ありふれた悪魔狩人《DEVILHUNTER》で世界最強 作:ヴェルザ・ダ・ノヴァ
「ハジメエええええ!」
「ゴふっ!?」
いきなりのライダーキックに意識がモロニ喰らっに喰らったハジメ。一応、ハジメのステータス上、ダメージはないがいきなりの鳩尾は効いたようだ。
そうして、中腰状態になって脇腹をさするハジメ。しかし、優花の攻撃は終わらない! 中腰姿勢のハジメの胸部に蹴りを入れ、仰け反ったところを卍固めにした。
「アンタね~! 生きてたんなら連絡の一つくらいしなさいよ! あたしたちがどんなに心配したと思ってんの!?」
「そいつは悪かった! 謝る! けど、この体制は勘弁してくれ! 関節決まっててマジで
この光景に周囲の人達全員がフリーズしてしまった。クラスメイト達目線では、愛子が南雲ハジメと思われる男と話していた瞬間、優花が男にプロレス技を決め、男に怒鳴りつけている光景。ユエ達目線では、ハジメがハジメと雫の知り合いと思われる女と話していた瞬間、別の女がハジメにプロレス技を決めて怒鳴りつけている光景だ。雫は優花のことも知っていることから、どうすればいいのかわからず呆然としている。
そこで、一早く正気を取り戻した愛子が二人を止めに入った。
「園部さん! 待ってください! 南雲君本当に辛そうにしてますから! だから、園部さん止まってー!」
その後、正気を取り戻していった雫達の説得で、やっと興奮が収まったのか優花はハジメを開放する。
そして、愛子はもう一度、静かな、しかし確信をもった声音で、真っ直ぐに視線を合わせながらハジメに問い直した。
「では、改めて、南雲君と八重樫さんですよね?」
その問いに、ハジメは堂々と言い放つ。
「おう。久しぶりだな、先生」
「えぇ。久しぶりね、先生」
「やっぱり、やっぱり二人なんですね……生きていたんですね……」
再び涙目になる愛子に、ハジメは「心配性な先生だなぁ~」と思い、苦笑いした。だが、奈落の底に落ちたことに〝心配性〟で済ますのは、ハジメの感性が少しぶっ飛んでる証拠である。
「あぁ、ピンピンしてるぜ。ス〇イツリーから落ちた時よりはスリルあったしな」
「そうですか、元気そうでよk、ちょっと待ってください?! スカ〇ツリーから落ちたことあるんですか!?」
「紐無しバンジージャンプ楽しかったぜ、今回もな」
「ハジメあの状況楽しんでたのね……」
昔の出来事を重ねながら、奈落に落ちていった時のことを思い出すハジメ。それにツッコむ愛子と呆れる雫だった。
その後、ハジメは近くのテーブルに歩み寄りそのまま座席につき、それを見て、雫達も席に着く。突然の行動にキョトンとする愛子達。ハジメは、周囲の事など知らんとばかりに、生徒達の後ろに佇んで事の成り行きを見守っているフォスを手招きする。
「んじゃ、飯といきますか」
「ようやくお米料理が食べられるのね、何にしようかしら?」
「……ハジメの好きな味知りたい」
「おぉ! ユエちゃん、さりげないアピール! シアちゃんも頑張ってね!」
「はい! 頑張りますぅ! あ、店員さぁ~ん、注文お願いしまぁ~すぅ!」
最初は、愛子達をチラチラ見ながら、おずおずしていたシアも、皆の様子に意識を切り替えて、困った笑みで寄って来たフォスに注文を始めた。
だが、当然、そこで待ったがかかった。ハジメがあまりにも自然にテーブルにつき何事もなかったように注文を始めたので再び呆然としていた愛子が息を吹き返し、ツカツカとハジメのテーブルに近寄ると「先生、怒ってます!」と実にわかりやすい表情でテーブルをペシッと叩いた。
「南雲君、八重樫さん、まだ話は終わっていませんよ。なに、物凄く自然に注文しているんですか。大体、こちらの女性達はどちら様ですか?」
「依頼で一日以上ノンストップでここまで来てんだ。腹減ってんだから、飯くらい食わしてくれ。それと、こいつらは……」
「……ユエ」
「シアです!」
「ハジメの女2番」「ハジメさん3番ですぅ!」
「そして私が! 超絶美少女魔法使いのミレディで~す☆」
その自己紹介に愛子達は困惑したようにハジメとユエとシアの二人の美少女を交互に見る。男子生徒は「まさか!」という表情でユエとシアを忙しなく交互に見ている。徐々に、その美貌に見蕩れて顔を赤く染めながら。優花は、「また頭が痛い…」というように目を隠すように手を当てて頭を抱えた。
「おいちょっと待て、シアは違うだろ」
「そんなぁ~、酷いですよぉハジメさぁ~ん…」
「恋人というより妹キャラなんだよなぁ、お前」
「ハジメ? それって恋人ポジより距離近くないかしら?」
「そうか?」
自己紹介から一変、ハジメ達の雑談タイムとなり話している。
その一方で、そんな話を聞いていた男子の反応は…
「おい聞いたか? あのうさ耳の子と金髪の子、南雲の女って…」
「くっ…どうしてだ! 異世界で俺達は出会いが無かったってのに…」
「おいちょっと待て! さっきあの子達、2番と3番って言ってたよな…?」
男子達だけでなく女子達の視線は、ハジメとペアルックと言えそうな服装をした少女、雫に向く。
「八重樫雫…ハジメの最初の女だけれど…なにか?」
と、実に潔くサラッと言った雫。
「南雲君…八重樫さん……」
すると、遂に情報処理が追いついたらしく、愛子の声が一段低くなる。愛子の頭の中では、ハジメと雫がイチャイチャして、その横にユエとシアがいる光景が再生されているようである。若干、暗黒面に入ってそうな愛子の表情がそれを物語っている。
顔を真っ赤にしている愛子。その目には、「非行に走る生徒を何としても正道に戻す!」という決意に満ちていた。そして、〝先生の怒り〟という特大の雷が、ウルの町一番の高級宿に落ちる。
「直ぐに帰ってこなかったのは、遊び歩いていたからなんですか! もしそうなら……許しません! ええ、先生は絶対許しませんよ! お説教です! そこに直りなさい!」
「もうやだ、ここ…」
この惨状に、遂にキャラ崩壊を起こしたハジメの第一声はこれだった。
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散々、愛子が吠えた後、他の客の目もあるからとVIP席へ案内されたハジメ達。そこで、愛子や生徒達から怒涛の質問を投げかけられつつも、ハジメ達は目の前の今日限りというニルシッシル*1に夢中になりながら、端折りに端折った答えをおざなりに返していく。
Q、橋から落ちた後、どうしたのか?
A、超頑張った。
Q、なぜ銀髪なのか?
A、地毛。
Q、なぜ、直ぐに戻らなかったのか?
A、戻る理由があまりない。
そこまで聞いて愛子が、「真面目に答えなさい!」と頬を膨らませて怒る。正直言って迫力なんてものは全くない。ハジメは肩を竦めながら苦笑いして「今、ここでは言いたくないんだ」と言って説得しながらオムライスを頬張っている。
その様子にキレたのは、愛子専属護衛隊隊長のデビッドだ。愛する女性が蔑ろにされていることに耐えられなかったのだろう。拳をテーブルに叩きつけながら大声を上げた。
「おい、貴様! 愛子が質問しているのだぞ! 真面目に答えろ!」
ハジメは、デビッドを見るとニヤリと笑いながら口を開く。
「おいおい、ここはレストランだ。騒ぐの違うだろ? それとも、アンタらにとっちゃ、これが普通なのか? ハッ、マナーってもんを覚えてから出直してきな」
そう言って、ハジメはニルシッシルをすくったスプーンを口に運ぼうとする。だが、それはある言葉によって止められてしまった。
「ふん、マナーだと? その言葉、そっくりそのまま返してやる。薄汚い獣風情を人間と同じテーブルに着かせるなど、お前の方が礼儀がなってないだろうが! 獣風情も獣風情だ! 見ただけで虫唾が走る!!」
ハジメの言動に、元々、神殿騎士にして重要人物の護衛隊長を任されているということから自然とプライドも高くなっているデビッドは、我慢ならないと顔を真っ赤にした。そして、何を言ってものらりくらりとして明確な答えを返さないハジメから矛先をシアに変えたのだ。
ハジメは、スプーンを口の前で止めて硬直している。
「で、デビッドさん! なんてこと言うんですか!」
差別的な発言に愛子が咎めるが、デビッドは止まらない。
「愛子も教会で教わっただろう。魔法は神より授かりし力、それを使えない亜人共は神から見放された下等種族だ」
よく見れば、デビッドだけでなく、チェイス達他の騎士達も同じような目でシアを見ている。彼等がいくら愛子達と親しくなったところで、神殿騎士と近衛騎士である。聖教教会や国の中枢に近い人間であり、それは取りも直さず、亜人族に対する差別意識が強いということだ。何せ、差別的価値観の発信源は、その聖教教会と国なのだから。デビッド達が愛子と関わるようになって、それなりに柔軟な思考が出来るようになったといっても、ほんの数ヶ月程度で変わる程、根の浅い価値観ではないのである。
チェイスたちの視線でいい気になったデビットはさらに暴言を吐こうと口を開く。
「それに、なんならその醜い耳を切り落としたらどうだ? それなら少しは人間らしくなるだろう」
そこで、ハジメの手からスプーンが滑り落ちた。否、スプーンを放した。そのスプーンが床に着いた瞬間、バリーンという皿が割れる音と共に、デビッドは、顔にニルシッシルが皿ごと叩きつけられ、そのまま壁に吹っ飛ばされ叩きつけられた。その叩きつけた本人、ハジメは皿を叩きつけた残心状態で、物凄い形相でデビッドを睨みつける。
この出来事は、一瞬の間で起こった出来事である。
誰もが、今起こった出来事を正しく認識できず硬直する。視線は、壁に倒れかかるデビッドに向けられたままだ。と、そこへ、大きな音に何事かと、フォスがカーテンを開けて飛び込んできた。そして、目の前の惨状に目を丸くして硬直する。
フォスが入ってきたことで正気を取り戻した愛子達。
騎士達は攻撃したのがハジメだと理解し、一斉に剣に手をかけて殺気を放つ。しかし、騎士達の殺気など比べ物にならない凄絶な殺気が、部屋を充満するように降り注ぎ、立ち上がろうとした騎士達を強制的に座席に座らせた。
直接、殺気を浴びているわけではないが、ハジメから放たれる桁違いの威圧感に、愛子達も顔を青ざめさせてガクガクと震えている。
ハジメは、デビッドの元まで歩いていくと、胸ぐらを掴んで拳を構えた状態になり、〝悪魔威圧〟をさらに浴びせる。その威圧に当てられ、デビッドは歯をガタガタ鳴らして震え上がった。
「テメェが俺をどれだけ罵ろうが、剣で腕斬り落とそうが一向に構わねえ。だがな、どんな理由だろうと、俺の仲間を傷つける奴は絶対に許さねぇぞ。いいか、次はない」
ハジメはそう言って席に戻り、威圧も解除した。凄まじい圧迫感が消え去り、騎士達がドウッと崩れ落ちて大きく息を吐いた。愛子達も疲れたように椅子に深く座り込む。
ハジメは、シュンとして落ち込んでいるシアを励まそうと話しかけた。
「なぁ、シア。これが〝外〟の普通なんだ。気にしてたらキリねぇぞ?」
「はぃ、そうですよね……わかってはいるのですけど……やっぱり、人間の方には、この耳は気持ち悪いのでしょうね」
自嘲気味に、自分のウサミミを手で撫でながら苦笑いをするシア。ハジメは、そんなシアを見て、大きなため息を吐きながらシアのウサミミを優しくモフリ始めた。
「は、ハジメさん!?」
「いいか、シア。この馬鹿共は国にイカれた教育されたからこうなってるだけだ。兎人族は愛玩奴隷の需要では一番ってことは、ある意味、人間に好まれてるってことだ」
「そう……でしょうか……あ、あの、ちなみにハジメさんは……その……どう思いますか……私のウサミミ」
ハジメの言葉が慰めであると察して、少し嬉しそうなシアは、頬を染めながら上目遣いでハジメに尋ねる。ウサミミは、「聞きたいけど聞きたくない!」というようにペタリと垂れたまま、時々、ピコピコとハジメの方に耳を向けている。
「めちゃくちゃ可愛いと思うぞ。正直、このままお前のウサミミモフってたいわ」
「ハ、ハジメさん……私のウサミミお好きだったんですね……えへへ」
シアが赤く染まった頬を両手で押さえイヤンイヤンし、頭上のウサミミは「わーい!」と喜びを表現する様にわっさわっさと動く。
ついさっきまで下手をすれば皆殺しにされるのではと錯覚しそうな緊迫感が漂っていたのに、今は何故か桃色空間が広がっている不思議に、愛子達も騎士達も目を白黒させた。しばらく、ハジメ達のラブコメちっくなやり取りを見ていると、男子生徒の一人相川昇がポツリとこぼす。
「あれ? 不思議だな。さっきまで南雲のことマジで怖かったんだけど、今は殺意しか湧いてこないや……」
「お前もか。つーか、あの二人、ヤバイくらい可愛いんですけど……どストライクなんですけど……なのに、目の前にいちゃつかれるとか拷問なんですけど……」
「……南雲の言う通り、何をしていたか何てどうでもいい。だが、異世界の女の子と仲良くなる術だけは……聞き出したい! ……昇! 明人!」
「「へっ、地獄に行く時は一緒だぜ、淳史!」」
グツグツと煮えたぎる嫉妬の眼で、ついさっき自分達を震え上がらせたハジメを睨みながら、一致団結する男三人。完全に、シリアスオーラは吹き飛び、本来の調子を取り戻し始めた女生徒達の男子生徒達を見る目は、物凄い冷めていた。