はぐりんくえすと   作:楯樰

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2 親交と友誼と

 学校に通うようになって1ヶ月が過ぎた。

 

「やあ、はぐりん」

 

「どうも、あるえさん。わざわざ男子クラスまでやってきてどうしたの?」

 

 お昼休み、友人2号のあるえが弁当箱片手にやってきた。

 

「うん。休みの間何があったのか昼食ついでに聞こうかと思ってね。どうせ、何か面白いことがあったんだろう?」

 

「まあ、あるにはあるけど。単身での姫様ランナーの討伐、ダンジョンに巣食う下級悪魔やアンデッドの討伐に、あとは遺跡の調査とかにもついて行ったかな」

 

「是非、聞かせて欲しいな。やはり直接の体験談は創作のいい刺激になるからね」

 

「じゃあ姫様ランナーを討伐した話から──」

 

 あるえにこの休みの間、父さんについて回っていた時の事を話していく。

 

 ──待ち望んでいた学校生活にはすっかり馴染み、女の子以外の友達もできた。けど、あんまり遊びには誘われていない。

 

 職業が『冒険者』というせいで、休日はないようなもので、誘われても断ることが多かったせいだと思う。

 

 他のクラスメイトと同じように、学校卒業の条件は上級魔法の取得。

 

 しかし、

 

「──でも、君も難儀な道を選んだね。スキルアップポーションが貰えないだなんて」

 

「ははは……。まあ、仕方ないよ」

 

 そういうわけだった。

 

 

 

「ありがとう。今回もいいネタばかりだった」

 

「それは良かった。まあ、俺は付いて回ってただけなんだけどね。経験らしい経験はちょっととどめを分けてもらったくらいで」

 

「ふーん養殖もしてもらっていたんだね。……そういえば、初めて会った時には既に色々とスキルを手に入れていただろう? 差し支えなければ教えてほしいな、今のレベルは幾つなんだい?」

 

 まあ聞かれると思っていたけど。

 

「んー、内緒。その時が来たら教えるよ」

 

 

 

 昼食を食べるのもそこそこに、休憩時間が終わるまであるえには「どうせ教えてくれるなら今教えて欲しいな」と催促された。

 

 残念だろうけど、本当に今はまだ教えられないんだ。許して欲しい。

 

 

 

 ▽

 

 

 

 放課後。帰り支度をしていると、見覚えのある頭がこちらを覗いていた。

 

「あ、ゆんゆん! 偶然だね!」

 

 さっと隠れてしまったので、教室を出て、さも今気がついたかのように驚いてみる。

 

「はは、はぐりん! そそ、そうね! 偶然ね! ……ええっと」

 

「一緒に帰る?」

 

「いいの!?」

 

「勿論。……あ、そうだ。今日はちょっと遊んでかない?」

 

 そう提案をすると、彼女は何度も頷いた。嬉しそうなのはいいけど、首取れちゃわないか心配になる。

 

 

 

 遊んでいかないかと誘ったものの、訳あって体を動かす遊びをする気にはなれず、ゆんゆんの家にお邪魔して、ボードゲームをすることに。

 

「あー! また負けた! ゆんゆんってば強すぎでしょ!」

 

「ふふーん! それほどでもないわよ! 1日2時間くらい練習してるだけだから!」

 

「う、うん……。その、ゆんゆん? 一応聞いてみるけど友達は、できたんだっけ?」

 

「…………まだです」

 

「そ、そっか」

 

 つまり、この二人用のボードゲームを一人で……うっ!

 

 なんだか居た堪れない雰囲気になってきたので、休憩も兼ねてケーキに手をつける。

 

「ん、美味しいな。これって『デッドリー・ポイズン』の奴?」

 

「ううん。……その、手作りなんだけど。本当に美味しい?」

 

「凄いな、とっても美味しいよ。きっと良い──んん、お金取れるくらいだ」

 

 良いお嫁さんになるんじゃないかな、と言いかけて恥ずかしくなってやめた。

 

「え、えへへ……その、出会ってから1ヶ月には間に合わなかったけど、はぐりんと食べようと思って昨日から作ってたの。どうせなら美味しいのが良いと思って、何回も作り直してたらどういうのが美味しいのか良く分からなくなっちゃったけど。上手く出来てたみたいで良かったわ」

 

 ……よく見れば、目の周りに隈が。

 

「うん……その、ありがとうね? でも、寝不足になるまで頑張らなくても良いからさ。多分初めてでも、ゆんゆんが作ったケーキなら美味しいだろうから、俺は気にしなかったよ?」

 

「ううっ!」

 

「ああ! 泣かないで! おじさんに俺がどやされるから!」

 

「ご、ごめんなさい! ……私、お友達にこんなに嬉しいこと言われたの初めてでっ……!」

 

 

 

 この後おばさんが様子を見に来て、なんか変な誤解された。

 

 

 

 ▽

 

 

 

 泣き止んだゆんゆんが誤解を解いてくれた後、休憩を終えてボードゲームを2連戦。

 

 最後決着をつける前に彼女が寝落ちしたので、結局負け越したまま終わってしまった。

 

 ──ちょっと気落ちしながら家に帰ると、見知った靴が一足ある。ああ、今日も来る予定だったっけ。

 

「ただいまー」

 

「お帰りなさい。めぐみん来てるわよ? 手、洗ってきなさい」

 

「はーい」

 

 今日の仕事がひと段落しているらしい母さんが、エプロン姿で台所に立っていた。

 

 父さんの姿が見えないのは……まあ、また冒険者ギルドで飲みに誘われたのだろう。多分、日が変わる頃には帰ってくる。

 

 ……朝帰りしたら、母さん怖いから。

 

「お帰りなさい、はぐりん。お邪魔していますよ」

 

「いや、寛ぎすぎだろ。いや、たしかに自分の家のように思ってくれればいいとは言ったけど!」

 

 ソファーに体を投げ出しているめぐみんは何処か遠くを見ている。あれは……心を無にして空腹を耐えているな。

 

「美味しそうな匂いがしてきていますが、流石にご馳走になる手前、はぐりんよりも先にいただくわけには行きませんので」

 

「妙なところで律儀なやつだなあ」

 

「知りませんでしたか? 私は義理堅いのです」

 

 それは知らなかったなあ。本当なら俺のおやつを一切の躊躇なく取っていくのはやめて欲しいなぁ。

 

「その目、なんだか腹が立ちますね。……それより、なんだかはぐりんから甘い匂いがしますね? 帰りが遅かったですし、何か食べてきたのですか?」

 

 犬並みの鼻の良さだ。

 

「……ああ、ケーキを食べてきた。ゆんゆんのところで」

 

「な!? 私がお、お腹を空かして待っていたと言うのに、あなたって人は! 他所の女の所でケーキを食べてきたですって!?」

 

「人聞き悪い言い方すんな。不倫ものの小説じゃあるまいし。……ゆんゆん愚痴ってたぞ、めぐみんって奴がお弁当盗ってくって。やめてやれよ。友達付き合い下手な子なんだから」

 

「うっ……あ、あれはその……そう、元はと言えばゆんゆんが構って欲しそうに期待した目でチラチラと見てくるので、しょうがなく勝負をして、しょうがなく報酬として貰っているだけで。……それに最近は私用に二つ用意してくれていますし」

 

「この確信犯め。……まあ、あんまり虐めてやるな。一応友達みたいなものなんだろう? 可哀想だから普通に接してやってくれよ……」

 

「いえ、私は友達だと思っ……」

 

 ちょっとめぐみんの顔が赤くなった。

 

「……大体紅魔族が施しを受けるようではいけないと思うのです。族長になると豪語するならば、毅然としたですね……というか、はぐりんは妙にゆんゆんに対して優しいというか。友達になったとは聞きましたが、どうしてそんなに気にかけるのです?」

 

「それは……」

 

 なんでだろう。ちょっと自分でもよくわからないな。俺にとって、初めて出来た紅魔族の友達だから、だろうか……?

 

「……まあいいです。はぐりんの言い分はわかりましたから。……けれど、私の言った事も事実。紅魔族の一員たる者、せめて堂々と名乗りをあげるぐらいのことは出来なければいけないと思うのです。少なくとも私は今まで通り接して行きますから。優しくしてあげるのははぐりんの担当ということで。……ところで、どうして私たちはゆんゆんのことでこんなに言い争っているのでしょうか。……余計にお腹が空いてしまいました」

 

「はらぺこ娘め。……そろそろ準備できるだろうし、手伝ってくるよ。座って待ってろ」

 

「いえ、私も手伝いますよ!」

 

 従妹のめぐみんとはいえ、一応お客人に手伝いをさせるのはどうなのかと思ったけど、本人がそう言うのなら仕方ない。

 

 まあめぐみんのことだ。手伝った分だけ夕食が早まると考えてのことなんだろうけど。

 

 

 

 食い溜めをするかの如く、パクパクとお腹に夕食を納めていっためぐみんは満腹になってベッドで熟睡中。

 

 ただ、許容量以上に詰め込んだ所為か、それとも悪夢を見ているのか、もしくはその両方か。「うう、もう……食べられません……無理で……無理です」と寝言を漏らしている。

 

 多分このままお泊まりコースだ。

 

「大物だなあ。こいつは……」

 

 ベッドまで運んだけど中々重かった。どれだけ詰め込んだんだ。

 

「負けないようにしないとね、はぐりん」

 

「え、あ……うん」

 

 越えなきゃいけない壁、父さんの背中は遠くて高い。だが、俺や父さんの次に魔力を持っているのはめぐみんだ。冒険者になる、といつか漏らしていためぐみんが目下一番のライバルになるかもしれない。

 

「冷蔵庫にあのポーション入れてるから、早く飲んで寝なさいね? 明日納期のポーションがあるから、お母さんはもうちょっと仕事してから寝るからね」

 

「うん。ありがとう」

 

「…………ねぇ、やっぱりお父さんが飲んでて大丈夫だったとは言っても、あまりお勧めできないわ。作ることも禁止されてるくらいなのに……体に不調が出ないとも限らないし。いえ、私の作るポーションに万が一はないけど。でも、もしかしたら、億が一があるかもしれないし」

 

「大丈夫だって。母さんの腕は信頼してるし……その時はその時だよ。父さんはなんて事ないようにしてるけど、冒険者になったらもっと危険な事だってあるんだしさ」

 

「……。私は、冒険者になる事も反対してるからね」

 

「……うん」

 

 母さんは、俺を父さんのように冒険者にはしたくないらしい。

 

 紅魔族は割と好戦的というか、臆病とは無縁だ。過去に何があったのかわからないけど、それにしたって母さんは心配性が過ぎる。紅魔族一の冒険者を目指す身としては、少し窮屈に感じてしまう。

 

「それじゃ、おやすみなさい」

 

「おやすみなさい」

 

 ……? 母さん中々工房に行かないな。

 

「…………大丈夫? 添い寝しようか?」

 

「い、いらないから!」

 

 流石にこの年になると恥ずかしい!

 

 

 

 




tips
前話で出てきたパンの耳を揚げたやつは、めぐみんがそのまま食べてたのを見て考えたもの。初めて作った時に砂糖をたくさん使っていることにめぐみんから怒られたことで、めぐみん家の食事事情が発覚した。

1話の長さは?

  • 3000字程度
  • 4000字程度
  • 5000字程度
  • 6000字程度
  • 7000字以上
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