デレマスとのクロスオーバー『 基本はコメディ』 作:エビアボカドロックンロール
経験したことのないほどひどい頭痛によって起床した私は、むずがりながらゆっくりと布団をかぶりなおし子猫のように身体を丸めます。
「うぅ。頭が割れるように痛い…」
それでもなんとか布団から頭だけ出して外の様子をうかがってみれば、カーテンの隙間から差し込む光はすでに太陽が仕事をし始めていることをこれでもかと示し、さらには小鳥がちゅんちゅんと鳴いたりしてるものですからいっそのことがばっと起きてしまえば素敵な朝を過ごせるのではないかと思います。
いつもならここですっと起きることはそれほど難しいことではないのですが、なぜか今日はやけに身体が重く枕も私を離してくれません。抗いがたいのはこの高級ホテルのようなベッドの魔力でしょうか
確か今日は朝も昼も自由行動だったはずなので、なら二度寝をするのも私の自由なはずです。
なかば自暴自棄になっているとふわりとやけに落ち着く匂いを感じ、出どころを探るようにごろりと寝返りを打ちました。そして私はようやくその存在に気が付きました。
「あれ?どうして私、比企谷さんの腕枕で寝てるんだろ…」
やけにちゅんちゅんと鳴り響く鳥のさえずりを聞きながら、私、三船美優はもう一度その枕へと身を委ねました。せっかくなので目の前にある素敵な抱き枕も使っちゃいましょう。私の中の天使と悪魔も肩を組んでGOサインを出してくれてます。
………いえ、現実逃避している場合ではないですね。
えーっと、昨晩はたしか――
ーーーーーー
ホテルの大広間に集まったのは成人済みのアイドルと+事務の方たち。
ビールに始まりハイボールに各種サワー。果ては日本酒に焼酎。あるいはワインにウイスキー。
良い子は寝る時間をまたぐと同時に始まった大人たちだけの飲酒に次ぐ飲酒もすでに2時間が経過したというところでしょうか。
昼間から飲んでいたことには飲んでいたのですが子供たちの手前、だめな大人のお手本を見せるわけにもいかなかったのか、皆さんずいぶんとお上品にのんでいたのでその反動が来ているみたいですね。
かくいう私もすでに意識がもうろうとしてきていますが、そんな中でも比企谷さんのお隣をしっかりと確保しているのは本能の成せる業でしょう。
さらには畳の大広間である都合、比企谷さんはあぐらをかいてるものですから太ももをさすったりできてこれは極めてベストポジションです。要所にあーんなどをはさみながら私もついお酒が進むってなもんです。日本酒、美味でございます。
比企谷さんを挟んで反対側には心さんが座っており今も「はーとのお酒が飲めないっていうのかよ☆」なんて甲斐甲斐しくお酌をしています。
デレデレと、……いえデレデレとはしていませんが、いずれにせよ他の女からお酌をさせるその姿を見ているとおちょこを奪い取って飲み干してやろうかなんて考えてしまう私は悪い女です。
「あの、さっきから俺の酒奪わないでもらえません…?」
「はひ、なんれすか?」
「なんだこの可愛い生き物は…、浅利みたいになってるし…」
すいません。実はわざとです。
そんな風に独占欲を満たしながらお酒を楽しんでいると一升瓶をかかげた瑞樹さんがやってきました。
「飲んでるかしらーハチくぅーん♡」
「残念ながら美優さんのせいで全然飲めてないんです」
「えっ、あっ、ご、ごめんなさい…」
「冗談ですよ美優さん。ちゃんと楽しく飲んでますから」
瑞樹さんからの質問に沈んだ雰囲気で答える比企谷さんに、やり過ぎてしまったかもしれないと思い急いで謝ると、一転していじわるな顔でニヤリと笑うものですから、酔いも手伝い良くないスイッチが入ってしまいました。
「ふふ♪仲がよさそうでうらやましいわ♪」
「い、いえ、私たちはあくまでおなじ事務として親交を深めていただけで」
「そうですよ瑞樹さん。だいたい職場で恋愛なんてありえないで―グハッ!!!」
おっと。つい手が出てしまいました。
見渡してみれば決して少なくない人数が何かしらをこちらへ投げつけていたようで比企谷さんはコンボ技を喰らったようにリズミカルに悶えています。
ところで今さらなのですが、皆さん狩人のような目で私と心さんを睨んでいます。席順に関しましては比企谷さんが決めたものなのでこんな怖い顔で睨まれても困ってしまいます。とりわけ茄子ちゃんと時子ちゃんはとてもアイドルのしていい顔ではないですね。ほら、時子ちゃんそんなんじゃ仁奈ちゃんに泣かれちゃいますよ?
「またハチ君はそんなこと言ってー。ほらお姉さんが楽しいお酒の飲み方を、教えてあ・げ・る♡」
「ははっ、酔ってるとそれも可愛く見えるから不思議ですね」
「ふふっ、しばくわよー♡」
「…すみません」
「まったく、失礼しちゃうわ!」
パシッと比企谷さんの頭を叩き向かいに座った瑞樹さんは、手酌でおちょこに日本酒を注ぐと、それを勢いよくグイっと飲み干しました。
そして空になったおちょこを比企谷さんに渡し、とても美しい所作でそこに徳利を傾けていきます。
「高知の返杯ですか…」
ポツリと呟き、んくっとこちらも一息に飲み干した比企谷さんはかかってこいと言わんばかりの表情で瑞樹さんへとおちょこを戻し、溢れるほどに日本酒を注いでいきます。やだ、かっこいい。
繰り返されること数度。
………流れるように行われる間接キスは止める間もなく繰り返され、気が付けば瑞樹さんの後ろにはアイドルがおちょこと徳利を手に列を作っていました。
それぞれが数度の返杯の後に満足気に比企谷さんを囲むようにその場に座り込んでいきます。ご自分の席でお料理を楽しんでいればいいのに……
先ほどまでの雰囲気とは打って変わって比企谷さんの周囲はとても姦しく会話が飛び交うようになりました。
比企谷さんを中心に円になっているので、私のポジションはまるで正妻。これはこれで悪くないですね。反対隣りに心さんもいますがどう見ても賑やかしなのでやはり正妻は私で間違いないでしょう。
皆さん存分に間接キスを楽しんでいましたし、ここで妻として見せつけないといけませんね。
「あー、飲み過ぎた。20人以上は返杯したんじゃねえか?」
「むーっ!比企谷さんそんなたくさんのアイドルと間接キスしたんですかっ!」
「なんでなすびがそんな怒んだよ…。間接キスとか気にする歳でも………、今のなし」
「いい度胸ね八幡君…レディーの前で年齢の話をする悪い口はこれかしらー?!」
「痛っ!ぎ、ギブです!すみませんっ早苗さん!!」
禁句を口にした比企谷さんはお姉さま方に囲まれもみくちゃにされてしまいました。
妻として見せつけるとは意気込んでみたものの酔いが進んでぼーっとした頭では早い流れに割り込んでいくこともできず、見ていることしかできない自分が情けないです。
…おもむろにキスとかしたら。ダメでしょうか?
思い立ったが吉日。
景気づけに徳利に残っていたお酒をそのまま口に流し込みます。
「あら、美優ちゃんどうしたの?」
「おいおい怖い顔になってるぞ☆」
「み、美優さんでもここは通しませブベラッ!」
瑞樹さんと心さんの横を通り抜け茄子ちゃんをはじき飛ばし、不思議そうな顔で私を見上げる比企谷さんの前に到着です。
「ど、どうしたんですか?………なんで無言!?」
あぐらをかく比企谷さんの膝へと向かい合って座り込みます。ちょうど対面座位のような恰好です。
お互いに浴衣で対面座位などしてるものですから傍目にはどう見られてるのでしょう。恥ずかしくて興奮してしまいますね。
このまま比企谷さん首とか絞めてくれませんかね?今ならそれだけで……
「え…?あの、美優さん…?」
とゆーかこの人はこれだけの女性に囲まれていてどうしてこうも警戒心が薄いのでしょうか…
しかしそれも今の私にとっては都合がいいです。
両手で頬を固定し少し傾け、あとは勢いです。
えいっ
カチッと頭に響いた音は歯がぶつかった音でしょうか。
舌を使って強引に歯をこじ開けそこへ口内に溜め込んでいたお酒を一気に流し込んでいきます。少なからず私の唾液が混ざってるであろうその液体をです。
「ん!?んんん゛!?ん…!―――ゴクリ」
姦しさはどこへ行ってしまったのか。痛いほどの静寂の中、私から注ぎ込まれたお酒を嚥下する音が妙になまめかしく大広間に響き渡ります。
「え、えへへ。いっぱい出ちゃった…」
あれ?なんか身体がふわふわして。あ、倒れちゃ…う………
ーーーーーー
八幡「っとと。爆弾落とすだけ落としてぶっ倒れやがった…」
瑞樹「さすがハチ君。ナイスキャッチね」
八幡「どうも。このままってわけにもいかないんで寝かせてきますね」
瑞樹「送り狼になっちゃだめよー?」
八幡「さっきの見てました?襲われたのは俺ですからね?」
茄子「って!ちょっとちょっと!何を普通にしゃべってるんですか!!?今キスしましたよ!?」
八幡「はぁ。お前も後でしてやるから今は黙ってろ…」
茄子「ふぇっ!?」
瑞樹「こーら、年下の女の子をおもちゃにしないの」
八幡「…すみません。それじゃあいったん失礼します。……よいしょっと」
茄子「み、瑞樹さんよく落ち着いて話せましたね…」
瑞樹「瑞樹もうなんにもわからないわ」
茄子「あ、全然大丈夫じゃなかった」