月明かりが周囲を淡く照らす夜の公園。そこでノイズと響が戦っていた。
最近響はノイズが出る度に戦場に赴いては、戦闘を繰り広げている。その度に私も響を追って観戦してて、今も少し離れた公園にある林の適当な木の枝に座って観戦中だ。
「はあああ!!!」
響が拳を思い切り振り抜き、最後のノイズの胴体を貫いた。後に残ったのは無数の灰の山と、拳を振りぬいた形で止まっている響だけ。戦闘を重ねるごとに動きがよくなってきてるから、戦闘にかかる時間も短縮してる。
「ふぅ、今のが最後か。アイツらが来る前に早く逃げないと」
「そうつれないことを言うな、歓迎の用意は出来てるぞ」
戦闘体勢を解いて早々と立ち去ろうとする響に待ったをかけたのは、現状二課に所属する唯一の装者、風鳴翼さんだ。
どうにも二課は響がガングニールを使った日から接触、できれば友好関係を築こうとしてるみたい。実際一度響の部屋を司令自ら訪ねるくらいだし、少なくとも今敵対する意思はないだろう。
まぁ二課の思惑なんて関係なく、敵意むき出しで連行しようとしてる人もいるけど。
「ちっ、もう来たの……?」
心底嫌そうに振り向いて翼さんを睨む響。まあそりゃ毎回敵意向けてくる相手なんて嫌いになるよね。
「今日こそ一緒に来てもらうぞ、立花響」
「嫌です」
翼さんからのデートのお誘いをバッサリと斬り捨てて、今度こそ離脱しようとする響。だけどそれを遮るように翼さんが刀を振るう。
危なげなくそれを避けた響が翼さんと相対する。響が静かに拳を構え、翼さんは剣を正眼に構える。場は一気に緊張状態へ突入した。
向かい合う2人はどちらともなく動き出そうとして、瞬間林のほうから襲い掛かってきた鞭に阻まれた。……ああ、ここで出てくるんだ。勝手に潰し合いそうなんだから漁夫の利狙えばいいのに。それほどに自信があるのか、はたまた何も考えてないだけか。
「っ!?」
「な!?」
「楽しそうなことしてんじゃねえか。あたしも混ぜてくれよ?」
攻撃を受けた二人は回避し、あるいは受け流して攻撃が飛んできた林のほうを警戒する。そこからゆっくりと歩いてくるのは、ネフシュタンの鎧を纏ったクリスだ。
「ネフシュタンの……鎧!?」
「へえ、てことはアンタ、この鎧の出自を知ってんだ?」
「二年前、私の不始末で奪われたものを忘れるものか!何より、私の不手際で失われた命を忘れるものか!!!」
言葉を言い切ると同時に霞の構えをとる。それに応じてクリスも鞭を構える。二人はほぼ同時に動き、二人が会話している間に戦場を離脱しようとしていた響に襲い掛かった。
「くっ!」
とっさに二人の攻撃を回避した響はクリスに向かって走りだす。近接攻撃が主体の翼さんよりは相手しやすいと判断したんだろう。実際その判断は間違っていないけど、クリスは遠距離主体の装者のくせに格闘戦もできる。対人戦は素人同士の喧嘩くらいしか経験したことのない響じゃまず勝てない。
実際迎撃の鞭を掻い潜ってクリスの懐に忍び込んだはいいものの防戦一方。クリスの一手一手を防ぐので精いっぱいで反撃の拳を打ち込む暇すらない。さらに響を追い込むように横槍を入れたのは、天から降り注ぐ無数の刀だ。
クリスはその場から飛びのいて難なく回避するけど、一拍反応が遅れた響はもろに刀を浴びることになった。致命傷はもらわなかったみたいだけど、戦闘を続けるのは厳しいくらいにはもらったっぽい。
そしてすかさずクリスがソロモンの杖で出した拘束型ノイズの粘性の液体に絡めとられて身動きを封じられてしまった。まあ三人の中で一番戦闘能力が低いから当然の結果だね。だけど響の関心はそこにはないみたい。
「ノイズを……召喚した?それだけじゃない、操って、る……?」
「はっ、驚いたか?こいつはノイズを自在に召喚して操ることができるんだよ」
自慢げにソロモンの杖の能力を解説するクリスに翼さんが鋭い突きをくり出すけど、クリスはそれを鞭で受け止める。全体重が乗った突きを軽々と受け止められる当たり完全聖遺物のポテンシャルってすごい。神獣鏡じゃまともに受け止めるなんて無理だもん。
「その子にかまけて、私を忘れたか!」
「のぼせ上がるな人気者!誰も彼もが構ってくれると思うな!」
もうすでに二人は響のことを脅威として認識していないのか、一切の注意を向けず目の前の敵に集中している。でも、身体は動かなくても歌を紡ぐことはできるんだよ?
「
二人は意識外から聞こえてきた絶唱に一瞬戸惑いを見せた。
「
そしてすぐにそれが響が紡いでいる旋律だと理解すると、瞬時にそれを阻止しようと動き出した。
「やめろ立花!それを歌うなっ!!!」
「くそっ!おとなしくしとけってんだよ!!!」
「
二人が叫びながら攻撃をくり出す。けど、
「
攻撃が届くより一瞬早く、絶唱は紡がれた。
瞬間、響を中心に爆発的なエネルギーが吹き荒れる。拘束していたノイズは瞬時に消滅し、近くにいた二人を巻き込み吹き飛ばした。上空に逃げた私にも余波が容赦なく襲ってくるけど、余波程度なら神獣鏡で対処できる。
エネルギーが収まった公園に立っているのは響だけ、翼さんもクリスもボロボロの状態で地面に転がっている。だけど響は地面を転がってる二人よりももっと酷い。身体中から血が流れ、もはや血に濡れてない部位を探すほうが大変なくらい。
そんな今にも倒れそうな状況でなお、響はクリスに向かってフラフラと歩いていく。
「ぐああああっ!くそっ、くそっっっ!こっちにくんじゃねぇ!このイカレ野郎がっっっ!!!」
クリスはそんな響の尋常じゃない様子に恐怖したのか、悪態をつきながらボロボロの身体を引きずって夜闇の向こうに逃げていった。
「ふふっ、いい