デレマスとのクロスオーバー『 基本はコメディ』   作:エビアボカドロックンロール

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単短編渋谷 八幡「事務所内に乱気流が発生してる気がするんですけど……」ちひろ「はて?武内さんのデスクから私の方に風が向いてるのはコンセントの位置の問題ですけど何か?」

 

 

「ずいぶんおしゃれな扇風機ですね。事務所用にわざわざ買ったんですか?」

 

「違いますよちひろさん。これは扇風機じゃなくてサーキュレーターって言うんです。―――まあちひろさん世代の人からしたらどっちも一緒でしょうけどね…(ボソッ)」

 

「…そんな回りくどいことしなくても死にたいならいつでも殺してあげますよ?」

 

「ただの軽口でいちいち始末しようとしないでくださいよ……。涼むためというより空気の循環用らしいです」

 

 

 オリンピックが仮に開催されていたとしてもテレビの前で観戦する以外の選択肢はなかっただろうなと確信が持てるほど日本の夏が本格的に猛威を振るい始めた盆前の東京。

 穏やかな口調とは打って変わって修羅とか鬼神とか般若とかなんかそんなバキに出てきそうな感じでお茶目にキレるちひろさんが俺のデスクにおいてある扇風機を見てうらやましそうに言った。つーかサーキュレーターってなんだ?扇風機じゃダメなのか……、千石撫子ちゃんくらいしか使わねえんじゃねえの?せーのっ

 

 

「ふーん?」

 

「誕生日にもらったんです」

 

「あぁ、あの所属アイドル200人斬りの時にもらったやつですか」

 

「―――1人ずつ時間を取って話をしただけで別になんもなかったですから……」

 

 

 あれは不幸な事件だった。

 いや本当のことを言うと、二人っきりの時じゃないと言いにくいような本音や感謝の気持ちを言う、…終わってみれば実にハートフルな企画だったわけだが。

 独身の熟れた肢体を持て余し、いかがわしい妄想しかできないちひろさんはあれ以降、責任や既成事実などありもしないものを俺に背負わせようと画策していた。年少組のほほえましいイタズラもちひろさんの灰色の脳にかかればまるで年端も行かない少女たちがガチで俺を狙っているように見えてしまうのだから手の施しようがない。

 

 

「まあそんな戯言は置いといて、誰にもらったんですか?」

 

「戯言って…。ほらそこにいるじゃないですか」

 

「ふーん、アンタが私のプロデューサー?……まあ、悪くないかな…。私は渋谷凛。―――ねえ、いまさら初登場って遅いんじゃない?」

 

 

「………ほらちひろさん、こういうのが戯言って言うんですよ」

 

「………凛ちゃんからのプレゼントだったんですねー。こう言っては何ですがもっとエグいものをあげたんだと思ってました……処女とか…(ボソッ)」

 

 

 ちひろさんが最後に何を言ったのかは聞こえなかったし聞きたくもないけど確かにキャラがたっているはずの渋谷が出てくるにしてはずいぶん遅かった気がする。島村?あいつはカオス過ぎて出禁だ。

 

 

「甘いねちひろさん。――プロデューサーの横にサーキュレーターを置いて私は風下に座る、こうすればわざわざ自分から嗅ぎに行かなくても匂いの方から私のほうに来てくれるんだよ…。もはやプロデューサーに包み込まれているといっても過言ではないよね?」

 

「なるほど、プレゼントとして渡しつつも自分のメリットはしっかりと確保していると…、策士ですね凛ちゃん。」

 

「――なんでちょっとちひろさんも理解を示してるんですか…」

 

 

 事務所内には女性が多くてエアコンの温度が少し高いから男の俺には暑いだろうからって言って渡してくれたあの感動は何だったんだ。狂犬が成長したなあ、これからは大人しくなるかもなあ、とかなり喜んだっていうのに。

 ここのところ俺が事務所にいる間はずっと周りに渋谷がいるなあ~、くらいには思っていたがまさか四六時中匂いをかがれていたとは……

 

 

「――つまりさ、この2週間の間毎日プロデューサーから出た粒子を肺いっぱいに吸って肺胞から毛細血管内に吸収され手足の隅々まで行き渡って代謝を経て私の一部、いや、全部になったと言っても過言ではないと思うんだ。だからプロデューサーと私の関係は生物学上は血の繋がってない親子とするのが一番正しいと思う、それで親子は一緒に住むべきだと思うんだけど今日から行ってもいいよね?あっ、親子って言っても血は繋がってないから結婚はできると思うよ。むしろこの2週間プロデューサーの粒子を吸い過ぎて授かった気がするから授かり婚ってことになるのかな?――」

 

「………いやもう言いたいことは山のようにあるけど、うん、年齢的に結婚できないから無理。――つーか俺は養ってくれる人と結婚するんだよ」

 

「いえ比企谷君、ウルグアイでは女性は12歳から結婚可能らしいですよ?それに収入的にも比企谷君を養うことは十分に可能かと。」

 

「えっ!ちひろさんそれほんと!?う、ウルグアイの国籍取らないと!!」

 

「ハッ!残念ですね!その法律は2012年に同性婚法案の可決とともに引き上げられたんですよ!」

 

「あらら、そうだったんですか。……でもおバカさんは見つかったようですね?」

 

「は…?」

 

 

 渋谷は怖いからいったん置いておくとして…むしろずっとはるか彼方へ追いやるとして……

 

 ちひろさんの悪魔のような援護射撃を自信満々に一蹴してもさほど残念でもなさそうに意見を撤回すると、出荷される直前の豚を見るような目を俺にやった。

 

 

「比企谷君はそもそもどうして世界で一番低い年齢で結婚できるウルグアイの法律なんか知ってるんですか?わざわざ調べたことがあるってことですよね?」

 

「…ッ!!」

 

「ぷ、プロデューサー?12歳とかダメだよ?小学生と結婚するのは…犯罪なんだよ……?」

 

 

 鬼の首を取ったように鬼みたいな顔の悪魔が肩にかかる髪をさっとはらって決定的証拠を示す検察官のように言い放った。

 しかしそれは俺にとって致命的と言えるほどにダメージのある言葉ではないことを俺だけは知っていた。…知ってはいたがこれを言うと別の意味で致命的になりそうなので言うかどうかの判断が瞬間的にできず口ごもる結果となりそれが絶体絶命かのような間になってしまった。

 

 あと渋谷は自分のこと棚に上げ過ぎて棚の上が大混雑してるぞ。

 

 

「………昔ちょっと血迷って同性婚について調べたことがあったんですよ。――いや、ぶっちゃけ戸塚が可愛すぎてかなり本気だったんですけどね……」

 

「……」

 

「……」

 

「は、八幡……。ぼ、ぼく男の子だけど…いいの?」

 

 

「え…?トツカ?――トツカナンデ!?」

 

 

 事務所のあちらこちらから鼻血が噴き出すのが見えたがそれより目の前に天使が首をかしげて俺のプロポーズに応えようとしてくれてるのだからこちらも姿勢を正して誠心誠意待つのが男ってもんだろ。もうゴールしてもいいよね?

 

 ……まあそんなうまいこと(うまいこと?)行くわけないのがこの事務所、鼻血を拭くこともせず俺と戸塚を一心不乱に写真や動画に収める連中、俺に群がってきて挨拶より安い勢いでプロポーズを連発する連中、とてもアイドル事務所とは思えない罵詈雑言が飛び交った。その後に多数のカウンセリングが(俺含め)必要になったのは言うまでもないし言いたくもない……

 

 ちなみに戸塚はマストレさんとどっかの講習で出会って意気投合して、アプローチを変えたトレーニングを一緒に考えるために事務所までたまたま来ていたらしい。…これからもちょくちょく会えるってことか?やだ、うれしい。

 

 

 

――――――

 

 

 

ちひろ「アラブ首長国連邦では法律上は親の許可さえあれば何歳からでも結婚可能らしいですよ」

 

「「「アラブ…」」」

 

ちひろ「それと一夫多妻制らしいですよ」

 

「「「合法ハーレム…」」」

 

ちひろ「一般市民は4人ほど王族でも10人までらしいですよ」

 

「4人もいれば七海は間違いなく入れるれすね~」

 

「ふーん、私が第一夫人?まあ、悪くないかな…?」

 

「べ、別にスケコマシガヤ君がパートナーである私を妻にしたいのなら考えなくもないけれど…」

 

「千枝は…千枝だけを死ぬまで愛し続けてほしいです……」

 

「アラブにツテはあったかしら…。いえ!やるのですわ!八幡ちゃまはわたくしが王にして差し上げますわ!」

 

 

―――

 

 

八幡「うおッ!!」

 

凪「どうかしましたか?」

 

八幡「いやなんでもない。悪寒が、…人生の墓場が群れを成して目の前に迫ってるような悪寒がしただけだ」

 

凪「…そうですか、凪を心配させるのは感心しませんよ。――お詫びに今後Pがパートナーを4人選ばないといけない時が来たら真っ先にはーちゃんと凪を選ぶことをここに宣言してください」

 

八幡「…心配してくれてありがとな。何のパートナーかは知らんが4人選ぶならお前ら姉妹から選ぶとするわ」

 

凪「誓いますか?」

 

八幡「おう、誓う誓う」

 

凪「おーけーです。ばっちり録音できました」

 

八幡「ん…?」

 

 


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