なんじゃない?」

 

 首を振って否定する。これに眠気覚ましのポーションや疲労回復の効果は期待できない。

 

「今日二人と話すんだろ? だから、ついでに渡しておいて欲しいんだよ」

 

「二人って……ああ、ふにふらさんとどどんこさん……」

 

 昨日のことを思い出したのだろう。その顔に影が差す。

 

「改めて昨日はごめん。……そのお詫びと言ったら調子のいい話なんだろうけど。これは病治療のポーション。あの二人には、作れなかった時に俺が作るって言ったんだけどさ。やっぱり首突っ込んだ以上は見過ごせないから」

 

「はぐりん……」

 

 ふにふらとはほぼ赤の他人で、その弟の顔は見た事すらないけど。

 

 病気で苦しんでいるなら、早く良くなるほうが良いに決まってる。

 

「それに、ほら。俺が態々訪ねに行って渡すよりも、今日二人と話すつもりでいるゆんゆんから渡した方が、何かと都合が良いだろうし」

 

 きっとその方が二人も心置きなくゆんゆんの申し出を受けてくれるだろう。

 

「……ありがとう」

 

「うん。頑張れ、ゆんゆん」

 

 

 

 来る途中から催していた俺は、お手洗いに行くためゆんゆんとは校舎に入ってすぐわかれた。

 

 用を足し、洗った手を拭きながら教室に向かっていると、

 

「や、はぐりん。今日も仲良く二人で登校してきたようだね」

 

 男子教室の前で待ち伏せていたあるえが話しかけてくる。

 

「おはよう、あるえ。……もしかして妬いてるのか?」

 

 見ていたなら交ざってくればよかったのに。別に手を繋いで来てたわけじゃないんだから。

 

「妬いてないとでも? ……こればかりは誤魔化してもね。本当に伝えたいことは回りくどいと伝わらない」

 

 あるえは「君もそう言ってただろう?」と続ける。

 

 けど、そんな風に臆面なく言われると反応に困るんだ。

 

「……今日放課後、一緒に帰るか?」

 

「昨日の埋め合わせにかい? ……なら今度こそ二人きりで」

 

 そのつもりだと頷く。僅かに頬を緩ませて喜ぶあるえに、俺もつられた。

 

 

 

 ▽

 

 

 

 授業合間の休憩時間に女子クラスに来てみた。

 

「はぐりん。様子を見にでも来たんですか?」

 

「まあ、そんなとこ。ゆんゆんは結局二人と話できたのか?」

 

 廊下に面した窓から教室の中を伺う。ゆんゆんの席の近くにはふにふらとどどんこが集まっている。席を取られたらしいめぐみんに聞くまでもなかったか。

 

「ええ、まあ。朝やけに張り切って教室に入ってきたかと思えば朝一番に、クラスメイト達のいる前でゆんゆんはあなたからの預かり物を二人に渡しました」

 

「あーそれは……」

 

「妙な所で大胆なんですから。二人も面食らってましたよ」

 

 ふにふら、どどんこが会話に花を咲かせている。ぎこちないけど、ゆんゆんも会話に混ざれてるようだ。

 

 ……安心した。

 

「おや、寂しいんですか?」

 

「んなわけ……それより、お前は? ゆんゆんと話したのか?」

 

「まだですよ。朝からあの二人とべったりなんですから、話す暇なんてありはしませんよ」

 

 そう言うめぐみんも少し寂しそうだ。

 

 それを指摘すればきっと機嫌が悪くなるだろう。あるえに散々揶揄われていたし。

 

「まあ放課後ですね、話すとするなら。今日一日はあのままでしょう」

 

「お前も混ざれば良いのに。ぼっちなのはお前も大して変わらないんだし」

 

「……どうしてそうなるんですか。私はこれっぽっちも寂しくないです。そんなこと言うのなら魔法を取得したら真っ先に的にしますからね」

 

「流石に死ぬからやめてくれ……」

 

 冗談とも本気とも取れない声音で言われると怖い。

 

 

 

 次の授業開始五分前になったので、教室に戻る。

 

 入ってすぐ横から唐突に「おい」と声をかけられた。

 

「お前、もう卒業できるんだろ」

 

 きくもとだ。腕を組み、窓縁に寄っかかっている。

 

「……なんのことだ?」

 

 喧嘩腰なのは相変わらずだが、いつもと違って茶化す気配はない。

 

「とぼけるなよ。養殖の時か? それとも家でやってるって言うレベリングでか? なんにせよ、お前はもう卒業できると俺は見ている。どうだ、違うか?」

 

 察しが良いな。一応クラスメイトたちには一言も仄めかすことは言ってないんだが。

 

「上級魔法覚えてないんだ卒業する資格はまだないだろ?」

 

「っ! だからはぐらかすな! どうせ覚えてねえだけだろうが……ちっ、そうやって余裕かましやがって。卒業するまでにお前のこと負かすと決めてんだよ、俺は。本気でないお前を負かしたって意味がないだろ。どんな理由で卒業を保留してんのか知らねえし、別に知りたくもねえけど。次のテスト、受けるんなら手を抜いたら許さねえからな」

 

「……はあ、わかったよ」

 

 面倒臭いなぁ。そんな面倒臭いこと言うならゆんゆんになって出直してきてほしい。あるえでも可。つか眠いんだからやめてくれよもう。

 

 ……まぁ、でも。犬猿の仲とはいえ、次のテストで最後ぐらいだもんな、コイツとも。しょうがない。

 

 余り関わっているとお互い喧嘩になるのはわかっている。早々にふじもんとへぶめるろーがたむろしている席まで戻ってきた。

 

「? きくもとと何話してたんだ?」

 

「んー、大したことじゃないぞ。次のテストでは一位とるって宣戦布告されただけ」

 

「あーなるほどな」

 

 へぶめるろーが相槌を打つ。

 

 とはいえ、最後の最後で負けるのは気に食わないな。

 

 ……ちょっと本気出そうか。

 

「あの男も懲りぬ。だが、あの挑み続ける姿は称賛に値する」

 

「ホントなぁ。スキルアップポーション貰えてるだけでも充分だってのにな」

 

「四位の貴様はもう少し研鑽に励んだ方が良い」

 

「お前、威張るなよ。この前のテスト僅差だって知ってるからな、俺」

 

 おっと? 二人が一触即発な雰囲気に……?

 

 その後「「次のテストで蹴りをつけてやる」」とお互いが言い放ち二人は席に戻った。

 

 どうやら今回はかなりの接戦になりそうだ。

 

 

 

 ▽

 

 

 

 授業時間を終えて下校の時間となったので朝の約束を果たしに行く。

 

「あるえ、帰ろう」

 

 各々帰り支度をしていた女子クラスの外から声をかけると、クラスの他の女子達はざわつきだした。

 

「はぐりん? 珍しいね、君から来てくれるなんて」

 

「まあ、ほら。朝約束したし……たまにはさ」

 

 こんなやりとりを聞いて、『約束だってー』『二人ってもしかして……』と女子達は姦しい。

 

 恥ずかしい。逃げ出したくなる。……でも受け身ばっかりだと格好悪い。

 

「ふふ。それもそうだね。もう少し待っててね」

 

 あるえを待つ間にゆんゆんやめぐみんの方へ聞き耳を立てていると、

 

「……ねえ、ゆんゆん」

 

「……あれ、いいの?」

 

 ゆんゆんに耳打ちをする二人が。

 

「うん。……私も今日はめぐみんと大事な話があるから」

 

「そ、そう。……や、ゆんゆんがいいんなら良いんだけど……」

 

 ふにふらとどどんこは友達になりはしたものの事情は知らない。しかしゆんゆんは躊躇なく二人にめぐみんとの先約を告げていた。

 

「そう改まられると事情聴取みたいで嫌ですね……。そういうわけです新入りのふにくらとどんどこ。今日私はゆんゆんに話さなければならないことがあるので。アナタたちは残念ですがゆんゆんとは帰れませんよ」

 

「そっか……ってぇ! あんた! わざと間違えたでしょ! 私は! ふにふら! だから!」

 

「どどんこ! あるえもあんたも、クラスメイトの名前覚える気ないの!? てか新入りって何!?」

 

 勝ち誇った顔で喧嘩を売るめぐみんに二人が食ってかかる。

 

 二人がかりに敵うわけもなく、喧嘩を売っためぐみんは見事に逆襲されていた。

 

 ゆんゆんは取っ組み合いを始めた三人を相手に戸惑っているようだ。流石にあの面子がする喧嘩の仲裁はゆんゆんには難しいか。

 

 そんなやり取りを見ているとあるえも帰る用意ができたようで。

 

「お待たせはぐりん。それじゃあゆんゆん、今日は彼を借りていくよ」

 

「あ、え!? うん、わかった! ──ちょっとめぐみん! やめてよもう!」

 

 めぐみんの方へと少し目を向けると『痛い痛い!』『髪の毛ひっぱんなあ!』とあの仲良し二人組はポニーテールとツンテールの片方を引っ張られていた。

 

「放ってていいのか、あれ」

 

「さて、どうだろうね。でもゆんゆんもこういう事は経験しないとね。……あんまり過保護だとこの前みたいになるよ?」

 

 確かにあるえの言うことにも一理ある。

 

「わかったって! 私ら二人で帰るからぁ! だから離せえええ!」 

 

 少しだけ後ろ髪を引かれるも俺は袖を摘まれながら教室から離れた。

 

 

 

 学校の敷地から出て、あるえは服から手を離し俺と横並びに歩き始めた。

 

 ――詠唱の授業の最中、ふにふらとどどんこがゆんゆんと手紙のやり取りをしていて、めぐみんが邪魔をし、ゆんゆんがそれに腹を立て、廊下に立たされた話。

 

 ――体術の時間には廊下に立たされていた二人がペアを組み戦闘前の口上対決を始めたり。あぶれたあるえが珍しく先生とペアを組んだことであったり。

 

 その他にも今日何があったかをあるえから聞いていく。

 

「──ほら、これで私もあと5ポイントだよ」

 

「おお……ならあるえもすぐに卒業かぁ。結構早い、よな?」

 

「まあね。初期ポイントは10ポイントだったし、あの二人に成績は中々敵わないけど、三位ぐらいを維持してたから。それに今日もだけど、特別評価で貰うことも多くてね」

 

 ……それってつまり先生に『贔屓されている』ってことだろうか。

 

 確かにその制度はある。当てられて満点以上の答えが出せたらスキルポーションを貰える制度だ。というよりも与えてもいいというのが正しいか。

 

 ただこれは教師の主観に依るし、渡そうと思えば個人に幾らでも渡せてしまう。だから滅多ともらえない筈だと思っていたんだが。少なくともうちの先生はそうだ。

 

 そうでなければ……、

 

「あの、はぐりん? 別に私が特別、いつも当てられてるってわけじゃないからね?」

 

「そうなのか?」

 

「うん。私より頭の良い二人に模範解答を求めて先生が当てても、あの二人は見当違いな答えを言うもんだから。成績順に私が当てられることが多いだけだよ」

 

 なんだ……そういうことか。

 

「安心した?」

 

「べ、別に不安になんかなってないから……!」

 

 図星を突かれ動揺してしまった俺にクスクスと笑うあるえ。──手玉に取られてるようでちょっと気に食わない。

 

「それで話は変わるけど。昨日、はぐりんはゆんゆんの持ってたアレを作ったわけだ」

 

「ああ、病治療ポーションな。……うん。謝って許されたからって、俺は許せなかったからな。他でもない自分自身のことだから」

 

「なるほどね。……まったく、ゆんゆんが羨ましいよ。こんなにも君に想ってもらえるなんて」

 

「……」

 

 と、寂しそうにあるえが言い、

 

「なんてね? 焦っただろう?」

 

「……羨ましいのは事実、なんだろ?」

 

 立ち止まってそれを指摘するとあるえも歩みを止めて振り向く。

 

「…………そうだよ。ごめんね、口が滑ったよ。別に困らせたくて言ったわけではないんだ」

 

 謝るあるえに俺は横に振って否定する。

 

「これは昨日ゆんゆんにも言ったんだけど。男ってのは好きな相手に困らされて嫌な気はしないもんなんだ。頼られたり、助けが要るなら手を貸したい。困らせて欲しい。そういう生き物なんだよ。あるえにだって俺はそう思ってる。今みたいにゆんゆんが羨ましいなら、俺に出来ることだったらなんでもするから」

 

 勿論、過度なスキンシップ以外で。そう付け加えてあるえの手をとる。

 

「っ……それなら、明日の祝日。一日私にくれないかな?」

 

「それぐらいなら全然構わないよ。《上級魔法》取得の目処も立ったし、急いでレベル上げをする必要もないからな」

 

「それのことなんだ」

 

「……どういうこと?」

 

「その続きはまた明日。少し公園で休んでいこうじゃないか」

 

 聞き返すとそう言われて、掴んでいた手を引かれて公園までついてく。

 

 ベンチの前までくると、あるえは先に座り自分のスカートをポンポンとはたいた。

 

「あの、あるえさん?」

 

「膝枕をしてみたいんだ」

 

「え」

 

「しゅ、取材だよ。取材。それにこれぐらいなら、良いよね?」

 

 確かに過度なスキンシップではない、と思う。ただ、それにしては……スカートから覗く白い足が魅力的に見えてしまうのはどういうことか。

 

「その、あまり凝視されると恥ずかしくなってくるのだけど」

 

「あ、ごめん……」

 

 座らせたまま、自分が立ったままというのが居心地悪くなってきた。

 

 おずおずとあるえの横へ座り、ゆっくりと体を傾ける。そうしてあるえの膝に頭を乗せると柔らかな弾力を感じた。

 

 緊張で身体はカチコチだ。でも側頭部から確かな温かみを感じる。あるえの匂いがする。

 

「あの、重くないか?」

 

「う、うん。重くないよ。大丈夫」

 

 でも顔を合わせないからか、俺としてはそんなに恥ずかしくはない。だんだんと体の緊張が解けてきた。

 

「何で膝枕なんかを?」

 

「取材……あとは、そうだね。はぐりんが眠そうだったから。この前助けてくれたお礼も兼ねてね。昨日夜更かししたんだろう? 朝会った時から眠そうだったしね。帰ってすぐ昼寝をするぐらいなら私の取材についでに付き合ってもらおうかなって」

 

 そう言ったあるえが髪に触れてくる。ともすれば女の子に間違えられかねない髪の毛。めぐみんが『面倒くさい』と自分の髪の毛を切ったきり伸ばさないから、判りづらくないよう伸ばしている母さん譲りの髪。

 

 俺の、その縛った髪を撫でたり梳いたりしながら。

 

「……本当はね。君が何でそんなに生き急いでいるのかとか、どうやったらそんな大量のスキルを手に入れられたんだとかを聞きたいけど。でもそれは明日でいい。今は他でもない私がこうしていたいんだ」

 

「……うん」

 

「寝るまでで良いから。今日あったこととか聞かせてよ。私ばかり話していたから」

 

 

 

「──きくもと? はぐりんと彼って仲悪いんだっけ? え? ああ……うん。そうなんだ……彼が、私をね」

 

 

 

「──へぇ……昨日あの二人、君の家にお邪魔してたんだ。ゆんゆんが鍋の材料をね……明日、私もはぐりんの家に行っても良いかな?」

 

 

 

「──そうそう。新しいのを書き始めたんだ。今回のは結構な大作になるかもしれない。期待しててよ」

 

 

 

「──ねぇはぐりん……はぐりん? …………おやすみ」

 

 

 

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