デレマスとのクロスオーバー『 基本はコメディ』 作:エビアボカドロックンロール
へとへとでござる……
ハロウィン激動編in346がようやく終わり、“帰ったらビール飲むんだ”などとフラグをばっちり立てながらの帰り道。
コスプレだのトリックオアトリートだのは今日1日で一生分味わい尽くしたのでもう勘弁してくれとの思いもむなしく、ハロウィンは否が応でも視界を犯してくる。いつからこの国はサキュバスや魔女や鬼殺隊が街中を闊歩するようになったのだろうか。異世界にでも転生した気分だ。
しかし何より驚いたのはすれ違う人々の笑顔にこちらまで幸せな気持ちをおすそ分けしてもらっているような一体感だろうか。過去、ハロウィンを理由に騒ぎたいだけの馬鹿が後先考えず暴れまわっているというような報道に目をしかめたこともあったが、実際に街を歩いてみるとコスプレをすることによって普段とは違う自分を素直に楽しんでいるということが、溢れる笑顔からひしひしと伝わってくる。ひしひしと。
人ごみを警戒していた陰鬱な気持ちも晴れ、市販のコスプレ衣装もずいぶんとクオリティーが上がったもんだと感心する余裕も出てきたところで、向かいから歩いてくる20代前半だろうサキュバスに声をかけられた。
仮面舞踏会のようなベネチアンマスクで隠されてはいるが見える範囲の鼻と口元だけでも美人ということが分かる。
「ちょッ!お兄さんゾンビみがヤバヤバ写真撮っていいッ!?」
「―――アタシお兄さんになら食べられてもいいかも……」
さらにどう見ても市販では表現できないであろう細部にまでこだわったボンテージのような衣装は、抜群のフィッティングにより彼女たち自身の持つボディラインをこれでもかと美しく引き立てていた。
手作りなのか、オーダーメイドなのか。これほどの腕を持つ人間ならぜひウチの仕事もお願いしてみたいとスイッチが入り衣装に見入ってしまった俺を無視して話は進む。
「ユイ肉食過ぎて草生えるんだけど!つーか、あーしも混ぜろし」
「初めてが3p……」
「―――え、ユイ処女だったの…?つーか初めてはもっと大事にしな??」
「でも、ちょうど今日は大丈夫な日だし…子供欲しいと思ってたし……。てゆーかユミコも処女なの知ってるよ?」
「あ、あーしはいいんだしッ!!」
どの角度から見ても完璧にそれぞれの個性に寄り添った衣装を、ぐるぐると回り様々な角度から観察していると、二人組のうち身長が小さく胸が大きい方の女の子がとんでもないことを言い出した。
ナンパ系AV並みの気軽さで3pなどしてたまるものかと、洗練されたデザインを惜しいと思いながらも慌てて踵を返すもどこか見覚えのある昏い光を瞳に宿し始めたサキュバスに即座に腕を取られインカメのフレームへと収められてしまった。
パシャリと無機質な音が響けばそこに浮かび上がるのは、両手にサキュバスを絡みつかせたゾンビだった。……自分で認めちゃったよ。
それにしても、小さい方の女性の胸もさることながらもう一人の金髪をドリルのように巻いた女性もスレンダーに見えて実に良いものをお持ちである……ゴクリ…
「彼ぴっぴできたってストーリーにあげるし~♪」
「来週挨拶に行くってお父さんに言ったら鬼電なんだけど…うざ…着拒しよ」
「おい、ちょっと待て、SNSはやめろ。全然知らねえ人の投稿にたまたま米粒サイズで写っただけでも――」
ーーーーーー
少し前のことだ。
その日、革ジャンにぴったりの季節になってきたことにテンションが上がり気ままにソロツーリングに出かけていた俺だったが、その時はあんな恐ろしい目にあうだなんて夢にも思っていなかった。
始まりはモーニングでも食べようと寄った喫茶店で声をかけられた時だ。こんなところで奇遇ですね♡なんて見知った顔が言いながらするりと相席することになり、特に断る理由もないので投げつけられる質問を適当にはぐらかしながらコーヒーを楽しむことにした。
40分ほど話し込みてっきり着いてくるとごねると思ったがその場で解散することができたのでツーリングへと再出発したが、その次の目的地でもそいつはふらりと現れた。
―――その次も、そのまた次もどこかへ立ち寄るとなぜか隣には紅いリボンが鎮座ましましていた。
一切の気配を感じさせず気が付けば相席している事実に軽く恐怖を覚えながら、適当に理由をつけて次の目的地へと出発すること幾十回。
さすがに怪しく思い途中で温泉へと立ち寄り全身くまなくチェックすると、いつの間に仕掛けたのやら案の定ゴロゴロと出てくるGPSの全てをダストシュート、バイクに着けられていたものも隅々まで確認し全てを取り外すことができたので安心してツーリングを再開した。しかしその後もなぜか悉くを滅ぼす紅いリボンは俺の前に現れ続けた。恐怖。
そして最後。走行中にミラーを確認した際、リアシートに座る紅いリボンが目に入ったことで俺の心は完全に折れた。
曰く、いつでも探しているんです…♡どこかにあなたの姿を♡
山崎まさよしも井上陽水もこんなすぐに探し物が見つかるとは思わなかっただろう。
いつの間にか腹部に回された小さな手の何と恐ろしいこと。
後日談というか今回のオチ、種明かしは結婚おめでとう蒼の人からだった。
「ほら、ここに小さく写ってるでしょ?この人の投稿にも小さく写ってる。――プロデューサにしては不用心だったね」
誰かが投稿したSNSの背景に米粒より小さなサイズで写り込んでいる俺を見て行先を予測したうえで先回りしていたらしい。
ジョジョの第三部か!!!
ーーーーーー
そうしてなぜか裏方のはずの俺が事務所の誰よりも変装に力を入れるようになったきっかけを思い出していると、懐かしい響きが意識を引き付けた。
「つーかヒキオ、いい加減に気付けし」
「――あいつ特定してくんだ………は?」
「えへへ、ごめんねヒッキー?」
もったいつけるようにゆっくりと目元のマスクを外すとそこにいたのは………
「……どちらさまですか?」
「あ゛?」
相変わらず女王様っぷりがよく似合う三浦様であらせられました。ご壮健のようで何よりでございます。
俺を睨みつける眼力は相変わらずだが、メイクはずいぶん抑えられたようで大人の魅力むんむんって感じである。
隣の由比ヶ浜も誕生日以来だろうか。
あと、お父さんのこと着拒しないであげてね?
「もー、ヒッキーダメだよ?優美子今日のこと楽しみにしてたんだから。この服もわざわざ沙希にお願いして作ってもらったんだよ?」
「ちょッ!ゆい!!あんたもエステ行ってたの知ってんだからね!」
なんで約束してたみたいな言い方してんだ?
今日は仕事が終わって取引先から直退勤だったので乗り換えの都合、仕方なくこの駅を利用している。……忘れているだけでなんか約束してたのか?
「――そもそも優美子が“久しぶりにヒキオに会いたい”って言いだしたからあたしがヒッキーの予定調べてあげたんだからね!」
「――別にあーしが自分で連絡できたのに二人で会うのを警戒してあんたが勝手に着いてきたんでしょ」
俺しか知らないうえに気分で乗り換えたはずなのにどうして予定を調べあげてるんですかね……
何やら言い争う二人を由比ヶ浜も成長したなあ(乳ではない)とエモく見守っていると背後から肩をトントンと叩かれ振り返る。
「サキサキ言うな」
「それ完全に誘ってるよね?……久しぶりだな、サキサキ」
フリにしっかりと応えてやったのになぜかしかめっ面で下を向いてしまったサキサキこと川崎。
そして未だ言い争う二人をまじまじと見る川崎を見てようやく気付いた。自分で作った衣装の様子を見に来たんだな。
「二人ともよく似合ってるよな」
「別に…。つーかあんたああいうのが好きなの?」
「ん?まあ、嫌いではないが……、いいデザインだと思ってな」
それとなく衣装を褒めながらチラリと横目で川崎を盗み見る。
「………そ、そうかもね」
サキサキさんマジ可愛いっす
「作った人に会ってみたいわ……」
「べ、別に会ったら意外と、た、大したことないかも…しれないよ…」
もじもじしちゃって最高にキュート。川崎はクールっぽく見えて実はキュート。
「なわけねーよ、ぜひ(仕事の)パートナーになって欲しいくらいだ」
「そ、そこまで言うなら……紹介してあげないでもないけど……」
このまま進めたらこいつは最終的に自分のことをなんと紹介しながら俺と会う気なんだろうか。
あの時スカウトしてもらった鶴です。このふすまは開けないでください。みたいになるのか?
まあ、かわいそうだからこれ以上はイジメないけど。
「さすがサキサキだ。どの角度から見ても完璧な仕上がりだわ」
「サキサキ言うな。………あ、やっぱあんた気付いて…!」
「ま、こんなとこで話してても仕方ねえし。ゆっくり話せるところでも行くか?」
「ッ!?…………行く」
顔を真っ赤にさせて俺に詰め寄ってくる川崎に飲みにでも行こうかと誘ってみると、ひどく驚いた顔をした後に、少しの逡巡もなくOKをもらえた。
俺が誘うことにそんな驚かなくてもいいと思うんだが……、仕事を頼む前に旧交を温めるくらいにはコミュニケーション能力も向上したつもりだ。
「個室の方がいいか?」
「個室じゃないタイプとかもあんの!?でも、そんな、み、みんなに見られながら……え…えっちとか………あれ?意外と嫌じゃない?」
「なにぶつぶつ言ってんだ?俺みたいだぞ?……自分で言ってて悲しくなってきた。まあいいわ、俺がいつも使ってるとこがあるからそこ行くか」
「いつも使ってるとこ!?」
「ああ、ここ3年くらいお世話になってるな」
「ぐふっ…」
「大きい部屋だと20人くらいは入れるからアイドルたちと行くのには都合がいいんだよ」
「20…人のアイドルを……相手に…ひとりで……?」
「仕方ねーだろ、無理やり連れてかれんだから…」
「逆レ…」
「でもまあ、今日は川崎と二人でゆっくりできそうだから楽しみだわ」
「―――し、しょうがないヤツなんだから……」
川崎さん…ちょろかわ……
ーーーーーー
「でもヒッキー優美子のこと裏ではおかんって呼んでるし、脈ないんじゃない?」
「えー、それって言うたらバブみ感じてるってことだし。結衣の大きくて下品な胸よりあーしの美乳がいいってことでしょ?」
「……カーディガン脱ぐときヒッキーガン見してくるもん」
「周りのおっさんどもの視線の方がすごいけどねー」
「……さっき腕を挟んだ時も嬉しそうにしてたもん」
「あれはあーしの胸に感動してただけでしょ、描写はあーしの方が多かったし」
「う、ううぅ……」
「泣くぐらいなら初めから喧嘩売んなし。…ああほら、メイク崩れるからこのハンカチ使って」
「うぅ、……おかん。―――あれ?そういえばヒッキーは?」
「ヒキオならそこにいるで……ヒキオ?」
「あ!姫菜から連絡来てる!“もたもたしてるから今日はサキサキがお持ち帰りだよー”だって」
「………」
「んー、やられちゃったね、あたしたちも追いかける?……優美子?」
「………」
「ッ!……血の涙を流している!!!」