ありふれた悪魔狩人《DEVILHUNTER》で世界最強 作:ヴェルザ・ダ・ノヴァ
中立商業都市フューレンとは、高さ二十メートル、長さ二百キロメートルの外壁で囲まれた大陸で一番の商業都市である。
その巨大さからフューレンは四つのエリアに分かれている。手続き関係の中央区、娯楽関係の観光区、職人が様々な武具や家具を作り、販売している職人区、そして、あらゆる店が立ち並ぶ商業区だ。東西南北にそれぞれ中央区に続くメインストリートがあり、中心部に近いほど信用のある店が並ぶというのがこの町の常識である。メインストリートからも中央区からも遠い場所は、言わば〝歌舞伎町〟や〝神室町〟のような場所である。その代わり、掘り出し物が出る場合もあるため、冒険者や傭兵が出入りしているようだ。
そんな話を、中央区の一角にある冒険者ギルド:フューレン支部内のカフェで軽食を食べながら話しているハジメ達。
ハジメ達はモットー率いる商隊と別れると証印を受けた依頼書を持って冒険者ギルドに行き、冒険者ギルドでガイドブックと多少の情報を貰って軽く昼食をしていた。
「なるほどな、中央区に来るのは商売関係のヤツ等か」
「へえ…中央区は値が安上がりな分サービスは最低限で、観光区は少しだけ割高になるけど名前の通り観光客向けサービスが揃ってるのね」
「取り敢えずは、観光区に行って宿探しだな。しっかし、ここでもか……」
ハジメがうんざりしたような表情になる。その理由は、周りの視線である。やはり、街中で絶世の美女、美少女の食事シーンは心奪われるようで、周囲の視線が強い。そして、例にもれずハジメへの嫉妬の視線も強い。しかし、ハジメも超が付くほどの美青年である。おまけに、目が髪で少し隠れミステリアスな雰囲気がでており、そのせいか、ハジメを見る女性達の視線も強いのだ。
「お前らはなんか要望あるか?」
ハジメは、この後の行動を決めると、女性陣にに要望がないかを聞いた。
「そうねぇ、お風呂があればいいわね」
「……んっ、混浴できるところ」
「えっと、大きなベッドがいいです」
「ご飯がおいしいところがいいかなぁ~♪」
「Ok、探しとくよ」
ちなみに、すぐ近くのテーブルにいる男連中が「視線で人が殺せたら!」と云わんばかりにハジメを睨んでいたが、当然スルーである。
それから、軽食後のティータイムでハジメが特大サイズのストロベリーサンデーを食べてるのを意外に思われたり、それで可愛いと言われてハジメが「なんでダンテ兄さんと同じこと言われなきゃなんねぇんだ」と落ち込んだり、ストロベリーサンデーを雫達に「あ~ん」していると、不意に視線を感じた。周りの冒険者よりもはるかに粘着質で気持ちの悪い視線である。特に、その視線は女性陣に向けられている。
ハジメが視線が向けられてくる左を見ると……ブタがいた。体重が百キロは超えていそうな肥えた体に、脂ぎった顔、豚鼻と頭部にちょこんと乗っているベットリした金髪。身なりだけは良いようで、遠目にもわかるいい服を着ている。そのブタ男が雫達を欲望に濁った瞳で凝視していた。
ハジメがため息をつきながら頭を抑えるのと同時に、そのブタ男は重そうな体をゆっさゆっさと揺すりながら真っ直ぐハジメ達の方へ近寄ってくる。
ブタ野郎は、ハジメ達のテーブルのすぐ傍までやって来ると、ニヤついた目で雫達をジロジロと見ようとするが、ハジメが立ちふさがるようにその前に立った。
「あ~、ウチの仲間になんか用か?」
そう言いながら立ちふさがるハジメを、ブタ野郎が煩わしそうな目で見て、これまた随分と傲慢な態度で一方的な要求をした。
「お、おい、ガキ。ひゃ、百万ルタやる。この兎を、わ、渡せ。それとそっちの女共はわ、私の妾にしてやる。い、一緒に来い」
ドモリ気味のきぃきぃ声でそう告げるブタ野郎。
それをハジメは鼻で笑った。
「フッ、すまねぇが、女は売る物じゃねぇ。女は、愛するべき人だ。それが分かってねぇテメェには渡せねぇな。わかったら家に帰りなチビ」
その瞬間、その場に凄絶な
その殺気を直接受けたブタ野郎は、「ひぃ!?」と情けない悲鳴を上げると尻餅をつき、後退ることも出来ずにその場で股間を濡らし始めた。
ハジメが本気の殺気をぶつければ、おそらく瞬時に意識を刈り取っただろうが、それでは意味がないので十分に手加減している。
「はぁ~、お前ら行こうぜ」
汚い液体が漏れ出しているので、ハジメは雫達に声をかけて席を立つ。本当は、病院送りにしたかったのだが、流石に声を掛けただけで病院送りにされるほどボコボコにされたとあっては、ハジメの方が加害者だ。そうなれば、ブラックリストに載るのは確定である。なら、殺気をぶつけて引っ込めさせた方が早いのだ。
ちなみに、周囲にまで〝悪魔威圧〟の効果が出ているのはわざとである。周囲の連中もそれなりに鬱陶しい視線を向けていたので、序でに理解させておいたのだ。〝手を出すなよ?〟と。周囲の男連中の青ざめた表情から判断するに、これ以上ないほど伝わったようだ。
ハジメ達が、ギルドから出ていこうとすると、大男がハジメ達の進路を塞ぐような位置取りに移動し仁王立ちした。さっきのブタ野郎とは違う意味で百キロはありそうな巨体である。全身筋肉の塊で腰に長剣を差しており、歴戦の戦士といった風貌だ。
その男が目に入ったのか、ブタ野郎が喚きだす。
「そ、そうだ、レガニド!そのクソガキを殺せ!わ、私を殺そうとしたのだ!嬲り殺せぇ!」
「坊ちゃん、流石に殺すのはヤバイですぜ。半殺し位にしときましょうや」
「やれぇ!い、いいからやれぇ!お、女は、傷つけるな!私のだぁ!」
「了解ですぜ。報酬は弾んで下さいよ」
「い、いくらでもやる!さっさとやれぇ!」
どうやら、レガニドと呼ばれた男は、ブタ野郎に雇われた護衛のようだ。ハジメから目を逸らさずにブタ男と話、報酬の約束をするとニンマリと笑った。珍しい事に女に興味はないらしい。見向きもせずに貰える報酬にニヤついているようだ。周囲がレガニドの名を聞いてざわめく。
「お、おい、レガニドって〝黒〟のレガニドか?」
「〝暴風〟のレガニド!?何で、あんなヤツの護衛なんて……」
「金払じゃないか?〝金好き〟のレガニドだろ?」
レガニドは、完全に舐めた態度でハジメに話し掛ける。
「おう、坊主。わりぃな。俺の金のためにちょっと半殺しになってくれや。なに、殺しは、ぶべえっ!?」
だが、レガニドが言い終わる前に、雫の剛拳が顔に突き刺さった。ドカァ!と言う音と共に口から無数の歯が折れて飛び散る。
雫が、攻撃した理由は、オルクス大迷宮時代にまで遡る。雫は、ハジメの片腕が斬れた事は自分のせいだと思っていた。ハジメは「生えたんだから気にすんな」と言ってくれたが、自分を抱えていたせいで片腕が一時的にとはいえ無くなってしまったのだ。それは、雫の心に重く圧し掛かってしまった。それから、雫は普段は優しいが、自分の仲間に手を出そうとすれば半殺し、もしくは、殺すと決めたのだ。
「雫、ちゃんと加減しろよ?そのおっさん、もう顔面歪んでんぞ?」
「ええ、勿論よ。にしても、ハジメに格闘習っておいて良かったわね」
ハジメと雫は軽く話して、雫はレガニドに〝キック13〟をブチ込んだ。レガニドの上半身が蹴られて縦横無尽に動き、痣が増えていく。そこに、サマーソルトキックを叩き込んでレガニドが宙に飛び、落ちてきたところを、トドメと言わんばかりに背中に踵落としを決めた。レガニドの体が床に叩きつけられ、白目をむいて気絶している。これで手加減しているというのだ。雫、恐ろしい子!
一瞬で起きた凄惨な光景、そして容赦のなさにギルド内が静寂に包まれる。誰も彼もが身動き一つせず、ハジメ達を凝視していた。よく見れば、ギルド職員らしき者達が、争いを止めようとしたのか、カフェに来る途中でハジメ達の方へ手を伸ばしたまま硬直している。様々な冒険者達を見てきた彼等にとっても衝撃の光景だったようだ。
誰もが硬直していると、おもむろに静寂が破られた。ハジメが、ツカツカと歩き出したのだ。ギルド内にいる全員の視線がハジメに集まる。ハジメの行き先はブタ野郎のもとである。
「ひぃ!く、来るなぁ!わ、私を誰だと思っている!プーム・ミンだぞ!ミン男爵家に逆らう気かぁ!!」
「あ゛ぁ?知るかよ。っつか、どうでもいいわ」
ハジメは、そう言って
「さて、いいかチビ?次はねぇぞ」
殺意を浴びせながら
ハジメは、雫達に目配せしてギルドを出ていこうとした瞬間、今更な感じにギルドの職員がやって来た。
「あの、申し訳ありませんが、あちらで事情聴取にご協力願います」
そうハジメに告げた男性職員の他、三人の職員がハジメ達を囲むように近寄った。もっとも、全員腰が引けていたが。もう数人は、
「そんじゃあ、こんなのはどうだ?アホな貴族が仲間を売れと言って断ったら傭兵を差し向けてきたからキレたウチの仲間が正当防衛で潰した。このブタは気絶してオネンネだ……もっと詳しく聞きたいならそこら辺にいた連中に聞きな。随分と聞き耳立ててたようだし」
ハジメがそう言いながら、周囲の男連中を見渡すと、目があった彼等はこぞって首がもげるのでは?と言いたくなるほど激しく何度も頷いた。
「それは分かっていますが、ギルド内で起こされた問題は、当事者双方の言い分を聞いて公正に判断することになっていますので……規則ですから冒険者なら従って頂かないと……」
「ほぉ~、被害者と加害者の関係じゃなく、お互いに加害者だって言いてぇのか?大体、筋肉達磨は病院送り、ブタは気絶してるじゃねぇか。起きるまで待ってろって?ハッ!フューレンのギルドの質が知れるな」
ハジメが非難がましい視線をギルド職員に向ける。典型的なクレーマーのような物言いにギルド職員の男性が、「そんな目で睨むなよぉ、仕事なんだから仕方ないだろぉ」という自棄糞気味な表情になった。
ハジメが、仕方なく、二人に対して激痛で強制的に意識を取り戻させるかと歩み寄ろうとし、それを職員が止めようと押し問答していると、突如、凛とした声が掛けられた。
「何をしているのです? これは一体、何事ですか?」
そちらを見てみれば、メガネを掛けた理知的な雰囲気を漂わせる細身の男性が厳しい目でハジメ達を見ていた。
「ドット秘書長! いいところに! これはですね……」
職員達がこれ幸いとドット秘書長と呼ばれた男のもとへ群がる。ドットは、職員達から話を聞き終わると、ハジメ達に鋭い視線を向けた。
ドット秘書長は、片手の中指でクイッとメガネを押し上げると落ち着いた声音でハジメに話しかけた。
「話は大体聞かせていただきました。証人も大勢いる事ですし嘘はないのでしょう。取り敢えず、彼らが目を覚まし一応の話を聞くまでは、フューレンに滞在はしてもらうとして、身元証明と連絡先を伺っておきたいのですが……それまで拒否されたりはしないでしょうね?」
言外に、これ以上譲歩はしませんよ?と伝えるドット秘書長にハジメは肩を竦めて答えた。
「ああ、構わねぇ。そっちのブタがまだ文句を言うようなら、連絡でもしてくれ。地獄を見せてやる」
ハジメはそんな事をいい、ドットに苦笑いをさせながらステータスプレートを差し出す。
「宿泊先は決まってないんだ。決まったらここに来るでいいか?」
「ふむ、いいでしょう……〝悪魔狩人〟に〝魔剣士〟?この天職は聞いたことがありませんね。それに、冒険者ランクが〝黒〟……そちらの方達のステータスプレートはどうしました?」
ハジメの冒険者ランクが黒なのはブルックで依頼を片っ端から片付けてきたからである。しかし、女性がレガニドを倒したと聞いていたので、彼女達の方が強いのかとユエ達のステータスプレートの提出を求める。
「あ~、コイツ等は紛失して再発行してないんだ。いちいち高そうだしな」
さらりと嘘をつくハジメ。これ以上の詳細を把握されるのは出来れば避けたい。
「しかし、身元は明確にしていただかなければ。記録をとっておき、君達が頻繁にギルド内で問題を起こすようなら、加害者・被害者のどちらかに関係なくブラックリストに載せることになりますからね。よろしければギルドで立て替えますが?」
どうしても身元証明は必要らしい。だが、ステータスプレートを作成されれば、隠蔽前の技能欄に確実に二人の固有魔法が表示される。それも神代魔法付きで。それでは、もうまともに滞在はできないだろう。
打開策が出ないハジメに、その思考を読んだようにユエが話しかけた。
「……ハジメ、手紙」
「?ああ。あの手紙か……」
ハジメは、ブルックの町で渡されたキャサリンの手紙の事を思い出した。どういったものか誌らないが、ハジメは懐から手紙を取り出しドットに手渡した。ハジメは、こんなことなら内容を見ておけばよかったと若干後悔する
「身分証明の代わりになるかわからないが、知り合いのギルド職員に、困ったらギルドのお偉いさんに渡せと言われてたものがある」
「?知り合いのギルド職員ですか?……拝見します」
ステータスプレート再発行を拒むような態度に疑問を覚えるドットだったが、代わりにと渡された手紙を開いて内容を流し読みする内にギョッとした表情を浮かべた。
そして、ハジメ達の顔と手紙の間で視線を何度も彷徨わせながら手紙の内容をくり返し読み込む。目を皿のようにして手紙を読む姿から、どうも手紙の真贋を見極めているようだ。やがて、ドットは手紙を折りたたむと丁寧に便箋に入れ直し、ハジメ達に視線を戻した。
「この手紙が本当なら確かな身分証明になりますが……この手紙が差出人本人のものか私一人では少々判断が付きかねます。支部長に確認を取りますから少し別室で待っていてもらえますか? そうお時間は取らせません。十分、十五分くらいで済みます」
ドットの予想以上の反応に、「マジでキャサリンって何者なんだ」と引き気味のハジメ達だった。
今の小説の基本文字数は5000~6000なんですが、このままでいいですか?
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減らして(4000~5000)
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このままでいい
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増やして(一万文字ぐらいまで)