デレマスとのクロスオーバー『 基本はコメディ』 作:エビアボカドロックンロール
「比企谷君、京都は好きですか?」
チョコの食べ過ぎが原因なのかこの年になって肌荒れがバレンタインが近づくにつれひどくなってきている哀れなちひろさんを観察していると唐突な質問が飛んできた。
「は?――まぁ、別に…嫌いではないですけど……」
京都という単語に無意識に体がこわばるのを感じる。
「ふーん?何やら思うところがありそうですけど」
亀の甲より年の劫とはよく言ったものだ。隠しきったつもりではあった苦手意識をそれでもちひろさんは見抜いたようだった。
慈愛に溢れる優しいまなざしが心の内を見透かすかのように射抜いてくるもんだから、俺の口も自然と軽くなりついうっかり人生相談のようなことをしそうになる。
「………実は高校生の時に――」
「――あっ、そういうのは大丈夫です」
「………」
「と、いうわけでホテルはもう予約してるのでよろしくお願いしますね」
「……はい」
逝ってきます。
ーーーーーー
右手にはガラガラと音を立てるキャリーバッグ、左手には酔ってふらふらと歩く美優さんを引きずりながらちひろさんが予約を取ってくれたというホテルへと向かう。
一日がかりの撮影はなんとか滞りなく終わることが出来たのだが…
「うぅ…飲み過ぎてしまいました…すみません…にぎやかさん」
「誰がにぎやかさんだ。俺の名前は比企谷だ」
「失礼、噛みました」
「違う、わざとだ…」
「噛みまみた」
「わざとじゃない!?」
「噛みちぎります」
「何を!?もしかしてナニなのか!?」
俺の腕に掴まってなんとか這う這うの体で歩いている美優さんが聞こえるか聞こえないかくらいの声量でつぶやく。対する俺は全力。にぎやかじゃんよ…
いい大人なんだからいくら仕事の打ち上げとはいえ、どれくらいまでなら飲んでも大丈夫かくらいは見極めてほしいが、酔ってしまったものは仕方がない。
さっさと美優さんをホテルにぶち込んで夜の祇園に繰り出すとしよう。噛みちぎられる前にな。
「むー、比企谷さんなんでニヤニヤしてるんですか」
「こんな美女をホテルまで送ることが光栄過ぎてですよ」
「そ、そうですか。ふふっ、悪い気はしませんね」
おっと、危ない。
俺の嫌いな言葉のひとつにこんなものがある。
“人脈”
自らの努力によって成果を得ることをせず周囲の力をあてにし、あまつさえ人脈が広いことをさも自慢げに語ることすらままある呪われし概念。
人脈が広いことは本人の魅力に何ら比例することはねえし、それらがそいつを助けるのはそこに利害関係があるからだ。くだらねえ。
人脈にできることなんてせいぜい俺を祇園の一見さんお断りのお茶屋で舞妓遊びへと誘うことくらいなものだろう。
はぁーあ。人脈が多くてつらいっすわー
舞妓とか興味ないけど行けって言われたからしゃーなしっすわー
「つーかこのホテルどこだ?」
「ふふ♡」
「ちひろさんから聞いた住所はこのへんのはずなんだが…」
「ふふふ♡」
ふふふと不気味に笑う美優さんを極力視界に入れないようにしながら周囲を見渡す。
「あー、ミスったか?ホテルくらい自分で予約すればよかった…」
「ホテルでミスとしたって言いましたか?」
「言ってねえ」
住所で検索しようとスマホを取り出そうとするが、意味の分からんことを言いながら腕に絡みつく美優さんを振りほどくことが出来ない。
「ミセスよりミスの方が好きなんですか…?」
「どこからその話に飛んだかは知りませんけど俺がミセスを好きな前提で話すのやめてもらえません?」
「あ、ホテル見えてきましたね」
「おい無視すんな…、つーかホテル知ってるなら始めから案内してくださいよ」
それほど長い距離を歩いたわけではないがおろおろと道に迷っていたのが馬鹿らしくなる。
「過程って大事じゃないですか…比企谷さんにホテルに連れ込まれるという過程が」
「人聞きの悪いことを言うな。プロデューサーがアイドルをホテルに案内するのは仕事の範疇だ」
「―――ここが今日泊まるホテルです…」
「やっと着きましたか……あ、え?休憩2900円って、なんで?つーかこれラブホじゃ…」
「と、いうわけでここが今日泊まるホテル“と、いうわけで。”です」
「……な、なるほどな~」
ちひろさんがホテルを予約すると言ったあの瞬間にこうなることは決まっていたのだろう。
「まっ、違うホテル行けばいいか……ってちょ!美優さんちから強いッ!いやここはダメでしょ!」
「………?酔ってるので何言ってるか分かりません……」
「嘘つけッ!どこにこんな力強い酔っ払いがいんだよ!」
「ようこそおこしやす♡」
「………み、ミセス舞妓」
さよなら未だ見ぬ舞妓はーん