ありふれた悪魔狩人《DEVILHUNTER》で世界最強 作:ヴェルザ・ダ・ノヴァ
次話が出来上がるか、1週間ほどしたら場所を移しますのでよろしくお願いします
ガシャァンッというガラスの割れる音と共に窓の外へと投げ出されたジェイドは、腹部に己が今まで多用してきた刀“吠舞羅”が突き刺さったまま地面へ向けて落下していた。
ジェイドの脳裏には泣き顔のニアと勝ち誇ったかのような笑みを浮かべたエドガーの顔が焼き付いていた。
ジェイドは、否、檜山大介は、苦痛と怒りに顔を歪ませる。空間魔法を手に入れ、ベオウルフに勝ち、それでもエドガーには届かなかった。その力の無さが大介の怒りの炎を強くする。
そして、地面に激突し、意識を手放した。
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「ッ…ここは…!」
ジェイドが意識を取り戻すと、周りの風景はアンカジ公国の街並みから一変していた。
周囲にはまばらに木々が生え、足元には砂混じりの草原が広がっている。そして、そんな林の中には木製のバリケードが残されており、その内側には畑の跡やいくつかの廃屋があった。
痕跡を見る限り、ここは元々、村だったようだが、放棄されたようで辺りに人の気配は無く、静寂がこの村跡を支配していた。
だが、その静寂はカシャッカシャッという金属が擦れる音と共に消え去り、建物の影や中から6人の大盾を左腕に持った騎士がロングソードを構えて隊列を組み、ジェイドの前へと出てきた。
すると、隊列中央の地面から闇のオーラが溢れ出し、そこから大剣を持ち、マントを羽織った騎士が現れる。
マントを羽織った騎士は周囲の大盾の騎士のリーダー格のようで、大盾の騎士たちは追従するかのように隊列を組み直している。
大盾の騎士たちの名は、“スクードアンジェロ”。そして、大剣の騎士の名は“プロトアンジェロ”。どちらも、同じ悪魔である。
「貴様らは…そうかここは…!」
そして、ジェイドはこの村とプロトアンジェロの集団に見覚えがあった。
ジェイドが王都から乗合馬車でグリューエン砂漠を目指したが、途中までしか進まない馬車しか出ておらず、そこから徒歩で向かっていた時に偶然見つけたのがこの廃村であり、その廃村で戦闘したのが目の前の騎士の集団である。
ここは、ジェイドの心の中であった。
ジェイドがそのことを思い出していると、その横を一人の青年が歩いて出てきた。
それは、まだ悪魔の力を宿していない純粋な人間の頃の大介であった。
これは、ジェイドが過去に経験した記憶なのである。
大介は怯えて足を震わせながらも吠舞羅を抜き、恐怖を打ち消すかの如く雄叫びをあげてプロトアンジェロへと斬りかかる。
だが、1体のスクードアンジェロが前へと出て大盾で防ぎ、そのまま左へと盾を振ってシールドバッシュで大介を攻撃して吹き飛ばす。
「ぐあぁっ!」
大介はそのまま地面へと転がり込むが、反撃とばかりに斬り込むがその度にスクードアンジェロたちに盾で躱され、剣で身体を斬られていた。
全身に切り傷を作りながらもがむしゃらに攻撃をする大介。それは、強くならなければならないという強迫観念か、はたまた敵への恐怖を否定するための蛮勇か。
そして、プロトアンジェロが動き出した。スクードアンジェロたちを待機させ、大剣の腹を前へと構えて大介へと突進する。
大介は、プロトアンジェロの突進攻撃を回避することができず受けてしまう。
さらにプロトアンジェロは突進して生じた荷重を上手く移動させ、大剣を上段へと構えて一気に振り下ろし、大介の胴体を肩から斜め斬りでバッサリと斬り捨てた。
プロトアンジェロによって斬られた大介は、数メートルほど吹き飛ばされ、地面へと転がり、その衝撃によって吠舞羅が手から離れてしまった。
大介は、武器を失い、迫りくるスクードアンジェロの集団とプロトアンジェロを前に恐怖し、背を向けて逃げ出した。
だが、プロトアンジェロの号令によって1体のスクードアンジェロが急速に迫り、大介の背中へ剣を突き刺し貫通させ地面へと倒れ込んでしまう。
そこへ、残りのスクードアンジェロ5体が殺到し、次々に倒れ込んでいる大介の背中へと剣を突き刺した。
「………だ…れか…!…た…す…けて…!」
大介は、無意識に口を動かして助けを求めるも周囲に人影すらはなく、いるのは大介を殺そうと迫りくるスクードアンジェロの集団とプロトアンジェロのみである。
大介は無数の剣に刺し貫かれ、苦悶の表情を浮かべながら自問し始める。
なぜ、自分がこんな目に遭わなくてはならないのか。
なぜ、痛くて苦しい思いをしているのか。
その二つの考えによって思考は歪んでいき、目は濁り、頭の中が白濁となっていきながら、身体は逃走を図り剣で刺し貫かれた身体を地面に引きずりながら這いずって進んでいく。
思考が白濁としながら自問していくうちに、頭の中に一つの情景が浮かび上がる。
それは、いつか夢で見た王都が焼け野原になるあの惨劇である。
“なぜ、自分がこんな目に遭わなくてはならない”?己が殺したからであろう。
“なぜ、痛くて苦しい思いをしている”?己が弱いからであろう。
力無くして何ができようか?志だけで戦えるのなら誰もが戦士足り得るだろうが、世界はそこまでお人好しではない。
そう悟った大介の思考は急に鮮明になり、先ほどまで濁っていた目に光が宿り直す。
その目で前を見れば、先ほど手から飛んでいった吠舞羅が目の前に転がっていた。
いつの間にか、刀が飛ばされた場所まで這っていたのである。
大介は、左手に力を入れて身体を少し起こして右手で吠舞羅の柄を握り込む。すると、掴んだ吠舞羅から魔力が大介の身体へと流れ出し、大介の身体へ流れ溢れた魔力が漏れ出して突風を巻き起こし、稲妻となって周囲を焦がした。
事の発端は、先ほどプロトアンジェロに斬り捨てられた瞬間にある。大介の身体にはプロトアンジェロの剣から悪魔の因子のようなものが入り込んでいたのである。
その因子が大介の感情に呼応し身体に順応を始めていた。
そして、吠舞羅もまた悪魔の力に反応し、力が増幅されていく。その増幅されたエネルギーが、大介へと流れ込んでいるのだ。
「ぐぁぁ!うぁァァァァアアアアアア!!!」
大介の身体と悪魔の力が混じり合い、さらに、吠舞羅が反応して荒れ狂った力に耐えられず、大介は膝立ちで丸くなりながら雄叫びとも悲鳴ともつかない叫びを上げ続ける。
少し経つと、大介の身体に変化が生じ始めた。黒髪が脱色し始めて白銀のような銀髪となり、目は紅蓮のような紅に染まっていく。
手足が伸び、筋肉や骨格が徐々に太くなっていき、戦闘に適した身体へと作り替えられていく。
プロトアンジェロは突然の出来事に警戒を強めているのか、盾を構えたスクードアンジェロの集団の後方に位置し、様子を伺っている。
しばらくすると、大介は脱力したように手を下げ、身体から漏れ出ていた風が止み、稲妻が消えていった。
スクードアンジェロたちは、警戒して盾を構えながら少しずつ前進していくと、突如として大介が振り返り、同時に半透明の風のような斬撃がスクードアンジェロたちの元へと飛んでいき、盾を構えていたスクードアンジェロたちをノックバックさせ吹き飛ばす。
大介が抜刀居合の要領で刀を振るいながら振り向き、飛ぶ斬撃を放っていたのだ。
片膝立ちで残心をしていた状態から立ち上がり、刀を片手持ちで構えながらプロトアンジェロたちに向き直る。
眉間に皺を寄せて睨みつけ、全身から凄まじいまでの威圧を放ちながら佇む大介。
もはや、今の檜山大介は今までとは格が違っていた。
大介は両足に力を込めて前進する。悪魔の力で上昇した筋力によりスクードアンジェロとの間合いを一瞬で詰め、そのまま大介は吠舞羅を上段から振り下ろす。
スクードアンジェロは盾を構えるが、吠舞羅が盾に振り下ろされ、そのまま真っ二つに盾が切れてしまった。
盾が破壊されたスクードアンジェロは一瞬よろめき、その隙を大介は振り下ろした刀の刃を返して逆袈裟斬りを敢行。
スクードアンジェロは斜め真っ二つに斬られて倒れ伏した。
そこからは大介による蹂躙劇であった。
時には、スクードアンジェロの攻撃に合わせて吠舞羅を振るって弾き、流れるように斬撃を振るい斬り捨てる。
時には、スクードアンジェロの背後を取り、背中に無数の剣撃を放ち滅する。
スクードアンジェロの集団を斬り伏せていく大介へと、プロトアンジェロは身体を回転させ遠心力を大剣に乗せて振り下ろした。
大介は大剣を一瞥すると、振り下ろされるタイミングにジャストで吠舞羅を上げて弾き返した。
思わずたたらを踏むプロトアンジェロ、そこに大介は袈裟斬りし返す刃で斬り上げると、素早く吠舞羅を鞘に収め、居合抜刀の構えに姿勢を素早く変え、吠舞羅を振り抜くと無数の連続斬りを放つ。
縦、横、斜めと様々な角度から刃が迫り、プロトアンジェロは体勢を立て直すこともできずに斬られ倒れ伏した。
大介が気づいた時には、廃村は血の海に染まり、周りには死骸がゴロゴロと転がっていた。
大介も例外ではなく、己から出た出血と返り血を浴びて全身が赤黒く染まっている。
そんな大介がおもむろに振り向いてジェイドの方へと正対する。
すると、大介の全身から突然、蒼白いオーラが噴き出し、次の瞬間には見たことのない悪魔が立っていた。
銀色の体に腰辺りから生えた二対四枚の翼が生え、両腕からは噴き出す蒼炎がアームブレードの形をなしていた。そして、その身体は半透明の蒼いオーラで形作られている。
その悪魔は口を開け、ジェイドへと向けて静かに、されど力強く言葉を発した。
「力を…!もっと力を…!!!」
「………そんなこと、
ジェイドは相対した悪魔と目を合わせ、吠舞羅を悪魔の腹へと突き刺した。
「だから、力を寄越せ」
その言葉に悪魔は頷くと、吠舞羅を基点にジェイドの身体へと吸収されていき、身体に力が満ちていく。
吸収に伴い、蒼白の光が精神世界を一本の線すら残さずに塗りつぶし、血の海も、死骸の山も、あまねくすべてを過剰な光の濁流の中に消していく。その中心で、大介の魂に悪魔の力が融解した。
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ドガァァァァァンッ!!という音に伴って、アンカジの街の一部が土煙に包まれる。
黄土色の煙によって2m先すら見通すことが難しく、上空からは小石や砂がパラパラと降ってくる。
周囲にいた人々は突然の轟音と土煙の影響でパニックを引き起こしたが、程なくして土煙が晴れてきたことで事なきを得た。
次に住人たちは、今の土煙は何があったんだ、という発想に至り、野次馬根性で轟音の発生場所まで行くと、そこには深さ2m弱はあるクレーターが存在した。
そのクレーターの中には、両手両足を広げて大の字で倒れている青年がいた。青年の腹部には刃物が突き刺されており、全身と周囲にガラス片が飛び散っている。
周囲の人々は倒れた青年を助けようと近づこうとした次の瞬間、青年を中心に蒼白い光が迸り、魔力が衝撃波を伴って爆発したかのように周囲へと広がった。
クレーターの周りにいた人だかりが衝撃波によって後ろに倒れていき立てなくなる中で、クレーターに一番近かった故に宙を舞っている男が衝撃波に吹き飛ばされながらあるものを目にした。
それは、魔の力を目醒めさせた
人間の面影を残しながらも、全身が黒い鱗状の外殻に覆われ、頭部の角状の装甲や腰から足元まで垂れ下がったマントのような皮膜の翼を持ち、その手には、腹部に突き刺さっていたはずの刃物が握られていた。
悪魔は翼を広げ、上空へ向けてまっすぐ飛翔し、己が落ちたビルの中へと舞い戻っていく。
その光景を目にしていたエドガーは、驚愕を感じて慌てていた。
悪魔の力が目覚めず、少し身体能力が向上しているだけのモドキと思っていた存在が、力が覚醒したのか身体を悪魔の姿へと変貌させ、己の元へと再び現れたのである。
しかし、所詮は完全に悪魔にはなっていない半人半魔の半端者だと己に言い聞かせ、落ち着きを取り戻したエドガーは、悪魔化したジェイドへと向き直って挑発する。
「おや?まだやるのですか?先ほど私に腹を貫かれて落ちたことをお忘れのようで…」
嘲笑しながら言葉を発するエドガーに異変が生じ始める。
身体が膨張し始め、骨格も肉体も作り変わっているのかバキッ!ボガッ!という音を発しながら変貌していくエドガー。
「外見だけは悪魔らしくなったようですが、所詮は半端者。それで私に勝てるとお思いですかなぁ!?』
悪魔へと変貌したエドガーは、怒声を吐いてジェイドを睨みつける。
3メートルに達しそうな巨体に床につきそうなほどの筋骨隆々の長い手。額には捻れた角が2本生え、鬼を彷彿とさせる。身体からは黒に赤が混じったようなオーラを放ち、空気を震わせる。
だが、今のジェイドには目の前に存在する悪魔などに恐れも脅威も感じない。
『減らず口は済んだか…?』
ジェイドは、隅で転がっているニアの姿を見つめ、怒りを込めて言葉を発した。
ニアは軽くとはいえ、腹部に蹴りを入れられ、そのまま意識を手放したのかぐったりとした様子で床に倒れている。
成り行きで出会い、ほんの1週間にも満たない日々を共に過ごした少女に、ジェイドは父親とも兄とも取れる感情を抱いていた。
そんな大切な少女が、あろうことか目の前の悪魔に魂まで売り払った畜生に傷つけられた。
今、ジェイドの中に渦巻く感情は「怒り」。吹雪いて全てを凍らす氷河のような凄まじい怒りがエドガーへと向けられる。
『よくもニアをやってくれたな…この力、貴様で試してやる…!』
『ほざけえぇぇぇえ!!!』
ジェイドの格下を相手にするかのような物言いに激昂したエドガーは、拳を振り上げ打ち込んだ。
魔人化する以前には、完璧には避けられず二発目からのコンボで階下へと叩き落とした疾速の拳がジェイドへと迫り、周囲に粉塵を巻き上げた。
拳の威力にジェイドは耐えられまいと思考したエドガーは、勝利を確信したかのような笑みを浮かべる。
『どうした?やる気がないのか…?』
だが、エドガーの背後から聞こえてきた声に、エドガーの考えはあっさりと砕け散る。
エドガーが振り向けば、そこには無傷のジェイドが刀を持って佇んでいる。
『どうやって避けた…!?』
エドガーの疑問にジェイドは答えることなく、刀をエドガーへと構える。
ジェイドが攻撃を回避できた理由。その理由はジェイドの持つ刀にあった。
刀をよく見れば、その一振りは、先ほどまで所持していた吠舞羅とは形状の異なる別物となっている。
吠舞羅は、本来は炎と風の属性を扱う刀だったのだが、ジェイドが吠舞羅を刺された状態で覚醒へと至ったことで、吠舞羅を体内へと吸収し、分解と変質を経て生まれ変わったのだ。
その際、ジェイドがグリューエン大迷宮で会得した空間魔法が吠舞羅の再構築されていた時に組み込まれたのである。
言わば、閻魔刀の模造品を自作したような刀。それこそがジェイドが今携える一振り。名は、
この無裟斬の能力でエドガーの背後へと瞬間移動で回避した、というのがジェイドが一瞬にして移動したトリックの正体である。
だが、エドガーは瞬間移動したジェイドに戸惑い、動きが止まってしまう。
『ならば…こちらから行くぞ…!』
このチャンスを逃す筈もなく、ジェイドは超高速で駆け抜けながらの居合抜刀術“疾走居合”でエドガーへと肉薄した。
さらに、疾走居合でエドガーの背面へと走り抜けたジェイドは反転し、跳躍しながら切り上げる剣技“
『ぐぅッ!?調子に乗るんじゃありませんよぉ!!』
流石に意識が戻ったようで、エドガーは身体を捻ることで発生する遠心力を使って拳で周囲を駆け回るジェイドを振り払う
ジェイドは、バックステップで距離を取り、そこで魔人化が解除される。
「舐めるなッ!」
後退したジェイドは、空中に無裟斬の能力で空中の空間を剣の形へと生成した。
魔力の色だけがその空間魔法で作られた剣を彩り半透明の蒼白い細い棘のような剣“幻影剣”をエドガーへと撃ち放った。
一本ずつ、されど高速で次々に生成される幻影剣がエドガーの身体のあらゆる部位を串刺しにしていく。
だが、ダメージとは裏腹に痛みはそこまでなのか怯むことなく、掌を広げた両腕をジェイドへと突きだした。
エドガーの掌には孔が空いており、孔から高熱のエネルギーを掌の中で球状に収縮させて生成した火球を掌底打ちの要領で打ち込んだ。
両手からマシンガンのような速さで打ち出される火球をジェイドは無裟斬の瞬間移動で回避する。
様々な地点に瞬間移動して回避しているため、辺りは火球の爆発によりあらゆる箇所がボロボロに崩壊していた。
ジェイドが瞬間移動で回避するために攻撃が当たらず、焦燥を募らせたエドガーは、部屋の隅に倒れたニアを見つけ、右腕を前に構えタックルを放ってきた。
エドガーは、ニアに攻撃をすることでジェイドが攻撃を受けざるを得ない状況を作り出そうとしたのだ。
足の筋力に物を言わせた豪速の一撃に、ジェイドは装備をベオウルフに切り替え、ニアの前に立ち跳躍した。
すると、ベオウルフの脚部具足が
ジェイドは、隙を逃さず、空中で再び魔人化し、空中から急降下する蹴り技“流星脚”でエドガーの胸部へと叩きつけた。
エドガーの身体がくの字に折れ曲がり、そのまま床に叩きつけられて横たわる。
『なぜだ…?!なぜこれほどの力を…!?』
『貴様には分からん。悪魔に堕ちた貴様にはな…』
『貴様とて悪魔だろう!?同じではないですか!?』
上体を起こしながら、怒号を発して指を差してくるエドガーに、ジェイドは無裟斬を構えながら近づいていく。
『悪魔の力を勝ち取った俺と、悪魔に魂を売った貴様が同じだと?笑わせるな』
『ひ、ヒィィィイ!?』
地獄の炎すら凍らすかのようなジェイドの絶対零度の眼差しが、エドガーを産まれたての小鹿のように震え上がらせる。
『我が絶対なる力の前に…平伏せ…!!』
ジェイドは無裟斬を横一文字に薙ぎ払う。そして、エドガーとその周辺の空間がもろとも“ズレる”ように斬れ、上半身が下半身から離れて右へと落ち、下半身が左へと倒れた。
よく見れば、周囲の壁や本棚等も綺麗な断面で横にズレていた。
これこそが、閻魔刀とは違う、空間魔法によって斬撃の届く範囲の空間そのものを斬り、そこに存在する物体を空間ごと断ち切る無裟斬の“次元斬”である。
エドガーが完全に死んだことで戦闘が終了し、ジェイドは魔人化を解除して倒れていたニアの元へと近寄っていく。
ジェイドがニアの顔へ手を伸ばすと呼吸による息が掌に当たり、生きてることが確認できる。
どうやら、エドガーは本当に黙らせるためだけにニアに蹴りを入れたのだろう。
元はといえば、ニアはエドガーにとって商品である。死んでしまえば売り物にならないと力を加減していたのだろう。
「ニア、起きろ」
ニアの頬を優しく叩き、意識を取り戻させようとするジェイド。
程なくしてニアが意識を取り戻したようで、寝惚け声を上げながら目を開けた。
ニアの目の前には、己の前で死んだと思ったジェイドが相変わらずの仏頂面だが、どこか微笑んでいるような印象の顔でニアを見ていた。
「身体は大丈夫か?」
「お…兄…ちゃん…?お兄ちゃん!」
ニアは、意識が完全に戻ったようで、目の前にいるジェイドの首に抱き着いた。
突然の出来事と、こういう時の子どもとの接し方が分からないジェイドは眉間に皺を寄せて手を上げて困り始めた。
すると、「グスッ」という音に気づき、顔を横に向けるとニアが嗚咽を漏らしながら泣いているのを目にしたジェイドは、ぎこちなく抱きしめた。
しばらくしてニアが泣き止むと、ジェイドはニアを床へと降ろしてニアに話し始める。
「ニア。俺はこれからも旅を続けなければならない」
ジェイドはニアへと視線を向けた。ジェイドとしては、ニアを連れて行きたくはない。今回のエドガーのような聖教協会の邪魔によってニアが危険に晒したくないのだ。
だが、ジェイドは意見を聞かずに勝手に決めることはしない。ニアの意見を尊重したいと思っていたのだ。
「過酷な旅だ。お前はついてこれないと思っている。だが、話も聞かずに行くのも勝手だろう?だから、聞きたい。ニア、お前はどうしたい?」
「ニアもいっしょにいく!」
間髪入れずに返ってきた答えに、ジェイドはわずかに眉をひそめた。
ニアの顔には、決意に似た何かが現れ、まっすぐジェイドを見つめている。
「……また危険な目に遭う可能性はあるだろう。守り切れる保証はない。それでもか?」
「うん!」
ニアは返事に迷いはなく、大きく頷いた。
ジェイドはようやく観念したのか、ため息をつきながらニアを連れてビルから外へ出て街を歩き出す。
途中、ニアがジェイドの方へと顔を向けて首を傾げた。
「…お兄ちゃん、次はどこに行くの?」
「…目指すは、メルジーネ海底遺跡だ」
二人は麻布ローブを纏って乗合馬車に乗り込んだ。
目標のため、まず向かうのは海上都市エリセンであった。