ありふれた悪魔狩人《DEVILHUNTER》で世界最強 作:ヴェルザ・ダ・ノヴァ
現在、ライセン大峡谷の谷底には、死屍累々と言った光景が広がっていた。ある魔物は胴体が綺麗に真っ二つに分かれ、ある魔物は全身が丸焦げに焼かれ、またある魔物は原型をとどめない程に切り刻まれていた。
「くらいやがれですぅ!」
ドバンッ!!
「……邪魔」
ゴバッ!!
「うざいわよ」
ズバンッ!!
「
ジャギインッ!!
当然、この世の地獄、処刑場と恐れられるこの場所で、こんなことが出来るのはハジメ達四人だけである。彼らはブルックの町を出た後、シュタイフ(+ストーム)を走らせ、かつて通った【ライセン大峡谷】の入口に辿り着いた。そして現在は、更に進み、野営もしつつ、【オルクス大迷宮】の転移陣が隠されている洞窟も通り過ぎて、更に二日ほど進んだあたりだ。
性懲りもなく魔物達襲ってくるが、四人の敵ではない。
シアが使っているのは、ハジメが寝ずに作製したロケットランチャー型アーティファクト〝カリーナ=アン〟である。このカリーナ=アンは、様々な場合を想定された多目的ロケットランチャーだ。使い道は少ないが、威力は折り紙付きである。ギミックにはショットアンカー及び小型ミサイルランチャーが搭載されている。
この武器は、ハジメがベシュトレーベンにブースターロケットを組み込んだため、遠距離武器が積めなくなったので、別で作ったわけである。
ちなみに、カリーナ=アンは元々レディのメイン武器であり、「カリーナ=アン」はレディの今は亡き母親の名前らしい*1。
そんなロケランの砲弾が遠慮容赦なく魔物に撃ち込まれ、一匹残らず魔物達を肉片に変えていった。
ユエは、至近距離に迫った魔物を、魔力に物を言わせてごり押しで発動した魔法で屠っていく。ユエの魔力が膨大なのもあるが、魔晶石シリーズに蓄積された魔力が莫大であることから、まるで弾切れのない爆撃だ。谷底の魔力分解作用の影響で発動時間・飛距離共に短くとも、超高温の炎がノータイムで発動するので魔物達は一体の例外もなく炭化して絶命する。
ハジメと雫は言うまでもなく、魔剣ジェネシス、閻魔刀で魔物を切り刻んでいる。閻魔刀の次元斬は魔法というより閻魔刀本体のスキル的なもので雫の魔力は減らず、ハジメも武器を変えるとき以外では魔力が減る様子はなかった。それどころか、ハジメは戦闘時に「Bang Bang Bang – Pull my Devil Trigger!」と歌っている始末である。
この四人の前では、ライセンの谷底にいる地獄の猛獣達は完全に雑魚同然であった。大迷宮を示すモノがないかを探索しながら片手間で殲滅していった。
「雑魚ばっかだなぁ、〝スケアクロウ〟とか〝エンプーサ〟のほうがまだ根性あんぞ。ったく、迷宮の手がかりも、峡谷のどこかってだけじゃあ、大雑把すぎんだろ」
洞窟などがあった調べようと考え、注意深く探してはいるのだが、それらしき場所は全く見つからず、ハジメは愚痴をこぼしていた。
「まぁ、大火山に行くついでなんだし、見つかれば儲けものくらいでいいじゃない。大火山の迷宮を攻略したら手がかりが見つかるかもしれないわよ?」
「まっ、それもそうか」
「んっ、でも魔物が鬱陶しい」
「あ~、ユエさんには好ましくない場所ですものね~」
そんな風に愚痴をこぼし、更に進んで三日が経った。谷底から見る空に浮かんだ上弦の月が美しく輝く頃、ハジメ達は野営の準備をしていた。雫が野営テントを取り出し、ハジメとシアが夕食の準備をする。町で揃えた食材と調味料と共に、調理器具も取り出す。この野営テントと調理器具、これ等は全てハジメが作ったアーティファクトである。
野営テントは、生成魔法で創り出した〝暖房石〝、〝冷房石〝が取り付けられており、常に快適な温度を保ってくれる。また、冷房石を利用した〝冷蔵庫〟、〝冷凍庫〟完備である。更に、金属製の骨組みには〝気配遮断〝が付加された〝気断石〟を組み込んであるので敵にも見つかりにくい。
調理器具は、流し込む魔力量で熱量を調整できる火要らずのフライパンや鍋、魔力を流し込むことで〝風爪〟が付与された切れ味鋭い包丁などがある。蒸し器やオーブンなどもある。どれも旅の食事を豊かにしてくれるハジメの愛し子達だ。しかも、魔力の直接操作が出来ないと扱えないという、ある意味での防犯性もある。
〝神代魔法マジ便利〟
ハジメが調理器具型アーティファクトや冷暖房完備式野営テントを作った時のセリフだ。
まさに〝無駄に洗練された無駄のない無駄な技術〟力である。
ちなみに、この日の夕食は〝クルルー鳥といろんな野菜のピザ〟〝ジャガイモ(モドキ)ニンジン(モドキ)タマネギ(モドキ)のトマトスープ〟である。クルルー鳥とは、空飛ぶ鶏であり、肉質や味はまんま鶏である。この世界でもポピュラーな鳥肉だ。いったい何処のグルメ時代だ、とツッコミそうになる鳥である。
そのクルルー鳥を細かく切り、先に切った各種野菜と一緒に作ったピザ生地にトマトソースを塗ってから乗せ、その上にチーズを乗せてオーブンで焼いた料理である。クルルー鳥の肉汁とチーズのクリーミーな味が口に入れた瞬間口いっぱいに広がる。肉や野菜がホロホロと崩れていき、トマトスープはスープがしっかり染み込んだジャガイモはホクホクで、ニンジンやタマネギは自然な甘味を舌に伝える。
「けど、驚きましたぁ。ハジメさんって料理できたんですねぇ」
「ん?まぁな」
「ん、奈落でも料理当番はハジメだった」
「ええ、確かにそうね。ねぇ、なんでそんな料理上手いの?」
雫がハジメにそう聞くと、ハジメは少し苦笑いした。
「あぁ~、兄貴の影響かもな」
「ほぇ~、ハジメさんのお兄さんも料理が得意なんですねぇ」
シアが驚いたように言うと、ハジメは笑いながら首を横に振った。
「いいや。それどころか、胃にピザと苺パフェしか入れない男だったよ。料理食わすのに苦労したなぁ」
「でも、それが料理上手なのと何の関係があるんですか?」
「考えてもみろ。同じ食いもんがずっと続くんだ。飽きずに食えると思うか?」
「無理ね」
「だろ?だから姉さん二人に料理教わったんだが、二人とも賄い飯みたいなモノしか作れなくてよぉ。仕方なく料理覚えたんだよ」
夕食を終えて、その余韻に浸りながら、食後の雑談をするハジメ達。テント内であれば、ある程度に気断石が活躍し魔物が寄ってこないので比較的ゆっくりできる。寄ってくる魔物は、ハジメの〝悪魔威圧〟で逃げていくので問題はない。そして、就寝時間が来れば、四人で見張りを交代しながら朝を迎えるのである。
その日も、そろそろ就寝時間だと寝る準備に入る雫とシア。最初の見張りはハジメとユエだ。テントの中にはふかふかの布団があるので、野営でも快適な睡眠が取れる。と、布団に入る前にシアがテントの外へと出ていこうとした。
「何処に行くの?」
訝しそうなユエとハジメに、シアがすまし顔で言う。
「ちょっと、お花摘みに」
「谷底に花はないぞ?」
「ハ・ジ・メ・さ~ん!」
「悪い悪い、早く行ってこい」
デリカシーのない発言にシアがすまし顔を崩しキッとハジメを睨みつけ、ハジメは苦笑いを浮かべながら謝る。シアはぷんすかと怒りながらテントの外に出て行き、しばらくすると
「み、皆さ~ん!ありましたよぉ~!大迷宮の入り口ぃ~!!」
「「「……………………………………………………は?」」」
三人ははしゃぐシアに導かれて岩の隙間に入ると、壁面側が奥へと窪んでおり、意外なほど広い空間が存在した。その空間の中程まで来ると、シアが無言で、しかしドヤ顔でビシッと壁の一部に向けて指をさした。其処には、壁を直接削って作ったと思われる見事な装飾の長方形型の看板があり、それに妙に女の子らしい丸っこい字でこう書かれていた。
〝おいでませ! ミレディ・ライセンのドキワク大迷宮へ♪〟
〝!〟や〝♪〟のマークが妙に凝っている所が何とも腹立たしい。
「………なによ、これ」
「………なにこれ」
雫とユエの声が重なる。その表情は、〝信じられないものを見た!〟という表現がぴったり当てはまる。二人共、呆然と地獄の谷底には似つかわしくない看板を見つめている。
「ねぇ、これって本当だと思う?」
「ああ、たぶんな」
「妙に自信満々ね。根拠は?」
「……たぶん
「ああ、ユエの言う通りだ」
〝ミレディ〟その名は、オスカーの手記に書き記されたライセンのファーストネームだ。ライセンの名は世間にも伝わっており有名だがファーストネームの方は知られていない。故に、その名が冠されたこの場所がライセン大迷宮である可能性は非常に高かった。
だがしかし!はいそうですかと素直に信じられない理由がある。
「何でこんなチャラいのよ……」
そう、チャラいのである。雫としては、オルクスでの数々の死闘を思い返し、他の迷宮も一筋縄ではないだろうと思っていただけにこの軽さは否応なく脱力させ、ユエもそう思っていたのか、誰かのいたずらなのではと疑わしそうな表情をしている。
「おい、真に警戒しなきゃいけねぇのは、見た目よりも中身だぞ」
ハジメは、二人にそう言って気を引き締めさせる。
「でも、入口みたいなところは見当たりませんね?奥も行き止まりですし…」
シアは入口を探して辺りをキョロキョロ見渡したり、壁の窪みの奥の壁をペシペシと叩いたりしてみた。
「おい、シア。あんま」
ガコンッ!
「ふきゃ!?」
〝あんまり不用意に動き回るな〟そう嗜めようとしたハジメの眼前で、シアの触っていた壁が突如グルンッと回転し、巻き込まれたシアは壁の向こう側へ姿を消した。さながら忍者屋敷の仕掛け扉だ。
「「………嘘/嘘でしょ?」」
奇しくも大迷宮の入口も発見したことで看板の信憑性が増した。やはり、ライセン大迷宮はここにあるようだ。まるで遊園地のような看板の言葉と入り口に「真面目にやれよ、大迷宮」とかの色々と言いたいことが山ほどあるが、シアが消えた回転扉を無言で見つめていた三人は、溜息を吐いてシアと同じように回転扉に手をかけた。
扉の仕掛けが動き、三人を同時に扉の向こう側へと送る。内部は暗闇に包まれ、扉がグルリと回転し元の位置にピタリと止まる。と、その瞬間、
ヒュヒュヒュッ!
無数の風切り音が響き、ハジメ達目掛けて何かが飛来した。ハジメは〝夜目〟を発動し正体を暴く。その正体は矢だ。全く光を反射しない漆黒の矢が侵入者を排除しようと飛んできているのだ。
ハジメはすぐさま魔剣ジェネシスを構え、飛来する矢を全て弾き落とす。キンッキンッキンッと音を響かせ、合計二十本の矢を地面に叩き落とす音を最後に再び静寂が訪れた。
と、同時に周囲の壁がぼんやりと光りだし辺りを照らす。ハジメ達のいる場所は、十メートル四方の部屋で、奥へ真っ直ぐに続く整備された通路が伸びていた。
ハジメは、矢を拾って調べてみると、一本の金属から削り出したような艶のない黒い矢だった。
「そうだっ!シアはっ?!」
ハジメはシアのことを思い出し、慌てて背後の回転扉を振り返る。扉は、一度作動する事に半回転するので、部屋にいないということは、ハジメ達が入ったのと入れ替わりで再び外に出た可能性が高い。結構な時間が経っているのに未だ入ってこない事に嫌な予感がして、ハジメは直ぐに回転扉を作動させた。
結果的に言えば、シアはいた。回転扉に縫い付けられた姿で………
「うぅ、ぐすっ、ハジメざん……見ないで下さいぃ~、でも、これは取って欲しいでずぅ。ひっく、見ないで降ろじて下さいぃ~」
何とも実に哀れを誘う姿をだった。シアは飛来する風切り音で矢に気がつき、見えないながらも天性の索敵能力で何とか躱したのだろう。しかし、本当にギリギリだったようで、衣服の数か所をを射抜かれており、非常口のピクトグラムの人型の様な格好で固定されていた。チャームポイントのウサミミが稲妻形に折れ曲がって矢を避けており、明らかに無理をしているようでビクビクと痙攣している。
だが、シアが泣いている理由は死にかけた恐怖などとは別にある。その理由は、シアの足元にある水たまりから推して知るべし、である。
「……雫、ユエ、降ろしてやってくれ。俺は後ろ向いてるから」
「うぅ~、どうして先に済ませなかったのですかぁ、過去のわたじぃ~!!」
女として絶対に見られたくない姿を、よりにもよって惚れた男の前で晒したことに、シアは滂沱の涙を流し、耳もペタリと垂れ下がってしまっていた。
ハジメがシアを降ろすために後ろを向くと、そこには石板があり、看板と同じ丸っこい女の子文字で
〝ビビった? ねぇ、ビビっちゃった? チビってたりして、ニヤニヤ〟
〝それとも怪我した? もしかして誰か死んじゃった?……ぶふっ〟
と書かれてていた。わざわざ、〝ニヤニヤ〟と〝ぶふっ〟の部分だけ彫りが深く強調されているのが余計腹立たしい。特に、パーティーで踏み込み誰か死亡していたら、間違いなく生き残りは怒髪天を衝くだろう。
ハジメはそれを見て、頬が引き攣った。
「ハジメさん?何を見てr………」
降ろされ着替え終わったのか、横からシアが覗いてきて、石版に気がつき、顔を俯かせ垂れ下がった髪が表情を隠す。しばらく無言だったシアは、おもむろにベシュトレーベンを取り出し、渾身の一撃を石板に叩き込んだ。ゴギャ!という破壊音を響かせ粉砕する石板。
よほど頭に来たのか「この野郎、ぶち殺したらぁー!」と言わんばかりにベシュトレーベンを何度も何度も振り下ろした。その影響で少し地面が沈んでいるのは余談である。
すると、砕けた石板の跡、地面の部分に文字が彫ってあり、そこには……
〝ざんね~ん♪ この石板は一定時間経つと自動修復するよぉ~プークスクス!!〟
「ムキィ──!!」
シアが遂にマジギレして更に激しくベシュトレーベンを振い始めた。部屋全体が小規模な地震が発生したように揺れ、途轍もない衝撃音が何度も響き渡る。しかも、ベシュトレーベンのブースターをフルで使い振っているので石板跡のところにクレーターが出来ている。
発狂するシアを尻目にハジメはポツリと呟いた。
「ミレディ・ライセンは〝解放者〟関係なく、人類の敵で問題ねぇな」
「「……激しく同意」」
どうやらライセン大迷宮は、オルクス大迷宮とはベクトル別で一筋縄ではいかない場所のようだ。