ありふれた悪魔狩人《DEVILHUNTER》で世界最強   作:ヴェルザ・ダ・ノヴァ

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ティオはノーマルにすると言ったな。

アレは嘘だ。


開戦準備

 あの後、ハジメ達は猛スピードで帰り道を爆走し、山脈の麓からウルの町まで戻ってきた。戻ってくる際、デビッドたち騎士連中に遭遇したが、ハジメが無視して町まで走ってきたのだ。愛子が怒ったのは言うまでもない。

 

 ウルの町に着き、町役場にて「魔物の大群が押し寄せてくる」という言葉に、重役たちは皆一様に、信じられない、信じたくないといった様相で、その原因たる情報をもたらした愛子達やウィルに掴みかからんばかりの勢いで問い詰めている。

 

 実際、明日にも町が滅びますと言われても狂人の戯言と切って捨てられるだろう。が、"神の使徒"にして"豊穣の女神"たる愛子の言葉である。そして最近、魔人族が魔物を操るというのは公然の事実であることからも、無視などできようはずもなかった。

 

 しかし、ここである者たちが名乗りを上げた。ハジメ達である。自分達なら魔物の大群から町を守れると説明し、愛子の生徒という点から信用を勝ち取ったのだ。

 

 そうして現在、ウルの町には昨夜までは存在しなかった〝外壁〟に囲まれて、異様な雰囲気に包まれていた。

 

 この〝外壁〟はハジメがキャバリエーレで〝外壁〟を町の外周を走行して即席錬成で作成したのである。

 

 壁の高さはそれほど高くはなく、大型の魔物なら、よじ登ることは容易だろう。一応、万一に備えてないよりはマシだろう程度の気持ちで作成したので問題はない。そもそも、壁に取り付かせるつもりなどハジメにはないのだから。

 

 町の住人達には、既に数万単位の魔物の大群が迫っている事が伝えられている。魔物の移動速度を考えると、昼過ぎくらいには先陣が到着するだろうと。

 

 当然、住人はパニックになった。町長を始めとする町の顔役たちに罵詈雑言を浴びせる者、泣いて崩れ落ちる者、隣にいる者と抱きしめ合う者、我先にと逃げ出そうとした者同士でぶつかり、罵り合って喧嘩を始める者。明日には故郷が滅び、留まれば自分達の命も奪われると知って冷静でいられるものなどそうはいない。彼等の行動も仕方のないことだ。

 

 だが、そんな彼等に心を取り戻させた者がいる。〝豊穣の女神〟愛子だ。ようやく町に戻り、事情説明を受けた護衛騎士達を従えて、高台から声を張り上げるその姿は、恐れるものなどないと言わんばかりの凛としており、元から高かった知名度により、人々は一先ずの冷静さを取り戻した。

 

 畑山愛子、ある意味、勇者より勇者をしている。

 

 冷静さを取り戻した人々に町長が今から逃げても魔物に捕捉される事、愛子の教え子であるハジメが魔物を殲滅すると説明した。無論住民達は最初は信じなかったものの、王城のそれよりも立派で頑丈そうな外壁を短時間で作り上げ、涼しい顔で次の作業に移るハジメを見て、勝てると確信したのだ。

 

 現在は、日も高く上がり、せっせと戦いの準備をしている者と仮眠をとっている者とに分かれている。居残り組の多くは、〝豊穣の女神〟一行が何とかしてくれると信じてはいるが、それでも、自分達の町は自分達で守るのだ! 出来ることをするのだ! という気概に満ちていた。

 

 一方のハジメ達はというと、外壁の上に座り込んで装備のチェックを行っていた。その中には、優花もいる

 

 なんでも、

 

「この稼ぎ時に逃げるわけないでしょ? 私が倒した魔物の素材は私が貰うわよ!」

 

 と息巻いていた。なんとも商売根性逞しいことである。

 

 そこに愛子達がやってきた。愛子達の接近に気がついたハジメが、若干体を向ける。

 

「どうした? 先生。なんか問題か?」

「いえ、何か、必要なものはあるかと思いまして」

「ああ。それなら、問題ないぞ」

 

 飄々と簡潔に答えるハジメ。その態度に我慢しきれなかったようでデビッドが食ってかかる。

 

「おい、貴様。愛子が…自分の恩師が声をかけているというのに何だその態度は。本来なら、貴様の持つアーティファクト類の事や、大群を撃退する方法についても詳細を聞かねばならんところを見逃してやっているのは、愛子が頼み込んできたからだぞ? 少しは……」

「デビッドさん。少し静かにしていてもらえますか?」

「うっ……承知した……」

 

 しかし、愛子に〝黙れ〟と言われるとシュンとした様子で口を閉じる。その姿は、まるで犬だ。亜人族でもないのに、犬耳と犬尻尾が幻視できる。今は、飼い主に怒られてシュンと垂れ下がっているようだ。

 

「先生達がここにいても仕方ないだろし、避難誘導に行って構わないぞ?」

「わかりました……君をここに立たせてる先生が言う事ではないかもしれませんが……どうか無事で……」

 

 ハジメは愛子のその言葉に「心配することなんざねぇよ。安心しな」と背中越しに告げた。その言葉には、絶対的な自信が含まれている。

 

 その言葉に愛子達は頷いて、その場を去ろうとした。

 

「あ! 愛ちゃん先生はちょっと残ってくれない?」

「へ? なんですか? 園部さん」

「ちょっと仕事があるんだけど……」

 

 だが、武器の調整を終えた優花が立ち上がり引き留めた。デビッドたちも残ろうとするが、優花に「邪魔だから仕事行って」と言われて、不満気に避難誘導をしに行った。一方で、優花は愛子を連れて陰に隠れてコソコソと話をしている。

 

「一体何をしてるんだ?」とハジメ達が思っていると、そこに今度は、ティオが前に進み出てハジメに声をかけた。

 

「ふむ、よいかな。妾もご主……ゴホンッ! お主に話が……というより頼みがあるのじゃが、聞いてもらえるかの?」

「なんだ? 言ってみろ」

「えっとじゃな、お主は、この戦いが終わったらウィル坊を送り届けて、また旅に出るのじゃろ?」

「ああ、そうだ」

「うむ、頼みというのはそれでな……妾も同行させてほし…」

「断る」

 

 ティオのお願いを断るハジメ。普段は女に優しいハジメにしては意外な返事だったため、雫達は「なぜ?」と疑問顔だ。

 

 しかし、「なぜ!?」と叫ぶどころかむしろ、頬を染めている。雫達は今度はそっちに疑問顔だ。

 

「よ、予想通りの即答。流石、ご主……コホンッ! もちろん、タダでとは言わんぞ? これよりお主を〝ご主人様〟と呼び、妾の全てを捧げよう! 身も心も全てじゃ! どうzy」

「却下だ! ってか、帰れ!」

 

 両手を広げ、恍惚の表情でハジメの奴隷宣言をするティオに、ハジメの性格がダンテからネロに移行し、全力で拒否しバッサリ切る。それにまた興奮したように体を震わせるティオ。頬が薔薇色に染まっている。どこからどう見ても変態だった。雫達もドン引きしている。

 

 特に、竜人族に強い憧れと敬意を持っていたユエの表情は、全ての感情が抜け落ちたような能面顔になっている。

 

 それは、ミレディも同じようで、「ヴァンちゃん、未来は残酷だったよ…」と、遠い目をして合唱していた。

 

「た、頼むのじゃ! あの頭にガツンとくる衝撃! アレ無しでは妾はもう生きていけんのじゃ!」

「……つまり、ハジメが新しい扉を開いちゃった?」

「その通りじゃ! 妾の体はもう、ご主人様なしではダメなのじゃ!」

「…冗談だろ?」

「「「……うわぁ…」」」

 

 ユエが、嫌なものを見たと表情を歪ませながら、既に尊敬の欠片もない声音で要約すると、ティオが同意の声を張り上げる。思わず、ドン引きしながら本音を口走った。雫達もドン引きしている。

 

「それにのう、妾は自分より強い男しか伴侶として認めないと決めておったのじゃ……じゃが、里にはそんな相手おらんしの……初めて敗北したのがご主人様なのじゃ。あの強さに惹かれぬものなどおるまい…じゃからご主人様よ。責任とって欲しいのじゃ」

 

 ティオの話を聞いたハジメは長い、それはもう長い溜息を吐いたのち、呟いた。

 

「……好きにしろ」

「お? おぉ~、そうかそうか! うむ、では、これから宜しく頼むぞ、妾のことはティオで良いからの! ふふふ、楽しい旅になりそうじゃ……」

 

 ティオの一件を片付けると同時に優花と愛子が戻ってきた。どうやら、ティオ関連の話は聞かれていないようである。

 

 そして、遂にそれは来た。

 

「……お客様の、ご来店だっ」

 

 ハジメが突然、立ち上がりながらそう言い、北の山脈地帯の方角へ視線を向ける。肉眼で捉えられる位置にはまだ来ていないが、ハジメの嗅覚で位置は把握できたいた。

 

 それは、大地を埋め尽くす魔物悪魔混合の大群である。ブルタールのような人型の魔物の他に、体長三、四メートルはありそうな黒い狼型の魔物、足が六本生えているトカゲ型の魔物、背中に剣山を生やしたパイソン型の魔物、四本の鎌をもったカマキリ型の魔物、体のいたるところから無数の触手を生やした巨大な蜘蛛型の魔物、二本角を生やした真っ白な大蛇など実にバリエーション豊かな魔物がいる。

 

 さらには、ヘルカイナやヘルアンテノラ、ライオット、ケイオス、ベヒモス、スクードアンジェロなどの悪魔も含める十二万程の大群が、大地を鳴動させ土埃を巻き上げながら猛烈な勢いで進軍している。

 

 更に、大群の上空には飛行型の魔物もいる。敢えて例えるならプテラノドンだろうか。何十体というプテラノドンモドキと共に、ヘルバットやデスシザースなども浮いていた。

 

 しかし、一際目を引くのはその大群の後ろにいる巨大な馬車だろう。巨大な戦闘用の装甲馬車と蒼く燃える巨馬。かつて、巨大な重武装戦車を牽いて戦場を駆け抜けた名馬が、死後、魔界の瘴気にあてられた事で悪魔化した存在だ。

 

 その姿を見て、おもむろに優花が口を開いた。

 

「……ゲリュオン? アレってダンテが狩りつくしたんじゃ…」

「まぁ、魔界は広いからなぁ。どっかに隠れてたんだろ。レッドグレイブのもエルダーゲリュオンがいたらしいからな。しっかし、厄介だなぁ…」

「何が厄介なんですか? ハジメさん」

 

 ゲリュオンの能力を知らない雫達の疑問をシアが代表して尋ねる。それに優花が説明した。

 

 ゲリュオンは、己の体の時を進めて早く動かしたり、逆に自分以外の周りの時間を遅くしたりなどの時間操作の能力がある。

 

 当初の予定では、高台から遠距離でライフル弾やらロケット弾やらガトリング砲をぶっ放すつもりだったが、ゲリュオンの時間操作がある限り、着弾する前に時を止められ無効化されるだろう。

 

「そこで、俺がキャバリエーレでゲリュオンのとこまで行って、奴を惹きつけ殺す。その間に、外壁の上からぶっ放せ」

「「「分かった(わ)」」」

「了解です!」

「心得たのじゃ」

 

 雫達が一同に頷くと、ハジメは無言で魔晶石の指輪をティオに投げてよこした。疑問顔のティオだったが、それが神結晶を加工した魔力タンクと理解すると大きく目を見開き、ハジメに震える声と潤む瞳を向けた。

 

「ご主人様……戦いの前にプロポーズとは……妾、もちろん、返事は……」

「ちげぇよ。貸してやるから、ご自慢の力を振るってくれて意味だ。あとで絶対に返せよ。……ってか今の、誰かさんとボケが被ってなかったか?」

「「……なるほど、これが黒歴史」」

 

 思考パターンが変態と同じであることに嫌そうな顔で肩を落とす雫とユエ。ハジメの否定を華麗にスルーして指輪をニヨニヨしながら眺めるティオを極力無視し、キャバリエーレを出現させる。

 

 右にはユエとミレディが、左にはハジメが貸与えたオルカンを担ぐシアと同じく貸与えたメツェライを構える雫がいる。更にその隣には、魔晶石の指輪をうっとり見つめるティオが並び立った。地平線には、一心不乱に突っ込んでくる魔物達が視界を埋め尽くしている。

 

 ハジメは不敵に笑いながら、その大群に向けて、そして、仲間たちに向けて開戦を宣言した。

 

It ’s the beginning(最っ高にイカした) of the most crazy party!!!(パーティーの始まりだ!!!)




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