はぐりんくえすと   作:楯樰

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ご無沙汰しております。
爆焔アニメ公開おめ。


24 昼食とテストと

 事前に連絡もあったが、今日から授業は午後もあるらしい。

 

 なんでも授業の進行状況が押しているのだとか。スキルアップポーションを配るためのテストが中々行えないという理由で、ここ三日は通常授業だそうだ。

 

 そんな午前と午後の合間の昼休みになって、廊下を歩いていると女子クラスの方から来た、少し機嫌の悪そうなめぐみんが話しかけてきた。

 

「あれ、一体全体どういうことですか?」

 

「あれ? ……朝のことか? あるえが朝出待ちしててゆんゆんと一緒に来ただけ、だけど……。そういやお前朝どうしたんだ? 会わなかったよな?」

 

「別に一緒に行く約束してるわけじゃないんですから、おかしくないでしょう」

 

「いや、まあそうだけど……」

 

「まあ今日は、来る途中ではぐりんのハーレムの一員だと思われたくなかったので、後からつけて来たんですが」

 

 そうかめぐみん後ろからつけて──

 

「……はぁ!? 何、そう思われてるの!?」

 

「いえ、そう見えるんじゃないかなぁと私が危惧しているだけです。まあ実際にそう思われていても不思議ではないですがね」

 

 びっくりした。

 

 いや、でも確かに。……里の全員に知られてたら、あり得る話か。

 

「あー、その。なんかごめん?」

 

「別にいいですよ、今に始まった事ではないですし。仮にそう思われていたとしても今のところ実害はありませんから」

 

 すまん。

 

「で、めぐみんの言うアレって、その、今朝のことで良かったのか?」

 

「いいえ、違います。……ゆんゆんのことです」

 

 頭を横に振りめぐみんは、顔を顰め。

 

「勝負を挑んでくる事もなく弁当を上の空で渡して来たり、何か思い出したのか急にソワソワしていたり。ゆんゆんの様子がおかしいのです。注意力も散漫で授業中当てられても質問が何か聞いてないとか。あの子にしては珍しいと思いましてね。私が聞いても本人は『なんでもない』『私には関係ない』と言うばかり。事情を知っているであろう、あるえにもはぐらかされてしまって。何か知っていますか? 多分今朝何かあったのだと思うのですが。……なんか前も同じようなこと聞きましたね」

 

 俺も聞かれたような気がする。

 

「あ、あー……いや、まあわかるけど」

 

「隣の席で気が散るんですよ。知ってるなら教えて下さい」

 

 愚痴っぽく言うあたり、相当気になってるようだ。

 

 ゆんゆん多分、放課後のことが気になってるんだろうなぁ。

 

 そんな彼女が気になって仕方ないめぐみんも大概だ。ゆんゆんのこと好き過ぎだろ、と(はた)から見てて思う。

 

 ……うーん。めぐみんのことだから正直に言ったらなぁ……多分怒る。

 

「ゆんゆんのことここまで気にかけるのってさ……最近こめっこちゃんがちょっと素っ気ないから、妹代わりにしてないよな?」

 

「は、はああ!? しし、してないですよ、何言うんですかこのスケコマシは! おい、ニヤニヤ笑うんじゃない!」

 

 結構図星っぽいぞ。

 

「やあ、二人とも。どうしたんだい?」

 

 正直に中々言えず誤魔化していると、弁当を携えてあるえがやってきた。

 

「う、あるえ……二人が揃ってるので昨日のこと一応謝っときますね……ちょっとむかついたとはいえ、デートの邪魔をしてしまって」

 

「良いよ気にしてないから。良い事もあったし」

 

「良い事……?」

 

「ははは……まぁな」

 

 何ですか、とめぐみんが口を開きかけたところへ。

 

「三人とも何やってるの?」

 

 と、あるえに続くように弁当を二つ持って現れたゆんゆん。

 

「おや、ゆんゆん。どうしたんです、二つもお弁当を持って。二つとも食べるんですか? 大食い大会に出場する特訓?」

 

「そんなわけないでしょ! アンタの分以外に何があるっていうのよ。この前みたいに全部食べられたら敵わないから……」

 

「朝もですけど、自称ライバルが一足飛びで愛妻のようなことされたら流石に…………というか、今日三つも作って来てるのですか!? 万が一にもありませんがあなたが勝ったらどうするのです、その弁当は!」

 

「別に負けるつもりは無いけど、勝ったってめぐみんのことだから何かにつけてお弁当取ってくじゃない! あと自称ライバルじゃないわよ! れっきとしたライバルで、あ、愛妻でもなんでもないからね!! ……ごにょごにょ(はぐりんのなら良いけど)

 

 めぐみんの言うように弁当三つは確かに多い気もするが、ゆんゆんの主張もあながち間違ってない気がする。生まれが違えば取得職業は『盗賊』だったかもな、めぐみん。王都で指名手配中らしい『銀髪の義賊』とか好きそうだし。

 

 ……ゆんゆんが何か小声で言った気がするけど、多分俺の願望による空耳だろう。気が早い。

 

「ひ、人を強盗を呼ばわりするのはやめて貰おう! それはそれとして勿体無いと思いますのでお弁当はありがたく頂きます!」

 

「どういたしまして! ……もう。で、どうしたの? 私を除け者にして集まってたわけじゃ、無いのよね?」

 

 突き出したお弁当の包みをめぐみんが恭しく受け取ったの見届けた後、ゆんゆんは不安を隠しきれないままに言う。

 

「偶然だよ。はぐりんとめぐみんが話してたところに、彼と昼食を一緒に取ろうかと画策していた私が居合わせただけさ」

 

「……あ、えっと……そうなんだ……」

 

 俺を見て顔を赤らめるゆんゆんの態度に、めぐみんは。

 

「なんですかこの反応は! はぐりん、もしかしてあなた……」

 

「おい、なんで軽蔑した目で見るんだよ。そんな目で見るんじゃない! なんもやってない!」

 

「ゆんゆんにはまだ、ね」

 

 あるえの余計な一言でめぐみんがあわあわと声を震わせて。

 

「えええっちなことしたんですね! あるえと!」

 

「えっちなこと言うな! してない! 離せってば、ここ廊下だからな!!」

 

 震えた声を出しながら、服を引っ張って揺さぶるめぐみんはやけに力が強かった。

 

 

 

 お弁当がどうこうで有耶無耶になっていたが、ふにふらとどどんこは今日はねりまきと食べるそうだ。

 

 それで一緒にどうかと二人に誘われたものの、ねりまきとあまり親しくないゆんゆんは俺のクラスの方へ行っためぐみんを探すついでに、俺やあるえとお昼を食べようと思ったらしい。

 

 新しく友達ができるチャンスだったのでは、と思ったが、指摘したら可哀想だったのでやめておく。

 

「まったく、まったく……まひらわひい(まぎらわしい)ことひふのひゃめてもらへまへんかね」

 

「お行儀悪いし、食べながら言ってもわかんないわよ。めぐみんお茶……ほら、もー、口の端についてるよ? そのままでね……はい、取れた」

 

「むぐ、……むう、ありがとうございます……」

 

 ぶつくさ言いながら、されるがままに世話をやかれるめぐみん。さっきゆんゆんのことを妹の代わりにしてるのではと言ったが、これでは真逆だ。ゆんゆんの方がお姉ちゃんっぽい。

 

「朝昼とお弁当を作ってくれて甲斐甲斐しく世話をしてくれるって、ゆんゆんはめぐみんの母親だったかな?」

 

「こんな世話の焼ける母親持った覚えありません」

 

 ゆんゆんのお茶を啜りながら、あるえの冷やかしを否定するめぐみん。

 

「私もこんな子供持った覚えないから! お弁当は好きでこんなに作ってるんじゃ……ないし。最近めぐみんよく食べて私の分が無くなっちゃうから……それに放って置けないし……」

 

 ゆんゆんが全否定するのに躊躇っているのはちょっと嬉しいからだろう。前に愚痴ってたときそんな顔してた。……正直ライバルや友達だと思ってる相手に母性を働かせるのはどうかと思うが。

 

 いや、母性を出させてしまうめぐみんが悪いのか。名乗りの魔性を妹に譲っただのなんだの言ってたが、あながち間違いでもないのだろう。

 

「まあどっちも世話焼きだからね。ゆんゆんもめぐみんもいいお母さんになるんじゃないかな? ……はぐりん、あーん」

 

 あるえの差し出して来た肉団子を咥える。…………美味い。肉団子かと思いきや魚のつみれみたいだ。塩気が効いていて美味しい。

 

 お返しに玉子焼きを少し切り取って……弁当箱の空いてるところに置こうとしたら避難する目で見られたので口元まで運ぶ。

 

「……ん」

 

 顔にかかる髪を耳にかけ、箸ごと咥えた後あるえは味わうように咀嚼、嚥下した。……わざとこんな食べ方しなくてもいいのに。余計に恥ずかしい。

 

 気を紛らわせようと自分の弁当箱からご飯を運びモゴモゴ動かしてると

 

「あのはぐりん、流石に恥ずかしいよ……」

 

 ……あ、無意識に箸舐めてた。お行儀が悪かった。

 

「……。イチャつくのやめてもらえませんかね。腹が立つのを通り越して呆れますよ。今日は随分と雰囲気が甘ったるいんですよね、二人とも。取材という名の言い訳はどうしたんですか。……なんでゆんゆんは恥ずかしがってるんですか? さっきからおかしいですよ?」

 

「べ、別に……なんでも無いわよ?」

 

 三人で恥ずかしがっているとめぐみんの小言が飛ぶ。ゆんゆんはちょっと浮かれポンチだ。朝からだいぶ意識がお花畑にいってたみたいだし。今も自分が母親になったらとか考えて意識が飛んでたのかもしれない。でないと今のやりとり見て何も言ってこない筈がないし……まあそういうとこ可愛いんだけども。

 

「あなたという子は……なるほど。二人の距離がやたらと近いことと、今日ゆんゆんが変なのには関係が──やっぱり昨日えっちなことしたんですね!」

 

「してないって言ってるだろ! 清い体のまんまだよ! さてはお前昨日なんか読んだな!? 脳内ピンク色かお前!」

 

「な、なにおう!? あなたと違ってそんなもの……。読む訳ないじゃないですか!」

 

「ばっかお前何言ってんの!? 持ってないって言って……お前だって今の間はなんだこらあ!」

 

「大体うちにそんなもの置く余裕があるとでも!? あったらぶっころりーにでも売りつけて家計の足しにしてますよ!」

 

「……あ、いや。すまん」

 

「……急に冷静にならないでくださいよ。泣きたくなります」

 

 ……性癖が従妹に知られてるなんて考えたくもないが、この反応は怪しいこと極まりない。……昨日寝る前に隠し場所変えたからもう大丈夫な筈だ。いや、そもそも違う場所に隠してたけども、念のため。

 

「まあまあ。……はぐりんの性癖はあとで詳しく聞くとして。二人とも落ち着いて。……確かに昨日彼にキスされて、恋人だって言ってもらえたけど、それだけだよ。私が舞い上がってるだけだから」

 

 ちょっと頬を紅くしながらあるえがバラした。

 

「きっ……!?!? へ、ヘタレのはぐりんがですか!」

 

「……ヘタレとはなんだヘタレとは。俺だって男だぞ」

 

 やるときはやるんだぞ。……とはいえ舞い上がってるというあるえの自供には俺にも心当たりがあって少し恥ずかしい。朝から迎えに来てたり、今朝や今みたいに肩が触れるくらい近かったり。

 

「ゆんゆんは知って──ああ! それを今朝知ったんですね!? それもするつもりなんですね!? 今日!」

 

「め、めぐみんやめてよ、もー! は、恥ずかしいからあ……!」

 

「ドン引きですよ……! 昨日と今日とで取っ替え引っ替えってことじゃないですか……うわぁ……うわぁ……!」

 

 心外だ。めぐみんにそのあたりとやかく言われる筋合いはあんまりない筈だ。あと顔を赤らめながら言ってるせいで全然軽蔑してるようには聞こえない。

 

 ──なので経緯を説明すると。

 

「……つまりは私たちは当て馬にされてしまったと。……ゆんゆんは許せたんですか、それ」

 

「……その、私たちがデートの邪魔して、付き合わせちゃったじゃない? だから仕方がないかなぁって……それに私なら」

 

 思うところはあるのだろう。首を横に振り「何でもない」と言ってゆんゆんは言葉を濁した。

 

「……あるえは、キスで誤魔化されるような軽い女だと思われても良いんですか? 私なら到底許せませんけど」

 

「はぐりんがどうしても我慢できないって抱きしめて言うものだから。彼女なら応えたいって思っちゃダメかい? ……私がして欲しそうな顔してたのかもしれないけど」

 

「この男に今後こうすれば許されると思われても、ですか?」

 

「うーん。確かにそう思われるのは癪かもしれないけど……はぐりん、昨日水に流してあげるとは言ったけど、やっぱりデートの埋め合わせは──」

 

「元々デートの埋め合わせはするつもりだったし、構わないよ。というかあれを俺はあるえとの初デートだとは思いたくない」

 

「……うん」

 

「だからさ。次はちゃんと恋人として、初めてのデートをするってことでもいいかな?」

 

「……今度は恋人として、だね。それなら全然……」

 

 俺とあるえの人目を憚らないやりとりに呆気に取られていたらしきめぐみんを見やり。

 

「大体、俺、誤魔化すつもりでしたんじゃないからな……キスはしたくてしたんだ。ちょっとタイミング悪かったけど」

 

「……。……あ、そ、そうですか……。いや、何堂々と言ってるんですか。二股野郎のくせにちょっと格好いいとか思ってしまいました。……はぐりんのくせに生意気な」

 

「二股野郎は余計だろ。めぐみんは心配性過ぎるんだよ……。俺やゆんゆんの姉でもあるまいし」

 

「そうですね。……自覚はしてます。……はー、なんだって私はこんな言わなくてもいいことまで言ってしまうんですかね。首を突っ込まなくてもいい話だというのに……はあー」

 

 随分大きな溜め息だった。めぐみんは残ったお茶を呷る。

 

 そんな、俺とめぐみんのやりとりをじいっと見ていたゆんゆんが。

 

「……はぐりんとめぐみんってお互い遠慮しないよね。ちょっと羨ましいなぁ」

 

「ああ、確かにね……。私もゆんゆんと同意見だよ。君たち二人の関係は少し羨ましいものがある」

 

「何のこと言ってるんですか二人とも……? はぐりん何のことだかわかります?」

 

「いや、全然」

 

 なんのことを言ってるのかさっぱり。

 

 すると少し顔を顰めたあるえが。

 

「……ゆんゆん言ってあげてよ」

 

「え、ええ、私が!? ……めぐみんに負けたみたいだから言いたくないんだけど」

 

「それは、確かにね。私も嫌だな」

 

 あるえとゆんゆんがめぐみんに嫉妬してる、のか? え、どこに。

 

「……よくはわかりませんが、あまり嬉しくないことだけはなんとなくわかりますよ、ええ。……さて。ご馳走様でした、ゆんゆん。美味しかったですよ」

 

 空になった弁当箱を包み直し、ゆんゆんに返しためぐみんは立ち上がってそう言った。

 

「あ、うん。……あのね、その、そういうことだから……めぐみん今日ははぐりんと二人で帰るから……」

 

「まあライバルは普通一緒に帰ったりしませんからね。今までが少しおかしかったのです。友達なら別ですが。……おっとそうですね、いい機会ですから明日からはお互い別々で帰りましょうか」

 

「め、めぐみんの意地悪っ! うう……はぐりん」

 

 ゆんゆんが泣きそうになりながら、俺に縋るような視線を向けてくる。

 

「……そのうち愛想尽かされるぞ」

 

「誰が誰に愛想尽かされるのか詳しく聞こうじゃないか。……近い将来、私の魔法の的にされたくなければよく考えて物を言うことですね……!」

 

 照れ隠しの冗談だろうが、本当にやりかねない凄みがあるのがめぐみんの怖いところだ。こんな短気なくせに爆裂魔法取得して、冒険者なんて……。

 

「ツンデレはもう参考資料が間に合って……ああ、何するんだい!?」

 

「ご馳走様でした! また後ほど教室で!」

 

 立ち上がると同時にめぐみんは、揶揄おうとしたあるえの弁当から俺も食べたつみれの団子を指で摘んで口に放り込み食べて立ち去っていく。あるえの弁当箱には、残り一口。おかずは無く、ご飯が残っている。

 

「あの、あるえ。私のでよければ……」

 

「……ありがとう、ゆんゆん」

 

 揶揄ったあるえ本人が悪いとはいえ、片目でご飯を見つめるあるえは哀愁漂っていた。

 

 

 

 午後の初っ端の授業は抜き打ちでテストだった。

 

 

 

 ▽

 

 

 

 ただキスして家に帰ろう、なんてのは流石に素っ気ない。そもそも愛情を示す手段であり、目的にしては駄目なんじゃなかろうか。

 

「そういうわけでちょっとデートをしよっか、ゆんゆん」

 

「で、デート!? え、あのそれなら一回家に帰って……」

 

「親父曰く『学生のうちしか制服着て放課後デートなんて出来ないからな。それ以降はただのコスプレだ!』……なんて言ってたんだけど。あ、コスプレってのは衣装着て遊ぶって意味な」

 

「へぇ……はぐりんのお父さんもしたってことなのかな?」

 

「どうだろ? やってたとしてもうちの母さんが相手じゃないのは確かだろうな。紅魔の里出身じゃないからね」

 

 でもあの母さん以外が父さんの横に立ってるのが想像できない。うーむ。

 

「そうよね。つい忘れそうになっちゃうけど、はぐりんのお父さん紅魔族じゃなかったものね……」

 

「名乗り以外は俺より紅魔族らしいからなぁ……無理もないけど」

 

 混沌を体現せし者だとか。貪欲にして強欲だとか。色々と他称が多い。それを嬉々として使ってるあたり紅魔族と間違われる所以だ。自称の方は永遠のチュウニビョウらしい。意味はわからない。

 

「ま、俺の親父の話は置いといて。ゆんゆん、デートしよう」

 

 頬に僅かに赤らめて彼女は小さく頷いた。

 

 





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