ありふれた悪魔狩人《DEVILHUNTER》で世界最強 作:ヴェルザ・ダ・ノヴァ
濃霧が立ち込む樹海【ハルツィナ樹海】。その中では、現在、大規模自然破壊と雄叫びが響いていた。
シアはその両手に自分の身長よりも長く大きな戦鎚を使いユエに攻撃し、ユエもあらゆる魔法での攻撃をシアに行っていた。
「セラアアアアアアア!!」
「〝緋槍〟」
シアは直系1mにも及ぶ大木を圧し折って投げ飛ばすが、ユエはそれを緋槍で迎え撃った。初級魔法では、今のシアなら膂力のみで跳ね返してしまうだろう。
「まだです!オラアアアアアアア!!」
そう言って空かさず上空に跳び上がったシアに二本目の大木を投擲され、ユエはバックステップで避けるものの、それも予測していたシアは大木を跳び蹴りで粉砕し、大量の木片を撒き散らした。しかしユエも負けじと〝城炎〟を発動し、襲いくる木片を瞬時に焼き尽くした。だが、それらは全て目眩しであった。
「もらいましたぁ!」
「ッ!」
そう叫ぶと、シアはハジメに作ってもらった大槌を振り上げた。しかし、大槌もただの大槌ではない。ブースターがついたブーストハンマーである!その威力は途轍もなく、奈落にいた爪熊をペシャンコにするほどだ。*1
最初、シアは機能性に振り回されて扱えきれなかったが、今となってはお手のもの。
大槌の打撃部分の反対方向のブースターから「キュィィィィイイイイン」という音が聞こえてきており更にブースターから炎が噴き出てきた、その一撃をユエ目掛けて振り下ろす。
その攻撃をかろうじて避けたユエだが、大槌はそのまま大地を揺らして石片が撒き散らされ、彼女は「風壁」でそれらを散らし、同時にその風に乗って自身も間合いをおくと続けざまに「凍柩」を発動し、シアの首から下が氷付けにした。
「づ、冷たいぃ~!早く解いてくださいよぉ~、ユエさ~ん」
「…私の勝ち」
「うわぁ…とんでもないことになってるわね〜」
そこに閻魔刀の素振りをしていた雫が近づいきた。周りの大惨事の光景には驚いてはいるが、飄々としている。
「ううぅ…やっぱり負けました…」
シアはガッカリした表情で俯いている。ハジメがシアに出した課題はユエに攻撃を一発当てることだった。今日で訓練八日目。【ハルツィナ樹海】に来て十日が経つ。大樹ウーア・アルトの周りの霧も晴れて行けるようになっていた。それは、今日か明日にはハジメたちはこの地を発つのを意味する。
だが、ユエに一発も入れられないようでは認められないだろう。だが、そこに救いが現れた。
「ところでユエ?」
「なに?」
雫はユエの左頬を指差す。
「ちょっと左側の髪の毛をどかしてみて」
「?わかった」
ユエは雫に言われた通りに髪をどかす。すると、そこには。
「あー!傷です傷!ユエさんの頬っぺ!私の攻撃当たってますよ!あはは~、やりましたぁ!私の勝ちですぅ!」
横筋で傷があり、ツーと血が流れていた。それにシアは、氷だるま状態で体が動かせない代わりに、長い耳をピコピコ動かして大喜びした。
(やら…れた…?)
今まで戦闘経験もないシアが自分に攻撃を当てるなんて不可能だと初めは思っていた。事実、最初の四日間は殆ど赤子の手を捻るような感覚で返り討ちにしていたので、これだけ圧倒的である力の差を見せればその内諦めるだろうと思っていた。だが、身体強化をモノにしてからはとんでもない成長スピードで強くなっていった。最初の一日目では、ブーストハンマーのブースターでぶっ飛んでいったシアだが、今では軽々と扱っている。そして今日、シアはついにユエに一撃を入れてみせたのだ。
渋々シアの氷を溶かしたユエに雫が声を掛けてくる。
「残念だったわね?ユエ」
「ん……でも、悪い気はしない」
ユエは少し微笑みながらそう言って、二人はハジメの元へ歩いて行き、後ろからシアが「置いて行かないでくださーい!」と叫びながら追いかけてきた。
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一方で、ハジメは訓練最終日となり、最後の課題を訓練生たちに課して一人であぐらをかきながら装備の点検をしていた。
「ハジメさーーん!」
そこにシアの声が聞こえてきたので、点検していた装備を宝物庫にしまう。そこにシア、ユエ、雫の3人が来るタイミングはほぼ同時だった。
「ハジメさん!ハジメさん!聞いて下さい!私、遂にユエさんに勝ちましたよ!大勝利ですよ!いや~、ハジメさんにもお見せしたかったですよぉ~、私の華麗な戦いぶりを!負けたと知った時のユエさんたらもへぶっ!?」
「うるさい」
シアは嬉しかったのか、調子に乗りすぎて、ユエのビンタを食らい吹き飛んでドシャと音を立てて地面に激突する。よほど強烈だったのかピクピクと痙攣して起き上がる気配がない。
「「あらら…」」
それをハジメと雫は一筋の汗を流しながら見ていた。当の本人であるユエはフンッと鼻を鳴らし更に不機嫌そうにそっぽを向いてしまう。そんなユエにハジメは苦笑いしながら尋ねる。
「で、どうだったんだ?」
「魔法の適性は皆無。ハッキリ言って宝の持ち腐れ」
「うわぁ…ホントにハッキリ言ったな。だが、それだけじゃねぇんだろ?魔法が使えねぇとなると」
「んっ。身体強化に関しては化け物レベル」
「ほぅ〜、俺らの誰かで比べるなら?」
ハジメはユエの評価に感心していた。最初はベシュトレーベン*2の機能に振り回されてばかりだったが、今では見違えたように強くなった。
ユエ曰く、シアの力は強化していない雫の七、八割ほどである。鍛えれば更に強くなるとのこと。普通に考えても八日でここまで強くなるのは驚愕モノである。これがシアの努力の結晶か?それとも元々シアに才能があったのか?それは誰にも*3分からないことだ。
シアは、話し込んでいる二人の近くへ行き、ハジメに話しかけた。
「ハジメさん!前の約束覚えてますよね?!」
「ん?ああ、覚えてるぞ。親父さんたちはここで暮らしていけそうだしな」
「じゃ、じゃあ!」
シアの目がキラキラと輝いていく。
「ああ、だがその前に聞かせてくれ。なんで俺たちに付いて行こうと思ったんだ?」
ハジメはこれが聞きたかった。そもそも旅に出たいならば、鍛えてもらい、一人旅するのもありである。実際、ハジメは一人旅の経験が豊富なため、そこらへんの知識も教えておこうか、と考えていたぐらいだ。
シアはそれを聞かれてモジモジし始める。指先をツンツンしながら上目遣いでハジメをチラチラ見てくる。そんなあざとい仕草を、ハジメは呆れたような目で見ながらも待った。
「えっと、自分自身、ハジメさんたちについて行きたくて」
「だから、その根拠を聞いてんだ。そもそも、シアはもうフェアベルゲンで暮らせるのになんで付いて来たいんだ?」
シアはそこで言葉を詰まらせ、さっきよりも顔を赤くし俯いた。だが、自分の両頬をパンっと叩いて気合を入れると、顔を上げた勢いのまま叫ぶように告げた。
「私がっ!ハジメさんの隣に居たいんですぅ!!しゅきなのでええ!!」
((噛んだよ…この子…))
「…………………………………なに?」
言っちゃった、そして噛んじゃった!と、あわあわしているシアを前に、ハジメは脳内がOver Flowして思考停止を起こしたのかポカンとしている。まさに、何を言われたのか分からないという様子だ。しかし、しばらくしてようやく意味が脳に伝わったのか、苦笑いを浮かべて「お、おいおい…マジかよ…」と呟いている。
「はぁぁ……まぁ、それがシアの理由ならいいか……シア!」
「は、はい!」
ハジメに呼ばれてシアは大声で返事する。そんなシアに、ハジメは笑って言った。
「ようこそ、デビルメイクライへ」
その言葉はシアにとって最も嬉しかった記憶の一つになった。