ありふれた悪魔狩人《DEVILHUNTER》で世界最強   作:ヴェルザ・ダ・ノヴァ

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Annoying and dangerous labyrinth(うざくて危険な大迷宮)

 ライセン大迷宮は想像以上になかなか厄介な場所だった。

 

 この迷宮は峡谷より遥かに強力な魔力分解作用が働いているため魔法がまともに使えない。魔法特化のユエには相当な負担がかかる場所である。何せ、上級以上の魔法は使用できず、中級以下でも射程が極端に短い。五メートルも効果が出れば儲けもんという状況だ。瞬間的に魔力を高めれば実戦でも使えるものの、今までみたいな強力な魔法で一撃とは行かなくなった。

 

 また、魔晶石シリーズに蓄積された魔力の減少も馬鹿にならないので、考えて使わなければいけない。魔法は、ユエが天才的才能だからこそ中級魔法が放てるのであって、大抵の者では木偶になるのが落ちである。

 

 ハジメにも少々影響が出ている。体外に魔力を形成・放出するタイプの固有魔法は全て使えず、頼みの〝纏雷〟も出力が大幅ダウンしている。ドンナー&シュラークは、その威力が半減し、シュラーゲンも通常のドンナー&シュラークの最大威力レベルしかない。

 

 故にこの大迷宮で何より重要なのは身体強化や戦士系の天職を持つ者であり、ハジメ達の中では、まさにシアや雫、ハジメの独壇場となる領域なのだ。

 

 

 

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 シアが、最初のウザったらしい石板を破壊したあと、ハジメ達は道なりに通路を進み、広大な空間に出た。

 

 そこは、階段や通路、奥へと続く道が何の規則性もなくごちゃごちゃにつながり合っており、レゴブロックを無造作に組み合わせて造ったような場所だった。一階から伸びる階段が三階の通路に繋がっているかと思えば、その三階の通路は緩やかなスロープとなって一階の通路に繋がってたり、二階から伸びる階段の先が、唯の壁だったり、本当にめちゃくちゃだった。

 

「こりゃまた、迷宮らしいと言えばらしい所だな」

「……ん、迷いそう」

「ふん、流石は腹の奥底まで腐ったヤツの迷宮ですぅ。このめちゃくちゃ具合がヤツの心を表しているんですよぉ!」

「……気持ちは分かるけれど、そろそろ落ち着きなさいよ」

 

 未だ怒り心頭のシア、それに呆れ半分同情半分の視線を向けつつ、雫は「さて、どう進もう」と思案する。

 

「……考えても仕方ない」

「ん~、まぁ、それもそうね。取り敢えずマーキングとマッピングをしながら進む他になさそうだわ」

「ん……」

「ちっ、めんどくせぇな」

 

 ユエの言葉に頷く雫。迷宮探索でのマッピングは基本だ。だが、複雑な構造をしているこの迷宮をどこまで正確に作成できるか、ハジメは思わず舌打ちをして顔をしかめた。

 

 なお、雫のいう〝マーキング〟は、〝追跡〟の固有魔法のことである。この固有魔法は、触れた場所に魔力で〝マーキング〟することで、その痕跡を追う事ができるというものだ。生物に〝マーキング〟をした場合、その生物の移動した痕跡が見えるのである。今回の場合は、壁などに〝マーキング〟することで通った場所の目印にする。〝マーキング〟は可視化することもできるのでユエやシアにもわかる。魔力を直接添付しているので、分解作用も及ばず効果があるようだ。

 

 ハジメは早速、入口に一番近い場所にある右脇の通路にマーキングして進んでみることにした。

 

 通路は幅二メートル程で、レンガ造りの建築物のように無数のブロックが組み合わさって出来ていた。やはり壁そのものが薄ら発光しているので視界には困らないが、緑光石とは異なる鉱物のようで薄青い光を放っていた。

 

 ハジメが鉱物系鑑定を使ってみると、この鉱物は〝リン鉱石〟と出た。この鉱石は空気と触れることで光るようになっており、最初の部屋は、何かの処置をして、最初は発光しないようにしてあったのだろう。某天空に浮かぶ城のアニメに似たような鉱石があったようなぁ、とハジメが思い浮かべながら長い通路を進んでいると、突然、ガコンッ、という音を響かせてハジメの足が床のブロックを踏み抜いた。そのブロックだけハジメの体重により沈んでいる。

 

「ああ?」

 

 ハジメが怪訝そうに自分の足元を見た。雫達三人も思わず「えっ?」とハジメの足元を見る。

 

 次の瞬間、シャァアアア、と刃が滑るような音を響かせて、左右の壁のブロックとブロックの隙間から高速回転・振動する巨大な丸ノコみたいな刃が飛び出してきた。右の壁は首の高さ、左の壁は腰の高さで前方から薙ぐように迫ってくる。

 

「回避してっ!」

 

 雫は咄嗟にそう叫んで、マトリッ○スの主人公のみたいに後ろに倒れ込みながら二本の刃を回避する。ユエは背が小さいためしゃがむだけで回避した。シアも何とか回避したようだ。後ろから「はわわ、はわわわわ」と動揺に揺れる声が聞こえてくる。

 

 だが、

 

 BGM:Room DESPAIR

 

 ハジメだけは避けずに「やれやれ」と呟いてバルログを装備する。

 

「「「ハジメ?」」さん?」

 

 三人が回避行動を取らないハジメに疑問を抱いて名前を呼ぶのも束の間、ハジメは回転する凶悪な刃を凹ませながら掴み、ギイイイイイと音を立てながら捻じ曲げた。

 

 更に、一拍置いて頭上から無数に振ってきたギロチンのような刃の一つをオーバーヘッドキックで蹴り飛ばし、その蹴りの風圧で周りにある刃も吹き飛ばした。

 

「さすがはハジメさん、思いっきりやりましたねぇ~」

「けれど、完全な物理トラップは少し厄介ね」

 

 雫達がまんまとトラップに掛かった理由は、魔法のトラップに集中していたからだ。今までの迷宮のトラップはほとんどが魔法を利用したものだった。魔法のトラップなら、ハジメの魔眼が捉えることができる。故に、ハジメの魔眼が捕捉しなければ大丈夫という先入観を持ってしまったのだ。

 

「ちゃんと気をつけろよ。ほら、行くぞ」

 

 

 

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 ハジメ達は、トラップに気を付けながら更に奥へと進んだ。

 

 ここに来るまでの間、魔物は一切出てこなかった。「魔物のいない迷宮」と考える事もできるが、それは楽観過ぎるだろう。トラップという形で、突然現れてもおかしくない。

 

 ハジメ達が通路の先にある空間に出る。その部屋は三つの奥へと続く道があった。取り敢えずマーキングだけしておき、彼らは階下へと続く階段がある一番左の通路を選んだ。

 

「うぅ~、何だか嫌な予感がしますぅ。こう、私のウサミミにビンビンと来るんですよぉ」

 

 階段の真ん中ぐらいまで進んだ頃、突然シアがそんなことを言い出した。言葉通り、シアのウサミミがピンッと立ち、忙しなく右に左にと動いている。

 

「おいおい、変な事言うなよ。そういうこと言うとな、大抵、何か『ガコン』…な?言ったろ?」

「わ、私のせいじゃないですぅッ!?」

「「この、フラグウサギッ!」」

 

 BGM:The Reaper

 

 ハジメとシアが話している最中に、嫌な音が響いたかと思うと、いきなり階段から段差が消え、かなり傾斜のキツイ下り階段からスロープになった。しかもご丁寧に地面に空いた小さな無数の穴からタールのようなよく滑る液体が一気に溢れ出してきた。

 

「なっ!?冗談きついぜっ!?」

 

 段差が引っ込んで転倒しかけたハジメは咄嗟に、ジェネシスを地面に突き刺して滑り落ちないように堪える。ユエは、咄嗟にハジメに飛びついたので滑り落ちはしなかった。雫も、ハジメに抱き着きながら閻魔を地面に突き刺す。

 

 しかし、まだ、そんな連携などできないのが一人。言わずもがな、シアである。

 

「うきゃぁあ!?」

 

 段差が消え、悲鳴を上げながら転倒し後頭部を地面に強打。身悶えているうちに、液体まみれになり滑落。そのまま、M字開脚の状態でハジメの顔面に衝突した。

 

「ぐおっ!?」

 

 その衝撃でジェネシスが外れ、左手にユエを掴んだまま後方にひっくり返って雫を押し倒し、スロープの下方に頭を向ける形で滑り落ちていく。シアは、ハジメの上に逆方向で仰向けに乗っかっている状態だ。

 

「おい、シア!早くどけ!」

「しゅみません~、でも身動きがぁ~」

 

 滑り落ちる速度はドンドン増していく。ハジメは壁にジェネシスを刺そうとするが速度が速く、中々上手くいかない。

 

 シアが、もがきながらも何とか起き上がる。ハジメの上に馬乗りになっている状態だ。

 

「カリーナのアンカー撃ち込めっ!」

「は、はい、任せッ!?ハジメさん!道がっ!」

 

 シアが背中からカリーナ=アンをそうと手を回すが、直後、前方を見たシアが焦燥に駆られた声をあげる。

 

 ハジメはそれだけで悟った。この滑落の果てに、どこかに放り出されるのだろうと。

 

 ハジメは、宝物庫からデビルズガントレットを取り出して装備する。

 

「全員、しっかり掴まってろよ!」

「分かったわ!」

「んっ!」

「は、はい!」

 

 ユエは横からピタっとくっつき、雫は後ろから、シアは馬乗りでヒシッとハジメにしがみつく。

 

 そして遂に、スロープが終わり、空中に放り出された。その瞬間、デビルズガントレットのアンカーが飛び出し天井に深く突き刺さる。ハジメ達は、ワイヤー一本だけで天井からぶら下がっている状態で、ホッと一息ついた。

 

そして、全員が何気なく下を見て滅茶苦茶後悔した。

 

カサカサカサ、ワシャワシャワシャ、キィキィ、カサカサカサ

 

そんな音を立てながら数え切れない程大量のサソリが蠢いていたのだ。体長は約十センチ程のサイズと小さく、どっかのサソリモドキを思い出すが、そのような脅威は一切感じられない。しかし、生理的嫌悪感はこちらの方が何万倍も上だ。アンカーが無ければ、サソリの海に飛び込んでいたところだ。全身に鳥肌が立つ思いである。

 

「「「「…………」」」」

 

思わず黙り込む四人。下を見たくなくて、目を背けるように顔を上げると、何やら発光する文字が書かれていることに気がついた。既に察してはいるが、つい読んでしまうハジメ達。

 

彼等に致死性の毒はありません

でも麻痺はします

存分に可愛いこの子達との添い寝を堪能して下さい、プギャー!!

 

わざわざリン鉱石の比重を高くしてるのか、この薄暗い空間でよく目立つその文字。ここに落ちた者はきっと、サソリに全身を這い回られながら、麻痺する体を必死に動かして、藁にもすがる思いで天に手を伸ばすだろう。そして発見するのだ。このふざけた言葉を。

 

「なんか、ピエロ野郎を思い出すな……」

「「「ピエロ?」」」

「お前らは気にしなくていい」

 

ハジメは、この迷宮の手口に、昔幻覚を見せてくる神殿で戦った姉の父親を思い出していた。

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