デレマスとのクロスオーバー『 基本はコメディ』   作:エビアボカドロックンロール

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単短編久川 颯「なーおかえりー、……ん?なーからはっちゃんの匂いがする…?」凪「は、はーちゃん?」

 

 

 上座、下座とはくだらないビジネスマナーによって広げられた概念ではあるが実のところ歴史を紐解くと500年以上さかのぼることができる。

 グローバル化が叫ばれる今の世の中で日本の歴史に固執し続けることにいったい何の意味があるのか疑問に思わないでもないが、長い時間の中で現在まで少しずつ形を変えながら残ってきたということはそれが合理的であったということを歴史が証明してくれているのだろう。

 

 現代においては席順を変えることによって与える印象を操作することすらできるらしいが、そこにも心理学的根拠あるのだからただのビジネスマナーだと切って捨てるのではなく人間関係を円滑に進める上で少しくらいは気にしてみてもいいかもしれない。

 相手からどう思われたいかを気にして席を決めるなんて愚かしいことこの上ないが、使える手は余すことなく使うのが汚い大人ってやつだ。

 

 逆もしかり、何気なく座ったその位置関係にこそ無意識の気持ちが隠れているのだとしたら……などと考えるのはせん無いことだろうがそれでも周りを見る目が変わってしまうのも仕方ないだろう。

 

 

「つーわけで、さっさと俺の上からどいてくれ」

 

「だが断る」

 

「即答すんな。普通に重いんだよ…」

 

「おっと失礼な。凪は軽いですよ、軽い女として有名です」

 

 

 激重ヤンデレ属性の方々と同じにしないでいただきたい、なんて言いながら俺の胸へと後頭部をぐいぐいと押し付ける久川は、コタツに積まれているみかんを素早く剥くと俺の口へ逆二人羽織のような形で指ごとぐいっと突っ込んだ。

 

 

「そうゆう重いって意味じゃねえし軽い女ってのも全然フォローになってねえよ。むしろアイドルとして減点だ」

 

「凪がアイドルの原点……ふむ、悪くない気分です」

 

「鼓膜がポジティブ過ぎんだよな~」

 

 

 

ーーーーーー

 

 

 

 それはまったりとした休日、最高のスタートダッシュを切るべくそろそろ昼飯でも食いに行くかと考えていた時のことだった。

 インターホンが鳴ったかと思えばモニターには某お値段以上家具屋の店員さんとその後ろからちょこんと顔を出す久川が映りこんでいた。

 

 

「…は?」

 

 

 なんとなく鍵を開けたら負けな気がしたので放置していると自分の家のようになれた手つきでシリンダーを回して久川が入ってくる。それに続いて大きな箱を抱えて入ってくる店員さんもまさか目の前の少女が不法侵入しているなど思うはずもなくしっかりとした足取りでわが家へおじゃましますしてしまった。

 

 

「お、おい……」

 

 

 あっけにとられる俺を無視して挨拶もそこそこにテキパキと箱の中からコタツを取り出しセッティングする店員さん。優しい色合いの木目はさながらパズルの最後のピースのように俺の部屋へとぴったりとはまり、最後にどこからともなく取り出した布団をかけるとあっという間にそこには魅惑のくつろぎ空間が出現した。

 

 

「おぉ…」

 

 

 久川は満足げにうなずき何のためらいもなく部屋に常備してあるマックスコーヒーを差し入れとして店員さんに渡すと、ちょちょいっと受け取りの書類にサインをし「これ、好きなんすよ」などと嬉しそうにする店員さんをそのまま丁寧に玄関までお見送り。足音が聞こえなくなるまでゆっくりと待ってから入念に施錠した。

 なぜか受取人の名前が“比企谷凪”になっていたがそこは気にしない。

 

 ちなみにここまで俺と久川の会話はゼロ。

 

 

「よしっ」

 

「いや、なんもよくねえわ」

 

 

 

ーーーーーー

 

 

 

 そこからはコタツ魔力に抗えなかった俺が吸い込まれるように座り込んでしまい、空いている残りの3席には目もくれることも無く膝の上に久川がぽすっと腰を掛け今に至るというわけだ。

 

 みかんおいしい。

 

 

「ところであなた」

 

「人妻感を出すな」

 

 

 一向に降りる様子が無いので仕方なく久川のつむじを見ながら頭皮の匂いでも嗅いでやろうかなんて考えていると謎の人妻ムーブに思いがけず興奮してしまう。

 

 

「壁に飾ってあるあの絵はなんですか?」

 

「………さあな」

 

 

 久川が指さす先には金髪の少女とアホ毛の怪しい男が仲睦まじく手をつないでいる絵が芸術は爆発だと言わんばかりにシールでゴテゴテとアレンジされ飾ってあった。

 

 

「凪には金髪の少女とアホ毛の男性が仲良く手をつないでいる絵に見えます」

 

「まあそう見えないこともないかもしれない…」

 

 

 すーっと横に視線を逸らすとそこにはまた別の絵が飾られており、無邪気に肩車を喜ぶ黒髪の少女が意外なほど繊細なタッチで描かれている。

 

 

「あっちのは黒髪の少女を肩車するアホ毛の男性ですね」

 

「芸術の解釈は人それぞれだからな……」

 

 

 鏡越しに久川のじっとりとした視線と目が合う。

 なぜ浮気をしている夫をとがめるときのような目を……

 部屋をぐるりと見まわせば作品の出来は別として、ちょっとした画廊くらいの展示数だ。絵や模型の違いはあれど数多くの作品が部屋を彩っている。

 

 

「シュウマイシュウマイと思っていましたが」

 

「言うまい言うまいと思っていろ。そして言うな」

 

 

「アイドルのこと好きすぎじゃないですか…?」

 

「―――逆にどうしろって言うんだよ。図工の授業かなんか知らんが定期的に渡されんだよ……」

 

「少し不機嫌にそう言う俺だったが、視界の隅の鏡には父親のような表情の俺が映っていた。であるなら腕の中にいるこいつは母親だろうか…、よし、結婚しよう」

 

「勝手に俺のモノローグをねつ造するな」

 

「おっと、Pにとっては晴天の霹靂だったかな」

 

「…微妙に違くないか?」

 

「略して性癖ですね」

 

「それは絶対違う。つーかマジでいつまで乗ってんだよ」

 

「――そんなに嫌ですか…?」

 

 

 久川は震える声でつぶやき俺の腕をきゅっと掴んだ。

 

 そしてそのまま自分の前まで俺の腕を持ってくるとシートベルトのように自分の身体を固定しだんまりを決め込んでしまった。

 腕に感じる力強さからはどいてたまるかといった意思がひしひしと伝わってくる。

 

 

「別に嫌ってわけじゃねえよ……」

 

「つまりは嬉しいと」

 

「…は?」

 

「そこまでお願いするのならこのまま乗っておいてあげましょう」

 

「…」

 

「おっと?凪のお尻に当たるこの硬い感触はなんですか?」

 

 

「………黙秘します」

 

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