デレマスとのクロスオーバー『 基本はコメディ』 作:エビアボカドロックンロール
「比企谷さんってなにフェチですか?」
日をまたぐほどでもないが終業時間よりこちら、かれこれ5時間は経過しただろう頃合い。
不幸な偶然が重なり、たまりにたまった仕事を片付けるべく脳死で残業に勤しんでいた俺に、同じく向かいで死んだ目でキーボードをたたき続ける美優さんがつぶやいた。
「お尻ですかね」
よほど無視してやろうかと思ったが、完全に思考停止に陥っていた俺はごくごく自然にカミングアウトした。
「あぁ、そういうのではなくて…」
「……?」
言った瞬間に、やっぱり言うんじゃなかったと後悔する……というようなこともなくドヤ顔で美優さんに目をやる。しかし俺の答えを聞いた美優さんは“なにかまととぶってるんですか?”みたいな顔で首を横に振る。
「デリバリー的な女の子を呼んだ時にどんなオプションを付けるか、という意味でのフェチです。なにかまととぶってるんですか?」
言いやがった。
「動画撮影です」
そしてまたしても即答する俺。
「……なるほど。ど変態ですね」
「ありがとうございます」
ほら、花火とか観てる時に一生懸命スマホで写真撮ったり動画撮ったりするけど、気が付いたら全然自分の目では観てなくて後悔することってあるじゃん。しかもスマホで撮影したのも後々見返すと大したことなくて、こんなことなら肉眼でしっかり見ておけばよかったってなるやつ。
ただこれがデリヘルになると事情は変わってくる。
人間の脳みそは不思議なもんでどんな辛かったことも悲しかったことも次第に忘れられていき最後には楽しかった思い出だけが美化された形で残る。
………な、分かるだろ?
チェンジとか言えねえじゃん。
ならせめて後で素敵な思い出に変えて楽しもうっていう前向きな生き方じゃん。
「なるほど、そういった考え方ですか。この事務所に綺麗な人や可愛い子はいても、その…顔面に不自由な人はいませんもんね」
「言い方おい」
「たまにはブスを抱きたくなる気持ちも分かります」
「はっきり言いやがった。―――つーかたまにはって、そもそも誰も抱いてないですから……」
美人の罵倒には一定の魅力があることは認めるが、それは対象が自分に向けられているときだけで、ただ汚い言葉を使うだけの美優さんなど見たくない。
ただまあこれも、俺に対する当てこすりなんだと思えば対象は自分になるから……うん、ご褒美ですね…!
「今日一日ずっと考えてたんですけど…」
「おい仕事しろ」
「これだけ多種多様なアイドルが所属している事務所なのでどんなフェチにも対応できると思うんです。ロリに巨乳に制服。それこそ手錠だって…」
「全部早苗さんじゃね…?」
だが美優さんの言うことに一定の理解を示すのもやぶさかではない。
右を見ればロリ、左を見ればロリ。上にも下にもロリはいる。ロリ、下から見るか横から見るか。おすすめは膝の上にのせて湯たんぽ代わりにロリを使うロリタンポ。
と言うのは冗談で、どんな人でも一人くらいは推しを見つけてファンになってしまう多様性がウチにはある。さらにはどいつもこいつも個性的で魅力的なので好きになるなと言う方が無理な相談である。
「それで何が言いたいんすか?」
「そういった全てを鑑みて唯一ウチの事務所が網羅できていないフェチがあるんです……」
「は?――あ、未亡人ですか?そこは美優さんがいるじゃないですか??」
「未亡人じゃねーわ」
極めて低いテンションでツッコミを入れる美優さん。
……そこはかとなく溢れる未亡人オーラ。そういうとこですよ。
「他になんかありましたっけ?」
「ほら、比企谷さんもよく頼んでるオプションですよ」
「いや、アイドルにステージ上でパンストを破らせるわけにはいかないでしょ」
「お前マジでど変態なのな」
「恐悦至極」
もうなんか色々危険なレベルまで来ているが、二人とも感情が死滅した状態でしゃべってるので内容の割にはひどい雰囲気にはなっていないのがせめてもの救いだ。
美優さんのキャラ崩壊?残業の時は毎回こんなもんだぞ?
「ほらほら、正直に言ったら私がそれをしてあげますから」
「……?マジで分かんないんですけど……」
「もちろん比企谷さんにも手伝ってもらいますけどね~♪」
真顔で言う♪の部分がマジで怖い。
「手伝う……」
「比企谷さんの検索履歴にもあったやつです」
勝手に見んな。
つーか毎回検索履歴は消してるはずなんだが……
「妊婦、母乳ものですよ♡」
「チェンジ!!!」