ありふれた悪魔狩人《DEVILHUNTER》で世界最強   作:ヴェルザ・ダ・ノヴァ

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依頼

「初めまして、冒険者ギルド、フューレン支部支部長イルワ・チャングだ。ハジメ君、雫君、ユエ君、シア君、ミレディ君……でいいかな?」

 

 簡潔な自己紹介の後、ハジメ達の名を確認がてらに呼び握手を求めるのは、金髪をオールバックにした鋭い目付きの三十代後半くらいの男性。支部長イルワだ。

 

 あの後、ハジメ達が応接室に案内され、きっかり十分後、扉がノックされ彼と先ほどのドットが部屋に入室して、今に至る。

 

 ハジメも握手を返しながら返事をする。

 

「ああ、よろしくな。名前は手紙に?」

「その通りだ。先生からの手紙に書いてあったよ。随分と目をかけられている、というより注目されているようだね…。将来有望、ただしトラブル体質なので、出来れば目をかけてやって欲しいという旨の内容だったよ」

「トラブル起こしてたきたのは住民なんだが……まぁ、いいか。それでぇ~…肝心の身分証明の方はどうなんだ? それでOKか?」

「ああ、先生が問題のある人物ではないと書いているからね。あの人の人を見る目は確かだ。わざわざ手紙を持たせるほどだし、この手紙を以て君達の身分証明とさせてもらうよ」

 

 〝先生〟と呼んでいるあたり、イルワとキャサリンの付き合いは長いと思われる。随分と信用があるようだ。シアは、キャサリンに特に懐いていたことから、その辺りの話が気になるようでおずおずとイルワに訪ねた。

 

「あの~、キャサリンさんって何者なのでしょう?」

「え? 本人に聞かなかったのかい? 彼女は、王都のギルド本部でギルドマスターの秘書長をしていたんだよ。その後、ギルド運営に関する教育係になってね。今、各町に派遣されている支部長の五、六割は先生の教え子なんだ。私もその一人で、彼女には頭が上がらないんだ。その美しさと人柄の良さから、当時は、僕らのマドンナ的存在、あるいは憧れのお姉さんのような存在だった。その後、結婚してブルックの町のギルド支部に転勤したんだよ。子供を育てるにも田舎の方がいいって言ってね。彼女の結婚発表は青天の霹靂でね。荒れたよ。ギルドどころか、王都が」

「あぁ~、そんな伝説あったなぁ~」

 

 以前、ハジメが王都を散歩していた時にそんなことを小耳にはさんでいた事がある。

 

「今はもう優しそうなお母さんみたいだったわね」

「はぁ~そんなにすごい人だったんですね~」

「……キャサリンすごい」

「あの、婆さんすげぇなぁ。ダンテ兄さんに聞いたニールの婆さんみたいだ」

「私はわかってたよぉ~? あれぇ~? みんな気づかなかったのぉ~? あれぇ~?」

「ミレディ、ちょっと黙れ。それで、問題ないならもう行っていいよな?」

 

 元々、身分証明のためだけに来たわけなので、用が終わった以上長居は無用だとハジメがイルワに確認する。後ろでミレディが「ふぇ~ん、ハジメンに黙れって言われたぁ~」なんてウソ泣きしながら言っているが、気のせいだろう。

 

 しかし、イルワは、瞳の奥を光らせると「少し待ってくれるかい?」とハジメ達を留まらせる。怪訝そうに顔をしかめるハジメ。

 

 イルワは、隣に立っていたドットを促して一枚の依頼書をハジメ達の前に差し出した。

 

「実は、君達の腕を見込んで、一つ依頼を受けて欲しいと思っている」

「………………………………内容は?」

 

 イルワが依頼を提案し、ハジメは少し間をおいて尋ねた。

 

「聞いてくれるのかい?」

「依頼を頼みたいんだろ? 取り敢えず話は聞くさ」

「ありがとう。さて、今回の依頼内容だが、そこに書いてあるように、行方不明者の捜索だ。北の山脈地帯の調査依頼を受けた冒険者一行が予定を過ぎても戻ってこなかったため、冒険者の一人の実家が捜索願を出した、というものだ」

 

 イルワの話を要約すると、こうだ。

 

 最近、北の山脈地帯で魔物の群れの目撃証言が何件か寄せられ、ギルドに調査依頼がなされた。北の山脈地帯は、一つ山を超えるとほとんど未開の地で、大迷宮の魔物よりは弱いがそれなりに強力な魔物が出没する。そのため、高ランクの冒険者がこれを引き受けた。ただ、この冒険者パーティーに本来のメンバー以外の人物がいささか強引に同行を申し込み、紆余曲折あって最終的に臨時パーティーを組むことになった。

 

 それが、今回の捜索依頼のターゲットであるクデタ伯爵家の三男坊ウィル・クデタである。クデタ伯爵は、「冒険者になる」と某ゴム人間みたいなこと言って家出していった息子の動向を密かに追っていたのだが、今回の調査依頼に出た後、息子に付けていた連絡員も消息が不明となり、一大事だと慌てて捜索願を出したそうだ。

 

「伯爵は、家の力で独自の捜索隊も出しているようだけど手数は多い方がいいと、ギルドにも捜索願を出した。つい、昨日のことだ。最初に調査依頼を引き受けたパーティーはかなりの手練でね、彼等に対処できない何かがあったとすれば、並みの冒険者じゃあ二次災害だ。相応以上の実力者に引き受けてもらわないといけない。だが、生憎とこの依頼を任せられる冒険者は出払っていてね。そこへ、君達がタイミングよく来たものだから、こうして依頼しているというわけだ」

「なるほどなぁ。ちなみに一つ聞くが、何故俺たちにそんな力があると思うんだ?」

「さっき〝黒〟のレガニドを瞬殺したのは言わずもがなだ。それに君たちはライセン大峡谷を余裕で探索出来る者を相応以上と言わずして何と言うのかな?」

「何で知ってんだ? 手紙に書かれてたのはわかるが、キャサリンに話した覚えはないんだが」

 

 ハジメ達がライセン大峡谷を探索していた話は誰にもしていない。ならば何故キャサリンは、それを知っていたのかという疑問が出る。ハジメが頭を捻っていると、おずおずとシアが手を上げた。

 

 ハジメが、シアにため息交じりの胡乱な視線を向ける。

 

「シア、何やらかしやがった?」

「え~と、つい話が弾みまして……てへ?」

「……後でお仕置きな」

「!? ユ、ユエさんにミレディもいました!」

「ちょっと!?」

「……シア、裏切り者」

「まとめてお仕置きな」

 

 どうやら、原因はこの三人だったようだ。ハジメのお仕置き宣言に、三人共、平静を装いつつ冷や汗を掻いている。そんな様子を見て苦笑いしながら、イルワは話を続けた。

 

「生存は絶望的だが、可能性はゼロではない。伯爵は個人的にも友人でね、できる限り早く捜索したいと考えている。どうかな。今は君達しかいないんだ。引き受けてはもらえないだろうか?」

「受けてもいいが場所がなぁ~。なにせ、俺たちの目的地と真反対だ。ここは通り道だったから寄ってみただけだ。北の山脈地帯になんて行ってられねえよ。すまねぇが、今回は断わらせてもらう」

「報酬は弾ませてもらうよ? 依頼書の金額はもちろんだし、私からも色をつけよう。ギルドランクの昇格もする。君達の実力なら一気に〝金〟にしてもいい」

「(日本円じゃないから)別に金は必要最低限しかいらねえし、冒険者のランクも大していらないからな……」

「なら、今後、ギルド関連で揉め事が起きたら私が直接、君達の後ろ盾になるというのはどうかな? フューレンのギルド支部長の後ろ盾だ、ギルド内でも相当の影響力はあると自負しているよ? 君達は揉め事とは仲が良さそうだからね。悪くない報酬ではないかな?」

「友人の息子相手にしては入れ込み過ぎじゃねえか? どう考えても一冒険者にやり過ぎな報酬だろ?」

 

 ハジメの言葉に、イルワが初めて表情を崩す。後悔を多分に含んだ表情だ。

 

「これは推測だが、そのウィルってボウズにその調査依頼を薦めたのはアンタなんだろ? 貴族と聞くからに、少し弱いんだろうが、実力のある強いパーティーと一緒なら問題ないと思った。だが、ここで疑問が出る。〝何故、そんな強いヤツが受ける依頼について行かせたのか?〟という疑問だ。『強いパーティーと共に仕事させ、自信をつけさせたかった』…違うな。それならアンタがつけてやればいいことだ。『強いパーティーを見せて、冒険者のことを自慢したかった』これも違う。それならどんな依頼でもできるからだ。あと考えられる事としたら、『ウィルには資質がなかったから、現実を見てほしかった』ということだ」

「ああ、その通りだ。強力な冒険者の傍で、そこそこ危険な場所へ行って、悟って欲しかった。冒険者は無理だと。昔から私には懐いてくれていて……だからこそ、今回の依頼で諦めさせたかったのに……」

 

 ハジメが思っていた以上に、イルワとウィルの繋がりは濃いらしい。イルワの内心はまさに藁にもすがる思いなのだろう。生存の可能性は、時間が経てば経つほどゼロに近づいていく。無茶な報酬を提案したのも、イルワが相当焦っている証拠なのだろう。

 

 ハジメとしても、町に寄り付く度に、身分証明の言い訳をするのは、いい加減うんざりだったところであるし、この先、お偉いさんに対する伝手があるのは、町の施設利用という点で便利だ。なにせ、聖教教会や王国に迎合する気が無い以上、いつ、異端者認定を受けるかわからない。その場合、町では極めて過ごしにくくなるだろう。個人的な繋がりで、その辺をクリア出来るなら嬉しいことだ。

 

 しかし、この考えはハジメの中では三割程度である。ハジメの頭には〝利用する〟ということより〝見ていられない〟という気持ちの方が強かった。何より、家族と引き離される気持ちをハジメはよく知っている。それが心に引っかかるのだ。

 

 ハジメは長い溜息の後に口を開いた。

 

「しょうがねえ、その依頼、受けるとするか。その代わり、条件が二つある」

「条件?」

「ああ、一つはユエ、シア、ミレディのステータスプレートの作成、内容は誰だろうと秘密だ。もう一つは、ギルド関連に関わらず、アンタの持つコネクションの全てを使って、俺達の要望に応え便宜を図ることだ」

「何を要求する気かな?」

「別に何かの権限をよこせとか言ってるんじゃねえよ。俺たちの存在がちょっと特殊でな、ほぼ確定事項で教会に目をつけられちまうのさ。そん時に、飯屋とか宿の施設利用を許可するとかな」

「ふむ。そこまで言うほどの君たちの秘密というのも、個人的には気になるが……わかった。これは私にとって大事な依頼だ、なんとかしよう。ただし、犯罪に加担するような倫理にもとる行為・要望には拒否させてもらう」

「一応、こっちも全うな商売を心がけてるんでな。そこら辺はわきまえてるよ。報酬は依頼が達成されてからでいい。ボウズ自身か遺品あたりでも持って帰ればいいだろう?」

 

 ハジメとしては、ステータスプレートを手に入れることが重要事項だ。この世界では何かと提示を求められるステータスプレートは持っていない方が不自然であり、この先、町による度に言い訳するのは面倒なことこの上ない。

 

 問題は、最初にステータスプレートを作成した者に騒がれないようにするにはどうすればいいかという事だったのだが、イルワの存在がその問題を解決した。だが、口約束では密告の疑いはある。どんな形であれ、心を苛む出来事に答えをもたらしたハジメを、イルワも悪いようにはしないだろうという打算で、ステータスプレートの作成を依頼完了後にした。

 

 イルワもハジメの意図は察しているのだろう。苦笑いしながら、それでも捜索依頼の引き受け手が見つかったことに安堵しているようだ。

 

「本当に、君達の秘密が気になってきたが……それは、依頼達成後の楽しみにしておこう。ハジメ君の言う通り、どんな形であれ、ウィル達の痕跡を見つけてもらいたい………………宜しく頼む」

 

 イルワは最後に真剣な眼差しでハジメ達を見つめた後、ゆっくり頭を下げた。大都市のギルド支部長が一冒険者に頭を下げる。簡単に出来ることではない。キャサリンの教え子というだけあって、人の良さがにじみ出ている。

 

 そんなイルワの様子を見て、ハジメ達は立ち上がると気負いなく実に軽い調子で答えた。

 

「フッ、任しときな」

 

 その後、支度金や北の山脈地帯の麓にある湖畔の町への紹介状、件の冒険者達が引き受けた調査依頼の資料を貰い、ハジメ達は部屋を出て行った。バタンと扉が締まる。その扉をしばらく見つめていたイルワは、「ふぅ~」と大きく息を吐いた。部屋にいる間、一言も話さなかったドットが気づかわしげにイルワに声をかける。

 

「支部長……よかったのですか? あんな報酬を……」

「……ウィルの命がかかっているんだ。彼ら以外に頼める者がいない以上、仕方ないよ。それに、彼等に力を貸すか否かは私の判断でいいと彼等も承諾しただろう。問題ないさ。それより、彼らの秘密……」

「ステータスプレートに表示される〝不都合〟ですか……」

「ふむ、ドット君。知っているかい? ハイリヒ王国の勇者一行は皆、とんでもないステータスらしいよ?」

 

 ドットは、イルワの突然の話に細めの目を見開いた。

 

「ッ!? まさか、支部長は、彼が召喚された者…〝神の使徒〟の一人と言いたいのですか? ですが、彼はまるで教会と敵対するような口ぶりでしたし、勇者一行は聖教教会が管理しているでしょう?」

「ああ、その通りだよ。でもね……およそ四ヶ月前、その内の二人が魔物と一緒に奈落に突き落とされ、亡くなったらしいんだよ」

「……まさか、その者が生きていたと? 四ヶ月前と言えば、勇者一行もまだまだ未熟だったはずでしょう? オルクスの底がどうなっているのかは知りませんが、とても生き残るなんて……」

「ああ。だが、一人だけ場慣れした少年がいたらしいんだ。彼は、自分を〝デビルハンター〟と名乗り、ベヒモスを一人で倒したらしいよ」

「ベヒモスを一人で………ですか。信じられませんね」

「でももし、彼らが本当に元『神の使徒』なら、なぜ勇者達と合流しないのか…彼らは奈落の底で『何』を見たのか…それは、教会と敵対することも辞さないという決意をさせるに足るものだ。それは取りも直さず、世界と敵対する覚悟があるということだよ」

「世界と……」

「私としては、そんな特異な人間とは是非とも繋がりを持っておきたいね。例え、彼が教会や王国から追われる身となっても、ね。もしかすると、先生もその辺りを察して、わざわざ手紙なんて持たせたのかもしれないよ」

 

ハジメ達に底知れない何かを感じたドットはイルワに警告した。

 

「支部長…どうか引き際を見誤るようなことだけは」

「ああ…わかっているさ」

 

スケールの大きな話に、目眩を起こしそうになりながら、それでもイルワの秘書長として忠告は忘れないドット。しかし、イルワは、何かを深く考え込みドットの忠告にも、半ば上の空で返すのだった。




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今の小説の基本文字数は5000~6000なんですが、このままでいいですか?

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