「僕、どうしたらいいんだろう」
母親の後ろで、呆然と立ち尽くしているショータくんが目に入り、戸惑う。
目の前に浮かび上がった文字の羅列。
“生まれ変わりますか?”
“はい”“いいえ”
「……生まれ……変わる……」
そう呟いて、眉間に皺を寄せた。
もうこんな想いをしたくない――。
したくない、したくない……だけど。
ショータくんへと視線をそらす。
「僕は……」
僕は……。
彼へと向かって歩き出す。
戸惑いがちに、彼に手を伸ばす。
触れることのない指。
締め付けられるような痛みに、その場にしゃがみこんだ。
どうしよう。
僕、今、独りだ……。
涙で霞む視界に再びあの文字の羅列が浮かび上がった。
ゆっくりと伸びる指。
――それでも。
それでも、僕は。
急に辺りが真っ暗になる。
波打つ鼓動の音が響く中、微かに人の声がした。
「頑張って下さい、もう少しですよ!」
「スースーハースースーハー」
「踏ん張って」
女性の声がする。
それも、三人ぐらいの。
何とも形容しがたい、悲鳴のようなうめき声のような声が耳をつんざく。
「っんぎゃあ!うんぎゃあ!」
ああ。
僕、生まれ変わったんだ。
本当に。
前世の記憶を伴ったまま……。
ぐらりと意識が歪んだ気がした。
走馬灯のように駆け巡る、虐待された日々。
地獄のような時間。
ぐるぐる混ざって交ざって雑ざって……
気が付いたら、僕はあの時と同じ過ちを犯してた。
日だまりのような抱擁を受け、夢心地の僕はつい、魔が差したんだ。
きっと。多分。そうに違いない。
「僕、コータだよ。 今度はイイコにしてるから、外へ出さないでね」
いつか聞いた、ヒステリック。
平手でぶたれた頬。
じんじん痛む頬に流れる涙。
鬼のような、母親の顔。
掴まれる髪。
引きずられる、体。
お母さん。
お母さん、お母さん。
ねえ、お母さん。
どうしたの? お母さん。
ひんやりとした床。
見慣れた光景、蛇口から滴り落ちる滴の音。
やめて、やめて、やめて。
お母さん、やめて。
どうして、なんで。
浴槽に沈めては引き上げられる頭。
ぐるぐる回る視界。
――そういえば。
コータとして生まれた時も、ちょっとした一言が原因だったような気がする……。
何だっけ。
何を、言ったんだけ。
薄れゆく意識。
何かを叫ぶ、母親。
「気味が悪い」
――ごめんなさい。
「どうして生まれてきたの」
――ごめんなさい。
「どうして、また記憶が残っているの……!」
ああ。
そういえば僕、微妙に前世の記憶を持っていたんだっけ。
ずっと考えてた。
疑問があった。
“どうして僕は再びあの両親のもとへと生まれ変わったのだろうか”
怖い話にも出てきた女の子。
境遇こそ違えど、同じ両親のもとへと生まれ変わった。
彼女はどうして同じ両親を選んだのだろうか。
どうして僕は、同じ両親を選んでしまったのだろうか。
あんなに嫌っていたのに……。
どうして、どうして……。
幼き日の、コータの記憶。
「お母さん、僕、生まれ変わったんだよ」
お母さん。
僕、生まれ変わったんだよ。
同じ過ちを繰り返す。
誰かのついたため息が、聞こえた気がした。
矛盾、終わります。
次からは違う話になります。