デレマスとのクロスオーバー『 基本はコメディ』 作:エビアボカドロックンロール
「―――やべ、寝てた」
業務時間中にもかかわらず睡魔に負けてしまったことが信じられず、ふるふると首を振り眠気を振り払う。
状況を確認しようと、あたりを見渡してみれば向かいのデスクのちひろさんも隣の武内さんも席を外していることが確認できた。というより自分の最後の記憶からのつながりがまったく確認できなかった。
「ここは…地下室??」
なぜか事務所の地下にあるボイスレッスンルームで目を覚ましたのだが、ここにいるということは事務所で寝てしまった俺を武内さんあたりが運んでくれたのだろうか。
仮眠室に運ばなかった理由は分からないが、武内さんが眠った俺を運ぶ姿を想像するだけで軽く悶絶してしまう。
「比企谷さん、お加減いかがですか?」
うん、薄々気づいてたよ。だって手錠でガチガチに固定されてるもん。
ベッドに寝転ぶように両手、両足が支柱から延びる手錠にしっかりと繋がれており多少の身じろぎはできるものの、とても脱出することは出来そうにない。
「千枝、悪い子ですか?」
こちらがある程度動くことを諦めたのを見計らってベッドサイドでずっとこちらを見つめていた佐々木が声をかけてくる。
なぜこの状況でそんなに申し訳なさそうな顔ができるのか、どうやって俺をここまで運んできたのか、そもそも佐々木の倫理観どうなっちゃったの?など、聞きたいことは山のようにあるが、まずは一応お願いしてみようと思う。
「…とりあえず解放してくんない?」
「千枝、小学生だから難しい言葉は分かりません…」
「…小脇に抱えた“身体も心もボクのもの~はじめてのSMガイド”が見えてるんですけど」
「お勉強のために、学校の図書室で借りてきました♪」
わぁ、なんて素敵な笑顔。それにそんな本が置いてある学校は潰れてしまえ。
時計を見てみると現在の時間は5時30分。最後に事務所で時計を見たのが4時45分だから45分間ほど寝ていたことになる。
金曜の終業時間になると決まって飲み会の誘いに来ていたあいつらをスルーできたのは怪我の功名だな。
これ以上長時間の拘束は身体的にも精神的にも辛いので早々に説得を開始する。話せば分かるはず。
だいたい佐々木にSMキャラなんて一部の界隈でしか受けないだろうし、そいつらはそのまま留置所へとお送りされるに決まっている。
「時子ちゃんのマネか?やめとけ、あいつのはただのSMキャラだから普段は礼儀正しいやつなんだぜ」
「ちっ、違います!!千枝がイジめたいのは比企谷さんだけです!誰にでも鞭を振るうビッチみたいに、言わないでほしいです…」
「おぅふ、そ、そうか。そ、それより俺をどうやって眠らせたんだ?」
予想外すぎる角度からの照れに思わず気持ちの悪い鳴き声を上げてしまい、質問もおぼつかないものとなってしまった。
「志希さんに無害な睡眠薬を借りました」
「いや、あいつがそんな簡単に人に渡すとは思えんのだが…」
「象を狩りに行くって言ったら貸してくれましたよ?」
そんな理由がまかり通ってたまるものか!原始の世界で生きてるのか!?
「…どうやってここまで運んだんだ?」
「晶葉さんにパワードスーツを借りました。象を運びたいって言ったら貸してくれました。」
「……用意周到ですね。佐々木さん。でも嘘つかれたって知ったらあいつら悲しむんじゃないのか?それでもいいのか?」
文字通り手も足も出ないうえに、とても45分間拘束されただけとは思えない体のダルさのせいで、ありきたりな説得の言葉しか出てこない。
「―――比企谷さんの象さん、とても立派でした…キャッ」
誰がうまいこと言えと。
いや、そこじゃないな。ふむ、比企谷八幡。現行犯の模様です。余罪の可能性も含め引き続き捜査を進めます。
「お仕事も終わりみたいだったので、身体を拭いてお着替えもしておきましたっ」
ありがとうございます。完全にアウトです。次回より千葉の空に(ショーシャンクの空にっぽく)始まります。
や、これ本当に冗談で済むのか?服の着替えって…うわっ!部屋着じゃん!!あまりに着慣れすぎて気付かんかったわ。
それにしても佐々木さんイキイキしてますね。
引き攣りそうになる顔をなるべく冷静に保ちながら再度解放するようにお願いしてみる。
「なぁ佐々木、そこまでしたならもう十分だろ?怒らねえから早く解放してくれ」
「ごめんなさい、比企谷さん。昨日はお仕事で来れなかったあの人がもうすぐ帰ってくるんです。―――だから、もう少しだけは千枝の、千枝だけの比企谷さんでいてください」
「いや、1時間くらい二人でいることなんてざらにあるだろ。なにをそんな大げさに…待て、昨日?」
「はい、まだ12時間くらいしか比企谷さんを観察できていないので…。一応添い寝したり、写真撮ったりはしたんですけど。」
衝撃的すぎる事実。夕方の5時30分ではなく次の日の朝5時30分でした。え?丸一日寝てたの?どうりで身体中痛いはずだよ。てかそらそうだよな、象に使う睡眠薬って聞くだけで効果やばそうだもんな。ぱおん。ぴえん。
「だからせっかく目が覚めた比企谷さんを…、ハァハァ、あと少しの間…千枝が“調教”してあげますからね~♪」
荒い吐息とともにじりじりと迫る佐々木に、それでも説得を試みるが言葉はまるで通じず、いったいこれから何をされてしまうんだろうかという諦めと緊張とほんの少し期待の入り混じった感情がドロドロと胸に溜まっていく。
とてもアイドルのしていい顔ではないはずなのに、なぜか脳の奥は痺れるようなその笑顔に、完全に屈服してしまいたいと叫ぶ。
そんな尋常ならざる内心とは別に、今年のお御籤が“超凶”だったことを思い出していた。大丈夫、まだボケる余裕はある。
「いつまでそんな事を考えてる、余裕がありますかね…せいぜい頑張ってくださいっ♪」
続くかも