デレマスとのクロスオーバー『 基本はコメディ』   作:エビアボカドロックンロール

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単短編武八 楓「女装で飲み行くのはよそう♪」武内p「…すみません、比企谷君」

 

 

 鴉の濡れ羽色の髪は闇夜のように光を吸い込み肩のあたりまでさらりと流れ、綺麗に分けられた前髪の奥に覗く切れ長の目は退廃的な雰囲気を漂わせている。

 口元に浮かぶ歪んだ笑みはその魅力をなんらおとしめることはなく、むしろ見るものに未知の感情を呼び起こすほどです。

 

 ふんわりとしたシルエットのファッションはその奥に隠されたボディラインを勿体つけるように覆い隠し、表情とのギャップのせいで意図したものかは分からないが老若男女問わず情欲を呼び覚ますほどにコケティッシュを感じさせる。

 攻撃的な音を立てるのは足元のピンヒールか、それとも内心に隠された本性が故でしょうか。

 

 上から下までじっくりと観察したところでふと彼女と目が合う。

 

 

 

 ……というか、比企谷さんでした。

 

 

「え、マジでこれで飲みに行くの?なんか鏡見るたびに母ちゃんがいるみたいで嫌なんですけど……」

 

「―――お似合いですよ比企谷さん、いえ、比企谷ちゃん♪」

 

「美優さん……」

 

「あっ、その切なそうな表情最高です。バックからガンガン責めたくなります」

 

「えっ……」

 

「しゃ、写真撮ってもいいですか…?」

 

「……い、いや」

 

「もっと嫌がって!でも笑顔でピースして!!」

 

「……や、やめてぇ!」

 

 自分より10センチ以上大きいはずの比企谷さんが今日はとっても小さく見える。

 血管が切れそうなほどの興奮はふるふると振るえる獲物を目の前に到底抑えきれるものではなく、一歩また一歩と比企谷さんを壁際へと追い込んでいく。

 その間も比企谷さんはふるふる、ふるふる。LINEとか交換できちゃいそうですね。

 

 いつもは頭上から見下ろすように感じるその視線が今日だけはなぜか上目づかいに私を捉える。

 いえ、それは私がすでに比企谷さんを床へと追い込んでいるからですね。

 

 もはや自分の口から出る言葉がR18を超え、とても人には見せられない表情になってきたあたりで後頭部にパシッと鋭い痛みを感じた。

 

「いい加減にしなさい」

 

「あいたっ」

 

「ほら、八幡ちゃんもこんなに怯えちゃって。よしよし怖かったねぇー」

 

「…うん」

 

「ちょっ!」

 

 私の後頭部をはたいた川島さんは、壁際でへたり込んでしまった比企谷さんに視線を合わせるとゆっくりとその大きな胸に比企谷さんの頭を抱え込んでしまった。

 比企谷さんの髪の毛へと鼻先を押し付ける川島さんがちらりと私に送った視線に浮かぶ感情は何だったのでしょうか。

 

 小鹿のように怯える比企谷さんはその視線に気づくことはなくされるがままに頭を撫でられ続けています。

 まあ怯える小鹿なんて見たことないんですけどね。

 

「瑞樹お姉さんが来たからもう安心だからね?」

 

「…うん。瑞樹お姉さん、好き」

 

「瑞樹お姉さんも八幡ちゃんのこと大好きだからねー」

 

 鳶に油揚げをさらわれるとはこのことでしょうか。あるいは泥棒猫。

 鳥なのか猫なのかはっきりしてほしいですね。

 

 私でも好きなんて言われたことないのに、いとも簡単にその言葉を引き出す手練手管には嫉妬より先によくもうまくやったもんだなと感心してしまいます。

 

 

「―――って、やめてください。なんですかこの茶番」

 

「あら、演技だったの?八幡君も楽しんでたように見えたけど?」

 

「美優さんが変なノリを始めたから付き合ってただけですから……」

 

「え」

 

「え?」

 

「あ、いや。―――すみません。興が乗りまして……」

 

 ……どうやら私は比企谷ちゃん、もとい比企谷さんに手のひらの上で転がされていたようです。

 

 ふと我に返り先ほどまでの痴態を小芝居だったことにして話を逸らすようにしましたが、川島さんにはバレバレのようでジトッとした目で見られてしまいました。

 思えば割り込んできたのではなく見てられなくなって助けに入ってくれたのかもしれませんね。抱きしめたのも行きがけの駄賃のようなものでしょうか。

 

「だいたい飲みに行きたいからって女装までさせますか?武内さんがするなんて言ったら俺が断れるわけないじゃないですか……」

 

「あー……」

 

「……わかるわー」

 

 そもそも女装するきっかけを作り出してしまった武内さんの話になり、私と川島さんは口ごもることしかできなかった。

 

「何かあったんですか…?」

 

「……武内さんは楓ちゃんと二人で飲みに行くことになったじゃない?」

 

「まあ、馬に蹴られる趣味はないですからね……」

 

 武内さんが楽しそうに比企谷君を口説いている一部始終を目撃してしまった高垣さんは、今までそんなに熱心に自分のことを誘ったことないのに、とへそを曲げてしまいました。

 事務所一番のスターのご機嫌を損ねたままにしておくわけにもいかず、武内さんは発言の責任を取る形で女装して二人で飲みに行くことを蚊の鳴くような声で受け入れたのでした。

 

 そこに鳶が油揚げをさらう形で比企谷さんを手中に収めたのが私たちになります。

 上司だけに恥をかかすわけにはいかないと自分も女装で飲みに行くことを宣言する比企谷さんの横顔は、これから待ち受ける苦難を微塵も感じさせない雄々しいものでした。

 

「あのね?怒らないで聞いてね?」

 

「なんですか?この格好で怒っても情けなくなるだけなんで大丈夫ですよ」

 

「楓ちゃんと武内さんなんだけどね。………ダメッ!私には言えない、美優ちゃんお願い!」

 

「わ、私ですか!?―――比企谷君、落ち着いて聞いてくださいね?」

 

「これでもかと落ち着いてますよ。女装姿で興奮してたらもうアウトですからね…」

 

「………最初は武内さんに女装してもらったんですけど。こんなでけえ女がいるかってことになりまして」

 

 耳をふさいで背中を向けてしまった川島さんより託された悲しい事実を比企谷さんへと告げるのに、幾分かの心の準備が必要でした。

 北斗の拳?と控えめにツッコミながら比企谷さんはきょとんと首をかしげ私の言葉を待っています。

 

 

 

「……楓さんが男装すればよくない?という結果になりました」

 

 

「怒らいでか!!!!!」

 

 

 

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