教室に帰ろうと廊下を四人で歩いていると、
「おお、お前たち。里の各所に封印があるのは知っていると思うが。そのうちの一つ、邪神の封印が解けかけているの見回りをしていたタナーカさんが発見したそうだ。加えてどっかのバカが封印に触ったらしく、封印の欠片が数枚見つかっていないらしい。邪神やその下僕たちがいつ出てきてもおかしくない状況だ。今日から再封印できるまで各自一人で帰らずに、集団で下校するように。これから教師陣は会議になるから、午後の授業は自習だ」
すれ違いざま、真面目な顔したぷっちん先生がそう言ってきた。
「……だってさ。どうする?」
「教室でネタをまとめるとするよ。いや、図書室のほうが都合が良いかな。調べ物もすぐにできることだし」
「あるえもですか。私も図書室でちょっと調べ物でもしようかと。ゆんゆんはどうするのです?」
「え、えーっと。私は……私も図書室に行こうかな!」
「ふーん。ま、俺はちょっと親父に話聞いてみる」
何か詳しい事を知ってるなら教えてもらっとこう。自衛できるよう幾らか心構えがあった方がいいし。
そう思って『通信』を試みようとして、
「……相変わらず、おかしな人ですね。どうして交信の魔法が使えるようになっていて、《上級魔法》の取得をしてないのか。これがわかりません」
「だってウチで作ったオリジナルの魔法だからな。既存のとは違うし。……そういうお前だって。毎回スキルポーション貰ってるんだろ? あと何ポイント必要なんだよ」
「オリジナルの魔法だなんて、『冒険者』のくせに魔法使いより余程、らしいことをしているんですが……あと4ポイントですね。そういうはぐりんはどうなのです?」
「ほしいスキルは大体取り終わってるし、俺はあと9ポイントだな。多分次の休みと祝日で獲得できるぐらいにはなるぞ」
そうか、めぐみんはあと4ポイントも必要なのか。
「待って待って! どうしてそんなに二人ともスキルポイントが必要なの!? あ、はぐりんはむしろ早いほう、なのかな。でも、めぐみん私より成績上じゃない! これじゃあ私一人で卒業することに……!?」
「俺は『冒険者』だから普通よりスキルを取得するのにポイントがかかるのもあるけど。あとは、まぁ。レベリングで余裕はあったけど他にもスキル取ったから。……」
でも、確かにめぐみんはおかしいな。しかし、ゆんゆんの興味は俺に移ったようで。
「え、じゃあ取れたのに取らなかったの?」
「ん、ああ、そうだな。覚えたら卒業って事になるし」
「そっかあ……」
まあゆんゆんの心配は杞憂だ。合わせて上級魔法は取得するから……でも、めぐみんは学年一、もしかすると歴代一位の天才のはずだから、そんなに必要とは思えない。さてはコイツ俺と同じで……
「はぐりん待って欲しい。後9ポイントもあるんだろう? どうしてまたそんなに早く獲得できると踏んでいるんだい?」
ああ、ステータス関連のことは話したことがなかったな。
「それは、ほら。休み中にレベリングして……あと9レベル上げれば9ポイント手に入るじゃないか」
「いや、だからそんなに急いで稼がなくてもいいじゃないかって言ってるんだよ。大体、レベルはそんなにポンポン上がるものじゃないだろうに。それに君は紅魔族の里周辺でレベル上げをしているわけじゃないから効率も悪いはずだ」
……勘の良いあるえなんて嫌い。だから話してこなかったんだよ。
「……割とレベルは上がりやすい方なんじゃないかな、俺。ほら、外の血が混ざってるし」
「勇者候補じゃないかって程の才能のある父親を持つ君が、才能が無いだなんてこと有るはず無い」
「いや、でも実際レベルはよく上がるけど……」
「……はぐりん」
どこか本気で心配するような目で見てくるあるえに少したじろいでしまう。
「…………わかったよ、絡繰りはあるけどまだ話せない。卒業できようになったら言うよ」
「うん。でも改めて確認させて欲しい。危険なことはないんだよね? いつも臨場感ある話を聞いていたから不安なんだ。君が無茶しないかって」
「……冒険者だしね危険はある。でも、いつもと変わらないから」
「……ならいいんだ」
そう言って至極安心した表情をしてみせるあるえに、少し罪悪感がわく。
ゆんゆんは勿論のこと、あまりそんな素振りを見せないめぐみんの不安も煽ってしまったようだ。……ちょっと失敗したな。
おもむろに取り出したメモ帳に書き込み始めるあるえは、
「中々良いやりとりだったから、今度の新作に使うとするよ」
「「今の演技だったの(ですか)!?」」
思わず突っ込みを入れる二人に、ネタ帳に書き込み終わったあるえがなんでもないかのように言う。
「うん、色々と聞いてるからね、別に今更心配するようなことではないし」
……芝居がかるのは紅魔族の
豊かな黒髪に隠れた耳先は赤くなってるんじゃないだろうか。
一連のこれがあるえの照れ隠しなのは今までの付き合いでなんとなく知っていた。
▽
──……『通信』の魔法。親父と母さんが共同で作ったらしく、《中級魔法》や《上級魔法》を取得して使えるようになる『交信』の魔法に比べて、魔力消費も少なく制御もしやすいらしく重宝している。なんでも見えない糸電話のようなもので会話を遠くに届けるらしい。加えて、等級に分類すると《初級魔法》に位置するこの魔法は、詠唱が要らず即座に発動できる。
……勿論欠点はある。同時使用者が多数いると混線してしまうらしい。糸電話の糸が絡まるみたいに。今のところ家族で使う分には問題がないから、実質欠点はない。
──……で。
その魔法で親父に聞いた話によれば、邪神が復活しかけていたのは事実らしく、いつ何か出てきてもおかしくなかったそうだ。
わざわざ他所に封印されていた神々を里の近くへ引っ越しさせたりする、実力的にも頭のおかしい一族だけあって、仮に封印が解けたとしても自分たちであれば十分対処できるだろう。……ただしそれは大人に限った話。
魔法を覚えていないような子ども達では、邪神どころか配下の下僕にすら太刀打ちできないのは明白だ。流石にその辺は大人達も理解があるようで安心した。まあ危険があれば近所の人が助けてくれるだろう。紅魔の里の爺さん婆さんは、無名であっても英雄に匹敵する魔法使いであるからして。
ただ、親父には一つ気がかりがあるのだとか。大人達に共有しているわけではないが……封印の近くに子どもの足跡と、悪魔のものらしき足跡があったのだそうだ。あとついでに四足歩行の小動物のもの。そして子どもの足跡は、
「丁度めぐみんの妹と同じサイズだったと。あー……なんか嫌な予感する……」
つい、口に出てしまった。
──……廊下から場所を移して図書室。休憩が終わって、自習になったけど休憩の延長みたいなものだ。普段は静かで考え事をするにはうってつけで、こうして独り言を言っても誰も返事することはないんだけど。
「……? 急にどうしたのはぐりん。こめっこちゃんがどうかしたの?」
今はゆんゆんについて回っている。なんでも高いところの本が取りたいから、と理由をつけて。大して身長は変わらないんだけど、便利なスキルがあるので台の代わりだとさ。まあ、ゆんゆんの拙い言い訳だけど。
「いや、なんでもないよ。……そのハウツー本はやめといた方が良い」
タイトルを見るも躊躇われるほど。タニシは流石にどうかと思う。
「え、じゃあ……これは? ……へー、サボテンにも心があるんだって! 話しかけてあげたら元気になったり、たくましく成長したり!」
「そりゃあね。だってアイツら動いたり飛んだりするし」
そもそも植物自体逞しすぎて、自分で動いたりするわけだし。キャベツなんか最たる例だ。サボテンなら針飛ばしてくるまである。
「あ、それもそうよね。ならちゃんと接してあげればお友達に……」
「だ、か、ら! ……ゆんゆんには人間の友達がいるだろ? 俺みたいに! どうして植物の友達を作ろうとするんだよ。せめて人にしてくれよ……」
自覚できるかどうかが重要だから、あえて言ってはないけど……ゆんゆんが一方的にライバル視してるだけでめぐみんにしろ、今日の様子を見るにあるえも友達と言って良いんじゃないかなあ。
と、そんなことを思っていると。
「うう……だ、だって……はぐりんとは
!? 思い出さないようにしてるのに!
「あれは族長とウチの親父が勝手にしたことだから何時でも解消……ご、ごめんて。別に嫌ってワケじゃないんだから、そんな落ち込むなよ。どんな関係になっても一応友達なのは変わりないだろって……あとその話は学校ではしちゃ駄目って言ったじゃん」
「あっ……! ……ごめんなさい……」
慌てて口を押さえるゆんゆんだが、ついに学校で口にしてしまったようだ。絶対学校では口にしないよう約束したのに、まったく。誰が聞いてるかわからないんだから。
いつも一緒に居るめぐみんには漏らしてしまったようだが、アイツも事が事なので言いふらしてはいないらしい。ただでさえ狭い里なのだ。すぐに噂なんて広まってしまう。
結局は本人達の意思に任せてもらうことになっているので、解消しようと思えば出来る。けどその前に外堀埋められそうで怖い。
「で、でもなんだか今日、あるえと凄く仲よさそうに見えたから……許婚は私なのに。だからつい、ね?」
それって嫉妬したってことなのか。だとしたら微笑ましいことだけど。
「その、ゆんゆんは嫌じゃないのか? 友達かどうかわからない今の関係が、さ」
「べ、別にっ……このままでもいい、かな……はぐりんのこと、す……。嫌いじゃない、からっ」
許婚の関係を解消しなければ、いずれはそうなるということで。
可愛くない、とは思えない。嫌いではないし、むしろその逆。今なんかとても守ってあげたくなるような庇護欲に駆られて、今にも抱きしめてしまいたいほど。だから、そんな風に言われて、嬉しくないかと言われたらむしろ嬉し……──うう、ぬあああああ!!
「~~っ! や、やめよう! この話は! なんだか行き着くとこまで答えが出てしまいそうだから! 今すぐって話じゃないんだし!」
「そ、そうね! ゆっくり考えて決めれば良いことだものね!」
──ゴト!
「「!?」」
何かが動く物音が嫌に響いて、思わず二人で肩を竦めた。
思わず大きい声を出してしまっていたけど、此処図書室だ。自習になって来ている生徒は俺たち以外にも少ないが居る。
……聞こえた物音の大きさと同じで、先ほどの会話の声がどれほど響いていたのか。誰かに聞かれていたかもしれない。今更その懸念が頭の中を過ぎり冷や汗をかく。
慌てて周囲を見回して、誰も居ないことを確認すると、ゆんゆんと胸をなで下ろした。
読書スペースに戻ると、めぐみんが何か小説を手にして読んでいた。
一つ間をあけて座ると、そこへ意を決した様子でゆんゆんが座ってくる。どうして挟まれたがるのか。
「……はぁ。で、またゆんゆんは随分と選んできたのですね。そんなに読み切れるのですか?」
「う、うん。もう何回も読んでるし、流し読みするだけだから……」
一瞬呆れためぐみんがどれどれ、とタイトルを見て苦い顔をする。
「うわぁ、酷い……。………………これは酷い」
「なんでそんな引くのよ! さ、サボテンにだって心はあるんだからぁ……!」
植物はやめとけと俺は言ったぞ。だからめぐみんそんな目で見るんじゃない。
「紅魔族ともあろうものが、友達の一人や二人、自分で作れないでどうするんですか! 勝手に出来てるものなんですよ! どうしてそんなこともわからないんです? ゆんゆんはおかしいです!」
「そうなの!? 私がおかしいの!? ずっとめぐみんやみんながおかしいんだと思ってたのに……」
めぐみんが『どうしてこんなになるまでほっといたのですか』と目で訴えてくるので肩を竦めた。
ずっと面倒は見てきたつもりだけど、これでも俺は頑張ってきた方だ。今日だって俺をお昼に誘えるぐらいには自主性というか積極的に動けるようになってるし。
ゆんゆんはわしが育てた! ……育てきれてないのは触れないで欲しい。
「……そういえばあるえは? 見ませんでしたか?」
「ん……いや、見てないな。一緒じゃなかったのか?」
「いえ、本を取りに行ったようなのですが……おかしいですね、何処に行ったのでしょう」
本当に何処に行ったんだろう。ドアが開く音はしなかったし、広いと言っても視界は結構ひらけている図書室だ。見かけないはずは無いと思うんだけど。
「ゆんゆんはあるえ、見てないか?」
「……え、うん。見てないけど……。ねぇ、私はおかしくないよね、はぐりん?」
まーた、思い悩んでる。
「ゆんゆんはおかしくない。けど、紅魔族にしてはまともすぎるんだ」
「同じ紅魔族としてその発言はどうなんですか!? まともじゃないとでも!?」
耳ざといめぐみんがハーフの俺の発言に待ったを掛けているけど気にしない。
「そう、なのかな……? なんだか自信無くなってきて」
「でも確かにぼっち拗らせすぎてる節はあるから、自信持って行こうな?」
そう言うとちょっと自信を取り戻したのか、
「……うん、わかったわ! ……やっぱり植物とも友達になれるよね!」
「んーこのぼっち娘はどうしてくれようか」
「手遅れでは?」
そんな気がする。口に出すとめぐみんが追随した。
方向性は間違ってるけど、落ち込んでいられるよりかはいいので、後で良く言って聞かせよう。
──……と、そんな話をしていると。
「おかえり、探してる本はあった……おい、どうしたあるえ」
「ん、ああ……ちょっとね」
帰ってきたあるえは、常につけていた眼帯を取っていてちょっと目元が赤く、興奮気味で瞳も紅くなっている。涙のあとも頬に残っていた。まるで泣きじゃくった後みたいだ。
ゆんゆんとめぐみんも吃驚している。あるえが泣いているところなんて俺も見たことないしな。
「……なんでもないよ。目についた恋愛小説に手を出して立ち読みを始めたらとまらなくてね。あれだけ感情移入させといて、急な寝取られ展開とは想像つかなかったよ」
「おい、やめろ。聞くだけでもつらいのがわかっちゃうだろ」
そう言うと、あるえはぶり返したのか溢れ出た涙を指先で拭い、隣に座ってくる。
かなり憔悴しているようだ。どれだけショックだったのだろうか。
で、どうして近くに座るんだよ……席空いてるのに。
「でも、参考になったよ。……あんな急な展開でも、伏線はいくつかあったんだから」
「なあ、辛いなら教えてくれなくても良いからな?」
あまりにも辛そうなのでハンカチを渡して慰める。たまにあるよなあ、期待を裏切ってくる奴。色々とあるえの勧めで読んできたけど、ああいう展開は結構くるものがある。
「待って下さい。あのあるえがこんな反応するなんて……ちょっとどんな小説なのか気になるので詳しく教えて下さい」
この鬼畜! めぐみんって奴は人の心がわからないのか!
「……でも、あれは先の展開を知って読んでみると面白くないかもしれない。忘れた頃に紹介するから。今は、ちょっと」
「……そう、ですか。凄く気になるのですが」
どうやらめぐみんは諦めたようだ。知りたくなかったから良かった。
「でも、ちょっと気にくわないかな。いや、かなり気にくわないな。あまり手を出してこなかったけど、二次創作を書いて自分を慰めるとするよ。……はぐりん、書き上がったら読んでくれるかい?」
あるえが上目遣いで聞いてくる。
「それは良いけど。今日書き上がった奴もまだ読めてないぞ? それに元になる奴も読んでないわけだし」
「大丈夫だよ。読んでなくても分かるように、すぐに読める短編で書くから。明日持って来るね」
「……まあ、あんまり無理はするなよ? 夜更かしして、寝坊しないようにな」
批評をするようになって、書く早さが上がったのは知ってるけど。読者がいるからってのが励みになってるんだろうか。それでも一日で一本書き上げるのは流石にしたことないんじゃないかな。
「……。うん……ありがとう。……ふぅ、はぐりんは優しいな……酷いぐらいにね」
「……それ、俺が前読んだやつにあった台詞だろ?」
「そうだったかな? 気に入ってたのかもしれない」
薄く笑うあるえは、どういうわけかやる気に満ちていて魅力的に見える。
やっぱり、泣き顔なんてあるえには似合わない。いつものように飄々としてる方が似合うな。……弱ってるところも可愛いかったけど。
全然伸びてないけど反応が怖い。けど反応が知りたいジレンマ。
感想、評価の程、どうぞよろしくお願いします。励みになります。
tips サボテン
砂漠地帯に生息する野生のサボテンはとても臆病である。そのため基本的には人やモンスターと出会すと、発達した足のような部位を利用した二足歩行ですぐ逃げ出してしまう。これは大量に蓄えている希少な水分や経験値を奪われまいとするが故の行動と目されているが、その実体は謎に包まれている。また攻撃に対しては反撃を試みる習性があり、針を飛ばす、脚部にあたる部位による蹴りなどによる攻撃手段を持っている。壁役として優秀なクルセイダーの冒険者が、この攻撃を受け、瀕死になったという報告が上がっているため、不用意に攻撃しないことを推奨する。
また、稀ではあるが水を求める冒険者に対して施しを与えるケースがあるが、これについてはサンプルが少ないため今後の観察研究が求められる。
特記事項。成長した個体には目や口といった顔と思われる窪みが見られる。特に水分や経験値を蓄えているが強さは並みのサボテンではないことに注意されたし。また噂の領域を出ないが、過去に顔のある塔の如く聳え立つほどに巨大で髭をつけた―― 『サボテンの生態』からの一部抜粋。
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