初めてのプロデュースが身内ってなんですか 作:ぱらぱらり〜
拝啓
お父様、お母様、いかがお過ごしでしょうか。
大学を卒業し、芸能事務所283プロダクションの新人プロデューサーとして都心に引っ越した私ですが、今は元気に過ごしています。
新人として入社して数ヶ月、ようやく憧れていたアイドルのプロデュース活動に携われる事になり、とても嬉しく思っています。
普通なら、私の方からアイドルになる素質がありそうな女性を見つけ、スカウトするのが私の仕事であります。
しかし、私が今回初めてプロデュースするアイドルは向こうの方から直接事務所に訪れ、志望をしてきました。
私はとても驚きました。失礼ながら283プロダクションはまだ小規模で、アイドルもいない事務所であります。
そのような所にアイドル志望者が来るとは思いませんでした。
とはいえ向こうから来たのですから、彼女を一流のアイドルへと成長させられるように私は全力でプロデュースすると決意しました。
しかし、これはどういう事でしょうか。
「……プロデューサー、様?」
私が初めてプロデュースするアイドルが従兄妹である杜野凛世ちゃんとは思いもしませんでした。
──いや、マジでなんで彼女がここにいるんだ……?
最後に会ったのは半年以上前に叔父さんの家に遊びに行った時。
その頃はまだどこの事務所で働くのかも分かっていない時だったから自分がここにいるのを彼女が分かっていたとは思えない……たまたまなのか?
「……プロデューサー様?」
彼女がここに来たのはアイドルになろうと思ったからなのだろう。だが、凛世ちゃんがアイドルを目指すという考え方をしていたとは思いもよらなかった。
彼女は綺麗だ。確かにアイドルとして活躍するには十分な容姿をしているのだが、彼女は由緒ある呉服店の娘であり、てっきり将来は家を継ぐものだと思っていた。
そんな彼女がアイドル……相当なきっかけを与えられたのではないかと勝手に考えてる。
「プロデューサー様……!」
「うわぁぁぁ!? り、凛世ちゃん!? いつの間に?」
「……つい、先程です。レッスンが終わりましたので報告を……と」
「あ……あぁ、ご苦労さま。少し休憩する?」
「……プロデューサー様がそうおっしゃるのでしたら、この凛世、お言葉に甘えさせてもらいます。プロデューサー様は、手紙を書いておられたの、ですか?」
「ま、まあ! そんな所!」
机の上にある手紙をクシャクシャにしてゴミ箱に捨てる。彼女の事を書いてある手紙を見られるのは良くはない。
「あの、それは捨てて、大丈夫なものなのですか?」
「ちょっと字を間違えててさ、後で書き直そうと思ってたんだ」
「そう、ですか」
やばい、トイレ我慢して手紙書いてたから催してきた。
「凛世ちゃん、ちょっと自分トイレ行ってくるからゆっくり休憩しててね」
「はい、わかりました……」
ああ、ヤバい。漏れそう……。
──プロデューサーがトイレに行ってすぐ、休憩をしていた杜野凛世はすぐに動き出す。
ソファから立ち上がり、彼が手紙を捨てたゴミ箱に迷いなく向かい、それを取りだした。
「……プロデューサー様の、手紙」
再びソファに座り、凛世はクシャクシャになった手紙を広げ、読む。
人の物を勝手に見る。それがいけないことだとわかっていても。
「プロデューサー様の字、綺麗です……」
自分の両親へ今の仕事の状況、そして凛世がアイドルを目指してこの事務所に来たという内容を読んで凛世は思う。
「凛世が、この事務所に来た理由。凛世は、お義兄様に会いたいと思い、ここに来ました」
トイレを済ましたプロデューサーが戻ってくる、その足音が聞こえ、凛世は急ぎ足で元あったゴミ箱に手紙を戻す。
彼が戻ってきた時には正しい姿勢でソファに座っている凛世の姿だけだ。
「ふう、スッキリした」
「プロデューサー様」
「……? どうしたの?」
「プロデューサー様も、休憩をしてはいかがでしょうか? 手紙を書いていた時、とても集中していた様子でしたので、疲労が溜まっているのではないかと……」
彼は新人プロデューサーとして覚えなければいけないことが多く、休む時間が勿体ないと思っている。だから、凛世の言葉を一回断った。
「……申し訳ございません。凛世は、余計な事を言ってしまいました」
しかし、彼は凛世に甘い。彼女が落ち込む様を見た途端に焦り、お言葉に甘えると言って彼女の隣に座った。
(お義兄様が、こんなに近くに……)
凛世はとても高揚している。凛々しい表情を見せるが内心はドキドキとしている。
半年に一回会えるかどうかの人に毎日、隣に居れるのだからこれ程嬉しい事もないだろう。
(お義兄様、凛世はお義兄様のアイドルとなるため、尽力を注ぎます。凛世は、一生お義兄様に、プロデューサー様について参ります)
彼女が見せる凛々しい表情の中には、とても大きな感情が込められているのを彼はまだ知る事は出来なかった。
気分が乗ったら続きを書くかもしれません。