アークナイツ実況(風)プレイ 作:カナメイシ
やはりこちらの視点も入れたい……入れたくない?
「なぁサイレンス〜まだか?」
「まだ。後ちょっとで今日は打ち止めだから」
私はイフリータと共に僻地とされる場所を歩きながらロドス・アイランドへと向かっていた。
目的は彼女の保護と更なる鉱石病の研究のためだ。
つい少し前に天災と鉱石病の研究者である『ドクター』が現場復帰を果たしたと聞いた。
何らかの要因でかなりの記憶を欠損させているらしいが、現在は指揮官としてその卓越した腕を奮っているらしい。彼の記憶が戻るにしろ戻らないにしろ、あそこならばライン生命よりまともな治療をイフリータに施せるはずだ。
……訂正しよう。そもそもあそこはイフリータを無事に済ます気は更々なかった。不覚にも彼女が背負う苦痛の片棒を担いでしまった私が吐けたようなセリフではないが。
ともかく今の私はイフリータをライン生命の手が届かない場所へ連れて行き、治療を受けさせることが最優先事項。
それが……彼女のためになると信じて。
「サイレンス、下がれ」
つまらなそうに前を歩いていたイフリータが背負った火炎放射器を構えた。
いつの間にか俯いていた視線を上げれば、そこには数えるのも馬鹿らしくなるほどのオリジムシの群れ。
上位種であるオリジムシ・αやアシッドムシの類はいない。全て黄色の源石をその身に宿す下位種のオリジムシだ。
イフリータに目視で指示を飛ばすと彼女はニイと口角を上げながらその手に火花を迸らせた。
今回の一件で更にイフリータが増長してしまうと考えると頭が痛い。仕方ないとはいえ、ロドスに入ってから何かしでかさないだろうかと今までも気が気でなかった。
しかしそれはほぼ決定事項では?と思い当たったところで私は不安の雁字搦めに成り果てた思考を不法放棄した。
後は野となれ山となれ。しくじった時に改めて考えることにしよう、と今は目の前で群れるオリジムシに集中する。
「ケシズミだァッ!」
イフリータのアーツロッドが盛大に火を吹き、周囲に蔓延るオリジムシを一掃する。射程範囲にうごめいていたオリジムシは全て炭化したものの、次から次へと仲間の死体を踏み越え、飽きもせずに侵攻してくる。
段々と火炎放射の一辺倒では手が回らなくなり、コロコロと場所を移しては炎を吐き出しまた走る。
そんな作業が4回目に到達しようとした時だ。
突如古びたドアが勢いよく開けられた音を耳にして私はそちらへと視線を向ける。
「イフリータッ!」
思わず私は叫んでいた。
轟々と猛る火柱の延長線上には黒い人影がある。
イフリータに私の声は聞こえていないのか、花に水でもやるかのような気軽さで鼻歌交じりに獄炎を撒き散らしていた。どちらかと言うと殺虫剤かもしれないが。
その業火が衝突する瞬間、人影は器用に壁を使った三角飛びで丸焼きになるのを回避した。
安堵の溜息を零しそうになる口を噤み、私はイフリータに次なる指示をだす。
「イフリータ、アレは狙わない。いい?」
「……分かったよ」
不承不承といった様子で了承した彼女は人影のいない方向に向かって火を飛ばし始めた。
人影は私たちの方向へと侵攻するオリジムシにスライディングして間髪入れずに片足ジャンプ。使っていない脚で空中に円の軌跡を描いた。
すると浮遊していたオリジムシは不可視の何かに弾かれたように四方八方に吹っ飛びピクリとも動かなくなった。
斥力……いや、ベクトルを操作するアーツだろうか。
何にせよ、かなり物珍しく興味深いものではある。
早すぎて目で追うことがギリギリであるが、無手でアーツを発動していることからアレが感染者なのは明白だろう。
この戦いが終わったら少し話を聞いてみようか……そう思った矢先だ。
少しだけ動きの鈍くなった人影の姿がやっと私の目でも捉えられた。衝撃的な事実を伴って、という脚注が付くが。
人影──早すぎてそう見えるのもあったが、そもそも身体のほとんどが黒色で覆われていたのだ。
そしてその黒には私は覚えがある。私にも、イフリータにも、もちろん世界中の誰もが一目でそれが何かと判断ができるだろう。
「源石……!?」
鉱物を操作するアーツの存在は知っているが、源石を身に纏うアーツなど聞いたことがない。
そんなことをすれば鉱石病進行のステージが上がるどころか、まともにアーツを使用する前に死亡するのが関の山だ。
では先ほど見せた斥力のアーツは一体……?
思考の海に沈むもうとした私を強い声で誰かが引っ張りあげた。
イフリータである。
「お、おい。アレ……」
彼女にしては珍しく焦燥と戦慄を顔に浮かべていた。
指の示す方へと目をやればイフリータがそんな顔をする理由が嫌でも理解できる。
聞き慣れない奇っ怪なオリジムシの断末魔と共に周囲に響く咀嚼音。
まるで鉄屑でも食べているのかと錯覚するほど軋むような音が人影から聞こえてくる。
食べていた。
オリジムシを──食べていた。
そのような趣味趣向があることは理解しているつもりだった。
どこぞの珍味好きが感染症になるのも厭わずに食べているという風の噂も耳にしている。
しかし……現実はいつも我々の二、三歩先を、アレに至っては何百mも突き放されているように感じてしまう。
調理なし、生食だ。
誰が好き好んで感染した害虫を喰らおうなどと思うのだろうか。
万歩……いや、兆歩譲ってオリジムシの踊り食いが美味しかったとしよう。
それでも急激に取り入れられた源石は身体を変質させようとして、筆舌に尽くし難い激痛が身体に生じるはずだ。
それにも関わらずヤツはオリジムシを咥えながらオリジムシを蹂躙している。もしかすると痛覚がないのだろうか。
ライン生命に報告してもバカバカしいと一蹴されるであろう目の前に広がる光景を、私は死んだような目で見つめていた。
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オリジムシは駆逐され、後には形容するのもはばかられる残骸と虫喰い──呼び名がないため暫定的にこのような呼称を使用する──だけが残った。
虫喰いは生気の籠らない目でこちらに視線を向けるとゆらりと歩み寄ってくる。
まともな人物かはさておき、その在り方について不躾ながら私はかなりの興味を抱いていた。
どうコンタクトをとったものかと思案していると横からの熱風が自分の頬を撫ぜた。
背筋をつむじの如く疾走した不安とともに、挙動が怪しいロボットになった私はギギギ、とそちらへ顔を向ける。
イフリータが火炎放射器を虫喰いにぶっぱなしていた。
二度目の叫びとなったが今回はもう手遅れである。
あれ敵だろ?と首を傾げているイフリータをかなり穏便に緊急停止させ、彼女が嫌な顔をするお小言をつらつらと並べていく(後から聞いた話だが私はその時かなり引きつった笑みを浮かべており、イフリータを怖がらせてしまったらしい)。
気づけば夢中になってしまっていた。今はそれどころではないというのに……。
虫喰いの気配は未だ感じるので死んではいないだろうと私はそちらを向く。
イフリータの業火に焚べられたせいなのか、そのボディ全身は余すところなく源石片に覆われており、先ほど見た時よりもかなりマッシブな印象を受ける。
聞きたいことが山ほど出てくるがそれを抑えて私は問う。
「あの、もしかして助けようとしてくれませんでしたか?」
後方で何言ってんだアンタのニュアンスで驚愕するイフリータをよそに私は聞く。
ああいや、本来なら謝罪からするべきなのだが、私の口から出てきたのは興味の意を孕んだ言葉だった。
「そうだ。オリジムシに囲まれる二人が心配になって助けにきた。その結果炎に晒されたわけだが」
イフリータクラスの精神年齢を想定していたがこれは良い想定外。
男とも女ともつかない声がくぐもった反響を伴って聞こえてくる。
虫食ってたし!と自分の行いを正当化するイフリータ──いや、正直私も敵じゃないかとは疑っていたので同罪だろう。
イフリータの頭を下げながら私も頭を下げると虫喰いは快く許してくれた。
「えっと、オリジムシを食べるのは趣味で?」
謝った直後に油を注ぐような事を口走ってしまった。特に気にする様子でもない虫喰いは生きるためとさも当然の事のように言い放った。やはり源石に感染したことで精神が……?
と、そんなことを思った私の考えを察してか、虫喰いは自分の昔話を始めた。
かつて鉱石病に感染しており、ステージⅢの領域にまで進行が進んでいた。
四年前に治療施設からは匙を投げられ長期療養の名目で僻地へと飛ばされるも生きる活路を見出すために一人放浪の旅を始める。
しかしその旅も終わりを告げ、虫喰いの身体が限界を迎えようとした時だった。自身の想いに呼応したのかアーツが変質し、源石を吸収する術を取得。
源石病で削れる命をアーツを使って繋ぎ止め、元凶であるはずの源石を喰らってエネルギーを蓄えてはまた消費する……。
その特異すぎる性質故に、つい半年ほど前までは宛のない放浪を続けていたという。
イフリータの率直すぎる疑問にもそつなく回答しているあたり、それとなく虫喰いの人の良さが窺える。
人が良いから、誰も怖がらせたくないから、放浪することを決心したのだろうか。
それを聞けるほどの余裕は私の脳内容量の不足故、枯渇していたのだが。
「私たちはちょうど職場を変えるためにロドス……って分かるかな。そこに移動していたところ。確約はできないけれど、そこなら君の苦しみを取り除くことができるかもしれない」
その後知らず知らずのうちに私の口はかなり饒舌になっていたようだ。隣のイフリータも目を丸くするほどなので相当だったのだろう。
虫喰いに思うところは多々多々あるのだが、ここで見逃しては十中八九人権を剥奪したような、口にするのもはばかられる実験を四六時中その身で受けることになる。もちろんその場所はライン生命だ。
私のプレゼンもどきを聞いて少し逡巡した様子の虫喰いだったが、最後には承諾してくれた。
名前はデュランダルと言うらしい。
思えば私たちも自己紹介を忘れていたなと慌てて挨拶した。
ここまでロドスを推しておいてなんだが、ロドスはデュランダルを受け入れてくれるだろうか。
いつの間に意気投合したのか、前方で楽しげにはしゃぐ二人を見つめながら考えた私だが、数日後にその不安は全くの杞憂だったことが判明する。
ついでと言うのもなんだが、それに際してデュランダルに関する世にも奇妙なデータを私たちは目の当たりにすることとなる。
暫定ロドス入り^〜
Q.じゃあ、デュランダルくんの受難…とかっていうのは?
A.ありますねぇ!(大声)
ロドス入ったからってガバからはああ逃げられない!(実況風特有のカルマ)
よく喋るサイレンス姉貴。
デュランダルくん可哀想なのと使命感と諸々合わせてちょっと高揚してるんじゃないですかね(適当)
まあこれ独白みたいなものだし、多少はね?