はぐりんくえすと   作:楯樰

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なにとぞ面白ければ好評価のほどを……!


19 作家娘と語らいと

 次の日。

 

「いらっしゃい、あるえ。さ、入って入って」

 

「……お邪魔します」

 

 昨日話していた通り、私服姿であるえはウチにやってきた。

 

 滅多と私服姿を見ることがなかったが、おしゃれしているのだろうか。タイトなスカートにワイシャツ、その上に薄手のセーターを纏っている。そして眼には愛用の眼帯を。でもいつもより大人っぽく色気が……着慣れているようでもあるから、普段着なのかもしれない。

 

 でも緊張からか動きが固い。リビングでソファに座るよう促したが、カクカクしている。

 

「……なんでそんなに緊張してるの?」

 

「……昨日の君と一緒だよ。君の家族に会うかもしれないと思うとね。こうして家にまで上がるのは初めてだし」

 

 お茶請けと紅茶を台所から持ってくると、ぎこちない動きでそれを受け取る。

 

 ……そうか、あるえも緊張するのか。

 

「俺、てっきり気にしてないから今日来るって言ったのかと」

 

「それは……ゆんゆんが昨日はぐりんの家に来たなんて聞いたら、ね」

 

 素知らぬ顔をしているつもりのようだけど、頬が赤いのは隠し切れていない。

 

 嫉妬かぁ。……ちょっと前まであるえにそんな感情があるなんて思ってなかった。

 

「何をニヤニヤとしているんだい」

 

「いや、ごめん……ぷふっ──」

 

 心外だと言わんばかりにあるえが片目でジトっとした視線を送ってきている。

 

「……もう。最近なんだか意地悪だね、はぐりん」

 

「いや、だって。……あるえがなんだか、可愛くてさ。普段他の人とは深く関わり合いになりたくない、みたいな雰囲気出しているのに」

 

 あるえからの好意を知ったから? それとも、俺と恋仲になったから? あるいはその両方。

 

「ん……関わりを断ってるつもりはないんだけどね」

 

 拗ねたそぶりを見せて、あるえは髪の先を指で弄る。

 

 ──俺だけに、こういう表情を見せているかと思うと嬉しいんだ。ちょっとずつ、知らない顔が見えてくるのが、たまらく嬉しい。

 

 決してそれは、紅魔族の知的好奇心が満たされるからという理由じゃない。

 

 本人に言うのは恥ずかしいから言わないけど。

 

「──それにこれでもマシになった方なんだよ……同じに見えていた取材対象が、そうじゃなかった。私はそれを君のおかげで知れたんだから」

 

 あるえは静かな口調で漏らした。

 

 真面目な口調だ。聴き逃すまいと耳を傾ける。

 

「女子は恋話をすれば『前世の自分はお姫様で来世を誓った勇者が』とか。男子も男子で『転生した邪神が自分の中に封印されている』とか。みんな、そんな話ばかりでさ……私も考えないわけじゃないから、それが悪いとは言わないけど」

 

 多分これは、

 

「──けど。正直、『嗚呼、なんてつまらないんだ』って思ってた」

 

 ──大事な話だ。

 

 

 

「もっと他には無かったのか。邪神が巣食ってるのならその邪神と折り合いをつけてその力が使えても良い。前世でお姫様だったのなら、それ相応の気品があっても良い。なんなら転生する魔法が使えるくらいの大魔法使いでも──今もだけど、幼い頃は大人達がする似たようなやりとりを聞いて思っていたよ。もう少し格好良いことが言えないのかって。もどかしかった。私ならってこうするって言うのが多くて。……何度も言うけど、存在しない過去の捏造は悪い事じゃない。終わっている事だからね。でも終わっている事なんだ。今や未来とは断絶されたもので、みんなが言うその格好良い事って、何か今のあるいは自分に影響を与えているのかな……いや話が逸れたね」

 

 話す時も理路整然と話す事を心がけているあるえだが、語ること言葉に珍しく熱が入っていた。

 

「んん。……そんなわけで本ばかり読んでた所為もあるんだろうけど、私は人一倍想像力豊かだった。今でもそれは変わらず、小説を書くことへ生かされている。というか、だからこそ小説を書いているというべきかな」

 

 紅茶に口をつけて、あるえは口を湿らせた。

 

「当時の私の持つ過剰な想像力は、代償として他人への興味をひどく薄れさせていた。必要無い、とさえね。本の内容以上のことがこの世にあるのだろうか、とそんな風に考えるくらいには拗らせてた。……はぐりん、君と出会うまでは──あの日は丁度小説を自分でも書こうと思い立った日だからよく覚えてるよ」

 

 少し暗い話題だったが、一転して楽しそうに話し始める。

 

 なんて話したか……実は俺も鮮明に覚えている。ゆんゆんとあるえに初めて会った日のことだから。

 

「君はまるで本の中から出てきたような出自を持っていた。元勇者候補らしき父親と当時里一番の美人だった母親の子供。身に秘めた力は絶大で、幼くも回復魔法と初級魔法を難なく扱えてた。最弱の『冒険者』だからこそ……『器用万能、物語の勇者のようになれる』と。目を輝かせて、そう言った君の言葉に偽りも誇張も感じなかったよ」

 

 そう言われると少し照れ臭い。あるえのこと年上だと思ってたから、確か話すのにも格好付けてたなぁ。

 

「──嗚呼、現実も馬鹿に出来たもんじゃないなって。それから少しずつ人との関わりを大切にするようになったんだ……他の人からしたら微々たるものなのかもしれないけどね」

 

 最近のぼっちぶりを聞く限り、本当に微々たるものなんじゃないか、と苦笑いしていると。

 

「でもそれはしょうがないじゃないか。君以上に興味をそそられる人なんてそう居ないんだから。……小説を書こうと決めた日に、本から出てきた勇者のような子と運命的な出会いを、なんてさ。紅魔族的にも、女の子としても気持ちが昂らない訳ないよね」

 

「……そっか」

 

 そういうあるえの目には輝きが灯っている。耳も少し赤い。

 

 俺も同じようになっているかもしれない。少し顔の周りが熱かった。つい、誤魔化すように相槌を入れた。

 

「多分、あの時から惹かれてたんだ。こんな持て余す程の感情に育つのは、予想できなかったけどね」

 

「俺も予想してなかったよ。……あるえと家でこんな話をするようになるなんて」

 

「ふふ、違いないね……」

 

 そう言ってすっかり話している間に(ぬる)くなった紅茶を飲むあるえ。

 

 お茶請けに出したお菓子に手を伸ばして、クッキーを摘んで口に運ぶ。

 

 食べ終わると、あるえはその手をハンカチで拭い。

 

「さ、今度ははぐりんの番だよ。……聞かせて欲しいな。いっそ過剰と言って良いくらいに、スキルを手に入れられたその理由を」

 

 話してもらおうじゃないか、と愛用のメモ帳と羽ペンを取り出して迫ってきた。

 

 

 

 ▼

 

 

 

 隣に座ると一瞬固まり、困った顔をしたはぐりんは観念したように、お手挙げだと言わんばかりのジェスチャーをした。

 

「その前にこれを見て貰おうかな」

 

 手を上げたままの姿勢で、彼は指を鳴らす。何処からか冒険者カードをその手に出現させ、私に差し出した。

 

「いや、待ってよ。それどうやってるんだい?」

 

「秘密。《宴会芸》とだけ」

 

「……もう、隠し事しないでよ」

 

「ふふふ。ごめん。でも手品は種がわかったら面白くないでしょ?」

 

 確かにそうだけど。……手品のタネを探るのは諦めて、はぐりんの冒険者カードを見た──これが肌身離さず持っていた彼のカード。

 

 職業の欄は『冒険者』。それはもちろん疑ってはいなかったけど。

 

 でその学生離れしているはずのレベルは……3レベル? 

 

「なんだい、これ……」

 

 異常だ。

 

 二度見する。でも結果は変わらない。いいや、そんな訳ない。だってスキルは……へぇ、冒険者カードってスキル沢山取得するとこんな風になるんだ……じゃなくて。

 

《物理耐性》《魔法耐性》他各種《異常耐性》系スキルは過剰な程強化されている。授業で習ったのが確かならこのレベルでも前衛盾職でもやっていける。スキルレベルだけなら一般冒険者のそれを遥かに凌いでる。レベルが伴ってさえいれば、渡りの野生キャベツの攻撃で傷一つ付かない程度には。

 

 他にもステータスを上げる各種スキルは取得していて、現時点でのステータスは、紅魔族らしい知力と私以上の飛び抜けて高い魔力、防御に関するステータス、そして幸運以外は15レベル程度の値だろうか。素のステータスに乗算するから現時点ではこの程度なんだろうけど。レベルが上がればこのステータスは跳ね上がる。……幸運の値に補正がかかるスキルは持ってないようだから、これは生まれつき、なのかな。異常なくらい高い。

 

 魔法系スキルは《初級魔法》《回復魔法》《治療魔法》《神聖魔法》の他、《魔法威力上昇》スキルもある。

 

 技術系のスキルは《千里眼》《読唇術》《体術》《投擲》や《両手剣》《片手剣》《槍術》など。《宴会芸》に《料理》に《錬金》? 他にも色々と節操がない。いや、そうでもないのかもしれない。何か規則性のようなものが窺える。

 

 なるほど勇者を目指すだけはある。……でもやっぱり、これだけスキルを取っていてレベルが低い訳がない筈なのに。なのにたった3レベル。私よりも低い。あれだけはぐりんは頑張ってたのに……? 

 

「冒険者を選んだのは俺の意思でもあるし、父親の意向でもある……って常々言ってると思うけど。これだけのスキルが取得できるからなんだ。……うちの親は過保護でさ。一通りスキルや魔法を教えられた後、魔力量が他の人より多いのがわかって、まず取らされたのは《初級魔法》と《回復魔法》に《治療魔法》。まぁ便利だからってことなんだけど。でも過剰な魔力で攻撃にも転用できるってわかって、《魔法威力上昇》スキルも取ったよ。《回復魔法》の威力も上がるんだからびっくりしたよ」

 

「それで、あの邪神の下僕も……」

 

「まぁちょっと拍子抜けするぐらい簡単に倒せちゃったけどね」

 

 なんてことないかのように言う彼は、あの時もこんなレベルで。……唇を噛む。私はあの時、自分の知的好奇心に負けて居残った。でもそれは、はぐりんならなんとかすると思っていたからで。

 

「その次に、親父が修めてるレベルまでの防御系スキルを取るよう言われた。極めてんのかってぐらいだよ。残りの初期ポイントもそれに注ぎ込まされたし、冒険者の修行を始めて暫くの間はそのためだけにスキルポイント稼いでた。これが過保護だって思う理由なんだけどさ。……やっぱり親心なのかなぁ。母さんも俺が『冒険者』で冒険者をする条件に挙げたぐらいだし」

 

 腑に落ちない。そして──起こり得たかもしれない可能性に身震いする。

 

「ねえ、でもそれならこのレベルはおかしいよ。だって君はあんなに頑張ってたのに……」

 

「うーん。そうだよなぁ……やっぱおかしいよな、レベル」

 

 応援していた。週末明けに聞く彼の話は、聞いていた私は血湧き肉踊った。小説のアイデアにもなったし、ネタにして短編を書いて読んでもらったこともある。

 

 でも──虚実を織り交ぜ話に説得力を持たせる。そうアドバイスをしてくれたのも、はぐりんだった。

 

「ねぇ。嘘、吐いてたんじゃない、よね?」

 

 嘘を吐かれていたと思うと悲しくて。

 

「その話を……あ……。……うん、賭けてもいい。神々に誓ってもいい。スキルアップポーションは使ってないから。……嘘を吐いたら鳴る魔道具持ってきて、確かめる?」

 

「そ、そうだよね……ごめんね、取り乱したよ」

 

 目尻に浮かんでいた涙を拭う。

 

「不安なら持ってくるよ?」

 

「……大丈夫だよ。はぐりんのこと信じてるから」

 

 ほっと胸を撫で下ろすはぐりん。

 

 泣きそうになった私を見て、おろおろとしていた彼はやっぱり可愛い。……うん、大丈夫。信じられる。ずっとはぐりんは違うと言い続けてきたわけだから……。

 

 駄目だな私は。最近はどうも、感情がうまく言うことを聞いてくれない。

 

 でもこんな、矛盾だらけの冒険者カードを見せられて動揺しない方がおかしいんだ。

 

「ごめん、少し勿体ぶり過ぎたよ。前置きが長かったよな。……あるえ、これから話すことはしばらくの間……──ううん、俺たちの秘密にしていてほしいんだけど」

 

 バツの悪そうな顔から、神妙な面持ちになって。

 

「──レベルリセットポーションって知ってる?」

 

 はぐりんはそう切り出した。

 

 

 

 ▽

 

 

 

 レベルリセットポーションは禁薬だ。その存在は公には知らされていない。一部他国で刑罰の一種として利用されている程度で、一般での利用はおろか、精製すら禁止されている。

 

 端とはいえ、此処ベルゼルグ王国では一部許可を与えられた職人だけが作ることを許されている。販売先は王家及び認められた者に限られ、厳重に管理される。

 

 他者への利用は禁じられているが、厳密には双方合意の上でなら『まぁ使いたければ勝手にどうぞ』だ。禁じられているの精製と製造方法の流出のみで、完成品の譲渡は許されている。法律の穴と言ってもいい。……もしかすると正しい使い方を知ってる人がこの法律を作ったのかもしれないけど。

 

 ……なんで俺がこんなに詳しいのかと言うと、ポーション屋の息子として、将来的には一応国家資格をとるつもりで勉強したから。いつまでも母さんに作ってもらうわけにはいかないし。

 

 で、何故そんな扱いなのか。それは、その効能の凶悪さは勿論のこと、作りやすい事に起因する。

 

 幾つかの材料は駆け出し冒険者の街周辺でも手に入るものばかり。ある特定の部位から滲むジャイアントトードの粘液を蒸留して分離したものに、初心者殺しの爪、一撃ウサギの角だ。他の材料や製法はまだ教えてもらってないが、スキルアップポーションに比べれば、遥かに簡単、らしい。

 

「その正しい使い方ってのはさ。……あるえ、ちなみに使うとどうなると思う?」

 

「え? レベル以外にも全部初期化させられるんじゃ……無いんだね?」

 

「そうなんだ。レベルはリセットされるからステータスはもちろん下がる……でもスキルとスキルポイントは残るんだ。レベル1になったその状態でレベルを上げると普通にスキルポイントが入ってステータスも上昇する。先駆者である親父曰く『下落転生』って言うらしい」

 

 強さの基準はレベルが全てじゃ無い。常々父さんはそう言ってる。俺もそう思う

 

「……なるほど。この話、まさか先にゆんゆんにしてるってことは?」

 

「ああ。まだしてない。……でも卒業したらめぐみんやゆんゆんにも話すつもりだよ」

 

「……そっか……ねぇ、副作用はないんだよね?」

 

 あるえはペンの動きを止め、メモ帳に目を落としたまま言った。

 

「それは無い、とは言い切れない。父さんが大丈夫だったから俺もってだけ。……文献が残ってないし、もしかすると初めての試みかもしれないから」

 

「…………レベリングは、してたんだね……」

 

「うん。何回もリセットして、だけど……!?」

 

 急にあるえが胸に飛び込んでくる。いい匂いだったり柔らかさだったりに身体が硬直する。

 

「そんな、そんな危険な事をどうして。──レベルをわざと下げて魔物と戦うなんて。自殺行為だよ、そんなの……危険なことはしてないって言ったじゃないか……! ……そんなことしてるくらいなら隠れてスキルアップポーションを使ってくれてた方が……」

 

 嘘つき。あるえが言葉に出さず、そう訴えてくる。

 

 嘘を吐いていたつもりはなかった。……でもあるえにとっては真実ではなく、欺瞞だった。その可能性には思い至らなかった。

 

「……そこまで危険なことをしてるつもりは無かったんだ。ごめん。でもわかって欲しい。親父が必ずそばに居たし、レベリングをしてたのは駆け出し冒険者の街『アクセル』近辺だから。弱い魔物ばかりなんだ。さっきも見てもらった通り、防御系スキルのお陰で守りだけは生半じゃないから……その万が一の危険も減らしてた」

 

「でも、あの邪神の下僕と戦った時……はぐりん、あの時もこんなレベルで戦ったの?」

 

「……うん」

 

「……偶々、今のレベルで倒せたからいいんだろうけど、冒険者になったら君の親が見守ってくれることなんてないんだろう?」

 

「もちろん。今のレベルで使う初級魔法でも大人の出す上級魔法と同じ威力をだせる。ただ、自分でも上級魔法を使ったらどうなるか楽しみな反面、怖いから……あるえやゆんゆんと冒険者をする約束をしなかったら、上級魔法を覚えてもパーティを作るまでこの方法は封印するつもりだったよ」

 

「……でもはぐりんは……これからもその方法を使うんだよね……」

 

 だから心配しないで欲しい。と言っても無理なんだろうけど。

 

 腕の中で小さくなったあるえ抱きしめた後、その肩を掴んで引き剥がす。

 

「多分あるえの思う無茶は続ける──だってそうしないと俺の夢は叶わないから」

 

「夢って……はぐりんは勇者になるつもりなんじゃ」

 

「うん。御伽噺みたいに、そうなりたい。だけどもっと先。俺は──」

 

 昨日めぐみんと、盗み聞きしていたゆんゆんにやった名乗りをあるえの前でもう一度。

 

 

 

「我が名ははぐりん!」

 

 ソファから立ち上がり、ソファの後ろの開けた場所へ飛び移る。

 

「紅魔族随一のスキルコレクターにして冒険者を生業にする予定の者!」

 

 腕を大きく回し、片手を突き出し残った手を顔の前へ。

 

「やがてこの世全てのスキルを極めし者!」

 

 片目を隠すように、掌を広げて隠していない瞳の光彩を輝かせた。

 

 

 

「何はしゃいでるの。家の中で暴れない」

 

「いてっ……って、母さん今格好つけてるんだからやめてってば……」

 

「あら、いらっしゃい。えっと……」

 

「わ、我が名はあるえ! 紅魔族随一の発育にして、やがて紅魔族随一の作家を目指す者!」

 

「我が名はなんなん。紅魔族随一の薬師にして、上級魔法を操る者」

 

「あの、お邪魔してます……」

 

 俺は後ろにいる母さんの顔が見るのが怖くて振り向くことができなかった。

 

 

 

「いい自己紹介ね。それに……うん。ゆっくりしていってね、あるえちゃん。それじゃ、戻るけど……はしゃぐなら外でしてね?」

 

「え? あ、うん……」

 

 母さんはそう言って部屋に帰っていった。

 

 あれ? 

 

「母さん、なんか変じゃなかった?」

 

「……私に聞かれても困るんだけど」

 

 それもそうだ。

 

「でもびっくりしたよ。お義母様が来るなんて……君の名乗りにも驚いたけど。……初めて聞いたよ、ちゃんとした君の名乗り」

 

「ごめん。……どうやってって聞かれかねなかったからさ。でも母さんには俺もびっくりした」

 

 あの反応のなさが逆に不穏だ。あとが怖い気もする。……もしかして、あるえのこと知ってたのだろうか。

 

 ゆんゆんのことを母さんは気に入ってる。仮にあるえの事を知っていたなら。

 

 …………母さんは浮気の可能性を下げるためか親父の朝帰りは許さないほどだ。息子の俺が軟派な事をしているのを知っていれば、何かしら言ってくるはずだし。知らない、のかなぁ……? 

 

「あー……途中で邪魔入ったけど一応、俺の隠し事は全部話し終わったよ。これからどうする? まぁ母さん部屋にまた篭るだろうけど、俺の部屋来る? それとも外に出る?」

 

「え、あ……ならその、だね。はぐりんの部屋に行きたい、かな」

 

「うん……?」

 

 あるえの遠慮を感じさせる言葉にはどこか別種の期待があって。

 

 だから、少し想像した。いつかのめぐみんの様にあるえが俺のベッドに腰かけるのを。

 

 でも母さんは離れに篭りきり。不意に親父が帰ってこない限り、家には誰も居ない。そして何より従妹ではなく俺の好きな人──そんな状況を。

 

「あー……その。……やっぱりまた今度でもいい?」

 

「…………はぐりんのえっち。意気地なし」

 

「……俺が悪かったから煽るのはやめて下さい」

 

 あるえも大概えっちで意気地なしだからな! ……と言えば、売り言葉に買い言葉になるのは目に見えていた。というかあるえがムキになったら何されることやら。

 

 ……ただでさえ胸押しつけられてヤバかったのに。

 

意識調査です。投稿時間は何時ごろが良いですか?

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