ありふれた悪魔狩人《DEVILHUNTER》で世界最強 作:ヴェルザ・ダ・ノヴァ
あれからしばらくして、再び、オルニスが異常のあった場所を発見した。東に約三百メートルいったところに大規模破壊の後があったのだ。ハジメは全員を促してその場所に急行した。
着いた場所は大きな川だった。上流に小さい滝が見え、水量が多く、流れもそれなりに激しい。本来なら真っ直ぐ麓に向かって流れているのだろうが、現在、その川は途中で大きく削られており、小さな支流が出来ていた。まるで、横合いから二本のレーザーか何かに抉り飛ばされたようだ。
そんな印象を持ったのは、抉れた部分がクロスするようだったのと、周囲の木々や地面が焦げていたからである。更に、何か大きな衝撃を受けたように、何本もの木が半ばからへし折られて、何十メートルも遠くに横倒しになっていた。川辺のぬかるんだ場所には、三十センチ以上ある大きな足跡も残されている。
「ここで本格的な戦闘があったみたいだな……」
「この足跡、大型で二足歩行する魔物……確か、山二つ向こうにブルタールって魔物がいたわよね。けど、この地面は……」
雫の言うブルタールとは、ゲームで言うオークやオーガの事だ。知能は低いが、群れで行動することと、〝金剛〟の劣化版〝剛壁〟の固有魔法を保有しているため、中々の強敵と認識されている。普段は二つ目の山脈の向こう側におり、それより町側には来ないはずの魔物だ。それに、川に支流を作るような攻撃手段は持っていないはずである。
ハジメは、しゃがみ込んでブルタールのものと思しき足跡を見て少し思案した後、オルニスを上流に飛ばして下流に向かうことにした。ここまで上流へウィル達は無我夢中で逃げてきたようだが、大規模戦闘の後にまた上流を目指したとは考えにくい。体力的にも、精神的にも町から遠ざかるという思考ができるか疑問だ。
このような考えから、ハジメ達は下流へ向けて歩いていた。ブルタール? の足跡が川縁にあるということは、川の中にウィル達が逃げ込んだ可能性が高い。ならば、きっと体力的に厳しい状況にあった彼等は流された可能性が高いと考えたのだ。
ハジメの推測に他の者も賛同し、今度は下流へ向かって川辺を下っていった。
すると、今度は、先ほどのものとは比べ物にならないくらい立派な滝に出くわした。ハジメ達は、ミレディの重力魔法で滝壺付近に着地する。滝の傍特有の清涼な風が一日中行っていた探索に疲れた心身を優しく癒してくれる。その瞬間、ハジメの〝気配感知〟に反応が出た。
場所は、滝の奥にある空洞だ。
「Bingo! ユエ、頼む」
「……ん」
ハジメは滝壺を見ながら、ユエに声をかける。ユエは、それだけでハジメの意図を察し、魔法のトリガーと共に右手を振り払った。
「〝波城〟 〝風壁〟」
ユエが魔法を使用し、滝をモーセの伝説の如く真ん中で割る。更に、飛び散る水滴は風の壁によって完璧に払われた。高圧縮した水の壁を作る水系魔法の〝波城〟と風系魔法の〝風壁〟である。
詠唱も陣もなしに、二つの属性魔法を同時に、応用行使したことに愛子達は、もう何度目かわからない驚愕に口をポカ~ンと開けた。
だが、魔力も無限ではない。ハジメは、愛子達を促して滝壺の奥へ続く洞窟へ踏み込んだ。
洞窟は入って直ぐに上方へ曲がっており、そこを抜けるとそれなりの広さがある空洞が出来ていた。天井からは水と光が降り注いでおり、落ちた水は下方の水溜りに流れ込んでいる。溢れないことから、きっと奥へと続いているのだろう。
薄暗い空洞を見渡すと、奥の方に人が横倒れになっているのが見えた。傍に寄って確認すると、二十歳くらいの青年だった。端正で育ちが良さそうな顔立ちだが、今は青ざめて死人のような顔色をしている。だが、それほど怪我もなく、鞄の中には未だ少量の食料も残っているので、単純に眠っているだけのようだ。
ハジメは、青年に近づくいて、声を掛けながら頬をペシペシとねこぱんちのように叩き始めた。
「お~い、起きろ~! もう朝だぜ~?」
「ハジメ、あと少しでもう夜だけれど?」
雫のツッコミをハジメはスルーして、ペシペシ叩くこと1,2分。ようやく目覚めたのか、呻き声を上げながら瞼をゆっくりと開ける青年。
「アンタが、ウィル・クデタか? クデタ伯爵家三男の」
「えっ、君達は一体、どうしてここに……」
状況を把握出来ていないようで目を白黒させる青年に、ハジメは落ち着くように言って、もう一度、同じ質問をした。
「アンタが、ウィル・クデタで合ってるか?」
「えっと、はい。私がウィル・クデタですが……?」
「そりゃ、よかった。俺はハジメだ。南雲ハジメ。フューレンのギルド支部長イルワ・チャングからの依頼で探しに来た。生きていてよかったぜ」
「イルワさんが!? そうですか。あの人が……また借りができてしまったようだ……あの、あなたも有難うございます。イルワさんから依頼を受けるなんてよほどの凄腕なのですね」
尊敬を含んだ眼差しと共に礼を言うウィル。いつかのブタ野郎とは大違いである。それから、各人の自己紹介と、何があったのかをウィルから聞いた。
事の発端は五日前。
ウィル達は、ハジメ達と同じ山道に入り五合目の少し上辺りで、魔人族に遭遇してしまい、ブルタール十体を差し向けられたという。流石に、その数のブルタールと魔人族との戦闘は不利だった為、撤退に移ったらしいのだが、襲い来るブルタールを捌いているうちに数がどんどん増えていき、気がつけば六合目の例の川にいた。そこで、ブルタールの群れに囲まれ、絶体絶命の時、三体の魔物を従える青年に助けられたのだという。それから、追い立てられながら大きな川に出たところで、圧倒的な絶望が現れた。
漆黒の竜だったらしい。その黒竜は、ウィル達が川沿いに出てくるや否や、特大のブレスを吐き、青年のゴーレムが光線を放って対抗するも、青年は山下に吹き飛ばされ、ウィルは川に転落。流されながら見た限りでは、そのブレスで一人が跡形もなく消え去り、残り二人も後門のブルタール、前門の竜に挟撃されていたという。
ウィルは、流されるまま滝壺に落ち、偶然見つけた洞窟に進み空洞に身を隠していたらしい。
ちなみに、その青年は幸利では? と考えた愛子が名前を聞くも、そんな暇はなく、名前は聞けなかったらしい。
これを聞いたハジメと雫は、遠い目をしていた。確かに、境遇は似ているところがある。洞窟に身を隠したとことか。
ウィルは、話している内に、感情がこみ上げてきたようですすり泣きを始めた。振り返っていろいろと思い出し、様々な思いが駆け巡り涙となって溢れ出す。
「わ、わだじはさいでいだ。うぅ、みんなじんでしまったのに、何のやぐにもただない、ひっく、わたじだけ生き残っで……それを、ぐす……よろごんでる……わたじはっ!」
洞窟の中にウィルの慟哭が木霊する。誰も何も言えなかった。顔をぐしゃぐしゃにして、自分を責めるウィルに、どう声をかければいいのか見当がつかなかった。生徒達は悲痛そうな表情でウィルを見つめ、愛子はウィルの背中を優しくさする。雫はかける言葉が見つからず、ユエは何時もの無表情、シアとミレディは困ったような表情だ。
「おい、坊主!」
だが、ウィルが言葉に詰まった瞬間、意外な人物が口を開いた。
「それ以上はアウトだ。確かに、仲間が死んじまってんのに、生きてることに安心するってのは、周りから見たら最低なのかもな。だけどよ、それは生き物が思って至極当然の考えだ。何も間違っちゃいない。だが、仲間の命を冒涜するようなことを言おうとしたことは、間違ってるぞ」
ハジメの言葉に、ウィルは何も言えなくなる。だが、それでもハジメは話を続けた。
「過去は元に戻らない。死んだ人間は生き返らない。それがこの世の摂理だ」
「な、ならっ、僕は、どうすれば……」
「んなもん知るか、自分で考えろ。けれど、これだけは言える。死んだヤツ等の分も生き続けろ。明日に希望を見出せ。死んじまった仲間の分もいろんなモノを見ろ。そんで、いつか今日、生き残った意味が分かるんじゃねえか?」
そう言って、ニッと不敵に笑うハジメ。
ウィルは、そんなハジメの言葉をかみ締めるような表情で、胸に手を置いている。やがて、強い意志を目に宿してハジメを見た。
「……わかりました。私は、生きます! 彼らの分も生きて、いろんなものを見て、頑張って生きます!」
「そうか。なら、生きるためにもさっさと帰らねぇとな」
「はい!」
ウィルに手を差し伸べ、立たせるハジメ。
魔人族や黒竜のことは気になるが、それは仕事の内容に含まれていない。さらには、戦闘能力が低い保護対象を連れたまま調査などもってのほかである。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
そうして、入ってきた滝にたどり着き、再び滝を割り────魔力的問題のため、ユエとミレディの共同作業────外に出ると、熱烈な歓迎が待ち受けていた。
「グゥルルルル」
そこには、体長七メートル程で、漆黒の鱗で全身を覆い、翼をはためかせる度に、翼の大きさからは考えられない程の風が渦巻かせ、金の眼で睥睨する竜がいた。
その圧倒的な迫力は、まさに空の王者と言うべきものである。
蛇に睨まれた蛙のごとく、愛子達は硬直している。特に、ウィルは真っ青な顔でガタガタと震えて今にも崩れ落ちそうだ。脳裏に、襲われた時の事がフラッシュバックしているのだろう。
その黒竜は、ウィルの姿を確認し、ギロリとその鋭い視線を向けた。そして、硬直する人間達を前に、おもむろに頭部を持ち上げ仰け反ると、鋭い牙の並ぶ顎門をガパッと開けてそこに魔力を集束しだした。
キュゥワァアアア!! という不思議な音が響き渡る。雫の脳裏に、川の一部と冒険者を消し飛ばしたというブレスが過ぎった。
「ッ!? 退避して!」
雫は警告を発し、自らもその場から一足飛びで退避した。ユエやシアも付いて来ている。だが、反応できない者とその場に残ったものがいた。愛子達とハジメだ。
直後、竜からレーザーの如き黒色のブレスが一直線に放たれた。音すら置き去りにして一瞬でハジメのもとに到達するだろう。しかし、ハジメは魔剣ジェネシスを剣先を上に向けて構え、その剣身をガバッと開いて中にある魔剣ジェネシスの魔力芯*1が丸見えにした。
そこに、黒竜のブレスが到達した。だが、ブレスは反射するように魔剣ジェネシスの剣先から放出して無効化した。某雷撃槍の間違った使い方の如く。
ブレスを無効化したハジメは、面白いものを見つけたという顔をして黒竜を見た。
「ほぉ~、ここ等辺りのヤツにしてはガッツあるな? こりゃ、楽しくなりそうだっ!」
そう言って、注意を自分に向けるため、ドンナー&シュラークを連射した。しかし、その目論見は外れ、黒竜は、ブレス発射待機状態の口をウィルに向けている。
だが、その口に突如、ロケットミサイルが浴びせられた。全員が発射場所を見ると、そこにいたのはカリーナ=アンを構えた優花だった。
「久々の大物ね。腕が鳴るわ!」
そう言って、カリーナからサブマシンガン二丁に切り替えて、黒竜に向けて撃つが、鱗が硬く、ダメージを与えられない。
「チッ、硬すぎっ!」
「同感だな!」
二人で超速連射しているにもかかわらず、依然としてダメージは通らない。
銃弾を気にもせず、黒竜は火炎弾を放って、ウィルを狙い撃ちにする。
「ユエ!」
「んっ〝波城〟」
「ひっ!」と情けない悲鳴を上げて身を竦めるウィルの前に、高密度の水の壁が出来上がる。飛来した火炎弾はユエの構築した水の城壁に阻まれて霧散した。
黒竜は執拗にウィルだけを狙っている。まるで、何かに操られてでもいるように。命令に忠実に従うロボットのようである。先程の重力による拘束のようにウィルの殺害を直接、邪魔するようなものでない限り他の一切は眼中にないのだろう。
ハジメは、そこまで執拗にウィルを狙う理由はわからなかったが、目標が定まっているなら好都合だと、ユエに指示を飛ばした。
「ユエ! ウィルの守りに専念しろ! シアはユエの援護! ミレディは先生たちを守ってくれ!」
「んっ、任せて!」
「了解ですぅ~!」
「了解!」
三人はハジメの指示を聞くと、ユエとシアはウィルの方へ〝落ちる〟ことで急速に移動し、その前に立ちはだかった。ミレディは、愛子と生徒たちの前に立ち、迎撃態勢を取る。
本来なら、生徒達もそれなりに戦えるだけの実力は持っている。しかし、あの日のハジメと雫の奈落落ちによる〝死〟というものを実感した彼等の心にはトラウマが植え付けられていた。愛子について来たのも、勇者組のように迷宮最前線での戦闘は出来ないが、じっともしていられないという中途半端さの現れでもあったのである。
そのため、黒竜に自分達の魔法が効かず、殺意マシマシ怒りカタメの咆哮を浴びせられ、すっかり心が萎縮しており、とても、戦える精神状態ではなかった。
黒竜は、空中に飛び上がり、未だ、ユエが構築した水の防壁の向こうにいるウィルを狙って防壁の破壊に集中している。しかし、火炎弾では、防壁を突破できないと悟ったのか再び仰け反り、口元に魔力を集束し始めた。
「させるわけないでしょ!」
しかし、その顔面に跳躍で飛んできたのか、荒ぶる鷹のポーズのような姿の雫が躍り出た。その両手には閻魔刀と閻魔が片方ずつ握られている。それを一気に振り下ろし、交差させるように斬りつける。名づけるなら〝クロススラッシュ〟と言ったところか。
それを頭から食らい、頭を下に下げ、ブレスを真下に放つ黒竜。おまけに、頭に衝撃を受けたことから平衡感覚を失い、地面に衝突する。それでもなお態勢を直し、ホバーのような低空飛行でウィルに突撃した。ブレスが効かないと判断し、特攻して直接近接攻撃をする気なのだろう。
だが、そこに一人の男が立ちはだかる。ハジメだ。
「フッ、ここまで無視されんのは初めてだなぁ。もっと遊んでくれよ?」
そう言うと、すかさず腕にバルログを装着して構えるハジメ。だが、黒竜はそんなことは気にもしないのか、そのまま突撃してきた。
ハジメは黒竜の頭を掴み、足を力を入れて止めようとする。その結果、二筋の跡が残り、砂埃が舞い上がる。黒竜は、頭にいるハジメを煩わしく思ったのか、口を開き魔力を溜めていく。それに気づいたハジメは「マズッ!?」と叫んで黒竜の顎を蹴り上げ、黒竜のブレスを空に放ちながら、顎を蹴られた衝撃で地面に落ちる。
「あぶねぇだろうがッ!」
ハジメは、そんな黒竜の頭を持ち直し、ハンマー投げの要領で回し始め、空中に放り投げる。そのまま、イグニッションが発動して赤く燃える拳を引き、溜めるように構える。空中に投げられた黒竜がきりもみ回転しながらハジメ向けて落下してくるが、それでもなお溜めることをやめない。
「
二回の紅い閃光が放たれた瞬間、ハジメは拳を上に向け、回転しながら空中に飛びあがる。
「
ハジメの拳は、綺麗に黒竜の顎に一撃を入れ、頭部の鱗から砕け散っていく。
すると…
〝ああああああああっなのじゃああああーーーーー!!! 〟
くわっと目を見開いた黒竜が悲痛な絶叫を上げて放物線を描いて川に突っ込んでいった。
………………………………どうやら、ただの竜退治とはいかないようである。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
その一方で、ハジメたちが死闘を繰り広げる頃、その戦闘を見ている、否、観察している者がいた。
「ふ~む…やはり、あの戦い方。あの口調……まさか、この世界に来ていたとはな………
──────ダンテ」