はぐりんくえすと   作:楯樰

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遅くなりました。


21 ニートとストーキングと

 里の周辺の森に住み着いている魔物はその尽くが強い。といっても上級魔法を修めた紅魔族にとっては鎧袖一触出来る程度のものだが。

 

「ぶっころりー、上級魔法覚えてない学生四人引き連れて森入っても大丈夫なのか?」

 

「まあ大丈夫だよ。この前間引いたばかりだし、そんなに危険な魔物に会うことはない筈さ」

 

 大人にとっては大したことなくても、外の世界の基準で言えば此処は魔境と言って差し支えない程だ。それは子供の俺達にも当てはまる。

 

 外の世界と里の周辺。身をもって知っている俺としてはお気楽な返事に不信感が湧き起こる。これは俺も備えとかないと危なそうだ。《宴会芸》スキルの物体出現芸で『ひのきのぼう』を取り出し手に握る。

 

「いつから持ってたの、それ」

 

「これ? いつからというか……常備してるけど」

 

「……どこに持ってたの?」

 

「内緒。てか、あるえには言ったじゃん。宴会芸スキルで物を隠して持ち運べてるって」

 

「そうだけど……やっぱり何回見ても信じられないというか」

 

 まあ長さ80センチの木の棒をどこにしまってるんだってのは、俺があるえの立場なら気になるに決まってる。まあ実のところ今のスキルレベルだと重量は据え置きだし、嵩張るしであまり多くは持てないが。

 

「ねえ、はぐりんの持ってるその木の棒って、何か特別なの? この前も持ってたけど……あるえは知ってるんでしょ?」

 

「知ってるよ。はぐりんの使ってる魔法媒体兼武器、だったよね」

 

「うん。親父に誕生日のプレゼントで貰ったものでさ。どっかの集落で御神木になってたヒノキがエルダートレント化して討伐されたんだ。……依頼受けてうちの親父がやったらしいんだけど。そいつから採れたものなんだと。魔力の伝導率や制御力の上がる優れものだよ」

 

 これを貰ったのは確か五歳ぐらいの時だったか。万が一にも魔力の制御を誤らない様にと貰えたものだ。あれからずっと使ってるけど、劣化は一切していない。むしろ、より硬くしなやかになっている気がする。

 

「でもなんで杖じゃなくて棒なの?」

 

「棒には『突けば槍、払えばグレイブ、持てば長剣』みたいな言葉があるらしくてさ。これは短いけど長さは氷結系や岩石系魔法で変えられるから。このまま使っても良いけど……」

 

 ゆんゆんの疑問に見せた方が早いとくるりと手元で回転。先に鋭く尖らせた氷を無詠唱魔法で出現させ、短槍に。それから氷で刃先を伸ばして長槍に。

 

 一旦溶かして持ち手を残して、ひのきのぼうを高密度の石で覆い大剣を象らせる。これで《両手剣》や『ソードマスター』の《剣術》スキルの対象にはなるが、支援魔法を使わないことには筋力が伴わないので、振り回せない無用の長物だ。いつもは片手剣サイズに収めるが、今はちょっと見え張った。解呪魔法で石を崩させる。

 

 あとはブーメラン状に成形したり、斧にしたり、鎌にしたり。千変万化だ。器用度が高ければ消費魔力も大したことないが、レベルの低い今は魔力に物を言わせて無理矢理やっているので、俺の魔力でもここまでで半分以上使ってる。

 

「……こんな感じで。ほら、冒険者は色んなスキル覚えるから……ってなんでみんなしてそんなキラキラした目で見てくるわけ?」

 

「「カッコいい……!」」

 

 あの時ちゃんと逃げてくれためぐみんと、初めて見るぶっころりーはわかる。可変武器は格好いい。

 

 でもゆんゆんとあるえには養殖のときに一度見せたと思うんだけど。

 

「……その、はぐりんが助けてくれた時のこと思い出しちゃって……格好良かったなって」

 

 と、ゆんゆんが照れくさそうに言い。

 

「何度見ても良いね。洗練された無駄のない無駄な魔法行使。紅魔族らしくて浪漫があるよ」

 

 と、あるえが。

 

「今無駄って言った?」

 

「言ってないよ?」

 

 いや、まあ言ってたとしても、あるえも悪い意味で言ったんじゃないだろうけどさ。

 

 正直こんな魔法の使い方は魔法使いにとっては非効率的だ。敵対している相手に直接魔法をぶつけたほうが余程いい。実際今使った魔法の威力と魔力を使えば上級魔法を複数回は使える。この『ひのきのぼう』を使った近接戦闘と、目下一番使いたい魔法のライト・オブ・セイバーの威力は比べるべくもない。

 

 ひのきのぼうに戻すと油断なく構えたまま。

 

「それにしても魔物が居ないぞ……? 普段なら一撃熊の一匹二匹すぐ会えるんだけど……」

 

「……もう一回聞くけど。仮に一撃熊の群れに遭遇したとして、ぶっころりー俺たちのこと守りながら戦えるわけ?」

 

「当たり前じゃ……ないね。確かに流石に囲まれたらマズいと思うけど、あいつら群れたりはしないからね。大丈夫だよ」

 

「そこは断言しろよ」

 

「というかさ、学園で習うだろ? 今は教わってないのか?」

 

「聞いてみただけだよ」

 

 ……はあ。

 

 

 

 しばらく森の中を彷徨いてみたが見つけることができず、この前の間引きで一撃熊すら怯えて隠れているのではないかと結論づけ、金策をして占ってもらう案は一旦保留となった。

 

 

 

 ▽

 

 

 

 ぶっころりー率いる俺たち一向は森から里に、そけっとの店の前に戻ったが店には準備中の札がかかっていて不在の様だった。

 

「……そけっとさん、どこかに出かけたのかな?」

 

 所在の在処を誰に訊ねるわけでもなく呟いたゆんゆんに、ぶっころりーはその肩をポンと叩き。

 

「そけっとのことなら俺に任せてくれなんせ俺とそけっとの仲だからね、まずそけっとは朝七時頃に起きるんだ、健康的だよね、そのあとシーツをかごに放り込んでから朝食の準備に移るんだけど、そけっとは毎朝うどんばかり食べるんだよね、そんなにうどんが好きなのかな? 彼女は鍋に水を張ってお湯を沸かしている間に歯磨き洗顔を済ませるんだ、効率的だよね、顔も良い上に頭も良いよね、そけっと賢いよそけっと。うどんを食べたあとは朝食の食器と一緒に前日の晩御飯の洗い物も済ませるんだよねそけっとは、前日の晩御飯の食器はつけ置きしておくんだよ本当賢いよね、きっと良い奥さんになれるよね、そけっとはそれからお風呂に入るんだよ、朝からお風呂だよ綺麗好きなんだよね、夜も入るし朝も入るんだ、だからあんなに綺麗な肌をしてるんだろうね、お風呂から出ると新しく出た洗濯物をかごに入れて洗濯するんだよ、ここだよ、ここが大事なんだよね、彼女は洗濯物をすぐ洗っちゃうんだよ、これって凄く困るよね、いや困らないよ、うん別に困らない、いや困……やっぱり困らないよ、だって俺にはやましい事なんて何もないからね、洗濯が終わったあとは散歩に行くんだよそけっとは、本当に健康的だよね、しばらくウロウロした後店に行くんだよ、そのあとは君達も知っての通りさ、まずは店の掃除を始めるんだ、本当に綺麗好きだよね、それに家事全般が上手そうだよね、しばらく掃除した後は店に引っ込んで出て来なくなるんだよ、きっと中で退屈してると思うんだ、本当、お金さえあれば毎日通うんだけどね、その後お客が来なくて退屈したのか店の外に出てくるんだ、それからストレッチしたりお客が来ないかなーなんてあちこちキョロキョロするんだよ、可愛いよね、綺麗なだけじゃなくて可愛いだなんて反則だよ本当に、そけっと可愛いよそけっと、後は店を閉めてどこかに出掛けちゃうんだよね、お店放り出してだよ、こんな奔放なところも素敵だよね、自由すぎるっていうかさ、ほら俺なんかも自由を謳歌するニートだからね、その辺も相性バッチリだと思うんだ、まあそれはいいとして、今の時間帯だとそけっとが店に帰ってくるまであと二時間ちょっとってとこかな、このまま待ってても良いんだけどね。……どうする?」*1

 

「……ま、まるでいつも見ているかの様な言い草ですね。軽く引きますよ。……どうしてそんなに詳しいのですか?」

 

 と、目をキラキラさせて語ったぶっころりーにめぐみんが問う。

 

「そりゃ、暇さえあればここに来ては色々と調べてるからさ。そして俺は自慢じゃないが里の中で一番暇がある」

 

「そ、それってストーカ」

 

「おっとゆんゆん、それ以上言うのはいくら族長の娘でも許さないぞ」

 

 紛う事なきストーカーぶりに俺もゆんゆんもめぐみんもドン引きである。

 

 しかし、ものすごい勢いでペンを走らせていたあるえは、一度手を止めて頭を上げ。

 

「見習いたいぐらいの張り込みと取材力だね。本人も知らないような事もたくさん知っていそうだ。今度ゆっくりそけっとの話を聞かせてもらっても良いかい? 紅魔族随一の美人がどんな生活をしているのか気になってたんだ」

 

「ああ、良いとも! 俺の知ってる事ならなんでも……。……何それ? めちゃくちゃ綺麗な字ですごく気持ち悪い事が長々と書いてあるんだけど」

 

「ぶっころりーがさっき言ってた事だけど」

 

「は? これを俺が? そんなわけ……そんな……。……あの、これ本当に俺が?」

 

 メモ帳の文面を見せつけられたストーカーの疑いのあるニートは愕然とする。横から中身を覗くと、あるえの綺麗な字でぶっころりーの先程の語った内容が一言一句漏らさず書かれていた。文字の綺麗さと内容の気持ち悪さのギャップがすごい。

 

 平坦な声色であるえは、

 

「いや、さっきの話が本当ならぶっころりーは凄いよ。新聞記者にでもなったらどうかな?」

 

「……あの、もしかしなくても褒めてはないよね、君」

 

「? いや、褒めてるよ? ニートでそれに加えてストーカーなぶっころりーに褒められる様なところなんて他にあるの? いや、悪気はないんだ。あるのなら訂正しないといけないから教えて欲しいんだけど」

 

「あの、えっと……もう、ニートでもなんでも良いんで、ストーカーってのだけは勘弁してください…………」

 

「あの、あるえ? 事実とはいえ、その辺で……」

 

「……流石に可哀想ですね。…………事実とはいえ」

 

 ゆんゆんとめぐみんの追加口撃に本日二度目のぶっころりーの泣きが入ったので、ストーカーの呼び方だけはしない事になった。

 

「それで、今の時間そけっとは何処にいるんだ?」

 

 立ち上がらせてズボンに付いた砂を払ってやると、涙を拭ったぶっころりーは。

 

「うう……着いてきて……心当たりはあるんだ」

 

 

 

 雑貨屋の前に移動してきた俺たちは目的の人物がいるのを確認。

 

「ほ、本当に居ましたね……」

 

「……うわぁ、うわぁ……」

 

「…………本当に見習いたいぐらいの分析力だね」

 

「ぶっころりーお前さあ……」

 

 ぶっころりーに行動を完全に予測されているとはつゆ知らず。雑貨屋でそけっとは楽しげな様子で物色をしている。

 

 ぶっころりーを白い眼で見る女子二人。あるえも若干引いてるようだ。

 

「言いたいことがあるのはわかるけどそれ以上は言わないで欲しい。世間一般には俺は……そう呼ばれてもおかしくないのかもしれない。けど、これでも俺は紳士のつもりで……。……それより、その、今がチャンスだと思うんだ」

 

 少し凛々しい顔でそう言ったぶっころりーがめぐみんとゆんゆんの肩を叩いて。

 

「チャンスというと……ああ、なるほど。私達を呼びつけた本来の目的を果たす時ですね?」

 

「……世間話ついでに好みの男性のタイプを聞いて、くるんですよね? わ、私にはちょっと……難しいと思うんだけど」

 

 背中を押して欲しそうにチラチラと俺を見てくるゆんゆん。

 

「何を言ってるんですかゆんゆん。将来喧嘩の仲裁や今みたいに恋愛相談なんかもいずれ受けるんです。こんなことぐらい容易くこなせなくて、次期族長になれるのですか? 自称ライバルがこの程度のこと怖気付いてどうします」

 

「じ、自称じゃないから! それに私別に行かないとは……あ、ちょ、ちょっとめぐみんっ! 引っ張らないでってばー!」

 

 俺にとっては面倒くさくも微笑ましい様子ではあったが、めぐみんにはただただ面倒くさかった様だ。むすっとした顔のめぐみんにズンズンと引っ張られてゆんゆんは連れていかれる。

 

「……私も行ってきていいかな? あの二人だとちゃんと聞けない気がするから」

 

「…………俺もそう思う」

 

 ペンと手帳を仕舞ってあるえは二人の後を追って店の中へ入って行った。

 

 

 

 ぶっころりーと二人きりになり、男二人することもなく店の様子を外から伺っていると。

 

「さっきも言った気がするけど最近の子達は成長が早い気がするよ。とてもじゃないが学生とは思えない」

 

「それ、あるえの胸見て言ってるんじゃないだろうな?」

 

「こ、怖いって……いや、でもしょうがないだろ? ゆんゆんもだけど大人顔負けじゃないか。君のお母さん程じゃないけど下手したらそけっと並みに……わ、悪かったって! もうこの話はしないから!」

 

「それがいい」

 

 無詠唱で先端に氷塊を作った『ひのきのぼう』を取り出して素振りをして見せる。あるえはあんまりジロジロ見られるのは好きじゃないだろうから、俺だって見ないようにしてるのに。ゆんゆんのはつい見ちゃうけど……って違う。

 

「でも君らが羨ましいよ。帰りにあんな風に膝枕だったり、喫茶店に寄って駄弁ったり。……俺もそけっととそんな学生生活送りたかったなぁ……」

 

「……。……一緒に通ってたんじゃないのか?」

 

「ん? 気になる? そんなどうしても知りたいって言うなら、教えても──っ!? ……悪かったよ。教えるから。それを降ろして欲しい」

 

「……それで?」

 

 真面目なぶっころりーの言葉に構えていたひのきのぼうを降ろして、続きを促す。

 

「ふう。……俺は彼女と一つ学年が違ってさ。君の時はどうだか知らないけど、ほら女子クラス男子クラスですら隔たりがあるだろ? 学年が違えば余計に会うことはなかったんだよ。でもそけっとはその頃から美人だったらしくて。『一個下の女子クラスに美人が居る』って俺たちの学年の男子の間でも噂になってた。でもその当時は俺もちょっと斜に構えててね、そけっとの顔すら見たことはなかったよ。『女に興味はねえ』ってさ」

 

 今も昔も女子に興味のないフリをする男子は多いのだろう。『別に興味はないけど、女子クラスの誰が』なんて話は頻繁に耳にする。やすけときくもとは隠す気は無いようだが、実際には興味津々だ。

 

 いつも連んでるアイツらとは滅多としないが……もしかすると俺の居ないところで二人でしてるのかもしれない。俺たちにも春がどうのと言ってた気がするし。

 

「正直今では後悔してるよ。学生時代に知り合いになっとけば、こんな風に君らに頼ることも無かったんじゃないかって。付き合うことだって出来てたかもしれないのに……卒業してからは知っての通り、まだ靴屋を継ぎたいとは思えなくてさ。ぶらぶらしてた時初めてそけっとのことを見かけて。……一瞬だったね。もう本当に、自分でもどうかと思うくらい一目惚れしたんだ。顔もスタイルも俺好みだった」

 

「え、それだけ?」

 

 長々と語り、一目惚れという結論に思わず拍子抜けする。

 

「それだけだよ。でも人を好きになるキッカケなんてそんなもんだ。一人しか好きになったことがない俺が言うのもなんだけど」

 

 ……それについては俺も人のことは言えないかもな。

 

 初対面の時からゆんゆんのことは可愛いなって思ってたわけだし。

 

 あるえのことだって、初めて会った時は大人びた美人の年上だと思った。

 

 仮にオークみたいな容姿だったら、好き好んで遊んだり一緒に飯食ったりしてなかった……と思う。そう考えるとぶっころりーを悪様に言うことなんてできない。

 

 それに、一目惚れしたって話の両親がいなければ俺は今ここにいないかもしれないのだし。

 

「でも笑っちゃうだろ? 一個学年が違うからって同じ学園に通ってたのに、好きになるまであんな美人のことを知らなかったなんて。過去の俺が殴れたら殴ってやりたいよ」

 

「だからって、ストーカーになるのは……うん」

 

「わ、わかったから……でも、しょうがないだろ。今君だけだから言うけど、どうやって女の人と距離詰めたらいいかなんてわかんないんだよ……だから毎日のように調べてた訳だし、そもそもわかってたら君達に声をかけることはなかった。……でもこのまま遠くから見てるだけじゃいけない。……俺自身情けない、どうにかしなきゃとは思ってるんだ」

 

 いつになく真剣な口調にぶっころりーの顔を見上げる。日頃の不摂生からか、隈の縁取った目を真っ直ぐと。

 

 ……初めからそうやって真面目に相談してくりゃいいのに。

 

「悪いように言って、悪かった。……ぶっころりーが本気なのはよーくわかったよ。俺も出来るだけ協力する」

 

「……はぐりんお前……」

 

「あ、でも、もしそけっとに好きな人や彼s「いないよ。調べたんだ」……そ、そうか。三人が帰ってきたら、どうするか考えよう」

 

 食い気味に否定するあたりからも、ストーキング具合がどの程度かが窺い知れた。……拗らせすぎだろぶっころりー……。

 

 

 

 ▽

 

 

 

 喫茶店に場所を移し、丸机を囲むようにして椅子を並べて座る。

 

 昼時を過ぎ、食後のお茶やコーヒーを求めて客入りは先程より多くなってきた。

 

「そけっとさん、好きな人は今いないって」

 

「それはもう知ってる。そんなことよりも。……それで? 好きな男性のタイプは?」

 

 声量を抑えて話を切り出したゆんゆんは少し嬉しそうな顔から一転、ぶっころりーの連れない返事にしょんぼりと眉根を下げた。

 

 そんなゆんゆんを他所にあるえはメモ帳を開いて、

 

「変な趣向があるのかもと期待したけど、好きな男性のタイプはあまり面白味がなかったよ。勤勉で真面目な人だそうだよ。それから浮気をしない、話をしっかり聞いてくれる人……そう言ってたね」

 

「うんうん、そうか。……うん、ほぼほぼ俺のことだな! ……うん」

 

 勤勉で真面目と言うのが当てはまらなかったからか、自分に言い聞かせるように頷くぶっころりー。……というか前に同じような男性像をゆんゆんから聞いた気がする。

 

「あれは当たり障りのない答えのような気もしましたけどね。このニートはどういうメンタルなのか……正直あるえが居て良かったですよ。ゆんゆんのおかしな美的センスのお陰で危うく聞きそびれるところでした」

 

「わ、私はおかしくなんてないから! みんなの方がおかしいのよ! 何よ、龍の彫り込みのある木刀が可愛いだなんて! おかしいでしょ! あれ普通カッコいいとかじゃないの!? いやカッコいいのもどうかと思うけど! 少なくとも可愛いって言うのはおかしい!」

 

 肩を怒らせ悲痛な声を上げるゆんゆん。まずい、このまま常日頃のストレスを吐き出しかねない。

 

「お、落ち着こうゆんゆん。店内だから、ね?」

 

「うう……! はぐりーんっ!」 

 

「へ? ぅぐっ!?」

 

 飛び込んで背中に手を回して抱きついてきたゆんゆんに、お腹を圧迫されて変な声が漏れる。今居る場所も忘れ、自分でも何してるのかわかってないんだろうけど、色々限界だったんだろうか。

 

 とりあえず、泣き出したのか嗚咽を漏らし鼻を鳴らす、膝の上で伏せるゆんゆんの頭を触れる様に撫でる。触ってて気持ちのいい艶のある髪の毛だ。

 

 ……あるえと此処に来ている手前、このまま続けて良いものだろうかとあるえを伺うと、しょうがないなと言わんばかりの目と目が合ったので、このまま。

 

「で、そけっとの好みの男性のタイプがわかったところでどうするんだ、ぶっころりー」

 

「…………どうしよう」

 

 そもそも当初の目的自体を果たしせたとして、ぶっころりーがそけっとに話しかける度胸が生まれるわけではなかった。

 

「こんな意気地なしでも切っ掛けさえあれば、そけっとと話せるでしょう。……ちょうどそこの、泣いたふりして甘えてるゆんゆんが短剣を常備してます。袋でも被せてそけっとを襲わせて、そこを助けに入るんです」

 

「……。なるほど、それはいい!」

 

「めぐみん何言ってんの!? ぶっころりーさんも納得しないで!?」

 

 ガバッと、顔を赤くさせたゆんゆんが顔を上げる。

 

 うんうんを頷くぶっころりーはそけっとと話せる様になることしか考えてない。

 

「……ふぅん、泣いてるようだから多めに見てたけど、ゆんゆんも悪女だね」

 

「あ、あるえ……その、違うのよ? 本当にそんなつもりがあった訳じゃなくて……はぐりんに撫でられるのが気持ちよかったというか……。……あの、ごめんね」

 

「いいよ。あとで私もやってもらうから」

 

「「!?」」

 

 あるえは本気の目だ。衆人環視のなかで俺、結構恥ずかしかったんだけど、え、やるの? 

 

「この三人はまったく……あるえとはぐりんはともかく、ゆんゆん! あなたは今日はこのニートの手伝いでいるんでしょう! 一飯の恩義ぐらい返したらどうです!? このっ……何ですかこのもちもち肌は! この、この!」

 

「ひひゃい! ひひゃいかりゃ! やへてよへぐひん!!」

 

「めぐみん、俺たちも悪かったからその辺にしてやってくれ」

 

 流石に傍観してるのはどうかと思いやめさせた。

 

「ふんっ……」

 

「……ありがと、はぐりん。……うう、それで結局どうするのよ。さっきの以外でめぐみん何かいい考えがある訳? ……ひりひりする……」

 

 めぐみんに摘まれたゆんゆんの頬を『フリーズ』で冷やしてやる。そこまでしなくてもという、あるえの視線は鋭いが、痛がっているの見て放っておける訳じゃない。なんならめぐみんの苛立ちは俺とあるえにも一因があるだろうし。代表で八つ当たりを受けたゆんゆんに優しくするのは仕方がない。

 

 だから腿を抓るのはやめて欲しい。

 

「騒がしい雰囲気を求めてきてる客は少ないんだ。ちょっとは静かにできんものか?」

 

「あ、店主……」

 

 全員で頭を下げる。店内で大騒ぎするのは確かに良くなかった。

 

「注文もせず水だけで居座るのは困るぞ。……今日はそこの色男のおかげでコーヒーが飛ぶように売れてるから、多めに見てやるが」

 

「え、俺のこと?」

 

「じゃなきゃそこのニート以外に誰がいる?」

 

 どういうことかさっぱり分からん。

 

「それで、さっきからそけっとの名前が聞こえてきてたが、何か用事か? そけっとなら木刀持って森に入っていったぞ」

 

「いえ、大した用事では……。……森、ですか?」

 

 言いたいことは言い終わったのか、店主はカウンターの中に戻っていく。そんな背中へめぐみんは声をかけようとするも尻すぼみになり。

 

 ……。

 

「何しに行ったんだろ。モンスターに全然会わないのに……?」

 

「森なら、いつもの日課だよ、彼女は修行が好きだからね、一人で森に入ってはモンスターを狩って回っているんだよ、好きな獲物はファイアードレイク、ファイアードレイクを氷漬けにしてクスクス笑うんだよ、これって──」

 

「おっとぶっころりー、そこまで聞いてないから、これ以上幻滅されたくなければ黙ろうか」

 

「あ……いや、つい。そけっとのことになると熱が入って」

 

 これ以上あるえに怪文書を書かせてはいけないと思いやめさせたが、それよりもだ。

 

「どうしたのですか、はぐりん。そんな深刻な顔をして」

 

「……。……ちょっと不味いかもな。そけっとのレベルは? ぶっころりー知ってるか?」

 

「それは、まあ。もうすぐ50レベルだよ。紅魔族の中でもそうそう居ないレベル……だった筈だけど」

 

 冒険者カードを盗み見しない限り詳しくは知れない筈だが、なんだって知ってるんだか。

 

「一撃熊の群れに出会して、どうにかできるレベルかな?」

 

「だからそれはあり得ない話で……いや、何とも言えないな。森の中だから火炎系魔法は後始末があるから使いにくし、氷結系と雷撃系は範囲を広げると魔力を食うからな。まあそんなことになれば俺は迷わず火炎系魔法を使うけど……」

 

 ぶっころりーは要領を得ない様子だが、めぐみんは察しがついた様だ。

 

「どうしたの……?」

 

「……ねえはぐりん、《敵感知》スキルがあったよね? どうしてさっき使わなかったの?」

 

 あるえとゆんゆんの顔を見遣って、頷く。

 

 

 

 俺だけならまだしも──万が一にも女子三人を危険に晒すわけにはいかなかったから。

 

 

 

「謝っとくよぶっころりー。ごめん。《敵感知》スキルは使ってたんだ。間違っても一撃熊の群れと鉢合わせしないよう、みんなを誘導して避けてた」

 

 

 

*1
小説『この素晴らしい世界に爆焔を!』139頁




tips
トレントの分類はモンスターか植物か。はたまた精霊なのでは、という意見も挙げられるが、実態は定かではない。共通して言えるのは長く生きた植物であれば、トレントになり得るということだ。その歳月は個体差により大きく異なる。種別により要される平均的な年月は別項にてまとめる。此処では特殊な事例を挙げたい。ある集落において御神木と奉られ、大切にされてきた、記録の限りでは樹齢千年を超えていたヒノキはエルダートレントへと変じ、集落の人々は土地を捨てる選択を余儀なくされた。
程なくして冒険者によって討伐されたエルダートレントであるが、トレントの例に漏れずその素材としての価値は類い稀にみない貴重なものとなった。紅魔族の職人の下へと送られ作られた品はオークショナーに売りに出され、仔細は省くが最終落札価格は9桁を記録――

 ――冒険者ギルド、討伐依頼マニュアルより一部抜粋。

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