「では僭越ながら、職務上私からご報告させて頂きます」
鳴女が恭しく無惨に一礼して話し始める。
「現在無限城内部に、生きた人間は存在しません。引き込んだ鬼狩りの殲滅、全て滞りなく完了いたしましてございます」
「よくやった!」
爆発で吹っ飛ばされた服を着替えて来た無惨は、かなり珍しい事に嬉しそうに部下を褒める。千年頭を悩ませていた敵が消えたのだ、上機嫌にもなろうというものだ。
「これでようやく産屋敷も鬼狩りも消えた。狂人と異常者の相手もおしまいだ。そうだな……折角だ、外に出るか。鳴女」
「はい」
べべんと琵琶の音が響くと、鬼たちは皆地上へと現れていた。ちょうど小高い丘になった、周囲の森を一望できる場所だ。
薄曇りだった空は、すっかり晴れていた。東の空が白み、朝焼けがにじむように広がり始めている。本来なら鬼たちは、一刻も早く日陰を探さねばならない頃合いだ。だが、この場の誰も動こうとはしなかった。
ついに朝陽が差す。鬼を灼き尽くす、黄金の光が差す。闇を消し去るその輝きに当てられた鬼たちはしかし、一切何も変わる事なく、平然としていた。
「ふふ……何度見ても良いものだな。あれほど忌々しかった太陽を、これほどまでに清々しく感じる日が来るとはな」
無惨は目を細め、穏やかな表情で太陽を眺める。無惨自身と下弦の六名、そして妓夫太郎の尽力と、日光を克服した鼠の誕生により、日光克服薬は完成していたのだ。
なお日光を克服したという事は、日輪刀で頸を斬られても死なないという事なのかもしれなかったが、さすがに自分で試そうと考える者はいなかった。
「お前たちを鬼にして正解だった。見事な働きだったぞ」
「光栄にございます」
頭を下げる部下の中に童磨を見つけてしまいちょっと微妙な気分になるが、気分が良かったのでまあいいかと流した。事実として役に立ってはいるのだ。一般隊士やひょっとこの鍛冶師を殺した数では、玉壺に次いで二位であろう。
しかし心を読んでも微かに快不快がある程度で、感情というものが碌になかったので、最近ではコイツ虫の親戚か何かなのではないかと疑い始めていたところであった。
「あの、無惨様」
「何だ?」
そんな何とも言えない気分になっていた無惨に、下弦の弐、
「これから、どうなさるのですか?」
「これから?」
その言葉に無惨は
「…………そういえば、これといって考えてはいなかったな」
「なら、皆で会社を興すのはいかがでしょう?」
「会社だと?」
意表を突かれたような表情を見せる無惨に、空木は詳細を語ってゆく。
「はい。日光克服薬の副産物として様々な薬が出来て、それを売ってるのは無惨様もご存じですよね?」
「その薬を売る会社を作ろうというのか?」
「その通りです。結構前から色んな人に『もっとたくさん売ってくれないか』って言われてたんです。だからきっと売れると思います」
無惨はその言葉に、少しだけ考え込んで答えた。
「そういった事に詳しくはないが、色々と面倒な手続きが必要なのではなかったか?」
「大丈夫です。客の中にそういう事に融通の利く人がいて、戸籍とか手続きとかの諸々はどうにかしてくれるって言われてます。代わりにその人に優先して薬を売る必要があると思いますけど……どうでしょうか無惨様?」
「ほう……」
無惨は顎に手を当て先程よりも長い時間考える。悪い話ではない。戦闘要員の上弦はまたいつか役に立つだろうからそのままでいいとして、薬開発要員の下弦を多少持て余していたのは確かだからだ。
日光克服薬に何か不具合が出た時の事を考えて解散させるつもりは全くなかったが、それ以外特にやらせる事もない。かと言ってその能力を腐らせるのはもったいない。それが有効活用されるというのなら、無惨としても文句はなかった。
「いいだろう。面白そうだ」
「ありがとうございます!」
無惨は嬉しそうな空木から視線をずらし、部下たちを見回すと指示を出した。
「上弦は今まで通りで良いが、自らの力を高める事は忘れるな。いつか必ず役に立つ」
『はっ』
「下弦は私と共に会社を興す! 行くぞ!」
『はいっ!』
鬼には寿命も怪我も病気もない。さらに日光の克服と鬼殺隊の壊滅を果たした今、もはやその生存を阻むものは何もない。輝くような山吹色の朝焼けの中、鬼舞辻無惨は永遠に向けての一歩を踏み出した。
◇ ◇ ◇
>トロフィー「枯れない彼岸花」を獲得しました。
という事でタイマーストップ! RTA終了です! お疲れさまでした!
いやー、長かったです。特に縁壱が出て来た時はどうしようかと……ホントどうしようかと思いましたが、何とかなりました。ついにトロフィー獲得です。
次必ずガバるとかフラグとか言われましたが、そんな事はないと証明されました。やはりこれは豪運ですね(かつてないイキリ)。
今回は無惨様社長ルートとなりました。上弦を社員にしなかったのは、他にやって欲しい事があるとか、すでに教祖やら芸術家やらをやってる奴がいるからって事もありますが、単に向いてないと判断したからです。実に冷静で的確な判断ですね。
別に無惨様本人が社長になる必要はないんですが、原作と違って率先して動く習慣がついてたせいで自然にそうなりました。無惨様は普通に優秀だし、その気になれば毎日徹夜でも余裕なので社長でも十分やっていけるでしょう。原作でも人間のふりして似たような事やってましたし。
ではタイム発表…………の前に、唐突ですが一つお話を。『54年246日32分20.3秒』。これが何の数字かご存じでしょうか。これはですね、フルマラソンの世界最長記録です。ギネスにも載ってます。
1912年のストックホルムオリンピックに、
そして1967年のスウェーデンで、ストックホルムオリンピック開催55周年記念式典が開かれ、それに招待された金栗氏は半世紀以上をかけてゴールを果たしたのです。いい話ですね。
つまり何が言いたいのかというと、オリンピックもRTAも参加する事に意義がある、という事です。記録が良いとか悪いとか、そんな事は些細な事なんですね。
という事で今RTAのタイムは、2日と3時間41分57秒でした。トップ陣は2時間切って来るんでタイムとしてはまだまだです。やっぱり縁壱が出たのはきつかったですね。あのバグ規制してくんないかな……。
ちょっとタイム悪くね? と思った方もいるでしょう。しかしRTAは参加する事に意義があるのです。少々記録が伴わなかっただけで、RTAはRTA。これは断じてRTAです。
……うっかりRTAとTAを勘違いしてコメントで気付いてやっべってなったけど結構進んでたせいで引っ込みがつかず続行したとかそういう事実はありません。ガバでは決してないのです。今までの人生で一度もガバらなかった者だけが私に石を投げなさい。
…………はい、石は飛んで来なかったので、私はガバではないと証明されましたね。どれほど時間がかかろうが記録は記録、これは断じてRTAです。大事な事なので二度言いました。ガバとか記録が良くなかったとか、そういう事は些細な事なんです(断言)。
という事でRTAそのものはここで終わりですが、残りも少ないし折角なのでエンディングまで行って終わりにしたいと思います。原作で最後に出た2020年頃に到達すればゲームエンドです。あと百年くらいなのですぐです。
>「いかがでしょうか……」
>「ほう……」
>無惨たちが製薬会社を立ち上げて少ししてからの事。黒死牟が自らの弟子たる獪岳を無惨に見せていた。
>鬼殺隊を潰した今、新しい戦力を入れる必要性は薄れているが、折角だからという事で会う事にしたのだ。ちょうど無惨の時間が空いた事も大きい。
>「剣の腕では黒死牟には遠く及ばぬ……が、貪欲に上を目指すところが気に入った。鬼狩りどもが存在していれば鬼にしていただろう」
>「それは重畳……。しかしやはり、鬼には致しませぬか……」
>「これ以上鬼を増やす気はないからな。さて……」
>機嫌の良さそうな無惨は、獪岳に視線を向けた。
>「獪岳と言ったか。鬼にはせぬが、人間のまま私の役に立つ気はあるか?」
>「えっ、えっとその、俺の出来る事と言ったら剣くらいで、それも師匠には全く敵わないんですが、それでも何かお役に立つんでしょうか……」
>いつになく獪岳が丁寧な口調だが、これは黒死牟が前もって『あのお方に何か無礼があれば、お前の首と胴は泣き別れだ』と脅していたからである。
>かれこれ十年の付き合いなので、弟子の性格はよく分かっている黒死牟であった。
>なお場合によっては脅しが脅しでなくなるかもしれなかったが、それは口にしなかった。
>「今私は会社を興したところだ。人手は多くて困る事はない」
>「それはつまり……会社に入れという事ですか?」
>「そうだ。だが入りたくないのならそれでも良い。私の役に立たぬ者はいらぬからな」
>獪岳は少し考えると、無惨の顔を見上げた。
>「その、少し質問いいでしょうか」
>「何だ?」
>「何をする会社で、俺はそこで何をすればいいんですか?」
>「薬を作り売る会社だ。作る方はそれなりに足りている。足りぬのは売る方だな。それくらいならお前にも出来るだろう」
>「どういう薬を作っていて、どういうところに売ってるんですか?」
>「回復薬、避妊薬、強壮剤等様々だ。売る先も様々だが、吉原や金持ち連中に人気がある」
>「なるほど……ありがとうございます」
>獪岳は再び考え込む。
>剣は黒死牟には及ばないまでもそれなりにはなったと自負しているので、警察官にでもなろうかと思っていたが、ここに来て別の道が見えたのだ。
>話を聞く限りではそう悪くない。むしろ良い。
>すでに客がいる上、売っている物の評判も良さそうだ。ならばこれから伸びる可能性は高い。
>警察官には必ずしもなれるとは限らない以上、この会社で上を目指すのも有りかと獪岳は判断した。
>「分かりました。入社します。よろしくお願いします」
>「いいだろう。私の役に立つが良い」
そういや獪岳忘れてました。やっぱり最終決戦には間に合いませんでしたが、無惨様の部下にはなりました。これはこれで案外よかったのかもしれません。無惨様は結果を出せば評価してくれるでしょうし、勤勉な努力家の獪岳を気に入る可能性は結構高いですし。
尤も要求する基準がただでさえ高い上、不眠不休で働ける鬼がデフォルトなので大変でしょうが……まあ原作よりはマシでしょう。駄目なら首(会社)になるだけです。金を盗んで逃げたりしたら首(物理)になりますが。鳴女がいるので絶対見つかりますし、黒死牟がブチ切れて本気で追っかけて来ます。師匠の腕を知ってる以上そんな馬鹿な事はしないでしょうけど。
ちなみに獪岳の呼吸の適性は原作通り雷ですが、ここだと月の呼吸を使うようになってます。黒死牟が教えられるのはそれしかないですからね。いやまあ他の種類の呼吸を使えてもおかしくはありませんが、人に教えられるレベルかっつったら無理でしょう。
……ん? 早送りが止まりました。珠世が出てるんですが、ここで珠世関連のイベントって何かありましたっけ……。まあいいや、見れば分かるでしょう。
>あの日から。産屋敷と鬼狩りを絶やし尽くしたあの日から、珠世の様子は少し変わった。
>気付けばぼうっと呆けている事が多く、まるで老人のようだった。
>周囲の者は、思うところもあるのだろうと何も言わなかった。
>それでも珠世と無惨が育てた残りの下弦五名と妓夫太郎のおかげで、業務に差し障りは出なかった。
>そんな時間が過ぎる中のとある日。珠世は無惨のいる社長室へと向かっていた。
>その顔は真剣であり、何かを決意したような表情だった。
>「無惨様、少しよろしいでしょうか」
>「何だ?」
>無惨は書類から顔を上げ珠世を見る。
>珠世は無惨をまっすぐ見据え、単刀直入に本題を切り出した。
>「
ファッ!!!!!!?????? 暇乞い!? 暇乞いナンデ!? しかも永の暇って永遠の別れって意味だから、まさか死ぬ気って事!? なんでここに来てこんなバッドイベントが!? 今まで立てたフラグが一気に回収されたとでも!?
いやRTAは終わってますからタイムには関係ないですよ? でもやっぱこう、あるじゃないですか。気分的に綺麗に終わりたいという気持ちとか、そういうのあるじゃないですか!
え、何、私は最後までこんな屑運ガバで終わるって事? ちょ、ちょっと冗談じゃないですよ! 誰かこのゲームに詳しい人、タスケテ!
今日の主な獲得トロフィー
「枯れない彼岸花」
生存を阻むものがなくなった、寿命のない者に贈られる。