はぐりんくえすと   作:楯樰

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祝このすば3期決定&爆焔アニメ化決定!!
遅くなりました。高評価ありがとうございます。


23 夕焼けと彼女と

 ──斜陽が空に朱色を塗り始めた頃。

 

 ゆんゆん、めぐみんの二人とはそけっとの占い屋を出てしばらく駄弁ったあと、あるえを家まで送ると言って途中で別れた。

 

 だから今、あるえと二人きりだ。

 

「ねえ、ゆんゆんのこと送らなくてもよかったのかい?」

 

「うん。……今日は祝日だし、出て来てる大人も多いみたいだから。もしものことがあっても大丈夫だと思う」

 

 邪神騒動に加え、俺たち学生が出歩くからと、いつも以上に里の中に人の気配がある。姿隠しの魔法で彷徨いてる大人もかなりいるんじゃないだろうか。

 

「……そう、だね」

 

「それに、本来ならあるえとデートする筈だったからさ。……俺が家まで送るのはなんか違うよ、やっぱり」

 

 そんな学生にとっては貴重な紅魔族の祝日。……デートだと思ってくれていたあるえには悪いことをしてしまった。

 

 目的はどうあれ、眠りに落ちる前の微睡みの中での記憶が確かなら……本当であれば今日は彼女のために使う筈だったのだ。

 

 ゆんゆんの寂しげな顔に負け、あるえの好意に甘えた。俺の我儘で不意にしてしまった一日。

 

 あるえは良いとは言ったが、あれは気を遣わせたに違いない。

 

「今日はごめん、あるえ。デートを有耶無耶にしてしまって。俺がキッパリ断れば良かったのに、できなくて」

 

「はぐりんが謝る必要は、ないよ。私が言い出したんだし。……確かに私のことを優先して欲しかったのは、事実だけど。……でもゆんゆんも君にとっては大事だろう? それに、君ほどじゃないけど、私にとってもゆんゆんは大切な友人だから……。……君がいなかったらあの二人、一撃熊の群れに襲われてたかもしれないしね」

 

 何処か寂しそうで、自分に言い聞かせているようでならない。

 

「……でもそれは結果論で」

 

「もう。いいって言ってるじゃないか。デートの埋め合わせをちゃんと考えてくれるなら、今日のことは水に流すから。ね?」

 

「あるえ……本当にいいのか」

 

 今日、あの時離席出来なかった俺の優柔不断さは、責められるべきものな筈なんだ。

 

「うん。……でも、もしはぐりんが納得できないなら……キス、して欲しいかな。それだったら後日埋め合わせする必要もないけど……」

 

 顔に出ていたかもしれない。

 

「なんてね、冗談だよ、冗談」

 

 そうなのかもしれないが、俺としては。

 

「…………しようか?」

 

「っ!? い、いや……無理強いしているわけじゃないよ? ……君がしたい時に、して欲しい、から」

 

 逡巡の後、そう切り出せば少し驚いて、あるえは微笑んで言う。ただ、その笑みからは期待する本心が窺える……なんてのは思い上がりかもしれない。

 

 気のせい、かもしれない。

 

 でも、もし本当なら。

 

「埋め合わせをしたくないからとか、誤魔化そうとしてとかじゃなくてさ。──今、したいんだ。ゲスっぽいし、言われるまで考えてもなかったけど。……あるえが良いなら、その、どうかな?」

 

「どうかなって……ど、どうしちゃったんだい。すごく積極的なんだけど、はぐりん。大体エッチなことはダメだったんじゃ……──っ!?」

 

 あるえを抱きしめる。僅かに高いあるえとは身長差で格好がつかないし、あるえの立派なものが俺の顔のすぐ近くにある。ただ今日はそれ以上に顔が近くてドキドキする。

 

「本当はさ。……恋人じゃないからって言い訳して、あるえを傷つけて。この前みたいにゆんゆんのことを傷つけるのは嫌なんだ。ゲスになれって言われたけど、俺は二人とも大切にしたい……──俺はちゃんと二人の恋人になりたい」

 

 紅潮した頬。やわかかそうな唇。長い睫毛、濡れた瞳とその片方を隠す眼帯。全部が愛おしい。緊張と多幸感で足下が覚束ない。

 

「は、はぐりんの馬鹿……心の準備まだ出来てないのにっ……」

 

「俺だって心の準備が出来てるわけじゃない。あるえと同じで心臓バクバクいってる」

 

「そ、それにっ、恋人になっちゃったら、我慢できなくなるって君が……!」

 

「恋人でも我慢する。というか恋人だからこそ、だよな。誘惑されようがされまいが、そもそも我慢できるかどうかは俺の問題だから。……もし、嫌なら拒絶してよ」

 

「……ぅぅ。ずるいよ。そんなふうに言われて断れるわけ……」

 

 拗ねたように少し突き出した唇。

 

 俯き、隠された瞳と視線を交わし。

 

 俺は少し背伸びをして、触れた。

 

 

 

 ▽

 

 

 

 興奮鳴り止まず顔も瞳もお互い真っ赤にして、それ以後顔すら見れなかった。

 

 ──それでも手は指をしっかりと絡めて繋ぎ、あるえのことを家に送り届けた後。

 

「ただいまぁ」

 

「「おかえりー」」

 

 家に帰ると母さんと声がもう一つ重なって聞こえて来た。親父だ。珍しく親父が早い時間から帰って来ていて母さんの横で料理を手伝っている。

 

 ──ひんやりと、浮ついた気持ちから熱が逃げていく。

 

「珍しいね。親父が帰って来てるの」

 

「まあ色々とあってな。今日は早く帰って来た」

 

「ふーん。……何作ってるの? いい匂いするけど」

 

「味噌汁と焼き秋刀魚。これぞ日本の朝食ってやつさ」

 

「ニホンの朝食って……いや父さんの故郷の味なのかもだけどさ、夕食じゃん」

 

 自慢げな父さんにツッコミ入れてると母さんが。

 

「私が食べたかったの。久しぶりにね、食べたくなっちゃって……」

 

 出会った頃に食べさせてもらったとは聞いてるけども。

 

「別に文句があるわけじゃないよ。何か手伝う?」

 

「いやいいさ。はぐりんは待ってな」

 

「……じゃ部屋に戻ってるよ」

 

 母さんの肩に手を回した親父を見て、夫婦水入らずを邪魔するのは野暮かと察した。

 

 手洗いを終えて、部屋に引っ込む。あるえの小説を取り出して読み始めた。

 

 

 

 30分もせずに母さんに呼ばれて夕食を摂った。

 

 香ばしく焼かれた秋刀魚と、薄く切られた大根の漬物。そして味噌汁。

 

 秋刀魚然り、大根然り活きが良いと中々手間のかかる料理だと聞いているのだが、親父の故郷では簡単にできる料理の代表的なものなのだとか。

 

 忙しい朝の朝食にできるほどだ。料理器具が充実しているのかもしれない。

 

「なあはぐりん。話があるんだ」

 

 ──今日は何があったとか、どんな依頼を受けただとか。滅多と飯時に一緒にならないからこそ必ず話す父さんとそれを聞く母さん。

 

「……何の話?」

 

 そんないつもと違い、早々に終わった静かな食卓。

 

「ゆんゆんちゃんと、もう一人、女の子と付き合ってるらしいな」

 

 だから少し覚悟はしていた。

 

 親父は久しぶりにちゃんと父親の顔をしていた。

 

 

 

 ▽

 

 

 

 ゆんゆんと同じくらい付き合いが長いこと。

 

 彼女が作家志望で、読書仲間で、俺が取材相手で、一人目のファンだったということ。

 

 ゆんゆんとの行き違い、二人から告白された経緯。

 

 その顛末。

 

 二人との取り決めの詳細は伏せたが、話せる事は全て両親に打ち明けた。

 

 ……一度ゆんゆんを選んだが、選ばれた本人はあるえとの仲を許したことも。あるえにその話をして一度泣かせたことも。

 

「ゆんゆんのこと、蔑ろにしてるわけじゃないんだ。……勘違いじゃなければ俺もゆんゆんも昔から好きあってた、と思う。でもそれは友達として、彼女もその自覚はなかっただろうから。でもいつか、ゆんゆんと一緒に冒険者やって、ある程度世界を知った後ちゃんと伝えるつもりだった。……そんなゆんゆんと同じくらい今はあるえのことも……。……告白されるまで俺は彼女の好意に気が付かなかった。あるえにとっての俺は、俺にとってのゆんゆんだったんだ。……揶揄われてるだけなんだと思っていたのが間違いだった。俺があるえの立場なら、わざとじゃなくても思わせぶりなことをして純情を弄んだ、俺みたいなやつは許せない! だからっ……!」

 

 つらつらと語り、感情のまま口にしかけた『責任を取る』という言葉は正しくなくて、言葉に詰まった。

 

 あるえへの罪悪感や義務感から出そうな、そんな言い訳じみたことは言いたく無い。

 

 俺があるえを好きだということ。今はその一点に尽きる。ただそれを言葉にするのは簡単だが、説得力は欠いてしまう。

 

 ……今持ってる一番新しい原稿。そして要らなくなったと預かっている古い原稿。先ほどまで読んでいたその内容からは、隠しきれない好意を感じ取れて胸の内側が掻きむしられる思いをした。……今もしている。

 

 義務だとは思ってない。でも、ここまで想ってくれている彼女を幸せにしたいと思う俺は、強欲だとしても浅ましいのだろうか。

 

 でももう、あるえとゆんゆん二人のどちらかを選べと言われても選べない。俺はもう選ばない。選ばないことを選んだのだ。

 

 母さんや父さんになんと言われたとしても、この意志は絶対に曲げない……! 

 

「あのね、はぐりん……」

 

「いや、なんなん。わかってるよ、はぐりんも。僕らの子供だ。頭は良いはずだから」

 

「……うん。私と似て意固地だから言ってもしょうがないわよね。……はあ。でもゆんゆんちゃんの気持ちを考えたらね……。あるえさんの気持ちもわからないでもないけど」

 

「仲良かったからなあ。許婚の話を持って来たのは向こうからだけど」

 

「そうね。……いつかはこの子がお嫁に来るんだなぁって私も思っていたわ……はぐりんが婿になって出ていくかもって思ったら眠れなくて」

 

「次期族長に相応しい成績だと聞くしね。そろそろ子離れする覚悟しとかないとな」

 

「そうねぇ……」

 

 話がなんだか違うことにずれてる気がして目で訴えると、母さんはコホンと咳払いをして。

 

「……ねえ、はぐりん。お父さんね、実は王都の魔王軍侵攻でも目覚ましい活躍をしてるのよ。同じ女性冒険者や依頼先の村の女性。果てには貴族の御令嬢まで……モテてモテてモテて……。……今思い出しただけでも腹が立つわね。あの──ども……

 

 ひっ……!? 

 

「あの、なんなん? こ、怖いから……今はもう交流ないから!」

 

 父さんの焦るような声で……漏れ出ていた魔力が収まる。昨日のぶっころりーに向けた魔力の比じゃない。なんなら殺意も感じた。

 

 でも、そうだ。里は魔王軍の一部がチョロチョロしてる程度で割と平和だけど、人類の存亡がかかってるんだ。

 

 此処ベルゼルグ王国は魔王軍との戦いにおける人類の生存圏を護る防波堤。その一部に組み込まれる紅魔族の人間は魔法戦における最大戦力であり、毎度数名が戦場に駆り出される。その一員として父さんは参加している。魔力量は並みの紅魔族以上とはいえ、余裕があったとしても、わざわざ参加しなくても良いのにと思う。動機もあやふやで、聞いたら誰に対してかは知らないが義理があるとかないとか。母さんが許すくらいだから余程のモノなんだろう。

 

「あら、ごめんなさい。……別に、はぐりんがゆんゆんちゃん以外の女の子とも付き合うからって、文句があるわけじゃないの。私としては娘が増えるようなものだしね。悪い子じゃなければだけど。……でもね、紅魔族の女は嫉妬深いのよ? ……あるえちゃんの事は良く知らないけど。少なくともゆんゆんちゃんはちょっと私に似たところがあるから……正直心配なのよ。自業自得だとしても、いつか刺されるんじゃないかって」

 

 殺気と魔力を収めた母さんはまるで経験があるような口ぶりだ。……でもその可能性は十分に考えられる。二人には寂しい思いをさせないようにしないと。

 

「ははは……その、なんだ。母さんに似た子が好きになるあたり、遺伝というべきか……」

 

「男の子は母親に似た人を好きになるって聞いたことはあるけどねぇ……あるえちゃんもおっぱい大きかったし。紅魔族随一の発育というだけのことはあるわね、アレは」

 

「……なるほどな。なら仕方ない!」

 

「か、母さん! 別に俺は胸の大きさで決めたわけじゃ……ない、から……」

 

 ニヤニヤとする二人に耐えられず小さくなる俺。

 

「ま、その覚悟の程はわかったし、もとより人一倍強欲なんだ。……もうすぐこっちの国じゃお前も大人の仲間入りをする。そんなお前の選択だ。その分の苦労を俺たちは肩代わりしてやれないし、してやらない」

 

「責任重大よ。二人ともちゃんと幸せにしなきゃいけないんだからね?」

 

「……うん。それは覚悟してる」

 

 二年以上先のことを二ヶ月先ぐらいの感覚で言われるとモヤっとするものがあるのだが。

 

「ありがとう、父さん母さん……。頑張るよ、俺」

 

「……よし! それじゃ、一つレアで有用なスキルの存在を教えておこう」

 

「え、あ……は、早いから! はぐりんには!」

 

 親父は母さんが顔を赤くして慌てふためくのを他所に、悪戯めいた笑みを浮かべる。そこにあった先程までの真面目な父親の顔はとっくに消え失せていた。

 

 

 

 ▽

 

 

 

「……お、おはよう。はぐりん」

 

「!? ……あるえ。おはよう……」

 

 両親と話した次の日。家を出るとすぐそこにあるえがいた。視線を交わすと、恥ずかしくなりすぐに逸らしてしまう。誤魔化すように口を開いた。

 

「あの……今日はまた、どうして?」

 

「彼女なら、ほら……彼氏を……迎えにきちゃいけない、かな?」

 

「……っ」

 

「えっ……あの、昨日のことは間違いじゃない、よね?」

 

 俺は昨日の事を思い出して僅かに肯首する。不安だったあるえはほっとした様子で胸を撫で下ろした。

 

 気を紛らわせようと話題を振ったつもりが、さらに意識させられてしまった。顔、赤くなってないだろうか。

 

「そのとりあえず、行かないかい? ゆんゆんを待たせたら悪いし」

 

「そ、そうだな……うん」

 

 上擦る声を意識しないようにして歩き始める。

 

「……はぐりんは、昨日はよく眠れたかい?」

 

「……俺は、ちょっと寝不足だよ。あるえは?」

 

「私も少し寝れなかったかな。……あんな子供っぽいキスだけでこんな慌てふためくなんてね、自分じゃないみたいだ」

 

「……あるえは子供っぽいのは嫌だった?」

 

「……本で読む濃厚なものより、余程ドキドキしたよ」

 

「その、ごめん……。勢いに任せて雰囲気も何も考えてなくて……」

 

 俺としては夕陽に照らされて、充分良い雰囲気だとは思っていたが。紅魔族的には少し物足りないものがあった。

 

「確かに、ちょっと勿体ない気はしたけど。……でも悪くはなかったとも」

 

「そっか……。なあ、あるえ」

 

 いつもの調子が戻ってきた。

 

「……何かな、改まって」

 

「昨日、親に話したよ。二人のこと」

 

「そう、なんだ……。……それで、お二人はなんて?」

 

「大したことは言われなかったよ。……刺されないように気をつけろって話と、頑張れって言われた。……母さんは何か思うところはあったみたいだけど」

 

「お義母様は私について何か言っていたかい?」

 

「いや、特には。……俺が好きそうな子だね、って」

 

「ああ、確かに。はぐりんおっぱい好きだもんね」

 

「…………怒るぞ、あるえ。そんなこと言ってるとガン見するからな?」

 

 やすい挑発でも乗ってしまうのは紅魔族の性だろうか。

 

「君が我慢できるなら、幾らでも見ても良いよ。ゆんゆんのは見る癖に、私のは露骨に見ないんだもの。ゆんゆんだけずるいじゃないか」

 

「ずるいってお前……おいばか、やめろ。持ち上げるな」

 

 あるえは挑発的な笑みを浮かべて、腕に乗せたものを持ち上げる。

 

 すぐ視線を逸らしたので見てはいないが。……多分揺れてんだろうなぁ。ところてんスライムみたく……! 

 

「恋人だからね。見られても平気だよ?」

 

「我慢できなくなるから、そういうことマジでやめてくれっ……!」

 

 昨日のキスを迫られて恥じらうあるえはどこへ消えたのか。

 

 すっかり調子を取り戻して、揶揄ってくるあるえに俺は天を仰いだ。

 

 

 

 少し歩いていると道沿いで立って待つゆんゆんが見えてくる。

 

「あ、おはようございます……」

 

「おはよう、ゆんゆん」

 

「や、おはよう」

 

「……え、あれ? はぐりん? と、なんであるえが一緒にいるの!?」

 

 前を横切っていくと勘違いしたらしいゆんゆんは小さな声で挨拶してきたかが、立ち止まった俺たちを見て一転、驚きを露わにする。

 

「まあ良いじゃないか。はぐりんと登校してみたかったんだ」

 

「……そ、そういうこと……。なら、あの私のこと邪魔じゃない? 一緒に行っても良いの?」

 

「ゆんゆんはどこに行く気だよ。学校行くんだろ? 一緒に行こう」

 

「私も問題はないよ。元々ゆんゆんとも一緒に行くつもりだったしね」

 

「それなら……。……その、なんだか二人とも距離が近い気がするんだけど」

 

「まあちょっとね。行きながら話そうじゃないか」

 

 首を傾げるゆんゆんを間に挟み、再び学園を目指して歩き始める。

 

「で、どうしたの? あれから昨日、何かあったの? ……それとも何かしたの?」

 

 察しがいい。

 

 あるえが手招きして、顔を近づけさせたゆんゆんに耳打ちをしている。

 

 聞いているゆんゆんは徐々に顔を赤らめていく。

 

「うぇ!? は、はぐりん!? は、話が違うんだけど! キっ……スって! それにこ、恋人って……! それは、わ、私の事も……?」

 

「いや、その……うん、そうだよ。……ごめん、ゆんゆん。我慢できなくてさ」

 

「私も断らなきゃと思ったけど、断りきれなかったよ」

 

「そう……でも、はぐりんが我慢できなかったって……ねえ、大丈夫? 私の事も、恋人だってちゃんと思ってくれるのは嬉しいけど、ずるずるとしちゃわない? 色々と……」

 

「それは……まあ、うん。しそうだけど」

 

「が、我慢して! 私はぐりんに迫られたら断れる自信ないのに!」

 

「へえ、えろゆん。さては、そう言ってはぐりんのこと誘ってるね?」

 

「ささ誘ってないわよ! あとそんな風に呼ばないで! そんな、変態みたいな……うう」

 

「ま、私もゆんゆんのこと言えないけどね。私も断れる自信ないから」

 

「二人とも頼むから自信満々にそんなこと言わないでくれよ……俺出来るだけ我慢するからさ……」

 

 朝から誘惑してくるあるえも大概えろえである。……でも切実にどうしたらいいものか。このまま膨れ上がり続ける欲求に堪え忍ぶのにも限界がくる。

 

 どちらか二人と、いい雰囲気になればそのまま、なんて可能性が昨日のことで充分あり得るとわかってしまった以上、早急になんとかしないと。

 

 成人と同時に、結婚できるようになる年齢が14歳なのにはそれ相応の理由があるのだ。母体への影響が〜〜、なんてことを保健の授業で習った。

 

 異様に高い幸運値の俺のことだ。……肉体関係を持ったとして、おめでたい事が起こらないはずがない。

 

 いつも以上に静かになる保健の授業で、薬を飲む以外で避妊は完全には出来ないという話だったし。その薬も飲んだとしても幸運値の高い奴ほど効き目がない時があるから気をつけろよと、二人の子持ちのじぇいす先生は言っていた。

 

 すり替えられている可能性もあるからな気をつけろよ、と遠い目をして補足してたのも思い出した。

 

「それで、二人はいつするんだい?」

 

 変なこと考えてた所為であるえの言葉にビクつく。

 

「うぇっ!? あの、それはその……。……ねえはぐりん、いつしてくれるの……?」

 

「いつって……そんなの……すぐ決めれるわけ……!」

 

 ゆんゆんの視線が俺の口に注がれてるのに気がつき、恥ずかしくなって手で覆い隠す。

 

「あ、いや。わ、私はその……いつでも良いけど……。でもやっぱり早い方が嬉しいかなぁ……」

 

「じゃあ今日の放課後すれば良いんじゃないかな? 私も今日は邪魔しないと誓うよ」

 

「ええ!? あの、それはちょっと」

 

 昨日の今日でというのは節操がない気もするが、ゆんゆんからしてみれば待たされたら不安になるのかも。

 

「……一応そのつもりでいる?」

 

「は、はぐりんっ……!」

 

 顔を赤くするゆんゆんの目は若干の期待からか、瞳を僅かに揺らしていた。

 

 

 

 昨夜の両親と話した事をゆんゆんにも伝え、上の空だった意識をこちらに戻してもらう。

 

「え、なんなんさんが?」

 

「……うん。あるえのことで俺よりゆんゆんのこと心配してた」

 

「そっか……やっぱり私変かな」

 

「こればっかりはなぁ。客観的に見たら変わってるとしか」

 

「共有しようと言い出したのは私だからね。君のこと悪くは言えないよ」

 

「そう……。あのね、私思うんだけど。多分お父さんがはぐりんと許婚に、なんて言い出さなかったら、こうして私とはぐりんは付き合ったりしなかったと思うの」

 

 そんなことはないだろ、とは思ったがあるえの手前黙っておく。

 

「はぐりんと許婚じゃなかったら、あるえが先に付き合ってたんじゃないかな。男の子として意識してなかったら私、はぐりんと……ううん、友達と仲良くなるってことだけしか考えてなかったと思うの」

 

「大丈夫はぐりん? 目が虚だけど」

 

「だ、大丈夫……」

 

 ちょっとショックだ。俺としては許婚って関係がなくても好きになってたんじゃないかと思うくらい、ゆんゆんのことは気にかけてたから。

 

「あ、いや! 別に私が男の子として見れてなかったわけじゃなくてね! ……ほら、私面倒臭いじゃない?」

 

「あ、うん」

 

「は、はぐりん……!」

 

「ごめん、でも面倒臭いけどゆんゆんのは可愛いものだし」

 

「事実は時に嘘よりも残酷……!」

 

「あるえもそんなこと言ってふざけないでよ! はぐりんも、もう……その、でね? 今みたいに、私自分でも面倒臭いなぁって思って自己嫌悪しちゃうんだけど……同じ自己嫌悪でもちょっと好きな男の子の友達にするのと、いつか結婚するかもしれない男の子にするのだと、違うと、思うのよね? だから、許婚じゃないはぐりんを好きになった時、多分尻込みしちゃうんじゃないかなって。私が好きになってる頃には、あるえも多分はぐりんのこと好きになってるだろうし、二人の仲を裂くのは悪いと思って──んぐ!?」

 

 だんだん目が虚になっていくゆんゆんの口をあるえと二人で抑える。

 

「ストップゆんゆん……」

 

「失恋ものの恋愛小説読んでる気分になるからその辺で止めてくれるかい……?」

 

 口を紡がれたまま、ゆんゆんが首を縦に振るので手を離す。

 

「ぷはぁ──! もしかしたらの話だからね! 今は私ちゃんとはぐりんの許婚で恋人だから!」

 

「許婚って本当にずるいよね。どう思う、はぐりん?」

 

「俺に振るなよ……文句はゆんゆんの親父さんに言ってくれ」

 

 与えられ、それに甘んじているがために、今の状態になっている身としてはとやかく言えなかった。

 

 

 

「なんだってアクセルなんだろうね? 《上級魔法》を覚えた紅魔族には不相応じゃないかな?」

 

「あるえは、王都やアルカンレティアから始めたかったか?」

 

「そういうわけじゃないさ。ただ純粋に実力に対して見劣りするんじゃないかとね。駆け出しの冒険者ですら、脅威になると言えるのはジャイアントトード、あとは初心者殺しぐらいなんだろう?」

 

「魔力や魔法は強くても、レベルが低いのが理由かもな……あとは、多分俺が王都に知り合いがいるからだと思う。どっか甘えが出ると思われてるのかも。アクセルはレベル上げで近郊に連れてって貰うだけで、中までは立ち寄ったことはないから」

 

「あの、冒険者仲間を見つけろってことはない? 王都の冒険者って既にパーティーとか決まってるでしょ? そこへ入るのは難易度が高いというか……やっぱりはぐりんのお父さんは三人で冒険者するのは心配なんじゃないかなぁ……」

 

 ────『アクセルに行けばわかる』

 

 昨日の夜、ニヤニヤしながら有用なスキルを教えると言った親父が、ポコポコ殴る貌を赤くした母さんに根負けして、代わりにそう言った。

 

 あの様子だと碌なスキルではなさそうだが、母さんは俺がそのスキルを覚えることに反対自体はしてなかった。

 

 活動拠点を王都に持つ親父がどうしてアクセルにこだわるのか。元よりそのつもりではあったし、『アクセルから冒険者を始めろ』と最初、俺が冒険者をしたいと言い出した時に他ならぬ親父に言われたのだ。

 

 親父からステータスに補正のかかるスキル、その他有用なスキルの数々は教わるだけ教わり、後取得を残すのみとなっているスキルはまだまだある。それだけ親父は取得している……と思うと不貞腐れそうになるのだが、そのスキルとやらもきっと取得済みの筈。どうして態々俺に直接出向いてまで教われと言うのか。

 

「駆け出し冒険者の街、ね。冒険小説じゃ、始まりの街、村、故郷なんかに実は秘密があるなんて良くある設定だけど、現実でもそうなのかもしれないね?」

 

 どこかワクワクした様子のあるえだが、多分そんなことはないと思う。……ないよな? 

 

 駄弁りながら学校に着くまでの間、いつも鉢合わせるめぐみんとは会わなかった。

 

 





以下雑記。

3期だけでなく爆焔も来るとは思ってなかったので感無量です。
3巻分全部やるんだろうか。体術の授業前に準備運動をするあるえや、ゆんゆんに友達(仮)が出来た時にめぐみんの耳元で「これがNTR……」とか囁くシーンはあるのかないのか、小説でも名前しか出てないさきべりー、かいかいのビジュアルは出るのか、しゃべるのか、めぐみんを揶揄いすぎて結局あるえの胸はえらい目にあわされるのか否か……まだまだありますが注目したいところ。

それはそれとしてこのファンで伝説あるえが実装されてこの世の叡智が詰まっているようで、大変悟れる。特に臍。あれは真理、根源に通じるものがあるな。脇が隠されているのが残念ではあるがそれが逆に神秘を伴っているように思うが、実際その通りである。あの衣装考えた方をスタンディングオベーションで迎えたい。ブラボー実にブラボー。貴方は大変良い仕事をしました。congratulations! でもやっぱり脇は見たかった。伝説ウィズも大概叡智が極まっているが、私はあるえを推したい。

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