ありふれた悪魔狩人《DEVILHUNTER》で世界最強   作:ヴェルザ・ダ・ノヴァ

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密会

 チェイスの騒ぎが落ち着き、場の雰囲気が戻ったことを悟り、デビッドの治癒に当たらせる。同時に、警戒心と敵意を押し殺して、微笑と共にハジメに問い掛けた。ハジメの事情はともかく、聞きたい事が幾つかあったのだ。

 

「南雲君でいいでしょうか? 先程は、隊長が失礼しました。何分、我々は愛子さんの護衛を務めておりますから、愛子さんに関することになると少々神経が過敏になってしまうのです。どうか、お許し願いたい」

「神経過敏で人殺しか? 三、四ヶ月の間にひでぇ世の中になったもんだ。カウンセリングすることをオススメするぜ」

 

 ハジメの物怖じしない態度と言葉に、チェイスの眉が一瞬ピクッとなるが、微笑というポーカーフェイスは崩れない。そして、頭の回転が早いチェイスの見立てでは到底放置できない、ハジメの力について切り込んだ。

 

「今の貴方の力ですが……視認できない速度で動く速度、我々、神殿騎士をも上回る威圧など十代にしては異常です。何らかのアーティファクトの力でしょうか?」

 

 微笑んでいるが、目は笑っていないチェイス。先ほどのやり取りで、魔力が使われたような気配がないことから、何らかのアーティファクトを使って身体能力を底上げしていると思ったのだろう。アーティファクトの場合、複製するアーティファクトで量産が可能かもしれないと考え、そうなれば、戦争の行く末すら左右しかねないため、自分達が束になってもハジメには敵わないかもしれないとは思いつつも、聞かずにはいられなかったのだ。

 

「いいや、俺の身体能力さ」

「そう…ですか」

 

 チェイスは戦慄した。デビッドをぶっ飛ばしたあのスピードが、アーティファクトを使っていない素の力だというのだ。オルクスの奈落に落ちる前も疾風のような速さだと聞いていたチェイスだが、今のスピードは、風を超え、もはや瞬間移動といっても過言ではないだろう。

 

 チェイスが、そうしてあれこれ試行していると、優花が、ハジメに近づいて後頭部を拳で小突いた。

 

「いつっ」

「アンタさぁ、いい加減我慢ってものを覚えたら? 女子どもが手を上げられてるとブチぎれるクセ、どうにかした方がいいわよ」

「うるせぇなぁ、仕方ねぇだろ? それに、女や子どもに手を上げるクソ共を退治してるだけだから、問題ねぇだろ?」

 

 優花の言葉に、苦笑いしながらそう言う。確かに筋は通ってるが、この現状的には、〝違う、そうじゃない〟としか言いようがない。

 

 そんな中、おずおずとクラス男子の玉井淳史が声を上げる。

 

「前から思ってたけどさ、南雲とか園部は何で銃を持ってんだ?」

 

 玉井の言葉にチェイスが反応する。

 

「銃? 銃とはいったい何なのですか?」

「コイツだな」

 

 ハジメは、チェイスの疑問に答えるかのように、テーブルに大型拳銃のドンナーをゴトッっと置いて、座り直す。

 

「鉄の玉〝銃弾〟を中に入れて撃ちだす武器だ。メリットは、遠い所から敵を狙い打てるという点と、体力や魔力を消費しない点だな。逆に、デメリットとして何かを殺したということを自覚しづらい点や弾切れを起こすと使い物にならない点だな」

「なるほど、そんな武器が異世界にはあるのですね。とすると、異世界人によって作成されたもの……となれば、作成者は当然……」

「もちろん、俺だ。むしろ、他に誰がいんだ?」

 

 ハジメは、あっさりと自分が創り出したと答えた。チェイスは、ハジメに秘密主義者という印象を抱いていたため、あっさり認めたことに意外感を表にする。

 

「あっさり認めるのですね。南雲君、その武器が持つ意味を理解していますか? それは……」

「ああ、分かってるさ。便利屋が銃の一丁も持ってないんじゃ、サマにならないだろ?」

「ちょっとぉ? いつから便利屋がスタイル気にするようになったの」

 

 ハジメの言葉に、優花が怪訝そうな顔をしてハジメを睨む。

 

「優花、そう言うなら、素手で悪魔倒せるんだな?」

「私は便利屋じゃなくてデビルハンターだからいいのよ」

「やれやれ、困ったヤツ(lady)だ」

 

 ハジメは、呆れたような苦笑いをして優花を見つめる。それに対して、優花は若干ドヤ顔が混じった顔でハジメを見た。まるで、相棒同士の掛け合いのような青臭さがあるオーラが漂うが、その雰囲気をぶち壊す人がいた。愛子先生である。

 

「違います! この世界の戦争事情を一変させることを言ってるんです! なぁに、園部さんといい雰囲気になってるんですか!?」

「「愛ちゃん先生、何言ってんの?」」

 

 プリプリ怒る愛子に、ハジメと優花はジト目でそう呟いた。

 

「ってか、戦争事情が一変すんのは量産できたらだろ? この世界じゃ、設計を知ってるのは、浩介か俺だけ。おまけに、この世界で銃を作るには技術が足りないからな。結局は無理だろ」

 

 言外に〝諦めろ〟というハジメの言葉。だが、チェイスも食い下がる。銃はそれだけ魅力的だったのだ。

 

「ですが、それを量産できればレベルの低い兵達も高い攻撃力を得ることができます。そうすれば、来る戦争でも多くの者を生かし、勝率も大幅に上がることでしょう。あなたが協力する事で、お友達や先生の助けにもなるのですよ? ならば……」

「おい、いい加減にしとけよ。しつこい男は嫌われるぜ?」

 

 ハジメは、不敵に笑ってチェイスを睨んだ。その瞳の言葉では言い表せられない圧力に、チェイスは口をつぐむ。そこへ愛子が執り成すように口を挟む。

 

「チェイスさん。南雲君には南雲君の考えがあります。私の生徒に無理強いはしないで下さい。南雲君も、あまり過激な事は言わないで下さい。もっと穏便に……南雲君は、本当に戻ってこないつもり何ですか?」

「ああ。すまないが、こっちもいろいろあってな。今は戻る気はない。それに、あの勇者サマがうるさそうだからな」

「あ~、なんとなく理由は分かったわ」

 

 ハジメの言葉に、優花は、遠い目をして納得する。確かに勇者(笑)なら、やれ〝仲間なんだから一緒に戦ってくれるよな〟だの、やれ〝なぜ、生きてるんだ!? 南雲は死んだはずだろ!?〟だの、いろいろと騒ぎそうなのは目に見えていることである。

 

 故に、ハジメは戻る気はあまりないのだ。もし、理由があるとすれば浩介や優花、香織達のためだろう。

 

 だが、次のハジメの言葉が愛子に一筋の希望を見せた。

 

「だが、お前らの頼みならいつでも聞くぞ。まぁ、限度にもよるが、一応はクラスメイトだ。面倒くらいは見てやるよ」

 

 そう言って席を立つハジメ。気づけば、いつの間にか雫達も食事を終えてハジメに追従するように立ち上がる。そのまま、二階に上がっていった。

 

 後に残された愛子達の間には、何とも言えない微妙な空気が流れる。死んだと思っていたクラスメイトが生きていたのは嬉しい。それも、クラスで人気トップの二人が生きていたうえに、一人は少しの頼みは聞いてくれるという。しかし、騎士たちにはとことんドライな反応で、拒絶するような対応だったために、何人かは顔をしかめている。

 

 愛子は、その両者の心をごちゃまぜにしたような複雑な感情がとぐろを巻き、悩ませている。

 

 そんな靄が心を覆いつくすような何とも言えない感じから、この日は解散となった。

 

 

 

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 月が闇夜を照らす頃。深夜を周り、一日の活動とその後の予想外の展開に精神的にも肉体的にも疲れ果て、誰もが眠りについた頃、愛子は未だ寝付けずにいた。

 

 愛子の部屋は一人部屋で、そこまで広くはない。木製の猫脚ベッドとテーブルセット、それに小さな暖炉があり、その前には革張りのソファーが置かれている。冬場には、きっと揺らめく炎が部屋を照らし、視覚的にも体感的にも宿泊客を暖めてくれるのだろう。

 

 考えねばならないこと、考えたいこと、これからのこと、ぐるぐると回る頭は一向に建設的な意見を出してはくれなかった。大切な教え子二人が生きていたと知ったときの事を思い出し頬が緩むも、直接的には関わらないと言われ眉を八の字にする。

 

 デビッドの言動により垣間見たハジメの力に、そのように変貌しなければ生き残れなかったのかもしれないと、ハジメが経験した苦難を思い、何の助けにもなれなかったことに溜息を吐く。しかし、その後の少女達との掛け合いを思い出し、信頼できる仲間を得ていたのだと思い、再び頬を緩める。

 

 実は、ハジメは元々地球にいた頃から今のような力を多数有していて、()()()()()()()()()()()()()()したことも、オルクスの奈落で()()()()()()()()()()()()()ことも知らないことである。

 

 そうして、愛子が百面相していると、部屋の扉がコンコンッとノックされた。愛子は、こんな時間に誰が来たのだろ? と眉をひそめ、扉を開けると、そこには先程まで考えていた人物がいた。

 

「よぉ、先生。今大丈夫か?」

「南雲君? なんでここに……」

「ちょっと話したいことがあってな。外に行けるか?」

「今からですか?」

「今からだ」

 

 愛子は、少し悩んだのち首を縦に振った。ハジメが話したい事があるというのも気になるが、何より、生徒が話したいというのならそれに応えるのが教師! というような考えで承諾したのだ。

 

 ハジメと愛子は、宿を出て少し歩いた先の湖の畔にやってきた。そこには、優花も来ていた。

 

「遅いわよ」

「園部さん? 何でここに?」

「あぁ、俺が渡す報酬の受け取りだ」

 

 ハジメは、そういうと懐から〝宝物庫〟を取り出した。今回、優花がホルアドで頼んだ報酬は銃一式だった。学校生活を送っていたらいきなり異世界に呼び出され、ハジメのように自分の装備が近くにあったわけでもないので、丸腰だったのだ。当然、銃を専門に扱う優花にコンバットナイフでの格闘術や短剣術は不得意で、それ故に、依頼報酬は銃にしていたのだ。一応、浩介から何丁か貰っているが、粗悪品のため使い勝手は最悪だった。*1

 

 故に、ハジメの銃に期待大なのだ。そして、ハジメは見事にその期待をいい意味で裏切った。

 

 優花の報酬の銃は、ハンドガン二丁、サブマシンガン二丁、ショットガン一丁、シュラ―ゲン(バッテリー式)一丁、メツィライ(バッテリー式)一丁、オルカン(バッテリー式)一丁、カリーナ=アンである。

 

 結構な量の高火力武器が大量に優花の手に渡った。メツィライなどの〝纏雷〟を使う武器にはバッテリーを付けることで解決した。しかも、バッテリーは太陽光パネルがついているため、日が出ている間は充電し放題という仕様だ。収納用に〝宝物庫〟も渡してある。宝物庫には、魔法陣を組み込むことで普通の人間にも扱えるようになっている。

 

 この量の銃火器に優花は若干ドン引きしていた。

 

「たくさん用意したわね…」

「あぁ、全距離から戦えるようにな。これぐらいある方がお前もいろいろ便利だろ?」

「まぁね。ねぇ、試し撃ちしていいかしら?」

「向こうでやるなら別にいいぜ」

 

 ハジメは、被弾が無いように遠くでやるならば構わないと許可した。

 

 優花が遠くで銃の試し撃ちをしている間、ハジメと愛子は浜辺に倒れている木に座って話していた。

 

 この世界の真実…この世界の人間族や魔人族は神にとってただの玩具であること。その世界に、新たな玩具として自分たちが召喚されたこと。二千年以上前に、〝解放者〟という人々が神を討とうするも敗北したこと。

 

 ハジメから、世界の真実を聞かされ、どう受け止めていいか分からず呆然とする愛子。情報を咀嚼し、自らの考えを持つに至るには、まだ時間が掛かりそうである。

 

「まぁ、そういうわけだ。俺が奈落の底で知った事はな。これを知ってどうするかは先生に任せるよ。戯言と切って捨てるもよし、真実として行動を起こすもよしだ。ご自由にどうぞ」

「な、南雲君は、もしかして、その〝狂った神〟をどうにかしようと……旅を?」

「まぁ、そんなとこだ。遺言依頼とかは断れないタチでな」

 

 愛子が、ハジメのやさしさの一端に触れた瞬間だった。愛子にとって、今のハジメのイメージは〝何事にも興味がなく、他者を切り捨てる〟というものだったために余計驚いた。

 

 実のところ、ハジメも頭に〝トータスの人々を見捨てる〟という選択肢はよぎったが、その考えを受け入れるつもりはなかった。それを受け入れてしまえば、兄達から教わった人を救う心を、自分の〝手を伸ばせるのなら、全員に伸ばして助ける〟という信条を裏切ることになる。何より、二人目の父であるスパーダに対する恥だと思った。かつて、スパーダが訪れた世界。その世界の住民を見捨てるということを、ハジメは良しとしなかったのである。

 

「アテはあるんですか?」

「まぁな。大迷宮が鍵だ。気になるなら探索してみな。オルクスも百階層を超えれば、めでたくオルクスの本領発揮という訳だ。後戻りはできないがな。ま、見込みのあるヤツは、俺が知る限り浩介と優花ぐらいだろう。俺の〝威圧〟に怯んでたんじゃ、話にもならないからな」

 

 愛子は、夕食時のハジメから放たれたプレッシャーを思い出す。あの威圧を簡単に出せるくらいに強くなければいけない過酷な状況を生き抜いてきたのかと、同情やら称賛やら色々なものが詰まった心でハジメと雫を想った。

 

「あ、このことを天之河達に伝えるべき何でしょうか? 神の件も含めて」

「やめといたほうがいい。人気者の勇者と数ヶ月姿を消した便利屋…どっちを信じるかなんざ明らかだろ? 俺と天之河の人気はどっこいどっこいらしいがな」

「そう…ですね…」

 

 ハジメの言葉に頷く愛子。

 

 確に、光輝ならば大勢の人たちが信じ崇めるエヒト様を愚弄しただの、戦争から逃げる為の見苦しい言い訳だのと非難されるのがオチだ。そう言う意味からも、ハジメは光輝達に関わるつもりは毛頭なかった。

 

 しかし、〝会いに行かなくては〟とは思っている。最も、会うのは光輝ではなく、浩介や香織だが。

 

 そうして会話していると、ハジメは、ふと思った疑念を愛子に聞いた。

 

「そういえば、檜山はどうしてる?」

「檜山君…ですか…」

「あぁ、俺らを落としたのアイツだろ? なに、殺しはしねぇよ。少なくとも俺はな。けど、先生の雰囲気的に、何かあったみたいだな」

「えぇ、実は…」

 

 愛子の話によると、ハジメと雫が落ちた後、幸利のグリフォンにより檜山が犯人だということが分かり、龍太郎たちにリンチされた後、光輝が檜山をかばったことから檜山は勇者パーティに加わりオルクス大迷宮攻略をしていたらしいのだが、ある日、突然檜山は姿を晦ましたというのだ。それも、ハジメが作った刀のうちの一つである〝吠舞羅(ホムラ)〟を持って行ってしまったらしい。

 

 もともと吠舞羅は、ハジメが自分用に作った刀であり、長さ1mほどの大きめの太刀である。さらに、刀には炎魔法と風魔法の魔法陣が組み込まれている。檜山の属性適正は風のため、これを取っていったのだろう。

 

「なるほどな。罪に苛まれて逃げたか…または、何か目的があるのかもな」

 

 ハジメは、聞く事も言う事も終わったと悟り、「邪魔したな」と言い、踵を返して宿の方に歩き始めた。その背中に、オルクス大迷宮という言葉で思い出したとある生徒の事を伝えようと愛子が話しかけた。

 

「白崎さんは諦めていませんでしたよ」

「……」

 

 愛子から掛けられた言葉にハジメの歩みが止まる。愛子は、背中を向けたままのハジメにそっと語りかけた。

 

「皆が君たちは死んだと言っても、彼女だけは諦めていませんでした。自分の目で確認するまで、君たちの生存を信じると。天之河君たちは、戦闘訓練として潜っているようですが、彼女だけは君たちを探すことが目的のようです」

「……アイツは…白s、香織はどうしてる? 元気にしてるか?」

 

 長い沈黙の後、ハジメは愛子に尋ねる。自分達に無関心な態度をとっていたハジメの初めての他者を心配するような言葉に、愛子は、まだハジメが以前の心を残していると思い喜色を浮かべた。

 

「は、はい。オルクス大迷宮は危険な場所ではありますが、順調に実力を伸ばして、攻略を進めているようです。時々届く手紙にはそうありますよ。やっぱり気になりますか? 南雲君と白崎さんは仲がよかったですもんね」

 

 にこやかに語る愛子に、ハジメは顔を歪めて肩越しに振り返った。

 

「そんなんじゃないさ。ただ、心配かけた詫びをしなきゃと思ってるだけだ」

 

 ハジメはそう言って、愛子に後ろ姿で手を振り、宿に戻っていく。その後ろ姿を月がそっと照らしていた。

*1
そもそも、材料も整った設備もないのに一級品を作れという方が無理がある。

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