デレマスとのクロスオーバー『 基本はコメディ』 作:エビアボカドロックンロール
「なんでなんで?え、ほんとになんで?」
「やっと顔を見せに来たと思ったら、久しぶりに会うばあちゃんへの一言目がそれかい八幡」
アイドルたちの仕事の付き添いで路線バスに乗り、休憩中に仮眠から目が覚めたらばあちゃん家だった。なんで?
2mほどある木の門の前に仁王立ちし渋い表情で睨むのは御年75歳になる俺の祖母。肩ほどでまとめられた白髪としゃんと伸びた背筋は年齢を感じさせず、じろりと睨む鋭い眼光にこちらまで背筋が伸びてしまう。ほんとになんで?
行先が変わっていることにはまったく気が付かなかった。車窓の外に流れる景色をぼんやりと眺めながらひと時の癒しに身を委ね、見渡す限り広がる田園の緑に俺はすっかりリラックスしてしまっていた。バスの中に視線を巡らせ“みんなさっきのバス停で降りたのか。もう俺たちの貸切じゃん、うるとらはっぴー☆”なんて抜けたことを考えていたあの時の呑気な自分を殴りたい。
「いや、何と言うか、心の準備が出来てなかったんだよ……」
「ばあちゃんに会うのにいったいなんの心の準備がいるんだい…。八幡は相変わらず八幡だねえ。―――ん?…久しぶりに帰ってきた孫…後ろには随分と綺麗なお嬢さん…二人ともゆったりとした服…見たところ10代前半……ハッ!重婚 デキ婚 孫ロリコン!そうゆうことかい!?」
実の祖母にとんでもない業を背負った犯罪者扱いされてる件……
ハッ!じゃねえよ、何も察せれてねえしネタが微妙に古いですよ?
「初めましておばあ様。妻の凪です」
「第七夫人の七海れす」
「これこれはご丁寧に、八幡の祖母で…す……え?…第七夫人!?少なくともあと5人のロリっ子がいるのかい!?」
ワナワナと震えるばあちゃんが腰でも抜かしそうな勢いで詰め寄ってくる。
5人のロリっ子ってなんだよ、なんで全員ロリの前提なんだよ。俺はむしろ年上の養ってくれそうな人がタイプだ。
だいたいあんたは昔からそうだったなんて説教が始まり、それを聞き流しながら久しぶりに会う祖母を見る。相変わらず元気なことにホッとしていると浅利がすすすっとばあちゃんのもとへ寄って行った。
「うっ、吐き気がするれす…」
「どうしたんだい七海ちゃん?……ハッ!つわり!ほら八幡いつまで奥さんを外に立たせておくんだい!早く中に案内しな!!」
「……ただのバス酔いだ。だから先に酔い止め飲んどけって言っただろ…」
もともと船酔いしやすいタイプの浅利には、事前に酔い止めを渡していたのだが飲むのを忘れていたようだ。
ばあちゃんは俺の背中をバシバシ叩くと久川と浅利の肩を抱いて家の中に入っていった。
肩を抱かれた二人がちらりと俺に視線をやり“計画通り”の憎たらしい表情をした。無性にイラっとするが、それよりも気になるのはこの計画を立てたのが誰なのかだ。いやまあ間違いなくちひろさんなのだが。わざわざアイドルたちを使って親族関係を巻き込むとかさすが愛読書“闇金ウシジマくん”なだけあるわ。怖いし恐いあとコワい。
家に入ると二人のアイドルが意外なことを言ってきた。あ、撮影スタッフ?家のそこかしこにカメラを設置してどっか行ったわ。
「あの、おばあ様。お仏壇にご挨拶させていただいてもかまいませんか?」
「七海もご先祖様にご挨拶させていただきたいれす!」
「………ッ!!二人ともなんていい子なんだい…。旦那も天国で喜んでると思うよ」
「じいちゃんバリバリ現役だろ…勝手に殺してやんなよ……」
目を潤ませてありがたやありがたやと二人を拝むばあちゃん。
それにしても仏壇に挨拶するなんて好感度爆上げ作法いったいどこで覚えてきたんだ?まさかここもちひろさんの差し金じゃないだろうな。………チーンじゃねぇよ。
「八幡さんのご先祖様、初めましてこの度八幡さんと結婚することになりました久川凪と申します。徳島で生まれ育ちましてアイドルになるために上京して以来、八幡さんには公私共にお世話になってます」
「結婚することになってねえし公私共にじゃねえよ」
「比企谷家の英霊たちよ、お初にお目にかかるれす。え?初対面じゃないんれすか?溺れている七海を助けた……あっ!思い出したれす!あれは八幡さんのご先祖さまだったんれすねぇ~あの時は本当にありがとうございましたれす~♪」
「………一言目のクセがすごいし俺のご先祖様と普通に会話するな。そーゆーのは小梅の担当だ」
仲良く肩を並べて仏壇に向かう二人の後ろで「天国のご先祖様、八幡がこんな立派になって奥さんを二人も連れて帰ってきましたよ」なんて言ってるが、ぶっちゃけこのばあさんは相当にノリがいい人なので子供の遊びに付き合ってやってくれていると思っていたが、いよいよ泣き始めてそんなことを言うもんだから、本気にしている可能性もあるんじゃないかと心配になってきた。
「さっ、遊びはこんくらいにしといて。――八幡、せっかく来たんだ、泊って行くだろう?」
「ボケなのかついにボケが始まったのか分からんようなことはやめてくれよ………。いや、普通に明日も仕事だか―ピロン♪“明日と明後日の仕事はダミーです♡少し早めの夏休みを優しい事務員さんからプレゼントです♡帰ってきたらビシバシ働いてもらいますからね♡by闇金チヒロちゃん♡”……泊ってくわ。そこの二人も…」
ばあちゃんの質の悪い遊びとかちひろさんのメールのタイミングとか気味の悪い文面とか、もうなんか色々目をつぶって夏休みの部分だけ都合よく受け取っておこう。深く考えたら負けな気がする…
「やったれす~♪比企谷家の家系図に七海の名前を書き込むれすよ~!」
「今すぐしまってこい。そんなもん俺でも初めて見るぞ…」
「そこの二人なんて他人行儀な。いつものようにナギお嬢様と呼んでください」
「誰がハヤテだ。―――ばあちゃん俺の竿まだある?ちょっと釣り行ってくるわ。………お前らも来るか?」
悪魔からのプレゼントなのか罠なのかは分からないがせっかく得た夏休み、釣りでもしながらゆっくりと流れる田舎の時間を味わおうと思ったのだが、こいつらから目を離すとマジで何をしでかすか分からないので連れて行った方がいいかもしれないとすぐに思い直す。
「蔵にあるよ。ちょうどじいさんもいつものポイントにいると思うから数が釣れたら一緒に帰っておいで」
「若い男女と田舎の渓流、何も起きないはずがなく……」
「渓流釣りれすか!一度はやってみたかったんれす!!」
「なら浅利だけ行くか。久川はその辺で穴でも掘ってろ」
「あ、…嘘です!凪も行きます!」
久川の相変わらずの発言を無視してノリノリの浅利を引き連れって蔵に歩き始めると、焦ったように後ろを付いてきた。
「ひとまず外堀から埋める作戦は成功れすね…(ボソッ)」
「既成事実は年増組だけの技ではないですからね…(ボソッ)」
「なんか言ったか?」
「「いえなにも」」
「そ、そうか」