これは多分、有名な怖い話の一つに数えられるだろう。
“若いカップル”“赤ちゃん”“湖”“ボート”
ぽちゃん、と音をたてて、赤ちゃんは湖の底へと落ちていく……。
それから数年後。
若かったカップルは結婚し、赤ちゃんが出来る。
その子がある日突然こう言うのだ。
「湖に行きたい」
「ボートに乗りたい」
「トイレがしたい」
仕方がないので、湖で用を足させようと、我が子を持ち上げた時……
「今度は落とさないでね」
――もし。
生まれ変わるときに、道を選べるとしたら。
この子は何故、また同じ両親のもとへと生まれ変わったのだろうか。
僕はそんなことを考えながらいつも、学校までの長い道のりを歩いていく。
学校が近づくにつれて下がっていく視線。重いため息。
ぎゅうっと、肩にかけたランドセルのショルダー部分を握りしめた。
「おい見ろよ! 貞夫が来たぞ!」
くすくすと笑い声が耳に入ってきて、居づらさから、余計に俯いてしまう。
「男版の貞子だから貞夫だな!」
「あいつに近付いたら呪われるぞ!」
「早く成仏しろ!」
周りからの罵詈雑言に耐えきれなくなり、溢れだした涙を拭いながら振り返って、来た道を走りだした。
「おっと」
「ひっ……!」
誰かにぶつかり、尻餅をつく。
「あれ、コータじゃん。 おはよ」
「……おはよう」
立てるか?と手を差し伸べられて、恐る恐る手をとる。
よっと、小さな声を出しながら、僕を引っ張り立たせてくれた彼の顔を見上げる。
僕より頭一つ分大きい身長、短く刈り上げた黒髪に切れ長のつり上がった目。
クラスのリーダー的存在であり、少年野球のエース。
「ありがとう、ショータくん」
僕の、たった一人の友達。
「おうよ」
太陽みたいに笑った後、クラスメイト達から話しかけられ、挨拶を返していく彼を見ながら、少し距離をとってから歩き始める。
――まるで今の僕は冥王星みたいだ。
なんて、ね。
「おい見ろよ、まじキメえ……」
「ほんとだ」
多分、僕のことだろう。
手に力をこめる。
重くなる足取り。
「コータ」
ショータくんに呼ばれて、顔を上げる。
目を彼へと向ける。
「一緒に教室まで行こうぜ」
「うん」
嬉しさに笑みを浮かべて、こちらへ駆け寄るショータくんの隣へ並ぶ。
「ショータって仲良いよな、こいつと。 なんで?」
「“なんで?”」
ショータくんは立ち止まって、目だけを彼らに向けて口を開く。
「仲良くすんのに理由なんていんの?」
言い淀む彼等を見つめていると、行こうぜ、と肘でつつかれる。
「……うん」
少し俯きながら歩く僕。
ちらりと見上げた先にはショータくんの眠そうな顔。
これが、僕の毎日。