幽霊に恋した男の子   作:俳人 

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2話

「イッチ年生!イッチ年生はこっちだ!さあ、集まれー!」

 

電車を出ると、黒い髭をふさふさに蓄えた大男が一年生を集めていた。

 

「おお!アレスティンのちびっこじゃねえか!そうか、おめえも大きくなったな!」

 

「やあ、ハグリット、『怪物的な怪物の本 巨大版』の返却が遅れてるよ」

 

そう言うと、ばつの悪そうな顔を俺に向けた。

 

「冗談だよ、父さんが『あれを借りたのはここ100年で君ひとりだから貸し出し無期限にする』ってさ」

 

「ねえ、ケヴィン、わたしの書いた『しわしわ角冒険憚』はいつ図書館に置いてくれるの?」

 

「...あれは、あれでどうにかするよ」

 

そんなやり取りを見てハグリットは大きく、ゴツゴツした手を俺たちの頭に置いてガシガシと撫でた。

 

「さあ、イッチ年生!しっかりついてこい!こっちだ!」

 

野太いハグリットの声に着いていき、ホグワーツへ向かった。

 

 

 

「皆さんは、これよりホグワーツへ入学します。まずは...」

 

変身術を教えているマクゴナガル先生は生徒を集め、これからの話をしてくれた。全寮制なぁ......、仲いい子見つかるかなぁ...。

 

「では、これより組分けの儀式を始めますので、皆さん食堂へ」

 

そう言うとザワザワしながら生徒の列は動き出した。

 

「そういえば、ルーナ組分けの儀式ってなにするか知ってるか」

 

「知らない、パパはお前は絶対にレイブンクローだとしか」

 

そんな話をしていると、食堂の扉の前につき、マクゴナガル先生がその扉を開いた。

 

「へえ、......いいじゃないか」

 

ふと小さくそんな言葉が漏れてしまった。

食堂は、とても長い机が4つ並んでおり、奥にはそれぞれの寮の紋章が掲げられていた。なにより目を引くのは天井だ。幾百もの蝋燭が魔法でフヨフヨと浮かされており、その奥には、深い深い夜の青に、いくつもの星々が瞬いている。

 

不覚にも、魔法で創られた星空に見とれていた。そんな俺の様子を見てルーナが、小さく笑っていた。

 

「......なんだよ」

 

「いや、なんだかんだ言って気に入ってるなぁって」

 

そんなルーナを無言でチョップし、マクゴナガル先生が話を始めた。

 

「皆さんには、この帽子をかぶってもらいます、この組分け帽子が皆さんの寮を決めることでしょう」

 

そういって、マクゴナガル先生は古びた帽子を、置いた。

おお、すげえ。なんか歌ってる。

 

「では、名前を呼ばれたものは前へ」

 

そう言って一人一人名前を呼ばれ、帽子を被らされる。人によってはすぐ決めるが、熟考した末に決める場合もあった。

 

「次、ケヴィン・アレスティン」

 

マクゴナガル先生に呼ばれ、つい背筋を伸ばしてしまう。......さっきドラコに大口叩いたし、スリザリンじゃないといいんだが...。

 

「なあ、アレスティンって...」

 

「アレスティン魔法大図書館の子...?」

 

ひそひそとそんな会話が耳に入る。うちは名前は有名だが、入る人は限られるからなぁ...、中に関して憶測が出るものだ。意外と中は普通なんだけどね。

 

前にいくと、長い髭を蓄えた先生。アルバス・ダンブルドア校長と目が合う。半月形の眼鏡の奥の瞳は、知的に輝いている。この人、たまにうちにいるけど苦手なんだよなぁ......。全部を見透かしてるみたいな感じがして...。

 

校長にペコリと頭を下げて、椅子に座り、組分け帽子をかぶった。

 

「おお、そうかアレスティンの家の子か...、君の家系はいつも少し悩むのだよ、知識に富んでいるので様々な可能性に溢れている、しかし、いつも選択は同じなのだよ、......1000年前のあの日からね」

 

「あー、それって、どういう...」

 

「レイブンクロー!!」

 

拍手がレイブンクローの食卓から上がり、帽子が外された。すこし疑問が一つ残りつつも、レイブンクローの席へ向かった。

その後も、問題なく組分けは進められた。ちなみにルーナもレイブンクローだった。

 

組分けが終わると、ダンブルドアは教員席から立ち上がった。

 

「では一言、わっしょい、わっしょい!」

 

それだけ言うと杖を一振りし、食卓にご馳走が現れた。

 

「腹を膨らませるのじゃ!」

 

髭を撫でながら、嬉しそうに笑った。

 

「う......、もう食えん...」

 

「ねえ、ケヴィン、そのゼリーもらっていい?」

 

そう言ってルーナが俺のゼリーをかっぱらっていった。元々、そこまで食べる方ではないのだが、ここの食事が美味しいので食べ過ぎてしまった。

 

細々とカボチャジュースを飲みつつ、周りを見渡すが皆、まだまだ食べている。

「ん?あれは...」

窓を見ると、教師に首根っこを捕まえられる二人の生徒がいた。一人は燃えるような赤毛の男の子と、丸い眼鏡をかけた

黒髪の男の子だ。

 

「あれって、もしかして......」

 

「どうかしたのかな?ミスターアレスティン?」

 

後ろから静かに声をかけられる。振り替えると、ダンブルドア校長が優しげに笑っていた。......いつからいたんだよ、この人。

 

「あー、ちょっとお腹いっぱいになりまして...」

 

「なんと、君の父君はドラゴンのような食べっぷりだったというのに

......母君はその倍は食べていたが」

 

「母さんって、そんなだったんすか...」

 

ダンブルドアはゆっくりとうなずき、嬉しそうに笑った。

 

「食というのは、魔法の源じゃよ、たくさん食べねば、よい魔法は使えんからの」

 

「ハハ、腹減るように、たくさん勉強し......ま、す、よ」

 

突如、ダンブルドアに向けていた愛想笑いが止まってしまい、言葉も止まってしまう。いや、それは俺にとって時が止まっていたのかもしれない。

 

食卓の喧騒も、遠く聞こえてしまう。それほど、視界に入った女性は衝撃的に美しかった。

 

「ミスターアレスティン。どうしたかの?」

 

「ケヴィン?具合悪い?」

 

ルーナや、ダンブルドアの声も、遠く聞こえる。俺は二人を無視して、食卓の上に立った。

 

「え!?」「なに!?」「おい、一年生、食卓の上に立つな!」

 

食卓の皿を避けるようにして、俺は彼女の方へ向かった。

 

「ひ、一目惚れです!付き合ってください!」

 

一瞬の沈黙、ダンブルドア、いや全校生徒の口がアングリとあいていた。

 

「嫌です、三回くらい生まれかわって出直してきてください」

 

そう言って彼女、レイブンクローのゴースト『灰色のレディ』ヘレナ・レイブンクローは無表情で、どこかへ消えていった。

 

俺の学校生活は、奇妙なスタートダッシュを切った。


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