デレマスとのクロスオーバー『 基本はコメディ』 作:エビアボカドロックンロール
「残暑お見舞い申し上げるざんしょ。 渓流釣り装備に身を包む川ガール、久川凪です」
「立秋とか夏至とかそろそろ現代の四季に合わせるべきだと思うれす。 浅利川七海れす」
カナカナと鳴くヒグラシの合唱が山のあちらこちらに響き渡り、都会の暮らしでささくれた心をフラットに整えてくれる。
そして目の前をさらさらと流れる美しい渓流は抜群の透明度をもって太陽の光をきらりと反射し、川沿いの大きな岩に立ちポーズを決める久川と浅利を一枚の絵画のように美しく飾り立てる。――が俺にとってはヒグラシに癒された心を再びささくれさせてくれる以外の何ものでもない……
――確かに暦の上で秋が始まる八月八日の立秋以降の暑さは残暑と呼ばれるがこんなのむしろ本暑だろと言いたくなるし、夏に至ると書いて夏至は6月なんだから夏至どころか梅雨だし。味噌汁の一番のポイントはダシだし…
くだらないことをつらつらと考えながらどうかこれ以上めんどくさい事は起こらないでくれと祈る俺を、釣りが始まるのを今か今かと待ちかねる二人が頼もしい表情で釣り竿を担ぎぶんぶんと素振りをしながらにらむ。
「どうれす、この釣りバカ日誌スタイルは?」
「どうでしょう、この釣りキチ三平スタイルは?」
「はいはい世界一可愛いよ」
「……ありがとうれす」
「……わーお」
二人に言ってる時点で世界一も何もないと思うのだが言われた当人からしてみればそれも関係ないようでもじもじくねくねと可愛らしいリアクションを取ってくれている。ずっとそんな感じでいてくれたら俺も楽なんだがな。
あと釣りバカ日誌はしょっちゅう合体するし、釣りキチ三平のキチはキ〇ガイのキチなので両方とも子供が読むには問題があり過ぎると思う。
―――
「……七海はちょっとその辺をぐるりと見てくるれす」
「あー、俺からしたらいつもの景色でもお前たちには珍しいかもな。釣りの前に少し散歩するか?」
「やめてください。ひとりで自然を浴びたいんれす」
「お、おう。あんま遠くまで行くなよ…」
語気を強く言い含めた浅利は俺の注意を背中で聞きながら川の上流へ向かい歩き出してしまった。
俺は気を取り直して担いできた荷物から道具を取り出すと、川の水を汲むために岩を二つ三つと飛び越え川岸に降りた。
「カップとバーナー?お湯でも沸かすんですか?」
「ああ。ここの水流はほとんどが湧き水だからコーヒー淹れて飲むとうまいんだよ。んでこのポンプは濾過装置、そのままでも飲めるんだが念のためな」
「さすが孤独を極めし男。一人遊びのレベルが高い」
「…ほっとけ」
3人分の濾過した水が入ったヤカンを小型コンロに載せ火をつける。コポコポと音をたてて沸くお湯をぼーっと見ていると久川が遠慮がちにたずねてきた。
「凪は、…凪は世界一可愛いですか?」
「ばか言え。世界一は小町に決まってんだろ」
「むっ!!!」
なんですかさっきは世界一って言ったくせに。どうせ誰にでも可愛いって言ってるんです。Pなら野菜やその辺の石にでも可愛いって言いそうですね。
―――ノータイムで否定したのが気に食わなかったのか文句の言葉が出るわ出るわ。つーか、なんでもかんでも可愛いって言うのはむしろお前らアイドルの方じゃね?
「――ですが妹が世界一可愛いのは凪も同感です」
「だろ?世界一可愛いあいつが育っていく姿を一番近くで見続けられるなんてその時点で人生の運使い切っちまったわ…」
「長男長女の共通点があったのか、……なるほど、これが近親姦」
「違う、それを言うなら親近感だ。それだと俺が小町を女として見てるみたいになるだろ。神話においては近親相姦はバンバンあったみたいだがあくまでそれは作り話であって法治国家の現代日本でそんなことができるわけないだろ。いくら小町が女神的な美しさ……小町は女神?なら…大丈夫……なのか?」
「気持ち悪い妄想垂れ流している所悪いですが頭沸いてますよ。あ、失礼。お湯が沸いてますよ」
「……すまん」
気持ちの悪い妄想をぼろぼろとこぼした俺も悪いが久川の鋭い舌鋒は昂っていた俺の心を的確に破壊した。同じシスコンどうし親近感が湧いたと思ったのだが甘かったようだ。つーかこの事務所シスコン多すぎない?誰とは言わねえけど…
荒く挽いた豆をフィルターに入れたものをカップの上にセットしゆっくりと回しながらお湯を注ぐとふわりとこうばしい香りが広がる。
仕上げに練乳をドバドバと投入し混ぜれば、大自然の恵みマキシマムコーヒーの完成だ。
「ここまでこだわっても練乳を入れるんですね。Pがそれでいいなら別にいいんですけど……」
「ほら、お前らのもあるぞ。――まだ帰ってきてないが先に飲もうぜ」
「凪は猫舌なので冷めてからいただきます」
「……まあ、それでもいいんじゃねえか」
クーラーボックスに腰掛けコーヒーの香りを存分に楽しんだ後でまずは一口。うん、うまい。(孤独のグルメ感)
都会の川では考えられないほどに透き通った水がコーヒーのポテンシャルを最大限にまで引き上げている。さらには360度を緑に囲まれ、目に入るもの耳に入るもの全てから人口のモノが排除され心にへばりついていた最後のストレス(Made in千川ちひろ)が溶けて消えていくのが分かった。
――俺が飲み終わってもいまだに口をつけてない久川のコーヒーをもらい2杯分もの幸せを感じていると浅利が上流から戻ってきた。
「ふぅ~。ただいまれす~」
「おう、いい景色ばかりだったろ」
「はい♪とってもすっきりしたれす~♪ところでプロデューサーさんは何を飲んでるんれすか?」
「ん、お前も飲むか?川の水で淹れたコーヒー」
「………川の水れすか?」
川の水で淹れたと聞いた途端にご機嫌に釣りの用意をしていた浅利が身体をビクッと震わせて俺を見た。
「ああ、海で釣りする奴からしたらそこの水を飲むなんか信じられねえかもしれないが、この川の水はそのままでも飲めるうえに濾過までしてるから大丈夫だぞ。我ながらうまいコーヒーができたと思う」
「………凪ちゃんも飲んじゃったれすか?」
「いえ、凪は嫌な予感がしていたので飲んでません」
「は?」
「んー。プロデューサーさんなら別にいいれすかね……」
「むしろ喜ぶんじゃないですか?」
「え、なになに?怖いんだけど…、この川なんかあんの?」
「七海さん、Pに真実は言わないておいであげましょう」
「そうれすね。上流でお花を摘んでいたことは言わないであげましょう」
「………しょんべんするなら普通は下流に行くだろおぉ゛ぉぉぉぉ!!!!!」