ありふれた悪魔狩人《DEVILHUNTER》で世界最強 作:ヴェルザ・ダ・ノヴァ
それと、変に新作だしたのも原因あるかも……
ということで、どうぞ。」
北の山脈地帯の中腹、薙ぎ倒された木々と荒れ果てた川原で、黒竜を吹き飛ばした雫たちは盛大に混乱していた。
「今のって、あの竜の声よね?」
「で、ですよね?」
雫とシアは、今の声のことを考えていた。
先ほどの黒竜の声。声質は女だ。直接声を出しているわけではなく、広域版の念話の様に響いている。竜の声帯と口内では人間の言葉など話せないから、空気の振動以外の方法で伝達しているのは間違いない。
だが、そもそも人の言葉を話せる魔物自体が有り得ないのだ。現在、言葉を話す魔物は一種類だけである。その例外以外の言葉を発する魔物は存在しないはずだ。
更に言えば、あの黒竜自体が異様なのだ。ハジメのドンナー&シュラークに、優花のサブマシンガンの弾を喰らい、雫の閻魔刀で頭を斬られて尚、傷をつけるだけで鱗自体は砕けず、砕けたのはバルログの一撃だけ。逆に同等以上のブレスを吐けるような強力な魔物が、こんな場所にいるはずない。もし生息していたなら、その危険性故に広く周知されているはずだ。
故に、ここで推測出来る可能性となれば二つだろう。この黒竜が、五つ目の山脈地帯よりも向こう側の完全に未知の魔物である可能性。そして、もう一つは……
「とりあえず──」
「……ハジメ?」
ユエが訝しげにハジメの名を呟く。そのハジメは、滝壺に近づいてプカプカ浮いている布を掴み、一気に引き上げた。女性の首の付け根の布を持っているため、絵面が少しマズい。
「コイツから話を聞くか」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
こうして、女性は救出された後、尋問されていた。
「で、アンタは竜人族でいいのか?」
「い、いかにも。妾は誇り高き竜人族クラルス族の一人。名はティオ・クラルスじゃ。偉いんじゃぞ? 凄いんじゃぞ?」
「ホントに偉いヤツァ、そんなこと言わねえだろ」
どうやらこのティオという女性、本当に竜人族の様である。ハジメは、内心自分の〝縁〟というものに呆れた。この七年で〝レアな存在〟を見まくってきたことに対して。
なにせ、一年目は悪魔数十種類。二年目はゾンビ、幽霊。三年目にミノタウロス、ダークエルフ、ハーピー。四年目に狼人間、吸血鬼(理性無し)。そして、この五年目にして、三百年前の戦争で滅びたはずの吸血鬼族のお姫様に、〝先祖返り(推定)〟の怪力擬人ウサギ、眼前には五百年以上前に滅びたはずの竜人族である。
おまけに、そんなこと考えている本人は悪魔である。なかなか無い運命だ。
「……なぜ、こんなところに?」
ハジメが遠い場所を見ている間に、ユエがティオに質問をする。ユエにとっても竜人族は伝説の生き物だ。自分と同じ絶滅したはずの種族の生き残りとなれば、興味を惹かれるのだろう。瞳に好奇の光が宿っている。
ティオの話では、ある目的のために竜人族の隠れ里を飛び出して来たらしい。その目的が、異世界からの来訪者の調査である。詳細は省かれたが、竜人族の中には魔力感知に優れた者がおり、数ヶ月前に大魔力の放出と何かがこの世界にやって来たことを感知したらしい。
竜人族は表立った行動はしない、関わらないという種族の掟があるのだが、流石に、未知の来訪者の情報が何もないまま放置するのは、自分達にとっても不味いのではないか? という議論の末、調査が決定されたそうだ。
その調査の目的で、彼女は集落から出てきたらしい。本来は、山脈を越えた後、人型で市井に紛れ込み、竜人族であることを秘匿して情報収集を行う予定だったが、その前に一度しっかり休息をと思い、この一つ目の山脈と二つ目の山脈の中間辺りで休憩したようだ。当然、周囲には魔物もいるので竜人族の代名詞たる固有魔法〝竜化〟により黒竜状態で。
と、睡眠状態に入ったティオの前に一人の男が現れた。その男は、眠っているティオに洗脳や暗示などの闇系魔法を多用して徐々にその思考と精神を蝕んでいった。
当然、そんな事をされれば起きて反撃するのが普通だ。だが、竜人族は竜化して眠ると満足しない限り起きないという悪癖があるのだ。それこそよほどの衝撃が無い限り。だが、竜人族は精神力も強靭なタフネスを誇る故、そう簡単に操られたりはしない。
では、なぜ、ああも完璧に操られたのか。それは……
「恐ろしい男じゃった。闇系統の魔法に関しては天才という言葉では足りんじゃろう。妾を半日で洗脳したのじゃからな。流石に耐えられんかった……」
一生の不覚! と言った感じで悲痛そうな声を上げるティオ。しかし、ハジメは呆れた目でツッコミを入れる。
「つまり、調査に来たのに魔法が掛けられている事が分からないくらい寝てたってことか?」
全員の目が、バカを見る目になる。ティオは視線を明後日の方向に向け、何事もなかったように話を続けた。尚、彼女がなぜ洗脳に半日かかったことを知っているのかというと、洗脳が完了した後も意識自体はあるし記憶も残るところ、本人が「ふむ。半日か。まだ力が戻らんな」と愚痴を零していたからだ。
その後、男の命令で、二つ目の山脈以降で魔物の洗脳を手伝わされていたという。そして、ある日、一つ目の山脈へ移動させていたブルタールの集団が、山に調査依頼で訪れていたウィル達と遭遇し、目撃者は抹殺せよという命令を受けていたため、これを追いかけた。うち一匹が男に報告に向かい、万一、自分が魔物を洗脳して数を集めていると知られるのは不味いと万全を期して黒竜を差し向けたらしい。
で、気付いたら全身傷だらけでハジメにアッパーされていたとのことだ。正気に戻れたのは、この一撃のおかげらしい。
「……ふざけるな」
事情説明を終えたティオに、激情を必死に押し殺したような震える声が発せられた。皆が、その人物に目を向ける。拳を握り締め、怒りを宿した瞳で黒竜を睨んでいるのはウィルだった。
「……操られていたから…ゲイルさんを、ナバルさんを、レントさんを、ワスリーさんをクルトさんを! 殺したのは仕方ないとでも言うつもりかっ!」
どうやら、状況的に余裕が出来たせいか冒険者達を殺されたことへの怒りが湧き上がったらしい。激昂して怒声を上げる。
それを、ティオは受け止めるように沈黙している。その態度が気に食わないのか、さらに怒声を上げるウィル。
「大体、今の話だって、本当かどうかなんてわからないだろう! 大方、死にたくなくて適当にでっち上げたに決まってる!」
「……それは違う」
「っ、一体何の根拠があってそんな事を……」
食ってかかるウィルを一瞥すると、ユエは黒竜を見つめながらぽつぽつと語る。
「……竜人族は高潔で清廉。私は皆よりずっと昔を生きた。竜人族の伝説も、より身近なもの。彼女は〝己の誇りにかけて〟と言った。なら、きっと嘘じゃない。それに……嘘つきの目がどういうものか私はよく知っている」
ユエは、ほんの少しティオから目を逸らして遠くを見る目をした。その見ている先には、三百年前の出来事が映し出されているのだろう。
「ふむ、この時代にも竜人族のあり方を知るものが未だいたとは…。いや、昔と言ったかの?」
「…ん。私は、吸血鬼族の生き残り。三百年前は、よく王族のあり方の見本に竜人族の話を聞かされた」
「何と、吸血鬼族の…。しかも三百年とは…。なるほど死んだと聞いていたが、主がかつての吸血姫か。確か名は…」
「…今はユエと名乗ってる。大切な人に貰った大切な名前だから、そっちを使ってくれると、今は嬉しい」
ユエの納得のいく説明にハジメが同意する。
「まぁ、確かに。それに、嘘をついてるヤツの目は、ここまで綺麗に光らねぇしな」
裏社会に五年も身を置いていたハジメには、人の感情を読むなんてことは児戯に等しいのだ。それは、雫や優花も同じだろう。二人の言葉にウィルも気勢を削がれてしまう。
「……それでも、殺した事に変わりないじゃないですか……ゲイルさんなんて、この仕事が終わったらプロポーズするんだって……彼らの無念はどうすれば……」
頭では納得しても、心が納得しない。ウィルの悔しい気持ちが心を渦巻く。そこで、雫は何かを思い出したのか、ハジメのポケットからロケットペンダントを取り出す。
「もしかして、これってゲイルさんの持ち物かしら?」
そう言って、ロケットをウィルに見せる。ウィルは、それをマジマジと見つめ嬉しそうに相好を崩す。
「これ、僕のロケットじゃないですか! 失くしたと思ってたんですが、拾ってくれてたんですね。ありがとうございます!」
「あれ? 貴方の?」
「はい、ママの写真が入っているので間違いありません!」
「マ、ママ?」
予想が見事に外れた挙句、斜め上を行く答えが返ってきて思わず目が点になる雫。
写真の女性は二十代前半と言ったところなので、それはなぜか聞くと、「せっかくのママの写真なのですから若い頃の一番写りのいいものがいいじゃないですか」と、まるで自然の摂理を説くが如く素で答えられた。その場の全員が「ああ、マザコンか」と物凄く微妙な表情をした。女性陣はドン引きしていたが……
んでもって、ゲイルのお相手だが、〝男〟だそうだ。そして、ゲイルのフルネームはゲイル・ホモルカというそうだ。
母親の写真が戻ってきたせいか、冷静になったウィル。だが、そうは言っても、恨み辛みが消えたわけではない。ウィルは、今度は冷静に、黒竜を殺すべきだと主張した。また操られたら脅威だというのだが、建前なのは見え透いている。心の中では九割は復讐だろう。
そんな中、ティオが懺悔するようにこう告げた。
「操られていたとはいえ、妾が罪なき人々の尊き命を摘み取ってしまったのは事実。償えというなら、大人しく裁きを受けよう。だが、それには今しばらく猶予をくれまいか。せめて、あの危険な男を止めるまで。あの男は、魔物の大群を作ろうとしておる。竜人族は大陸の運命に干渉せぬと掟を立てたが、今回は妾の責任もある。放置はできんのじゃ……勝手は重々承知しておる。だが、どうかこの場は見逃してくれんか」
なんでも、ティオを洗脳した男は、魔物を洗脳して大群を作り出し町を襲う気のようだ。その数は、既に三千から四千に届く程の数だという。何でも、二つ目の山脈の向こう側から、魔物の群れの主にのみ洗脳を施すことで、効率よく群れを配下に置いているのだとか。
魔物を操ると言えば、一番に思いつくのはハジメ達が召喚された建前となった魔人族の力だが、その推測はティオによって否定された。何でもその男の見た目は、禿頭で左右で目の色が違うオッドアイだそうだ。ティオを配下にして浮かれていたのか、仕切りに「これで、あの男への復讐が一歩進む……!」と口にし、何者かに対して恨みがありそうだ。
幸利の情報はウィルを救った後、行方知らずのため手掛かりが途絶えてガックリと項垂れる愛子達。
そこでハジメが突如、遠くを見る目をして「こいつぁ、面倒な事になりそうだ……」などと呟きを漏らした。どうやら、ティオの話を聞いてから、オルニスを使って魔物の群れを探していたらしい。
そして、遂に無人探査機の一機がとある場所に集合する魔物の大群を発見した。その数は……
「こりゃあ、三、四千のレベルじゃねえな。桁一つ追加だ。そこに同じ量の悪魔の大群だ。レッドグレイヴを思い出すぜ(おまけに、超面倒なのが走り回ってやがるな)」
ハジメの報告に全員が目を見開く。おまけに、どうやら既に進軍を開始しているようだ。方角は間違いなくウルの町がある方向。このまま行けば、半日もしない内に山を下り、一日あれば町に到達するだろう。
それとは別に、ハジメは言わなかったが、群れの中には
「は、早く町に知らせないと! 避難させて、王都から救援を呼んで……それから、それから……」
突然の出来事に脳内処理機能がオーバーフローして目を回す愛子。おまけに、護衛隊の皆はベヒモスの恐怖を思い出したのか、青ざめている。
こんな状態の愛子達に、先ほどの戦いで魔力が枯渇したらしいティオ。おまけに、ただのお荷物なウィルがいては、戦闘など、出来る筈もない。なので、愛子の言う通り、一刻も早く町に知らせて、王都から救援が来るまで逃げ延びるのが最善だ。
と、皆が動揺している中、ふとウィルが呟くように尋ねた。
「あの、ハジメ殿なら何とか出来るのでは……」
その言葉で、全員が一斉にハジメの方を見る。その瞳は、もしかしたらという期待の色に染まっていた。
「ああ、なんとかはできる」
「ッ! じゃあ!」
「だが、こんな起伏の激しい場所で保護対象連れて戦争おっぱじめるなんざ、こっちが不利過ぎる。いったんウルの街に戻るぞ。で、その後に住人逃がして、あそこの近くの平原で戦う。その方が楽だ」
ハジメの言葉に押し黙る一同。後押しするようにティオが言葉を投げかけた。
「まぁ、ご主じ……コホンッ、彼の言う通りじゃな。妾も魔力が枯渇している以上、何とかしたくても何もできん。まずは町に危急を知らせるのが最優先じゃろ。妾も一日あれば、だいぶ回復するはずじゃしの」
若干、ハジメに対して変な呼び方をしそうになっていた気がするが……気のせいだろう。
愛子は、確かに、それが最善だと清水への心配は一時的に押さえ込んで、まずは町への知らせと、今、傍にいる生徒達の安全の確保を優先することにした。
ティオが、魔力枯渇で動けないのでハジメが背負って歩いて行く。実は、誰がティオを背負っていくかと言うことで男子達が壮絶な火花を散らしたのだが、それは女子達によって却下され、ティオ本人の希望もあり、何故かハジメが運ぶことになった。
それで、普段から女子女性に優しいハジメは、ティオを背負って下山となった。
一行は、背後に大群という暗雲を背負い、急ぎウルの町に戻る。