私と親友の未来は、今日ツヴァイウィングのライブが行われる会場に来ていた。
結構早めに出たと思ったけど、すでに会場のゲートには長蛇の列が出来ていた。列の最後尾に一緒に並んで、未来に話しかける。
「ライブ楽しみだねっ!みく!」
「響ったら、今からそんなテンションじゃ最後まで持たないよ?」
そう言って笑う親友は、いつも通りの柔らかな笑顔を浮かべていてる。けど、その声音は少しばかり弾んでいて、未来もライブを楽しみにしていることが感じられた。
「だって楽しみなんだもん!そういうみくだって楽しみでしょ?!」
「そりゃ、そうだけど……」
顔を赤らめて肯定する未来。別に恥ずかしがることないのに。そういうところが可愛いんだけど。
「ほら、列が動き始めたから、いくよ?」
「あ!待ってよみく〜!」
照れ隠しなのか先に行こうとする未来を慌てて追いかける。未来はこういう時ほんとに置いていくし、しばらく電話にも出なくなるからはぐれると面倒なんだ。
会場に入ってしばらく、未来とまだかなー?、なんて話していると会場の照明が落とされた。
それに呼応するように、ざわついていた会場がシンと静まり返る。その静寂が、ライブへの期待を否応なく高めていく。
ふと、音が流れてきた。それは曲の形をなして
そして、ついにツヴァイウィングの2人がうえから飛ぶように現れた。多色のライトが彼女たちを照らす、どこか幻想的な光景に思わず見入ってしまう。
私が我に帰る頃には、他の観客は夢中でサイリウムを振っていて、それは隣の未来も同じだった。私も慌ててサイリウムを取り出し、彼らに混ざってサイリウムを振った。
(すごい!すごい!すごい!すごい!!!ライブってこんなに楽しいんだ!まるでみんなと1つになってるみたいに熱い!!!でも、苦しくない!もっともっとこの熱に浸ってたい!!!!!)
気がついたら1曲目が終わってた。でもこんなんじゃまだまだ足りない!会場はもうすごい熱気だけど、まだまだ満足していない!そんな観客の期待に応えるように早くも流れてくる2曲目。
上限知らずに上がり続けるボルテージに水を刺すように、突然ステージが爆発した。
「―――え?」
呆然と粉塵が舞うステージを見やる。ふと粉塵の中から何かが飛び出し、観客の1人に突き刺さった。その客は瞬く間に灰となる。落ちたサイリウムの音がやけに響いた。
そして、晴れていく粉塵の中から現れた原色が目に痛いそいつら。
人類の天敵、特異災害『ノイズ』の姿だった。
「ノイズだああああぁぁぁ!!!!!」
誰かの叫び声を皮切りに、一瞬でパニックに陥る会場。我先にと出口に向かう観客を、ノイズは容赦なく襲い灰に還していく。
一瞬で地獄へ変わった会場を前に、私は動くことが出来なかった。
そんな私をさらなる驚きが襲う。
「―――え?」
粉塵が完全に晴れたステージで、ツヴァイウィングの2人がピチピチのスーツみたいな格好でノイズと戦っていた。
刀と槍を手に、次々とノイズを殲滅していく2人に目を奪われる。
「……ってこんなことしてる場合じゃない!早く逃げないとっ!みくっ!逃げよ…………」
我に返って、逃げようと隣にいるはずの未来を見やる。けれどそこには―――
誰も、いなかった。
「みく?」
一陣の風が吹く。舞い散る灰に、嫌な予感が止まらない。
「みくっ?!どこっ!どこなの!!?返事してっっっ!!みくっっっっ!!!っ!?」
突然の浮遊感。足下が崩れたのだと理解した頃には、下の階に叩きつけられていた。
「っつ!」
足に激痛が走る。起き上がって見てみると、左足首があらぬ方向に曲がっていた。
でも、そんなことよりも、親友の安否が心配だった。周囲を見渡しても、もう観客の姿はどこにもない。その事がさらに不安を掻き立てる。
けど、逆に言えばもう会場からの避難は完了してるってことだ。だから、未来もきっと避難しているはず……。
「そう。そうだよ。きっと未来は先に逃げたんだ。きっと私のことを心配してる。早く未来を安心させてあげないと……」
頑張って立ち上がり、壁伝いに出口を目指す。遅々とした歩みだけど、不思議とノイズは襲ってこなかった。もしかしたらツヴァイウィングの2人が守ってくれてるのかもしれない。
私は2人に感謝しながら歩みを進めていく。そして出口が見えてきたところで、何かが私の胸に突き刺さった。
―――地面に倒れ伏す。
(わたし……死ぬのかな…………)
―――どくどくと命が零れていくのを感じる。
(いやだな……死にたくないな…………)
―――急速に手足の感覚が無くなっていく。
(でも……もうたすからないよね…………)
―――痛みはもうない。
(ごめんね……みく…………)
―――ゆっくりと瞼を閉じる。
(いままで……あり……が……と…………)
―――意識が暗闇の中に落ちてゆく。
「生きるのを諦めるな!」
突然聞こえたその声に、落ちかけていた意識がすんでの所でつなぎとめられる。
薄らと瞼を開けば、焦点の合わない視界に、それでも朱い髪の誰かが私を覗き込んでいるのが分かった。
私が目を開けたからか、誰かは何かを呟きながら歩いていく。何を言っていたのかは聞き取れなかったけど、何か大きな覚悟を持っていることだけは理解できた。
「Gatrandis babel ziggurat edenal Emustolronzen fine el baral zizzl Gatrandis babel ziggurat edenal Emustolronzen fine el zizzl」
そうして紡がれる旋律を最後に、
(き……れい…………)
私は意識を手放した。
正直今話はあまり必要なかったけど、瀕死のビッキー書きたかったんです(歪んだ愛)