デレマスとのクロスオーバー『 基本はコメディ』 作:エビアボカドロックンロール
「久川姉妹のツルツル担当。凪です」
「プロデューサーの水分補給担当。七海れす」
お前がツルツル担当ってことは颯は………とか考えちゃうだろ。…いや、考えちゃわないよ。考えちゃわないけど女の子がそんなこと言っちゃダメでしょ…
浅利は後でしばく。
場所は変わらず川のほとり。
日ごろの疲れを癒やすために渓流釣りに来たというのにパーティー編成を失敗したせいでへたくそなテトリスくらいストレスがたまるし居るはずの爺ちゃんはどこにも見当たらねえし…。疲れが取れるどころか子守のせいでまるでいつもと変わらない疲労感に襲われる。
「ところでピリ辛さん」
「俺の名前は比企谷だ。確かにお前たちに対しては注意してばかりだから辛口コメントになりがちだが、どちらかと言えば俺は甘党だし、俺の名前は比企谷だ」
「失礼。噛んだれす」
「違う、わざとだ…」
「噛んられす」
「わざとじゃない!?」
「アンタレス」
「さそり座!?…いや違う!お前はてんびん座だろ!」
「………プロデューサーさん全員の誕生日把握してるんれすか?正直キモイれす……」
「普通に傷つくことを言うな!」
上流ですっきりさせてしれっと戻ってきた浅利が恥ずかしさを紛らわすためか釣りの準備していた俺の死角から腰をツンツンと突っつきながら絡んできた。うっとおしいくすぐったい恥ずかしい可愛い。聖水コーヒーに関してはきちんと確認しなかった俺も悪いし濾過もきっちりできていて味は問題なかったので忘れることにした。別にいつもよりおいしかったとかそんなこと…ないんだからねッ!!
準備の終わった竿を浅利に渡して追い払うとそのまま餌のミミズをちょいちょいと触りながらおすすめのポイントへと小走りで向かっていく。
「ほれ、見えないところには行くなよ」
「もうっ!ずっと七海を見ていたいだなんて大胆なこと急に言わないれくださいっ♪」
「あーはいはい、もうそれでいいから気を付けて遊べよ」
適当に注意されぶぅぶぅ文句を垂れる浅利を見送ると自分の竿の準備を待ってましたとばかりに久川が近寄ってきた。
「次は凪の出番ですね。79999さん」
「俺の名前は八幡だ。勝手に1引くな。それともなに?囚人番号で呼んでるの?やめてね?」
「失礼。噛みました」
「違う、わざとだ…」
「あみまみだ」
「大先輩双子アイドル!?違う!お前は久川姉妹だ!」
「それよりP。凪の釣り竿の準備はまなかな?」
「まだかな?みたいに言うな。ここぞとばかりに双子を活かすんじゃねえよ」
俺もたいがい自然を堪能してリラックスしているが久川に至ってはもはや自然と一体化してるんじゃないかというほどに解放されて奔放な発言が次々へと飛び出してきている。いやまあそこが可愛いんだけど。東京でも割と、いや、かなり自由な方だったと思うがそれでもそれはこいつの内なる凶器の一片だったのかもしれない。
まだまだ年の若いの彼女が徳島の田舎から出てきて自然が恋しいのは正直痛いほど分かるので、これほど喜んでくれるのなら定期的に自然を補給してやってもいいかもしれない。
――誰しもが都会に憧れて上京してきているなんてのは傲慢な勘違いだ。そこでしか掴めない夢があるから生まれ育った故郷にしかない大切なものを捨ててそこで頑張ることを彼女は選んだ。その中で自分でも気づかなかったようなストレスがたまることもあったのだろう。プロデューサーとして支えると約束したのだから彼女たちのケアは俺の仕事だ。
「ハッ!自然?この山のどこに自然があるというのですか?木材産業として使われることを前提としたスギやヒノキばかり、人によって作られたお金儲けのための山。――こんなもの断じて自然とは認められません……しいて言うならここにあるのは不自然です」
「いや、あの…」
「自然を守るだとか環境保護だとか、便利な文明の利器を享受するくせに他人の意見を引用するだけでまるで自分が世の中に一石投じたかのように勘違いする思考停止人間なら喜ぶかもしれませんが凪は騙されませんよ」
「――ここは代々ウチの私有地だからほとんど人の手は入ってないんだわ……。前回浅利がインパクト残したからってお前も対抗しようとしなくていいんだぞ?」
「………初めてですよ…ここまで私をコケコッコーにしたおバカさんは…」
「フリーザ様に焼き鳥でも食べさせたのか?」
心配して損したわ…。まじで。俺にしては珍しく殊勝なことを考えて決意を新たにしてたりしたんだけどな。
眉をひそめて低い声でつらつらとくだらないことを語る久川も別にこれと言って崇高な理念などあるわけではなく、それこそ聞きかじったことをそれっぽく言っているだけなんだろう。
「前のロケで行った都会でできる自然体験の時にPが言っていたんですよ…」
そーでした、俺でした。
や、自分で言ってるときはなんとも思わなかったが人から聞くとひどいな…。―――ってことはさっきのは俺のマネか?全然似てねえけどむちゃくちゃ可愛いなおい。
あきれ顔の久川は準備の整った竿をぽちょりと川に投げるときょろきょろと辺りを見渡し大きな岩を見つけると指をさして俺を見た。
「凪は椅子がないとゆっくりできないタイプです。Pには椅子になる栄誉を与えましょう」
「…休日の親子みたいだな。―――別にいいけどよ」
「ではそこに四つん這いになってください」
「女王様かな?」
――――――
あぐらで座るPの上に深く腰かけ一本の竿を二人で握りながら(Pの)竿先に意識を集中させます。一見すると細身に見えるPですが、触れてみると意外と筋肉質な暖かい大きな体に包まれ田舎に置いてきたヨギボーを思い出します。
もぞもぞと動きどうにも集中できていない様子のPを無視して浮きを見ているとぷかぷかと川に流れる浮き(先っちょ)がツプっと沈むのを捉えました。敏感になっていた凪の身体が(魚がヒットしたのを)感じます。
魚(凪)の体力を奪うようにじわじわと責め立てながらリールを巻きあげ、近くまで来たところで竿を立たせて釣り上げた魚を手元に引き寄せます。生命力全開でビクビクと元気に跳ねる魚から針を外しクーラーボックスに入れると狭いその中を再び元気に泳ぎ回る姿に塩(潮)を禁じえません。
「お前を川にほり投げた方がいい気がしてきた…」
「おっと、それよりこれは何という魚ですか?」
「……イワナだ。塩焼きにするとうまいぞ。まあ川の魚はなんでも塩焼きにしたらうまいんだけどな。特にウチのジジイは釣ってそのまま――」
Pが本気でキレそうになったので適当に話を逸らすと思いのほか喰いつきがよく魚もこれくらい簡単に喰いついたらいいとおもいましたまる。……おじい様との思い出話を語るP可愛すぎかよ。後でグループラインにあげておきましょう。家系図の写真をアップした時はみんなが私の分も書き込んでおいてと大変なことになりました。もちろん無視しましたがなにか?
――――――
「――釣ってそのままその場で捌くんだ。んで、骨を絡めるように串打ちしてたき火をぐるりと囲むようにぶっさす。ここで注意しないといけないのはヒレにしっかり塩を塗り込むことと背中側から強火で一気に焼くこと。背中側が焼けたらひっくり返して日から少し遠ざけてゆっくりと―――」
「―――んでジジイが言うには―」
「―――しかもその時のジジイのどや顔が―」
「あの、おじいさまとの思い出を語るPの可愛さは十分過ぎるほどに伝わりましたよ……。それよりそろそろ釣果も夕飯に事足りるのではないですか?」
………ジジイの悪口で盛り上がってるうちに随分と時間がたってしまっていたらしい。
俺にまるで玉座のように深く腰かける久川は1匹目以降も順調に釣果を伸ばしていたようでクーラーボックスを見てみると10匹以上の魚が所狭しと互いを押しのけながら泳いでいる。
「イワナにウグイにアユ。よくもこんなまんべんなく釣れたもんだな…」
「合わせてイグアナですね。凪もイグアナを食べるのは初めての経験です」
「…間違っても古賀の前でイグアナ食ったなんて言うなよ?」
うまいこと言ったみたいな顔でこっち見てんじゃねえよ…
せっかく活きのいい魚が目の前にあるのでさっそく捌いてここで塩焼きにしようと思う。ウロコ、エラ、内臓を綺麗に取り除きたっぷりと塩を塗り込み串打ちを3人分+念のためにジジイの分も準備し、あらかじめくべていたたき火の周りを囲むように差し込んでいく。
ぱちぱちと音を立てるたき火に熱せられた空気によってふわりと広がる魚のいい香りが川をそよぐ風に乗せて山の緑へと吸い込まれていく。
「つーか浅利はどこでやってんだ?あれほど目の届くところにいろって言ったのに…」
「ぴ、P!!川の水が!」
「は?何言ってん…だ……!?」
大きな声を出す久川が珍しくよほど珍しいものでも見つけたのだろうと川に目をやる。火を見続けていたから目がおかしくなったのかと思った。映画でしか見たことがない水面に赤色のペンキをぶちまけたような本能的に絶望を感じる色彩がそこにはあった。
上流から絶えず流れてくるそれは血以外の何物でもなく一瞬動きが遅れたもののすぐに足は動いてくれた。
「お前はここにいろ!様子を見てくる!!」
「嫌です!凪も行きます!!」
たき火に手を突っ込み火のついた木を握る。熊や野犬の類いがでるとは聞いたことはなかったが万が一のことを考えて武器が必要だと判断した。出血量から見てもう手遅れかもしれないことは分かっていた。
片時も目を離すべきではなかった…!
砂利の道を全力で走り切り立った崖をよけるために森に突っ込んでいく。木の枝が頬を切り血の垂れる感覚がするが速度を緩めるわけにはいかない、一秒でも早く浅利のもとに駆け付けたかった。
――森を抜け崖の反対側へと出ると一番に目に入ったのは水面にぷかぷかとうつぶせに浮かぶ浅利と水際にいる大きな熊だった。
「あ……浅利ぃぃぃいいい!!!!」
――――――
―今回のオチ。
浅利の安否確認の前にそれっぽいネタを使ったから地の文もそれっぽくすべきだったことに今さら気が付いた、気が付いてしまったら訂正して然るべきだとは思うのだがこれしきのことで叱られることもあるまいと放置してしまっていた。別にめんどくさかったわけでも自分のミスを認めるのが嫌だったわけでもない。あえて言葉にするなら早くこの出来事をみんなに知ってほしかった、そんなところだろう。
ともあれ目の前の光景について事細かに説明するつもりはことさらなく、ただ俺が感じたままに語っていこうと思う。読者の皆様にはぜひ、勘違いに肝を冷やした哀れな俺の姿を笑っていただきたい。実のところあくまで俺は道化に徹していたということにでもしないと勘違いした時に胸に押し寄せたあの喪失感を別の何かと勘違いしてしまいそうになるからと言う理由が一番大きかったりする。――相手はアイドル、誤解を恐れずに言うならわが社の商品なのだから大切に思うのも当然のことだろう…。少なくとも今はそんな言葉を自分に言い聞かせることでしか落ち着くことはできなかった。
浅利はすっと立ち上がり汗だくで森から現れた俺を見て変質者を見つけたような声を上げる。
「わわっ!なんれすか!?」
「へ…?」
「ま、まさか七海がまたお花を摘んでると思って見に来たんれすか!?ド変態れす!!」
「お前!?どこも怪我はないのか!?」
ふいに浅川から変態扱いされた気がしたが人生で初めて出したんではないかというような大声に耳がおかしくなったのかもしれない。
川の中から元気いっぱいに身振り手振りで何かを伝える浅利に走り寄り怪我はないかと上から下まで何往復もしながら入念に確認する。何かをこらえるように身悶え吐息をこぼす浅利の無事を確認しようやく冷静さを取り戻すことができた。
「おう、どうした八幡。みっともない大声出して」
「…何してんだよジジイ。釣りしてるんじゃなかったのかよ…」
「そのつもりで山に入ったんだがよ、どうにも熊の足跡を見つけちまったもんだからこれは仕留めるしかねえって思ってな」
「思ってな。じゃねえよ…」
熊の陰に隠れて見えなかったがジジイもそこにいたようで久しぶりに顔を見る孫だというのにひょうひょうと話しかけてきた。どう見ても手ぶらなんだがいったいどうやって熊を仕留めたのかは考えないようにしよう。
「血抜きをしようと思って熊を担いで川まで来たらそこの可愛いお嬢さんがいてな。興味深そうに見てるもんだから声を掛けたらその拍子に服に血が付いちまったんで川で洗ってもらってたのよ」
「プロデューサーのおじいさまだって一目でわかったれす♪」
まずジジイより先に熊に気を付けた方がよくないか…?まあ機嫌よさそうに水浴びをしてるので気にしないことにするか。つーか下流で俺たちが釣りをしているって知ってんだからジジイに一言くらい注意してくれてよ。
「P!!大丈夫ですか!!!」
「…ああ、久川か。……久川は可愛いなあ」
息も絶え絶えようやく追いついた久川が肩で息をしながら現れる。髪や服についた木の枝を取ってやりながらその柔らかい髪を整えるように2度3度と撫でつける。
「な、なんですよかその手は。あまり無遠慮に撫でないでください…」
「…わりい。もう二人で帰るか…」
「――Pがどうしてもって言うなら……帰ってあげなくもないです…」
「縁側でスイカ食おうぜ」
「あ、ひ、膝枕してあげましょう…!」
「世界一贅沢な枕だな」
「おじい様!あっちの方から焼き魚のいい香りがするれす!!…この香りは…イワナれす!!」
「よく分かるねえお嬢ちゃん。よしっ、熊も捌いてステーキも焼いちまおうか!」
評価嬉しいです
ありがとうございます