ありふれた悪魔狩人《DEVILHUNTER》で世界最強 作:ヴェルザ・ダ・ノヴァ
ヘルシャー帝国軍第三連隊隊長グリッド・ハーフは上機嫌であった。
部隊を引き連れハルツィナ樹海へ訪れたら、大量の兎人族と出会した。それだけでも思わぬ拾い物だというのに、その中には見たことない白髪の少女もいた。あれは是非とも欲しいものだ。
ある程度捕まえたものの、その少女は大半の仲間と共にライセン大峡谷へと逃げられてしまった。流石に峡谷まで追いかけるつもりはなかったが、最弱種族の兎人族どもが大峡谷の魔物達に敵うわけがないし、すぐに逃げ帰ってくるだろうと考え、小隊長を含めた30人を待機させ、自身は他の部下達と共に捕らえた兎人族どもを引き連れて帝都へ目指した。
だが、謎の不安に駆られて待機場所に戻ってみると、惨殺死体が辺り一面に広がっていたことに驚愕した。待機させた兵士達は弱いものの帝国では中の上くらいの強さをもつ者達だったからだ。しかし、ハーフの顔は驚愕から一変憤怒へと変わった。その目には
帝国兵達は、そこで見つけた
その結果…
「い、一体なんなんだ…何なんだこれは!?」
現在、ハーフは現状に絶望していた。
「斬り殺せっ!」
「我等に勝利をっ!」
雄叫びを上げながら容赦なく襲いかかり、帝国兵達の首を斬り飛ばしたり、パンチやキックで肉の塊に変えていく事で討ち取っていった。そこには最早魔法に抵抗する力など無い亜人族の面影など無く、必死に応戦する帝国兵達は阿鼻叫喚となっていた。
「ちくしょう!何なんだよ!この化け物!?」
「こんなの亜人族じゃないだろっ!」
「うわぁああ!来るなっ!来るなぁあ!」
当初、熊人族と土人族が2mの大盾と
これが最初の誤算である。
亜人族が持つ盾はハジメが作ったアーティファクトで上級魔法程度なら打ち消す優れモノだ。勿論のこと物理にも強く剣や矢ではびくともしない。そんな盾を前に出して突撃してきたのだ。どんな攻撃か?答えは明らかである。タックルしたのだ。それにより、前方部隊は吹き飛んでしまった。それだけならまだ良かっただろう。
だが、現実とは非常なもので、これが第二の誤算だった。
虎人族と兎人族、狐人族、そして
熊人族と土人族にはカリバーンで切り刻まれ、虎人族には槍で串刺しにされ、兎人族と狐人族には気付いた時には首を掻っ切られ最早蹂躙である。中でも酷かったのが狐人族、兎人族、そして新しい種族とも言うべき悪魔族である。
「ほらほらほら! 気合入れろや! 刻んじまうぞぉ!」
「アハハハハハ、豚のように悲鳴を上げなさい!」
「汚物は消毒だぁ! ヒャハハハハッハ!」
イカれ組の亜人族の哄笑が響き渡り、致命の斬撃が無数に振るわれる。そこには温和で平和的、争いが何より苦手な狐人族、兎人族の面影は皆無だった。
「なんで魔法が使えない筈の亜人族が魔法使えんだ?!」
「あ、熱いっ!も、燃える!燃えてるうううう!?誰かあああ!」
「い、嫌だ……嫌だ嫌だ!たsっ……………………………」
その中でも特にヤバいのは悪魔族だろう。何故なら固有魔法のように火や氷を出せるのだから。口から炎を吐いたり、帝国兵を氷漬けにしたりと滅茶苦茶である。それが更に混乱を呼んで帝国兵は完全にパニック状態に陥った。
そんな彼等に指揮が通じる筈もなく、壊滅寸前という訳である。
「隊長!ハーフ隊長!どうします?!」
「くっ!撤退だっ!撤退急げ!!」
その言葉を聞き、帝国兵達はすぐに撤退を開始した。それを見て熊人族達は攻撃態勢を解く。しかし…………
「な、何故攻撃を続ける!?」
兎人族、狐人族、悪魔族は攻撃を続けていた。呻くように声を搾り出し、問答無用の攻撃の理由を問うハーフ。
「なぜ? 貴様らは敵だろ?殺すのにそれ以上の理由がいるか?」
兎人族の一人が答えた答えは実にシンプルだった。
「ぐっ、だが!」
「それに……貴様らの傲慢な心を打ち砕き、嬲るのは楽しいのでなぁ!ハッハッハッ!」
「なっ!?おのれぇ!こんな奴等に!」
これまで狙われ、虐げられてきたこと、そして文字通り地獄を見て強くなったことへの狂喜が完全に力に溺れた者典型の狂気じみた高揚に包まれたもので、彼等の心のタガが外れ、カムの予想どうり完全に暴走状態に陥っていた。
暴走した亜人族達は口元を歪めながら武器を構え恐怖で動けない帝国兵を狙った。帝国兵達はここが死に場所と悟り目を瞑る。それと同時に大量の銃撃音が鳴り響いた。
だが、いつまで経っても体に来る筈の衝撃は来ない。何かと思いそーっと目を開けると、そこにはと目に見えない速度で剣を振るう
「俺がやっちまったことだが…………少しはしゃぎ過ぎだ」
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「……ボス、いや、ハジメ殿。何故邪魔をする?」
暴走した亜人達の武器は全て撃たれて床に落ちている。ハジメが撃ち落としたのだ。
突然のハジメからの攻撃に亜人族達は敵を見るかのような目でハジメを見る。
「ん?ああ、スマンスマン。間違えちまったよ」
「間違えた?何に?」
「あぁ?んなの、テメェ等を襲ってた帝国のクソッタレ共に決まってんだろうがッ!!」
ハジメの怒号が鳴り響いて衝撃波のようになり、その場の全員がビクッと震えビリビリと全員の肌を叩きつける。
それと同時に、亜人達の脳裏に歪な笑いを浮かべる帝国兵を思い浮かべ目を見開いた。口元を触り、自分が同じような笑みを浮かべていることを知り、次々と膝をついていく。
「ボ、ボス……………私達、は……一体……」
「確かに精神面を先に鍛えなかったのは俺の落ち度だ。すまなかったよ。だがなぁ!あの時、俺は何て言った?俺は自分達の存在を証明して来いって言ったんだ!!尊厳を主張して来いってなぁ!!快楽殺人をして来いなんて言った覚えはねぇぞっ!!」
「「「!!!」」」
「そして、これが俺の最後の教えだ。大切なのは力なんかじゃない。もっと大切な、誇り高き魂だ!!」
「私、たちは……」
「この言葉を胸に刻み、戦うのなら、もう力に溺れたりはしないだろうな」
亜人達の脳裏に、先ほどまでの自分の所業が駆け巡る。怯える帝国兵達を嘲笑い、ゲームのように殺していく自分たちが。
ああ、確かに言う通り、これではただの悪党だ。自分たちから家族を奪ってきた帝国兵達と、なんら変わらないではないか。
自分たちが力を求めたのは、断じてこのようなことをするためではない。ただ、生きるため、守るために力を欲した。それだけだったはずだ。
「それなのに、私たちは……」
「俺は、なんてことを……」
「私、私……!」
人の心が戻ったのか、皆涙を流している。その様子を見ていた他の亜人達も安堵して口々に「良かったぁ、良かったぁ」と言っていた。
その陰でコソコソと逃げ出そうとしている帝国兵達。
だが、その動きは一瞬で止められた。
ズバアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァンッ!
「何処に行くつもりですか?そこで静かにしていなさい」
カムの威嚇の斬撃が飛び、動きを止めざるを得なくなった帝国兵。全員、腰が抜けたのか座り込んでいる。因みに、一番攻撃の近くにいた帝国兵の股間辺りがビショビショに濡れ、目から汗が溢れ出ているのは触れてはいけないことである。
ハジメはそんな帝国兵達に近づいていくと、ハーフの前にしゃがみ込む。
「さて、そんな訳で命拾いしたわけだが………俺と取引しないか?」
「と、取引だと?」
「ああ、アンタ等は今捕らえている亜人族全員を置いて帝国へ帰る。途中で魔物に襲われたとでも言い訳してな。証拠品としての魔物の素材はこれをやる」
ハジメはちゃっかり拾っていたダイヘドアとハイベリアの素材を宝物庫から出してハーフの前に出現させた。
「なっ!?この素材は!?」
「ああ、大峡谷の魔物の素材だ。それぐらいの強さの魔物に襲われたと言えば、大して罰も与えられねぇだろ?勿論ここでの事は秘密だ」
「ぐぅぅ…しかし…」
「まぁ、別にしなくてもいいぞ?そん時は皆殺しか、フェアベルゲンに引き渡すだけだしな」
「なっ!?」
あまりにもな言葉に絶句するハーフの肩に、ハジメは手を置く。そしてニコリといっそ純粋そうな笑顔を浮かべた。
「もし、少しでも他の誰かに話したときは………………………分かってるよな?」
ハジメの冷たい眼光とドスの利いた声にハーフの心は折れた。
「は、はい!分かりました!!我等帝国軍は即帰還します!!」
ハーフの声に帝国兵達は即座に行動を起こし、捕らえていた亜人族達を馬車から降ろし、素材を代わりに詰めて一目散に帰っていった。
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「あぁー、散々叱ったわけだが、元はといえば俺がやり過ぎたのが原因だからな。だからまあ、すまなかったな」
ポカンと口を開けて目を点にする亜人達。まさか素直に謝罪の言葉を口にするとは予想外にも程があった。
「ボ、ボス!?正気ですか!?頭打ったんじゃ!?」
「メディーック!メディーーク!重傷者一名!」
「ボス!しっかりして下さい!」
故にこういう反応になる。満面の笑みで、細められた眼の奥は全く笑っていないハジメ。
「なぁ、俺だって間違えたら謝るぐらいするんだぞ?だというのに……随分な反応だな? いや、わかってる。あの訓練の時の態度がそうさせちまったんだって……だが、だがなぁ……このやり場のない気持ち、発散せずにはいれないんだ……わかるだろ?」
「い、いえ。我らにはちょっと……」
周りの関係ない亜人達も「あっ、これヤバイ。キレてらっしゃる」と冷や汗を滝のように流している。ハウリア+αの亜人達はジリジリと後退り、何人かが訓練を思い出したのか、既にガクブルしながら泣きべそを掻いていた。
「ぞ、族長!助けてください!!」
ハウリアの一人がカムに助けを求める。
「我が君が謝罪しているのに蹴ったのは貴方たちでしょう……ハッキリ言います。諦めなさい」
しかし、カムはそう切り捨てて、黙禱していた。
ハジメは、笑顔を般若に変えた。そして、怒声と共に飛び出した。
「取り敢えず、全員一発殴らせろ!」
わぁああああーー!!
ハウリア達が蜘蛛の子を散らすように一斉に逃げ出す。一人も逃がさんと後を追うハジメ。しばらくの間、樹海の中に悲鳴と怒号が響き渡った。
後に残ったのは、
「……何時になったら大樹に行くのよ…?」
「……何時になったら大樹に行くの?」
「……何時になったら大樹に行くんですかねぇ~?」
すっかり蚊帳の外だった雫、ユエ、シアの呟きだけだった。