明けない夜が明けたなら   作:にんにく大明神

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初回なので短めです。


これはアルトリア視点です。


騎士王の溜め息

 

第1258回

円卓、同窓の集い

 

 

 

 

 

―――いい加減顔を出すべきなんだろうか。

 

簡素な文机の上に置かれた一枚の封筒を見て嘆息する。

 

上質な紙と美しい筆跡から、差出人は今回もおそらくあの折り目正しく生真面目であった彼の騎士だろうと推測する。

封筒を裏返すとやはり滑らかな筆跡でベディヴィエールと記してあった。

 

ここに来てからまだ四ヶ月と経たないが既に四通目である。

月一ペースで昔馴染みと顔を合わせないと彼は死んでしまうんだろうか……いや、分かっている。

これは私が顔を出していないせいである、それは間違いない。

 

無意識の内にもう一度溜め息をついていた。

開け放たれた障子から外を見やると、遠くの山間からモクモクと綿菓子のような入道雲が進軍を始めようとしているところだった。

もう夏だな、とふと思った。

 

 

 

 

 

英霊の座。

偉業を成した人が世界に認められることで死後祀りあげられるという一つの到達点。

そこに時間という概念は無い。

 

という定説を私は聞いていたのだが、どうやらそれは正しくないらしい。

時間が存在しないのでは無く、どの時間にも干渉できるだけなのだ。

そうあの老魔術師は語っていた。

 

結局『座』は現世と隣り合うように同じ速度で歩き続けており、信仰によって形どられた英霊は現世から去るその時隣の世界に移動するという仕組みなんだそうだ。

私がここに来たのは二十一世紀初頭、死んだのは千年以上前なのだが、最後に命ある形で現世から去ったのがその時だかららしい。

 

守護者として扱われる英雄はまた少し違うらしいのだが、詳しい話しはおそらく聞いても分からないので遠慮しておいた。

 

 

 

 

こちらで生活をするにあたっては、和室のある小さな平屋建ての一軒家を借りうけることにした。

もちろん、こちらの世界に再現されている私の生前の居城であるキャメロットに住むという選択肢もあった。

しかし、自らの過去を否定しようとした自分が、昔のようにあの玉座に収まっている姿が想像できなかった私は円卓の騎士たちには申し訳ないと思いつつその発想を却下した。

 

 

そしてこの手紙である。

 

最初にコレが家のポストに投函されたのは、私がここに来て二日経ったときのことだった。

この手紙は名前の通り円卓の騎士達による、まぁ現代風に言えば同窓会という催しへの招待状だ。

座に私が召し上げられたことをいち早く知ったベディヴィエールが主催するものらしい。

同窓会というと、過去にいた共同体の仲間と再開して交友を深める、私はそういう認識なのだが、……どうにも私には、この集まりがそんな平和的なイメージを抱くべきものであるようには到底感じられなかった。

むしろ血で血を洗う陰惨なパーティになると予想してしまった私はおかしくないと思う。

国を守るという目的のために集まった我々は、あろうことか敵を排除したかと思えば次は自分達で争い始めてしまい、出自から日々の生活から積もり積もってきた不満や不義理は、私も放置していたとはいえいともたやすく内部分裂を引き起こした、そんなメンバーなのだ。

すでに死んでいるとはいえそんな過去の衝突が無かったことになるわけでもないというのに、仇敵といっても差し支えないメンバーが仲良く酒飲みとはいかないだろう。

それとも、そんなわだかまりも長い時の中で良い思い出に昇華されてしまったのだろうか?

ためしに盃を交わすガウェイン卿とランスロット卿を想像してみたが、想像の中の彼らは数瞬後には剣を手に取っていがみ合い始めた。

 

そんなわけで一度目の招待に参加しない旨を返事として出すと、意外にもベディヴィエールは素直に引き下がる。

自分で言うのもなんだが、生前彼の青年騎士はどこか私に心酔している節があったと思う。

私の命でも二回聖剣を湖に還すのをためらうほど自分の意見を大切にするという面もあるので、簡単には諦めてくれないだろうと気を重くしていたので少し拍子抜けした。

もしかすると私には考えられないほどの長い時間をここで過ごすことで、少しは心境も変わったのかもしれない。

……などと思ったのは早計に過ぎた。

翌月の半ば、新しく届けられた招待状を見て思わず頭を抱えてしまったと同時に、時間が経っても変わらないものだと少し嬉しくも思ってしまった。

だがやはり参加する気にはなれなかったのでまた丁重に断った。

 

そんなことを繰り返すうちついに四通目だ。

いい加減顔を出すべきなんだろうか?

誰か出席していそうな良識ある知人に様子を聞くのもいいだろう。

 

…………

 

やはりガウェイン卿か兄が相応しいだろうという考えに至ったところで、聞こうにも彼の騎士どころか他の誰に関してもどこにいるのかも自分は知らないということに気が付いて驚いた。

マーリンが言うには、キャメロットに残っている騎士はいないらしい。

確かに永劫とも呼べる時間をあの冷たい石の壁に挟まれて暮らすというのはあまり魅力的な考えではないだろう。

もちろんそのことについて同じ選択をした自分が彼らを責めることは出来ないし、なによりその説明を聞いたときならばどこにいるのかと尋ねなかった自分に二度驚いた。

 

手の打ちようがない。

幸い返事を出さなくてはならない期限は今までより長く設定されており、一週間は時間がある。

どれほどかかるかは分からないが人づてに聞いて回るのもいいだろう。

どうせ普段やることと言えば、ご近所さんと下らない世間話をしたり最近得た新しい友人とスポーツに興じるくらいなのだ。

――――そうだ、まず彼らに相談してみるのもいい手かもしれない。

 

ここにきて早四ヶ月。

日々怠惰にとまでは言わないが、少なからぬ時間を持て余していた私にようやく当面の指針が出来たのだ。

机の上の鏡を見ながら飾り気のないゴムでおろしていた髪を一房に束ねる。

――――よし!

 

心意気も新たにして、玄関で靴ひもをきつく縛る。

ほんの二週間だけのことだったのに、今も背後からシロウがいってらっしゃいと送り出してくれているような、そんな錯覚をした。

もしかしたらあったかもしれない幸せな想像に思わず口元が緩む。

自己暗示のような錯覚に勇気をもらった私は、勢いよく立ち上がると初夏の抜けるような快晴のもとへ元気よく飛び出していった。

 

 

 

 

 

 

「―――行ってきます!」

 

 

 

 

 




いろいろ至らぬ点も多いかと思いますのでその都度ご指摘いただけるとありがたいです。

どうぞ優しく見守ってやってください。
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