ありふれた悪魔狩人《DEVILHUNTER》で世界最強   作:ヴェルザ・ダ・ノヴァ

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えぇ~、読者皆様。ヴェルザです。数日間開いてしまい申し訳ありませんでした……。


湖での再会

 広大な平原に、北へ向けて真っ直ぐに伸びる街道がある。街道と言っても、何度も踏みしめられることで自然と雑草が禿げて道となっただけのものだ。この世界の馬車にはサスペンションなどというものはないため、きっとこの道を通る馬車の乗員は、目的地に着いた途端、自らの尻を慰めることになるのだろう。

 

 そんな、整備されていない道を有り得ない速度で爆走する影がある。青と赤のファイアパターンに三対計六つの車輪だけで凸凹の道を苦もせず突き進むハジメの駆動六輪車だ。五人という大人数でバイク二台では移動できず、〝駆動六輪車 オプティマイオス〟の出番となった。

 

 車内は、運転席と助手席だけ分かれており、残りはベンチシートだ。運転手はハジメで、助手席には雫が座って寝ており、ユエは後ろの席だ。

 

 シアとミレディも二人はというと………

 

「ヒャッハー! ですぅ!」

「シアちゃん! もっと飛ばせ―!」

 

 〝駆動二輪車シュタイフ〟に乗ってオプティマイオスと並走していた。なんでも、シアは風が、ミレディはスリルが味わいたいらしい。

 

 速度は優に100km/hを切っており、街道を猛スピードで突っ走っていく。まるで映画のワンシーンの様だ。

 

 もともとシアは、二輪の風を切って走る感覚をとても気に入っていたのだが、最近、人数が多くなり、すっかり四輪での移動が主流になってしまったため少々不満だったのだ。窓から顔を出して風を感じることは出来るが、やはり何とも物足りないし、四輪の車内ではハジメの隣は雫の指定席なので、二輪の時のようにハジメにくっつくことも出来ない。それならば、運転の仕方を教わり自分で二輪を走らせてみたいとハジメに懇願したのである。

 

 駆動二輪は、運転が出来れば簡単に操作できる。それは、運動神経抜群のシアにとっては大して難しいものではなく、あっという間に乗りこなしてしまった。そして、その魅力に取り憑かれたのである。

 

 今も、奇声を発しながら右に左にと走り回り、ドリフトしてみたりウイリーをしてみたり、その他にもジャックナイフやバックライドなどプロのエクストリームバイクスタント顔負けの技を披露しており、シアのウサミミが「へいへい、どうだい、私のテクは?」とでも言うように、ちょっと生意気な感じで時折ハジメの方を向くのが地味にイラっとくる。

 

 そんなシア運転のシュタイフにミレディが乗っているのは、ミレディの身長ではシュタイフを運転出来なかったからシアに乗せてもらっているのである。

 

 ハジメ達は、ウィル一行が引き受けた調査依頼の範囲である北の山脈地帯に一番近い町まで後一日ほどの場所まで来ていた。日が沈む頃に到着するだろうから、町で一泊して明朝から捜索を始めるつもりだ。

 

 急ぐ理由はもちろん、時間が経てば経つほど、ウィル一行の生存率が下がっていくからである。しかし、いつになく他人のためなのに積極的なハジメに、ユエが、上目遣いで疑問顔をする。

 

「……積極的?」

「ああ、生きていることに越したことはねぇしな。その方が、感じる恩はでかいだろ? これから先、面倒事は嫌ってくらい待ってそうだからな。盾は多いほうがいいだろう? いちいちまともに相手なんかしたくないし」

「……なるほど」

 

 イルワという盾が、どれほど機能するかは不明、役に立たない可能性もある。いや、後者の方が大きいだろう。だが、使える保険は多いほうがいい。まして、その労力が得れるのなら、苦労を惜しむべきではないだろう。

 

「それに、親子が引き離される気持ちなんざ、あんま味わってほしくないしな」

「……ハジメ……」

 

 親から引き離される気持ちをハジメはよく知っている。そのことに気づいたユエは心配そうに愛する彼の名を零した。

 

 その雰囲気に気づいたハジメは話題を変えようと、今向かっている街の話を始めた。

 

「そうそう、聞いた話じゃ、これから行く街は湖畔があって、水源が豊かなんだと。で、そのせいか町の近郊は大陸一の稲作地帯みたいだな」

「……稲作?」

「つまりは、米だ。俺の暮らしてた日本での主食だ。こっち来てからは一回も食ってないからな。同じものかは知らねぇが、早く行って食ってみたい」

「……ん、私も食べたい……町の名前は?」

 

 遠い目をして米料理に夢想するハジメに、微笑ましそうな眼差しを向けていたユエは、そう言えば町の名前を聞いてなかったとハジメに尋ねる。ハッと我に返ったハジメは、ユエの眼差しに気がついて少し恥ずかしそうにすると、穏やかそうに微笑みながら答えた。

 

「湖畔の町ウルだ」

 

 

 

 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

「はぁ、今日も手掛かりはなしですか……清水君、一体どこに行ってしまったんですか……」

 

 そう言いながら肩を落として、ウルの町の道を歩くのは召喚組の一人にして教師、畑山愛子だ。普段の快活さがなりを潜め、今は、不安と心配に苛まれ陰鬱な雰囲気が出ている。心なしか、表通りを彩る街灯の灯りすら、いつもより薄暗い気がしてくる。

 

「愛子、気を落とさないでくれ。まだ、何も分かっていないんだ。無事という可能性は十分にある。お前が信じなくてどうするんだ」

「そうですよ、愛ちゃん先生。清水君の部屋だって荒らされた様子はなかったんです。自分で何処かに行った可能性だって高いんですよ? 悪い方にばかり考えないでください」

 

 元気のない愛子に、そう声をかけたのは愛子専属護衛隊隊長のデビッドと生徒の宮崎奈々だ。周りには毎度お馴染みの騎士達と生徒達がいる。彼等も口々に愛子を気遣うような言葉をかけた。

 

 クラスメイトの一人、清水幸利が失踪して二週間と少し経つ。愛子達は、八方手を尽くして清水を探したが、行方は完全に知れなかった。目撃情報はなく、近隣の町や村にも使いを出して目撃情報を求めたが、全て空振りだった。

 

 当初こそ事件に巻き込まれたのではと騒ぎになったが、部屋が荒らされた形跡はなく、清水は闇系統だけでなく上級悪魔三体を使役していることから事件性は低いと判断され、今では自発的な失踪と考える者が多かった。

 

 ちなみに、王国と教会には報告済みであり、捜索隊を編成して応援に来るようである。清水も、魔法の才能に関しては召喚された者らしく極めて優秀なので、二人(ハジメと雫)の時のように、隠蔽工作したりなどと、上層部は楽観視していない。捜索隊が到着するまで、あと二、三日といったところである。

 

 次々とかけられる気遣いの言葉に、愛子は自分を叱咤した。事件に巻き込まれようが、自発的な失踪だろうが心配なことに変わりはない。しかし、それを表に出して、傍にいる生徒達を不安にさせるどころか、気遣わせてどうするのだと。それでも、自分はこの子達の教師なのか! と。愛子は、一度深呼吸するとペシッと両手で頬を叩き気持ちを立て直した。

 

「皆さん、心配かけてごめんなさい。そうですよね。悩んでばかりいても解決しません。清水君は優秀な魔法使いです。きっと大丈夫。今は、無事を信じて出来ることをしましょう。取り敢えずは、本日の晩御飯です! お腹いっぱい食べて、明日に備えましょう!」

 

 無理しているのが丸分かりだ。しかし、気合の入った掛け声に生徒達も「は~い」と素直に返事をする。騎士達は、その様子を微笑ましげに眺めた。

 

 カランッカランッ、と、そんな音を立てながら、愛子達は、宿泊している宿の扉を開いた。ウルの町で一番の高級宿である。名を〝水妖精の宿〟という。昔、ウルディア湖から現れた妖精を一組の夫婦が泊めたことが由来なんだとか。ウルディア湖は、ウルの町の近郊にある大陸一の大きさを誇る湖だ。その大きさ、約二千五百㎢である。

 

 〝水妖精の宿〟は、一階部分がレストランで、名物である米料理が数多く揃えられている。内装は、落ち着きがあり、天井には派手すぎないシャンデリア。目立ちはしないものの、細部までこだわられた装飾の施された重厚なテーブルやバーカウンターが、落ち着いた店の雰囲気に花を添えている。〝老舗〟という言葉が自然と出てくる、歴史の重みを感じさせる店だ。

 

 当初、愛子達は、高級すぎては落ち着かないと他の宿を希望したのだが、〝神の使徒〟あるいは〝豊穣の女神〟とまで呼ばれ始めている愛子や生徒達を普通の宿に止めるのはイメージ的に有り得ないので、騎士達の説得の末、ウルの町における滞在場所として目出度く確定した。

 

 イメージ的にというのは、例としては、アイドルはいつもキレイ! トイレ? なにそれ? 的なアレである。

 

 元々、王宮の一室でで生活していたのもあり、愛子も生徒達も次第に慣れ、今では、すっかりリラックスできる場所になっていた。農地改善や清水の捜索に粉骨砕身して疲労した体で帰って来る愛子達にとって、この宿で摂る米料理は毎日の楽しみになっていた。

 

 全員が一番奥の専用となりつつあるVIP席に座り、その日の夕食に舌鼓を打つ。

 

「ああ、相変わらず美味しいぃ~異世界に来てカレーが食べれるとは思わなかったよ」

「まぁ、見た目はシチューなんだけどな……いや、ホワイトカレーってあったけ?」

「いや、それよりも天丼だろ? このタレとか絶品だぞ? 日本負けてんじゃない?」

「それは、玉井君がちゃんとした天丼食べたことないからでしょ? ホカ弁の天丼と比べちゃだめだよ」

「いや、チャーハンモドキ一択で。これやめられないよ」

 

 極めて地球の料理に近い米料理に毎晩生徒達のテンションは常にMAXである。見た目や微妙な味の違いはあるが、料理の発想自体はとても似通っている。素材が豊富というのも、ウルの町の料理の質をレベルマックスまで行っている理由の一つだろう。米は言うに及ばず、ウルディア湖で取れる魚介類、山脈地帯の山菜や香辛料などもある。

 

 美味な料理で一時の幸せを噛み締めている愛子達のもとへ、六十代くらいの口ひげが見事な男性がにこやかに近寄ってきた。

 

「皆様、本日のお食事はいかがですか? 何かございましたら、どうぞ、お申し付けください」

「あ、オーナーさん」

 

 愛子達に話しかけたのは、〝水妖精の宿〟のオーナー、フォス・セルオである。スっと伸びた背筋に、穏やかに細められた瞳、白髪交じりの髪をオールバックにしている。宿の落ち着いた雰囲気がよく似合う男性だ。

 

「いえ、今日もとてもおいしいですよ。毎日、癒されてます」

 

 愛子が代表してニッコリ笑いながら答えると、フォスも嬉しそうに「それはようございました」と微笑んだ。しかし、次の瞬間には、その表情を申し訳なさそうに曇ってしまった。何時も穏やかに微笑んでいるフォスには似合わない表情だ。何事かと、食事の手を止めて皆がフォスに注目した。

 

「実は、大変申し訳ないのですが……香辛料を使った料理は今日限りとなります」

「えっ!? それって、もうこのニルシッシル(異世界版カレー)食べれないってことですか?」

 

 カレーが大好物の優花がショックを受けたように問い返した。

 

 フォスの話によると、ここ一ヶ月ほど北山脈が不穏となり、食材や調味料の採取に行く者が激減してしまった。さらに、先日、調査に来た高ランク冒険者の一行が行方不明となり、ますます採取に行く者がいなくなってしまった。

 

「それは、心配ですね……」

 

 愛子が眉をしかめる。他の皆も若干沈んだ様子で互いに顔を見合わせた。フォスは、「食事中にする話ではありませんでしたね」と申し訳なさそうな表情をすると、場の雰囲気を盛り返すように明るい口調で話を続けた。

 

「しかし、その異変ももしかするともう直ぐ収まるかもしれませんよ」

「どういうことですか?」

「実は、今日の昼に新規のお客様が宿泊にいらしたのですが、何でも先の冒険者方の捜索のため北山脈へ行かれるらしいのです。フューレンのギルド支部長様の指名依頼らしく、相当な実力者のようです。もしかしたら、異変の原因も突き止めてくれるやもしれません」

 

 愛子達はピンと来ないようだが、食事を共にしていたデビッド達護衛の騎士は一様に「ほぅ」と感心半分興味半分の声を上げた。フューレンの支部長と言えばギルド全体でも最上級クラスの幹部職員で、その支部長に指名依頼されるというのは、相当どころではない実力者のはずだ。同じ戦闘に通じる者としては好奇心をそそられるのだ。騎士達の頭には、有名な〝金〟クラスの冒険者がリストアップされていた。

 

 愛子達が、デビッド達騎士のざわめきに不思議そうな顔をしていると、二階へ通じる階段の方から声が聞こえ始めた。男の声と少女四人の声だ。それにフォスが反応した。

 

「おや、噂をすれば。彼等ですよ。騎士様、彼等は明朝にはここを出るそうなので、お話になるのでしたら、今のうちがよろしいかと」

「そうか、しかし、随分と若い声だ。〝金〟に、こんな若い者がいたか?」

 

デビッド達騎士は、脳内でリストアップした有名な〝金〟クラスに、今聞こえているような若い声の持ち主がいないので、若干、困惑したように顔を見合わせた。

 

 

 

 そうこうしている内に、一行が話ながら近づいてくる。

 

 愛子達の席は、三方を壁に囲まれた一番奥の席であり、店全体を見渡せる場所でもある。一応、カーテンを引くことで個室にすることもできる席だ。唯でさえ目立つ愛子達一行は、愛子が〝豊穣の女神〟と呼ばれるようになってさらに目立つようになったので、食事の時はカーテンを閉めることが多い。今日も、例に漏れずカーテンは閉めてある。

 

 そのカーテン越しに若い男女の騒がしめの会話の内容が聞こえてきた。

 

「さ~てと、やっと、米が食えるのか。って考えてたら、アイツの飯が食いたくなってきたな」

「アイツって誰ですか?〝ハジメ〟さん」

「仕事仲間でな、飯と銃の扱いが上手い女だよ」

「でも、たしか、何かあったって言ってなかったかしら?」

「な~に、おつむに一発喰らっただけだ、〝雫〟」

「〝ハジメ〟ンそれ大丈夫だったの?」

「……〝ハジメ〟は強いから大丈夫」

 

 一方、その声を、話の内容を聞いた愛子の心臓は一瞬にして飛び跳ねた。今何と言った、少年を、少女を何と呼んだ?少年の、少女の声は、あのクラスメイト達の声に似てはいないか?

 

 愛子の脳内を一瞬で疑問が埋め尽くし、金縛りにあったように硬直しながら、カーテンを視線だけで貫こうとでも言うように凝視する。

 

 それは、傍らの優花や他の生徒達も同じだった。彼らの脳裏に、およそ四ヶ月前に奈落の底へと消えていった、とある男女が浮かび上がる。クラスメイト達に〝異世界での死〟というものを強く認識させた少年、消したい記憶の根幹となっている少女、二丁の拳銃と一本の剣であらゆる困難を打ち砕いてきた少年。

 

 尋常でない様子の愛子と生徒達に、フォスや騎士達が訝しげな視線と共に声をかけるが、誰一人として反応しない。騎士達が、一体何事だと顔を見合わせていると、愛子と優花がポツリとその名を零した。

 

「……ハジメ?」

「八重樫さん?」

 

 無意識に出した自分の声で、有り得ない事態に硬直していた体が自由を取り戻す。愛子は、椅子を蹴倒しながら立ち上がり、転びそうになりながらカーテンを引きちぎる勢いで開け放った。

 

シャァァァ!!

 

 存外に大きく響いたカーテンの引かれる音に、ギョッとして思わず立ち止まる女性陣。男は気にすることもなく歩いていく。

 

 愛子は、相手を確認する余裕もなく叫んだ。大切な教え子の名前を。

 

「南雲君!八重樫さん!」

「あぁ?って、先生じゃねぇか。お!優花も一緒か!」

 

 そこにいたのは、銀髪蒼眼の男。しかし、少年は自分を何と呼んだのか。そう、〝先生〟だ。愛子は確信した。外見も雰囲気も大きく変わってしまっているが、目の前の少年は、確かに自分の教え子である〝南雲ハジメ〟であると!

 

「南雲君……やっぱり南雲君なんでs「ハジメエええええ!」

「ゴふっ!?」

 

 だが、愛子がハジメに南雲ハジメ本人かの確認を取る前に、ハジメの鳩尾に優花のライダーキックが決まった。

今の小説の基本文字数は5000~6000なんですが、このままでいいですか?

  • 減らして(4000~5000)
  • このままでいい
  • 増やして(一万文字ぐらいまで)
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