雷の魔術師は聖剣の英雄と共に船窓へ参加する。
魔術師は野望を、英雄は悲願を叶えるために。
何が正しく、何が悪いかなんてのは人の主観次第。
強大な力が罪なのか正義なのか、英雄はまだ知らない。
「素に銀と鉄。 礎に石と契約の大公。
祖には我が大師シュバインオーグ。
降り立つ風には壁を」
そこは工房と呼ばれる場所。
工房とは言っても魔術的な儀式を行うための実験場。
広さは16畳、窓はあるものの黒いカーテンで閉められ明かりは入ってこず、部屋にある光源は天井から吊らされた薄暗いランプのみ。
「四方の門は閉じ、王冠より出で、王国に至る三叉路は循環せよ。
繰り返すつどに五度。
ただ、満たされる刻を破却する」
部屋は本棚や作業台等の一般的な工房と同じ物もあるが、魔術に使う触媒や専門道具やスクロールなどで散らかっている。
「――――告げる。
汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。
聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ」
そんな工房の中で呪文を唱える者がいた。
白い髪の上にフードを被った、身長は150もいかない小柄な少女だ。
少女の名をアルス・アルマル。
少しばかり長い前髪で瞳は見えづらいが、明るい水色の瞳は覚悟の決まった目をしていた。
「誓いを此処に。
我は常世総ての善と成る者、
我は常世総ての悪を敷しく者」
アルスの足元に描かれた開きい真っ赤な魔法陣。
これはサーヴァントと呼ばれる魔術世界における最高位の使い魔を呼び出すためのものだ。
本来なら触媒を用いて召喚したいサーヴァントを呼び出すのが定番なのだが、アルスはまだ弱輩で人間関係もそこまで広くないため何も用意できなかったのだ。
それでも参加しようとしたのはアルスは血の色をした令呪―――聖パイからマスターに与えられた自らのサーヴァントに対する3つの絶対命令権―――が右手に刻まれたからだ。
聖パイは自分を選んだ。
なら、どんな英霊を喚ぼうと自分も優勝できる可能性は0じゃない。
とある野望を抱いてるアルスは令呪のある右手を魔法陣に差し出しながら最後の詠唱を言い放つ。
「汝 三大の言霊を纏う七天
抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ―――!」
召喚呪文を言い終えると同時に令呪と魔法陣が光だし、魔法陣から突風が吹き出す。
「くっ…!」
アルスは部屋の触媒やゴミが目に入らないように咄嗟に両腕で顔を守るようにした。
だが、突風はすぐに収まり、アルスは恐る恐る視界を遮っている腕をゆっくりと退ける。
段々と視界に入ってくる景色には…………鎧を纏った金髪の男が魔法陣の上に立ちこちらを見ていた。
少しの沈黙が続き、男の方が口を開く。
「顔でっか!何か病気でm「フンヌ!」グベァ!!」
自分が一番気にしているコンプレックスを開口真っ先に言われたアルスは本能のままに殴った。
ちなみに、綺麗なストレートだったらしい。
「サーヴァント、セイバー。エクス・アルビオって言います。さっきはすんませんでした」
アルスとサーヴァント、エクスは工房から移動してアルスが住む屋敷の一室で椅子に座りながらテーブルを挟んで向かい合っていた。
アルスは最優のサーヴァントであるセイバーを召喚した時点で優勝候補になったので、本来なら喜びのあまり叫んでいるところなのだが………。
エクスが初手から地雷を踏んだのでアルスは最高潮に不機嫌だ。
そのエクスはアルスの地雷を踏んだ結果、顔面の一部が張れており、少しだけ焦げていた。
その彼は今これ以上マスターの機嫌を損なうのを恐れて素直に謝った。
自分も叶えたい願いがある今、マスターとの連携が上手くいかないのは死活問題だ。
それは何とか避けたいので、お詫びも兼ねて真名も晒して何とか謝るが…………。
初対面で地雷を踏み抜かれたアルスの冷めた目は収まっていなかった。
「うん。確かに最優のサーヴァントの君が応えてくれて僕はとても嬉しいさ。本来なら喜びのあまり叫んでたかも知れない。…………まあ、その喜びをマイナスゲージに下げられた僕の気持ちが分かるかい?大して大きくも無い顔を“巨神”だの“でかぁぁぁい説明不要!!”だの他の魔術師からそう呼ばれてる僕の気持ちが分かるか?ん?」
「…………(^-^;」
「はぁ………。今回は初対面だから許すけど、次は無いよ。令呪を使ってでも止めるからそのつもりで」
「あざっす!!」
ここで選択肢を間違えてはいけないと分かってるエクスは感謝の気持ちを込めて咄嗟に頭を下げて礼を言った。
「それじゃ、自己紹介をしようか。僕の名前はアルス・アルマル見習いの魔術師さ」
「じゃあ改めて、真名エクス・アルビオ。クラスはセイバー、よろしくお願いします!」
さて、ここで少し時間を止めよう。
皆の知る聖杯戦争は聖杯から歴史に名の残った英雄や偉人がサーヴァントとして召喚される。
しかし、この世界は聖杯ではなく聖パイだ。
聖杯とは異なった形の願望機なのでバグりやすく、聖パイから召喚されるサーヴァントは平行世界もしくは異世界の英雄や偉人が召喚される。
触媒無しではどんなサーヴァントが召喚されるかは当日の運次第…………ぶっちゃけて言えばガチャである。
そんなガチャでSSレアを当てたのがアルスで、その運の良さが分かるだろう。
しかし、サーヴァント側からしてもそれは同じだ。
一応英霊の座に登録されてる彼らだが、呼び出される場所とマスターは選べない。
最悪な場合は全てが汚染された世界で真面に生きていけない場所に召喚されて、令呪で逆らえずにサーヴァントとしての役割を果たせずに死ぬ可能性もあるのだ。
だから、今回のエクスも運が良かったと言える。
伊達に幸運値は高くない。
先程触媒の話をしたが、触媒も役に立つ時はある。
その触媒がもしかしたら平行世界や別世界から流れて来たもの―――極稀に世界同士を隔てる“次元の狭間”に隙間が空き、そこから物や人が流れてくることがある―――で、その世界の英雄や偉人と関係の深い物の場合もあるのだ。
それに宿る魔力や残留思念が強ければより強い英霊が召喚され、微量しか無い場合は完全に運任せのガチャとなる。
………この辺りでこの説明は良いだろうか?
簡単に言えば二人ともお互いに違う世界の住民で、自分の常識が必ず通用する訳ではないのは分かり切ってるのだ。
だからサーヴァントとマスターがまず最初にやるべきはお互いを知ること。
そして、重要なのが互いの弱点だ。
あらゆる生命体には必ず有利不利があり、必ず弱点が存在する。
この聖パイ戦争の有利なところは真名バレしてもすぐに弱点が必ず判明するわけじゃ無い所だ。
しかし、運が悪いと同じ世界の住民が召喚されて弱点がバレる場合もあるため真名はなるべく隠さないといけないのは共通点だ。
…では、ここら辺でこの説明を終わらせるとしよう。
時を戻そう。
「へぇ。聖パイから情報は頂いてある程度は理解してたけど、文明の進化って凄いなぁ…」
「そうだねぇ…。昔の先人達も同じ気持ちだったと思うよ。あ、もし良かったら明日街を案内してあげるよ。一応この街で戦争が起こる訳だから下見も含めて色々紹介………」
「マジで!?是非お願いします!」
エクスは目を輝かせてアルスの案に乗る。
元いた世界とは全く異なる世界はエクスにとっては好奇心の対象でしかない。
だが、何処から行けば良いのかは分からないので案内してくれる人がいるのであれば何を不安がれば良いのか分からないので速攻でアルスの案を呑んだ。
アルスは若干引き気味だが、落ち着いて返す。
「ま、まあこんな夜遅くは他の魔術師が動いてるかも知れないから明日の昼頃になるけど………それで良いかい?」
「全然構いませんよ。……こちらも確認したいこともあるので」
「あ、そうだ。そのあからさまなサーヴァントっぽい格好どうにかできない?今時コスプレなんてあるけど、この街じゃただの変人だよ?」
「………鎧脱いだだけじゃどうにかなりません?」
「………」
「………」
「はぁ…。ひとまずそれで良いけど、明日買いに行こう」
「そうですね…」
聖パイからの情報でコスプレがどういう物か理解していて、いざとなればコスプレで押し通そうかとおもってたけど現実がそんなに甘くないことに軽くショックを受けるエクス。
実際に自分は真面目にやってるのに端から見れば変人と言われれば如何に英雄と言えど傷つくだろう。
アルスに悪気は無かったが、言葉と言うものが時にナイフよりも鋭い武器になるのを知らなかったのだ。
この後、落ち込んだエクスを何とか励まそうとしたアルスの姿が見られたという。
「サーヴァント……か」
マスターであるアルスが就寝した後、エクスは屋敷のベランダに出て月を眺めていた。
サーヴァントは魔力さえあれば生きていけるので睡眠や食事を必要としないため、こうして一日中起きてても体に支障を来すことは無い。
それを利用してエクスは自分のステータスについて考えていた。
(確か最低のEランクで一般人の10倍はあるんだよな…。生前で既にそんぐらいあったのにAとなった今どれくらい強くなったんだ?)
エクスの現在のステータスはこちら。
真名:エクス・アルビオ
クラス:セイバー
性別:男性
身長/体重:180㎝/80㎏
属性:秩序・善
筋力:A+
耐久:B
敏捷:B
魔力:A
幸運:EX
宝具:A+
クラス別スキル
対魔力:A
保有スキル
怪力:B
直感:A
魔力放出(聖):A
戦闘続行:B+
天性の肉体:A++
※A+はヘラクレスやシグルドと同じ。クー・フーリン(狂)やエレシュキガルより高く、アステリオスやゴルゴーンより弱い程度の強さ。
セイバークラスでもかなりのステータスで、最優のサーヴァントと言われるだけの高さだ。
生前で数々の偉業を成し遂げ、民から英雄と謳われた世界での知名度が齎したステータスがこれだ。
サーヴァントのステータスはCで平均、Bで少し優秀というのだからエクスのステータスの規格外さが分かるだろう。
・対魔力
魔術に対する抵抗力。一定ランクまでの魔術は無効化し、それ以上のランクのものは効果を削減する。
サーヴァント自身の意思で弱め、有益な魔術を受けることも可能。
・怪力
・直感
戦闘時、つねに自身にとって最適な展開を「感じ取る」能力。
Aランクの第六感はもはや未来予知に等しい。
また、視覚・聴覚への妨害を半減させる効果を持つ。
・魔力放出
武器・自身の肉体に魔力を帯びさせ、瞬間的に放出する事によって能力を向上させるスキル。
いわば魔力によるジェット噴射。
絶大な能力向上を得られる反面、魔力消費は通常の比ではないため、非常に燃費が悪くなる。
・戦闘続行
名称通り戦闘を続行する為の能力。
決定的な致命傷を受けない限り生き延び、瀕死の傷を負ってなお戦闘可能。
「往生際の悪さ」あるいは「生還能力」と表現される。
・天性の肉体
生まれながらに生物として完全な肉体を持つ。このスキルの所有者は、一時的に筋力のパラメーターをランクアップさせることが出来る。
さらに、鍛えなくても筋骨隆々の体躯を保つ上、どれだけカロリーを摂取しても体型が変わらない。
(こうして見ると化け物だなぁ…。いくら生前で呼ばれたことがあっても、こうして見ると何も否定できない…)
しかし、当の本人はステータスを確認して軽くショックを受けていた。
生前、英雄と呼ばれると同時にに一部からは化け物と呼ばれ非難されていた。
幼い頃から規格外の力を持ち、周囲から化け物と蔑まれたエクスはその呼び方には少しは慣れていたが、サーヴァントとして限界したようにステータスを見る事ができないためあまり実感は出来なかった。
鍛えれば誰だってできると思っていたから。
だから今回、念願叶って自分のステータスを見る事ができたものの………改めて実感できた。
だからマスターが就寝する前に貰った壊しても良い物ーーーあるいは実験の失敗作ーーーを取り出し、片手で力いっぱい握り締める。
一応それは拳一つほどの大きさ鉄製の鉄球なのだが…………それが豆腐のようにあっさりと砕けてしまった。
しかも一瞬でだ。
人は何事もだが1回試せばある程度の自分の力量が分かる。
今、エクスは生前との力の差を理解した。
今の方が
「はぁぁぁぁ……………」
その事に英雄は深く溜息を吐く。
何かを壊す力には生前でも死ぬ間際まで悩んだことだ。
答えはどれだけ探しても未だ見つかっていない。
けれど、するべき事は存在した。
「マスターを守るために、
手を月と重ねて英雄は希望を謳う。
戦争の火蓋を切られた今、その希望を現実にするために決意する。
それが彼にとって最良に成り得るか最悪に成り得るか、誰にも分からない。
始まるは血濡れの狂宴、
必ず誰かの涙と血が流れる。
人の嘆きは沈み、
神の怨みは潰され、
怪物の悦びは止まらない。
戦争は常に誰かの願いから始まるのだから。
続きを書くかこのアンケートで決めようと思います!
-
書いて欲しい!(切実)
-
書かないでくれ!(懇願)
-
どっちでもいい(適当)
-
そんな事より他の作品早よ更新しろ
-
誰やねん