はぐりんくえすと   作:楯樰

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8 相談と確認と

 和気藹々としながら夕食をとって、お腹いっぱいになったこめっこがソファーで眠り始めたのを機に、用事を済ませることになった。

 

 今日ウチにめぐみんが来ることになったのは、別に夕飯を食べるためじゃない。俺はすっかり忘れていたけど。

 

 これから話すことは親にも知られれば不味いし、もしこめっこが聞いてしまえば教育に悪いと判断して、自分の部屋にめぐみんを連れて入った。

 

 

 

 ──話し始めたときには、大したことではないだろうと踏んでいたらしい、ベッドに寝っ転がっていためぐみんの表情は徐々に険しくなり──

 

「はああああ!?!? あるえにも告白された!? 見舞いに来てたゆんゆんが後から来たあるえに丸め込まれてシェアされたぁ!? アッタマおかしいんじゃないですか!! なにがシェアですか! そんなものっ、ハーレムじゃないですか!!」

 

 ついには爆発して飛び起きた。

 

「こ、声が大きい!! そうだけど、そうなんだけど俺は断じてハーレムなんて認めてないからな!」

 

「その場で否定しなかったんですから、認めてるようなものでしょうが! 嗚呼、もう、なんということを……!」

 

「うっ……確かに、その通りかもしれない、けど!」

 

「けど!? けど、なんです!?」

 

「うっ……なんでもありません」

 

 物凄い剣幕で睨まれ、めぐみんの背後にドラゴンでも宿ったかのような錯覚を覚える。

 

 激憤を感じていたらしいめぐみんは一回りしてしまったのか、逆に落ち着いた声で言う。

 

「……ゆんゆんが何か焦りのようなものをあるえに感じていたのは知っていましたよ、ええ。休み時間にあるえとはぐりんとが仲良くしているのに心苦しいものを感じていたのでしょう。はぐりんとあるえの関係が5年近く続いているのは知ってましたけど、ここ最近のあるえの様子には何かただならぬものを感じていましたし」

 

「そう、なのか」

 

 ……全然気がつかなかった。

 

「知らぬは当人だけ……あーもうまったく! 言ってしまいましょうか! 昨日だけじゃないんですよ! あの子がはぐりん、あなたと一緒に昼食を食べようとしていたのは!」

 

「は、初耳だけど。というかどうしてなんだ、それ」

 

 てっきり昨日初めて誘ってくれたのだとばかり。でも、おかしいなとも思っていた。ゆんゆんのことだからもっと早くに誘ってくるはずだと。

 

「ゆんゆんが声をかけようとする度にあるえが先を越していたりしたので、行けなかったんです」

 

 あるえがなぁ……わかっててやってたんだろうな、それ。

 

 いや、待てよ。でも確か前にゆんゆんが『めぐみんがいつもお弁当をとってく』って愚痴ってたような……?

 

「……何か言いたいことでもありそうですね」

 

「めぐみんの所為もあるんじゃない、……なんでもありません」

 

 ぎろりと睨まれて言いかけてやめた。しかしめぐみんは目を背けて、訂正する言葉をすぐ口に出さない。

 

「…………いえ、確かにそうですよ。単純にお昼をたかっていたのも事実ではありますが! ……学校で許婚であることが知れてしまうのは不味いのでしょう? あなた達の事です。ゆんゆんにお願いされたら、げろ甘なはぐりんが応えないわけがありませんからね。昨日のように際限なくイチャつきだすのではないですか?」

 

 ……正直、自信はない。違う、とは言い切れなかった。

 

「その、ありがとな。まさか、そんなに考えてくれてたとは。……ちょっと言い訳に聞こえなくもないけど」

 

「言い訳じゃありませんよ、失礼ですね……でも、今更感謝されても遅いですからね。あなた方、名実ともに許婚になったのですから。私が邪魔することはもうないので、どうぞ好きなだけイチャつけばいいじゃないですか! まぁそれも? あるえのこと拒絶しなかった今、どうなるかわかったモノじゃありませんけどねッ!」

 

「……はい」

 

 めぐみんがコップの水を一気に喉に流し込む。

 

 長話になると踏んで良かった。備え付けている水差しからめぐみんにおかわりを注いだ。

 

「ああ、もう馬鹿馬鹿しい! どうして私があなた達の事で、こんなに感情的にならなきゃいけないんですか。一応友達と、身内のこととは言え、此処までする謂れはないと思うのですけど!」

 

「や、俺に言われても」

 

「他に誰に言えと。うん? 不甲斐ないあなたたちのフォローをしてあげてる私の身にもなってくださいよ!」

 

 無言で頭を下げる。さっきから頭が上がらない。

 

 めぐみんが言う事は正しい。俺もそれが正しいのは分かっている。わかってはいるけど。

 

「……はあ。結局はどっちかを選ばなきゃいけませんよ? どっちを選ぶんです?」

 

「……え? 選ぶ?」

 

「いえ、ですからそれは…………まさか」

 

「あー! や、別にこのままでもいいかなあって。……二人とも幸せにする甲斐性は、今はまだないかもしれないけど。将来的に紅魔族随一の冒険者になれば、二人とも養う事なら出来なくはないと思うし……」

 

「堂々と二股宣言ですか! この……! ……なんかもう怒る気も失せてきましたよ……昨日、誠実で浮気もしない、なんてよく自分の事だと思えましたね?」

 

「今でも一応そのつもり……いや、そうだな。全くの真逆だよな今の俺」

 

「よくわかってるじゃないですか」

 

 耳に痛い。めぐみんの言う通りだ。全部めぐみんの言う通りだ。

 

 ゆんゆんとのすれ違いはともかく、それ以外は俺が何か悪いことをしたわけじゃない。

 

 けど事実として俺はゆんゆんを泣かせてしまい、俺のせいだけじゃないとしても、あるえのことも泣かせてしまっていた。知らなかったとはいえ、責任は感じている。

 

『女の涙は全力で拭え。好きな相手ならなおのこと。泣かせてしまったならその責任は取れ』と、口酸っぱく親父に言われている。

 

 告白されたからってのもあるかもしれない。けどめぐみんに対して持ってない好意を、確かに二人に対して持っている。

 

「やっぱり、選ばなきゃダメ?」

 

「この優柔不断男は! 明日からスケコマシって呼びましょうか!?」

 

「…………そんなつもり本当ないからやめてほしい……!」

 

 別に口説いてるわけでもないし、色目使ってるわけでもないからな!!

 

 

 

 ▽

 

 

 

 背負っているこめっこは随分と軽い。背負っていることを忘れてしまいそうになるぐらいに。昔のめぐみんのように、いつもお腹を空かしている気がするのは、きっと気のせいじゃないのだろう。

 

 めぐみんの抱えているクロが食べられそうになるくらいだから。

 

 ──そんなことを考えながらめぐみんの家まで歩いていく。

 

「こういうところかもしれないですね」

 

「何が?」

 

「……いーえ、なんでもありません」

 

 ……変なの。

 

 

 

「……まあ、今日のことは今までと同様胸の内に秘めておきます。流石に貸し一つ、ですからね?」

 

 家の前に着くとめぐみんがそう言う。

 

「わかったわかった。それでいいよ。めぐみんの貸し一つ、か。なんかこわ……え、何するの?」

 

「そんなに怖がることはないじゃないですか。すぐ返してもらうので。卒業のために取る魔法について知ってもらうだけですから」

 

 知ってもらう、ときたか。

 

「……スキルポイントを過剰に貯めてる、理由だよな」

 

「はい。少なくとも卒業して里を旅立つまでは内緒でお願いします。あと聞いて、決して笑うことのないように。馬鹿にしてもダメですからね?」

 

 なんだろう。上級魔法以上の魔法となると、炸裂魔法? 爆発魔法? ぐらいだろうけど、上級魔法の派手さと多彩さに比べれば少し見劣りするんじゃないだろうか。

 

 もしかして、俺と同じようになんらかのスキルと上級魔法を取るつもりでいるのだろうか。

 

「爆裂魔法を取る予定でいます」

 

「…………ん?」

 

 今なんて言った。

 

「人類最強にして最後の攻撃手段、爆裂魔法を取るつもりでいます」

 

「はあ?」

 

「おっと何か言いたいことがあるようですが? いいんですよその続きを口に出して言っても。ただ、一度吐いた言葉は飲み込めないと、肝に命じておいてください。そして私にも、それは同じことが言えるのだと」

 

 アホなのかコイツと思ったけど、大真面目に言ってるようだ。

 

「悪い。けど、お前それは…………使えそうなのか?」

 

「ええ、使えますとも。間違いなく。里随一のあなたを除けば魔力の量でいえば二番目に迫るのですよ? 必ずや使えます。そして極めるのが私の夢なのです。証拠に見せましょうか。ハイ」

 

 クロを片手にめぐみんは冒険者カードを渡してくる。

 

「おまえなあ。幾ら親しい仲とはいえ、冒険者カードを人に手渡すなよ。勝手にいじられることもあるんだぞ? 冒険者になるつもりなら、そのへん留意しとけよ……ってマジか」

 

 悪い奴は居るんだからと、つい小言を漏らした。

 

 魔力はともかくとして、知力は見たこともない数値を叩き出しているめぐみんのステータス。

 

 スキルの欄を見ると確かに爆裂魔法習得の項目がある。習得に必要なスキルポイントは50ポイント。あとほんのわずかで取得できる。

 

 あと、こんなにポイントが溜まっている冒険者カードは初めて見たかもしれない。

 

 めぐみんに冒険者カードを返す。

 

「わかってますよ、そんなことぐらい。あなただから渡してるのですよ。途方もない目標を掲げてるのは私もあなたも同じですからね」

 

「……冒険者になることの何処が途方もない目標なんだよ」

 

「気付いてないとでも思ってるのですか?」

 

「…………何のことやら」

 

 嘘を吐いたらチンチンなる魔道具がこの場にあれば、あの甲高い音を立てていたに違いない。

 

「まあいいでしょう。……今まで内緒にしてたので、知ってもらって少し気持ちがスッキリしてますから。忠告しときますけど、この話を里で言いふらしたら、二人についてあることないこと言いふらしますからね?」

 

「わかってるよ。絶対にお前も言うなよ? 信じてるからな?」

 

「…………おやすみなさい」

 

「おい、待てこら」

 

「わ、わかってますよ! 多分きっと言いませんから! おやすみなさい!」

 

 勢いよく玄関の戸を閉めて、めぐみんが中に入っていった。

 

 正直不安は残るし、明日二人とどんな顔して合えばいいのかわからないけど……帰るか。

 

 ? なんか家の中が騒がしいけど。気になっていると後ろで何かが身動ぎ──

 

「──ふわぁあああ……兄ちゃん? おはよーございます……」

 

「こ、こめっこ!?」

 

「忘れてました!」

 

 めぐみんが飛び出てきた! うん、俺も忘れてた!

 

 

 

 ▽

 

 

 

 朝。

 

「あ、はぐりん! おはよう!」

 

「お、おはよう……?」

 

 不気味なくらい機嫌がいいゆんゆんが、いつもの待ち合わせ場所にいた。一昨日ぶりに。今日も集合時間の随分前から居たであろうことは聞くまでもない。

 

「どうしたの? なにか変なところがある?」

 

 ……変なところっていうか。その、見せつけてきてるけど。

 

 腰の後ろにぶら下がっている銀色の短剣。それをゆんゆんは幾度となく見えやすいように動かしている。

 

 これ、聞いて欲しいのか。聞いて、欲しいんだよなぁ。

 

「あの、ゆんゆん。その短剣、どうしたんだ?」

 

 そう聞くと、待ってましたと言わんばかりにゆんゆんは語り始める。

 

「昨日、あるえと一緒に帰ったじゃない? 初めはその、あまり乗り気じゃなかったんだけれど、意外と話が弾んじゃって。寄り道することになったのね。鍛冶屋のおじさんが趣味で小物を作りはじめたって聞いたからそこに寄って……思ってたようなものはなかったんだけど。でも、あるえと仲良くなった記念に、折角だから何か記念になるものがあったらいいなって買っちゃった。……その、どう? 似合う、かな?」

 

 色々と突っ込みたいところや『武器なんだけど』という台詞は飲み込んだ。

 

「……えーと。紅魔族的センスでいえばもうちょっとドラゴンとか掘ってあったらいい感じなんだろうけど、大人しい感じで良いかもしれないな。ゆんゆんにはぴったりだと思うよ。実用的だし」

 

「えへへ、そうかな?」

 

 肯首する。似合ってると言ってもらいたい、ゆんゆんの乙女心というやつだな。面倒臭さよりは喜んでいるのを見れたので差し引きゼロだ。

 

 ただ、それよりも。俺としては、どうしてそんなに嬉しそうにしているのかが気になる。昨日そんなに楽しかったのだろうか。

 

「ちなみに、聞いてもいいかな。昨日あるえとどんな話をしたんだ?」

 

「え、あの。そのぉ……内緒、じゃあダメ?」

 

 上目遣いをして言うゆんゆん。

 

「可愛い」「へ?」

 

 ──じゃ、なくて!

 

「んんんっ、その、昨日あんなことがあって、ゆんゆんもあるえに思うところがあっただろ? あるえの居る前で、言うのは躊躇いがあったから言わなかったけど。ゆんゆん、騙されてないか?」

 

「そんなことはない、と思う、けど……!?」

 

 ゆんゆんの手を握る。柔らかくて、少し温度の高い女の子の手だ。

 

 ……昨日めぐみんを家に送り届けて、家に帰ってもう一度じっくり考えた。そして、決めたこと。それを伝えるために、真っ赤になったゆんゆんの目をしっかりと見る。

 

「あるえの気持ちを蔑ろにしたくはないけど、ゆんゆんが俺のことを好きって言ってくれたことはそれ以上に、蔑ろにするつもりはないんだよ。──ゆんゆんのこと、俺も好きだ。多分、ずっと前から。告白して、されてから、俺の中のゆんゆんを独占したいって気持ちは大きくなってる。その……ゆんゆんは、そんな気持ちにならない?」

 

「それは、なるけど……」

 

「けど?」

 

 ゆんゆんは依然として赤い。

 

「……昨日あるえと話して、感じたの。あるえも、はぐりんのこと本当に好きなんだなって。だから私だけが独り占めするのは、ずるいじゃない? 私があるえならそう思うもの」

 

「…………」

 

「ご、ごめんね! ……でも、はぐりんはイヤかな? そういうの」

 

 恥ずかしがりながらも、ゆんゆんは優しい顔をして言う。握っていた手を、握り返される。そして、その見たことのないほど優しい表情に、俺はつい見惚れてしまった。こっちまで赤くなってしまう。

 

 俺がゆんゆんだったら、あるえのことをそんな風に思えただろうか。

 

 ……きっとそんな風には思えない。俺だけを見てほしい。俺以外は見ないでほしい──そんな風に思っていたに違いない。

 

 めぐみんも、多分同じ考えがあるからこそ俺のことを非難したし、あそこまで怒ったのだ。

 

「ゆんゆんは変わってるなぁ……」

 

「ええ!? ねえ、どうしてそこで私が変だって事になるの!?」

 

「いや、だって俺、……選んで欲しいって言われたらゆんゆんを選ぶつもりだったんだよ」

 

「えっ、そう、なんだ……」

 

「うん。でも良いんだな? 本当に」

 

「うん」

 

「わかったよ。君が、そう望むのなら」

 

 あるえからの提案はあったんだろう。心配になるくらいチョロいゆんゆんのことだから、そう考えるように誘導されたのかもしれない。

 

 けど、これはゆんゆんも考えた末に出した答えだ。再度確認して出てきた、その迷いのない返事は彼女自身のものに違いない。

 

 そう信じて、俺はずっと重くのし掛かっていた肩の荷を降ろした。

 

「──あの、はぐりん」

 

「どうした?」

 

「そのっ、は、恥ずかしいから、もう、いい?」

 

 手を、とゆんゆんがか細い声で言う。

 

「!?!?」

 

 ばっと離れた。

 

 昨日の夜から言おうと思ってたから言ったけど! 道の往来でよくあんなことして、小っ恥ずかしいこと言えたな俺!

 

 あたりをサッと見渡すと、光の屈折魔法で消えようとする人影が。

 

 ああ、もう! 多分大人たちに見られちゃったし、仲の良い友達程度じゃないって絶対知られた!

 

 明日には里の全員知っててもおかしくないぞ……!

 

 

 

 少し距離を置いて歩くゆんゆんと俺。

 

「おはよう二人とも。なんだかよそよそしいね? あ、もしかしてナニかしてきたのかい?」

 

「「なにもしてない(わよ)!!」」

 

 朝会って早々、なんでもないかのように、含みを込めて言うあるえに声を揃えて否定した。




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