【完結】無惨様が永遠を目指すRTA   作:佐藤東沙

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5話 「継国縁壱」 室町~安土桃山・江戸(西暦1550~1600年頃)

 その日鬼舞辻無惨は、珠世と共に夕暮れの林道を歩いていた。珠世の医者稼業において、彼女の血の濃度では鬼に出来ない体質の患者に当たったため、足労を願われたのだ。それを受け、たまにはいいだろうと腰を上げたのである。

 

 そして無惨は男に出会った。その男は刀こそ差していたが敵意も殺意も無く、無惨の目には弱そうに映った。あえて目を惹く点を挙げるとするなら、額に炎のような痣がある事だった。そう、まるで黒死牟のような。

 

「……鬼? 鬼舞辻、無惨……?」

 

 男は酷く驚いたような顔をして、無惨の名前を言い当てた。無惨は一瞬だけ驚愕を見せたが、すぐに警戒心を露にした。

 

「なんだお前は。鬼狩りか?」

「継国縁壱。鬼殺隊だ」

 

 縁壱がここにいるのは偶然ではない。最近の隊士殺害事件を受けて、怪しそうな場所を見回っていたのだ。

 そして彼は鬼舞辻無惨の名や鬼の事を噂で聞いており、“透き通る世界”によって生物の体内を透かして見る事が出来る。一方無惨は、人間では有り得ぬ七つの心臓と五つの脳を持つ。ならば、鬼舞辻無惨と継国縁壱の二人が出会う事は、もはや必然を超えて運命だと言えた。

 

 いつか起こる事は必ず起こる。そのいつかとは、まさに今だった。

 

「ここ最近、鬼殺隊の隊士が殺される事件が相次いでいる。その犯人はお前で相違ないか」

「だったらどうした」

「そうか。ならば、見逃す訳にはいかないな」

 

 縁壱が()()と目を細め刀に手をかける。漆を塗ったように黒い刀が瞬く間に赫くなり、それと同時に無惨が腕を振るった。油断や慢心はあったかもしれないが、警戒している今、間違いなく本気の一撃だった。

 

 縁壱は生まれてはじめて背筋を()()()とさせながら、その薙ぎ払うような斬撃を躱した。背後で木が何本も切り倒されるのが分かった。その木が重力に引かれ斜めに傾ぐ前に、縁壱は全力で踏み込んだ。

 

「な…………!」

 

 一瞬だった。縁壱は目にも留まらぬという言葉そのものの速さで無惨の懐に飛び込むと、雲耀すら霞む速度で剣を振るった。無惨は何かに引っ張られたかのように反射的に飛びのいたが、それでもなお縁壱の日輪の如き剣閃からは逃れられなかった。

 

「無惨様っ!」

 

 バラバラの肉片になって崩れ落ちる無惨に珠世が駆け寄り、その首を抱え支える。縁壱は追撃する事なく、赫い刀を手に佇んでいた。つい今しがた刀を振るったとは思えぬほど静やかで、まるで年経た老木のような雰囲気だったが、それが逆に不気味極まりなかった。

 

「戦でもないのに、何故むやみに殺す? 何が楽しい? 何が面白い? お前は、命を何だと思っているのだ?」

 

 首だけとなった無惨に縁壱が問いかけるも、無惨は怒りに赤黒く染まった鬼そのものの形相をするばかりで、言葉は耳に届いてすらいなかった。縁壱は対話を諦め、とどめを刺すべく一歩踏み出したが、その瞬間地面に転がっていた無惨の身体が爆散した。

 

「!」

 

 無惨の肉体だったものは半分が肉片となって縁壱に向かい、半分が血霞となって視界を塞いだ。縁壱が反射的に肉片を斬り捨てる中、血を吐くような声が生首から発せられた。

 

「珠゛世!! 血゛た゛!!」

 

 その声にはっとなった珠世が、反射的に爪で自らの腕を切り裂き血を迸らせた。

 

 ――――血鬼術 惑血・視覚夢幻の香

 

 ここで無惨にとっての幸運があった。珠世に戦闘経験はないが、無惨から多くの血を分け与えられているため、血は濃いのだ。それは即ち、血鬼術の効能も強力になっているという事に他ならない。

 さらに幸運は重なった。縁壱には鬼との交戦経験が無く、鬼について噂以上のものを知らなかったため、鬼が血鬼術という条理を超えた力を持つ事を知らなかったのだ。

 

 だがいくら幸運を積み上げようが、縁壱の剣には些かの陰りも無い。幻炎を纏う赫刀が無惨の撒いた血霞を切り裂いた。いかな日輪刀が太陽の性質を持ち、鬼の血が太陽に弱いとは言え、余人には成し得ぬ絶技であった。

 

「む……?」

 

 それでも、この場での天秤は鬼の方に傾いた。縁壱は鬼の知識がない故に、血霞をあくまでも単なる目眩ましとしか思っていなかったのだ。それは正しかったがしかし、眩ませたのは縁壱の視界ではない。珠世の血鬼術の存在だ。

 

 その存在を気取られぬよう、無惨の血に珠世の血を紛れ込ませたのだ。正面から仕掛けていれば知識がなくとも縁壱は察知したかもしれなかったが、手負いの鬼の決死の策は、縁壱に確かに届いていた。

 

()()()()()()()()()()

 

 珠世の血鬼術が発動する。縁壱の視界に花のような奇怪な紋様が浮かび上がり、全てを覆い隠す。驚いた縁壱が動こうとした時、その足元が僅かにふらついた。

 

「これは……」

 

 珠世の血鬼術は人体に害がある。無惨の血と共に赫刀に斬られて多少効果が薄れたとは言え、全力で行使した血鬼術は、縁壱の身体にすら影響を及ぼしていた。

 

 それでも効果はほんの僅か。もし珠世が、いや万全の無惨であっても、攻撃していれば返り討ちに遭っていただろう。だが自らを知る珠世は隙と見るや、無惨の首を抱えたまま脇目も振らず森の中に逃げ込んでいた。

 

「無惨様! 無惨様、生きていますか!?」

「黒……ぅを…………呼……だ……。…………」

「無惨様!! …………くっ!」

 

 珠世は走る。戦いは門外漢で全く鍛えていないとは言え、その身は人間を超えた鬼。疲労が存在しない事も相まって、呼吸を修めた剣士にも勝るとも劣らない速度を出す事ができていた。珠世が背筋が粟立つような焦燥に焼かれながら走っていると、見知った気配が近づいてくるのを感じた。

 

「無惨様……!」

「黒死牟さん!?」

 

 刀を差した六つ目の鬼、黒死牟だ。無惨が呪いを通じて、たまたま近くにいたところを呼び寄せたのだ。首だけになった無惨を見るや、彼の眼全てが大きく見開かれた。

 

「これは……如何なる事か……お労しや……!」

「鬼狩りに、鬼狩りにやられました!」

「なんと……!? 無惨様をここまで……!?」

「継国縁壱と名乗り、黒死牟さんそっくりの痣がある男でした!」

 

 珠世は黒死牟が元鬼殺隊だという事だけは知っていたので、名を伝えれば何か分かるかと考えたにすぎない。だがその名を聞いた瞬間、黒死牟の気配が激変した。煮えたぎる激情が黒い瘴気となり、彼の身体から立ち昇るのが幻視された。

 

「あ、あの……?」

 

 その気配も、僅かな怯えを見せた珠世と首だけの無惨を再び視界に入れるとすぐに霧散した。黒死牟は自らを落ち着かせるように大きく息を吐くと、即座に指示を出した。

 

「すぐに西の隠れ家に向かいましょう……。もし追って来たならば……私が殿(しんがり)を務めまする……」

「わ、分かりました! お願いします!」

「任されよ……」

 

 そうして二人は主の首を抱え、深くなり始めた夜の中へと消えて行った。

 

 

 ――――古来より、夕暮れを“逢魔が時”、即ち“魔に逢う時”という。そして“魔”には、悪鬼や魑魅魍魎の他にも、化け物や恐るべきものという意味もある。

 

 鬼の始祖たる鬼舞辻無惨と、鬼よりも強い継国縁壱。であるならば、さて。“魔に逢った”のは果たして、どちらだったのであろうか。

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 はいどーもこんにちは……。もう屑運野郎と改名すべきか悩んでる走者です……。

 

 まさかの特大バッドイベントでした。このゲームは原作の修正力とかないはずなのにどうなってんの? つーか兄上はお労しやされる方じゃないんかい。

 

 ちなみに珠世が人前で無惨の名前を呼んでますが、“位置把握”と“読心”の呪いしかかかってないので死にません。四六時中一緒にいるので、他の呪いをかける意味があんまりないですからね。まあいつでも殺せる呪いは仕込んでますが。

 

 さて、いつまでもタイムロスに凹んではいられないんで、切り替えて行きましょう。とりあえず無惨様は縁壱が寿命で死ぬまで引きこもるので早送りです。動けないついでに薬の開発もします。身体を捨て駒にして首だけは残せたので、再生は割と早く済みそうです。

 これでも原作よりはマシなんですよね……マジ縁壱なんなん?

 

 縁壱邂逅はリセ案件かと思われるかもしれませんが、ここはあえてこのまま行きます。珠世が友好的で配下にいる、というのは大きいです。

 仮に再走しても、もう一度同じ事が出来るか分かんないですからね……。珠世と会えるかの運もありますが、それ以上に無惨様は訳の分からんところに癇癪スイッチがあるので、訳の分からん事で訳の分からん怒り方をしてピタゴラスイッチ的にオワタ、ってなる事が結構あるんです。

 頭無惨は伊達じゃないんですよ……伊達であって欲しかったですけど。

 

 ところで今回初めて戦闘パートが出ました。見ての通り、一人称視点のアクションゲームみたいな感じなので、プレイヤースキルが大きな意味を持ちます。

 まあ無惨ルートだとAI任せのオート戦闘でも余裕で勝てるんですけどね。なので今まではスキップしてました。無惨様主人公での数少ない良いとこです。

 

 でも肝心の縁壱戦ではAIは何の役にも立たないというね。高難易度だとAIに任せるとほぼ100%でデッドエンドなので任せちゃ駄目です。原作知ってる初心者がオート戦闘でも行けるだろと舐めてかかって死んで呆然とするのはもはや様式美。何割のプレイヤーが引っ掛かったんでしょうねこのデストラップ。

 

>「無惨様、具合はいかがでしょう」

>「大分マシにはなった。が、完治にはまだ遠い」

>何とか人の形を取り戻した無惨だったが、その内実は酷いものだった。

>今の無惨は重病人と大差ない。鬼殺隊の柱どころか、少し強い程度の平隊士にすら負けかねない。

>首から下は完全に新しく再生させたため傷そのものはないが、首を両断した赫刀の傷が回復を著しく阻害している。

>ゆえに新しい身体は以前と比べ、見る影もなく衰えてしまっていた。

>これを元に戻すまでは、長い時間がかかるだろう。

 

>「とにかく食事だ。食わねば治らぬ」

>「そう仰ると思いまして、すでに用意しています」

>「気が利くな。やはりお前は有能だ、珠世」

>「ありがとうございます」

>無惨は丁寧に頭を下げる珠世を流し見ると、焼き魚に手を付けた。

 

 この流れで焼き魚が出ると一気に所帯じみて来ますね……。まあ要するに『人間と同じ物を食べられるようになる薬』を使ったって事なんですけど。

 

 現状、人間以外で栄養を摂れるのは悪い事ではないですし、そもそも下手に人間を殺すと鬼殺隊(縁壱)が来かねない、と珠世が説得しました。今のところ薬の副作用も見つかってないので抵抗もなかったようです。

 

 しかし意にそぐわない引きこもりのせいでストレスゲージが心配だったんですが、思ったより溜まってないようで一安心。よっぽど縁壱がトラウマになったようですね。そりゃなるか。

 

>「只今戻りました……」

>黒死牟が姿を現し、肩に担いでいた猪をドカリと下ろした。

>食料調達と情報収集から戻って来たのだ。

>「どうだった?」

>「やはり……まだ鬼殺隊がうろついております……。しばらくは……外に出ぬ方が得策かと……」

>「…………チッ、やむを得ぬ、か……」

 

 無惨様がこんなに素直なのも縁壱効果ですね。ナマハゲかな? いや鬼がビビるとかナマハゲより怖いな……。ナマハゲだって鬼だもんな……。

 

>「ところで……猪はご指示通り血抜きも解体もしませんでしたが……よかったのでしょうか……。傷をつけず仕留め……川の水で冷やしたので……、臭くはないと……思いますが……」

>「ああ、それで良い。鬼にとっては血が多い方が栄養になる」

>「黒死牟さん、獣の解体も出来たんですね」

>「兵を率いて……野営をする事もありました故……」

 

 サバイバル力の高い兄上ですねえ……。ちなみに獣に傷をつける形で仕留めると、そこから雑菌が入って一気に繁殖するせいで肉が臭くなるそうです。だから無傷で斃した上で、念のために菌の繁殖しづらい温度にまで冷やしたんですね。

 やたらと描写がリアルなんですが、ゲームの開発陣に猟師でもいたんですかね?

 

 しっかし、鬼になって最初の仕事が上司の介護とか草生えますよ。それでも不満がなさそうな辺り、人が出来てますね兄上。

 

>黒死牟は無惨が動けない間、情報収集に出ていた。

>珠世と無惨から擬態の方法を習い顔を変えていたので、かつての同僚であっても気付かれる事はなかった。

>故に、様々な情報が入って来た。

>例えば、継国巌勝は死体こそ見つからなかったものの、隊士殺害犯に殺されたと思われているとか。

>例えば、継国縁壱が鬼殺隊を追放された、とか。

 

>鬼になった事で良くなった聴覚を駆使して集めたところによるならば。

>継国縁壱は、鬼殺隊士大量殺害犯を取り逃がした責任を取らされ、鬼殺隊を辞めさせられたという。

>中には鬼殺隊士にあるまじきという理由から、切腹すべきという意見すらもあったとか。

>それはお館様、つまり当代産屋敷家当主が止めた事から実現はしなかったが、追放は免れなかったとの事だった。

 

>事の顛末を聞いた巌勝は、ふざけるなと叫びたかった。

>その程度で鬼殺隊士にあるまじきと言うならば、逃げる事も出来ずに殺され屍を晒した隊士は何なのかと。

>殺害犯の尻尾すら掴めず無能を晒した、全ての鬼殺隊士は何なのかと。

 

>継国巌勝は知っている。

>縁壱と比べる事すらおこがましい、屑としか言えぬ隊士がいると知っている。

>その隊士は飲む打つ買うを繰り返し、“色男 金と力は なかりけり”などと(うそぶ)いて部下や同僚、果ては上司にまで金を借りていた。

>犯罪に手を染めていないと言うだけで、その半歩手前にいるような男だった。

 

>だがそんな男でも、切腹どころか追放の話すら出た事はない。

>何故なら男は仲間だったからだ。

>鬼殺隊の仲間だったからだ。

>屑だが鬼殺隊に受け入れられた、肩を並べる仲間だったからだ。

 

>つまるところ鬼殺隊は、継国縁壱を仲間だとは思っていなかったのだ。

>仲間なら誰かが庇ってくれる、許してくれる。(くだん)の屑隊士のように。

>だがそうはならなかった。鬼殺隊が見ていたのは縁壱の呼吸と剣技、煎じ詰めれば強さだけ。

>誰も縁壱の為人など見ていない。強さを仰ぎ見るばかりでその心など見ていない。

>だからこんなに簡単に捨てられる。

>呼吸を習い覚えた以上は用済みだとばかりに、適当な口実で捨てられる。

巌勝()はそれが悔しかった。

縁壱()がそれを気にも留めていないであろう事が、何よりも悔しかった。

 

>だが同時にこうも思うのだ。

>自分にそんな事を考える資格があるのかと。

>弟の剣が目当てで鬼殺隊に入った自分に、彼らを責める資格があるのかと。

>結局のところ自分も、連中と同じ穴の狢ではないのだろうかと。

>真面目さ故に劣等感故に、自身の美点に目が向かぬ男は、どうしてもそう思ってしまうのだ。

 

>それに黒死牟としては、継国縁壱の追放を喜ばねばならぬ。

>鬼殺隊から追放されたという事は、組織の後押しを受けられなくなり、無惨の居場所を探す術を大きく失ったという事。

>どれほど強かろうが、会う事が出来なければ戦えない。

>なればその赫刀が主に届く機会も減るだろう。

>縁壱に及ばず主を守れぬ不甲斐ない男としては、これを喜ばねばならぬ。

 

>だがしかし、ああしかし。

>継国巌勝として黒死牟として。兄として人として鬼として。

>愛情、憎悪、歓喜、羨望、悔恨。抑えきれぬ感情が入り混じり。

>彼の内面はぐちゃぐちゃだった。

 

――――月の呼吸 壱ノ型 闇月・宵の宮

 

>こんな時は鍛錬で気を紛らわせるのがいいと、彼は経験で知っていた。

>鬼になっても変わらぬ三日月が、居並ぶ木々を二つに切り裂く。

>だがその三日月こそが、頭蓋の奥底をぎしりと軋ませる。

>欠けた月たる三日月が、欠ける事なき日輪に届く事などないと声がする。

>所詮月は日の劣化にすぎぬ、お前は弟に及ぶ事はないとどこからか声がする。

 

――――月の呼吸 弐ノ型 珠華ノ弄月

 

>鬼には疲労も睡眠もない。

>疲れ果てて何も考えず眠る事も、鬼には出来ない。

>身体に染み付かせた剣技に些かの陰りもない事が、何よりの皮肉のようだった。

 

 人は出来てますがこじらせてますね兄上……。「兄より優れた弟などいねえ!」の正反対ですから無理もないですけど。兄と弟が逆だったら……いややっぱそれでもこじらせそうですあの人。

 

>「黒死牟さん?」

>かけられた声に黒死牟が振り向くと、そこには珠世が立っていた。

>考えと鍛錬に集中するあまり、接近に気付かなかったようだ。

>自嘲と自戒に沈みかけるが、そこに再び珠世の声がかけられた。

>「相変わらず凄いものですね、呼吸というものは」

>「何が凄いものか……」

>吐き捨てる黒死牟に、珠世が僅かに首を傾げる。

>「主の窮地に駆け付けられぬ剣に……価値などありませぬ……」

>仮に駆け付けられたとしても、縁壱には勝てなかっただろう。

>だがそれでも、受けた恩義に報いぬなどあってはならぬ事。

>勝てずとも時間稼ぎ程度くらいは出来たやもしれぬと思うと、そうしていたなら無惨があそこまで傷つく事はなかったかもしれぬと思うと、彼は自らを責めずにはいられないのだ。

 

>「凄いというなら……珠世殿でありましょう……」

>「え?」

>「戦いを知らぬ方なのは……見ればわかります……。だがそれでも……あの縁壱から無惨様を守り切ったのです……。無能な私とは違いまする…………」

>際限なく()()()()と沈んでいきそうな黒死牟だったが、そこに珠世が三度声をかけた。

 

>「私はかつて、医者の夫の手伝いをしていました」

>「は……?」

>意の掴めぬ言に黒死牟は六つ目を丸くするが、それに構わず彼女は続ける。

>「明日をも知れぬ重病人を診る事もありましたが、彼らはおしなべて盆や正月を過ぎると亡くなる事が多かったのです。何故だと思いますか?」

>「…………。…………見当もつきませぬ…………」

>目をぱちくりとさせる黒死牟に向け、珠世は断ずるように言い切った。

>「逆です」

>「逆……とは……」

>「盆や正月を過ぎると亡くなるのではなく、盆や正月まで持ったのです」

>「それは……」

>「十日以内に亡くなると診断した重病人が、一月以上先の正月を生きて迎えた事がありました。三日以内に亡くなるだろうと思った老人が、盆までの半月を持たせてみせた事もありました」

>珠世がまっすぐ黒死牟を見詰める。その瞳に我知らず彼の背筋がすぅと伸びた。

>「病は気から。これは決して絵空事ではないのです。鬼は病にはかかりませんが、それでも思い詰めていると身体に毒ですよ」

>「顔に……出ておりましたか……。……私も……まだ未熟…………」

>「ああもう、だからそういうところが良くないと言っているのです」

>珠世はため息を一つ吐くと、ふわりと柔らかく微笑んでみせた。

>「ため込んでいても良い事はありません。たまには吐き出す事も必要ですよ。私で良ければ話くらいは聞きますから」

>「お気遣い……かたじけなく……」

>「硬いですね……。というか、敬語でなくていいですよ。長い付き合いになるでしょうし」

>それは暗に、無惨は黒死牟を割と気に入っていると伝える言葉だったが、まだ地盤沈下から持ち直しきっていない彼には微妙に伝わらない。

>「それならば……珠世殿も……」

>「私は誰にでもこのような感じです。特に畏まっている訳ではありません。でも黒死牟さんはそうではないのでしょう? ほら、普通に喋ってみて下さいな」

>「分かりま……」

>じとりとした珠世の瞳が黒死牟を貫く。彼はごほんとわざとらしく咳払いをすると言い直した。

>「……いや……あい分かった……。改めて……よろしく頼む……」

>「ええ、こちらこそ」

 

 うーん、立場的には同僚のはずなんですが、どう見てもメンタルセラピストとその患者……見た目だけなら美男美女で結構お似合いなんですが、どうやってもそういう関係には見えません。

 まあ二人とも既婚者ですし、巌勝の妻に至ってはまだ生きてますからね。別に愛情をなくした訳でもないですし。時代的には一夫多妻でもおかしくはないんですが、巌勝はそういうタイプではないようですね。

 

 というかそもそも鬼って性欲あるんですかね……? 三大欲求が食欲・食欲・食欲って感じの連中なんですけど。無惨様あんだけ美人の珠世と百年単位で一緒にいて何もないんですけど。……いやこの話題はやめときましょう、ドツボにはまりそうです。

 

 ――と、早送りが止まりました。イベントです。西暦1600年頃で、安土桃山の終わり江戸のはじめって辺りですね。

 

>「さて、ようやく身体も概ね治った……。あの男はもう、死んでいるだろうな?」

>「痣者は……二十五に届かず死にまする……。もしそれを……超える事が出来たとしても……、さすがに……寿命を迎えているかと……」

>「寿命か……人間なら当然だな。…………人間かあれは?」

>「…………」

>「…………」

>無惨がうっかり漏らした一言に、何とも言えない沈黙が場に落ちた。

>海外ならば“天使が通り過ぎた”と表現するところであった。

 

>「あ、あの……」

>その沈黙を破る珠世の声に、無惨ははっと我に返ると、雰囲気を切り替えた。

>「そうだな、死人の事をこれ以上考えても仕方ない。珠世!」

>「はい」

>「お前は今まで通り薬を作れ。日光克服薬が最優先だが、有用そうなら他に作っても構わん。回復薬は良い出来だった」

>「ありがとうございます」

>「ああそれから、医者も続けて構わん。あれは中々有用だ」

>「分かりました」

>「よし。黒死牟!」

>「はっ……」

 

>【鬼狩りの壊滅(産屋敷の捜索)を命じる】

>【戦力の増強(鬼を増やす)を命じる】

>【青い彼岸花を探させる】

>【その他】

 

 おっと、選択肢が出ました。これは今後の大方針を決めるイベントですね。ここは【その他】を選びます。

 

>「お前への命令は三つだ。まずは鬼狩りを潰せ。そのために産屋敷の居場所も探せ。頭を潰さねば連中はいくらでも湧いて出る」

>「承知……」

 

>「そして戦力を増やす。有能な鬼になりそうな者を見つけたら私に知らせろ。場合によってはお前が鬼にしても構わん。有能な者だぞ。最低でも私に面倒を持ち込まぬ者だ。いいな?」

>「はっ……」

 

>「最後だが、青い彼岸花を探せ。とは言え前にも言ったが、これは見つかるとは思っていない。だが頭には入れておけ」

>「畏まりました……」

 

 はい、【その他】の選択肢はこういう事です。要するに全部選んでプレイヤー側で優先順位をつける、という事ですね。こうしておくと柔軟に動けます。一応他の選択肢でも選ばなかった選択肢の行動は取りますが、大分行動に偏りが出るので、ここはその他を選んでおくのが正解です。

 薬の開発はそろそろ行き詰まって来てるので、新しい風を入れるという意味でも無惨様が外に出るのは悪い事じゃないです。

 

>「よし、差し当たっては日の呼吸を使う者を殺し尽くす! 行くぞ黒死牟!」

>「委細承知……!」

>「いってらっしゃいませ」

>日の呼吸の使い手は、無惨にとってはトラウマの代名詞で、黒死牟にとっては弟を追い出したにも関わらず()()()()とその成果を使っている連中の代表格で、珠世にとっては恐怖を伴って思い出されるものである。

>ゆえに無惨の言葉を止める者はなく、ここに彼らの命運は決まった。

 

 なんか意図した訳でもないのに、ここは原作通りになりそうです。可能不可能で言えば可能でしょうしね。炭治郎を見れば分かりますが、日の呼吸が特別強いんじゃないです。日の呼吸を使う縁壱が強いんです。やっぱあれ人間じゃないです。

 

 あと、ここでは出てませんが、無惨様には鬼狩り狩りと戦力増強の他に、薬開発と無限城建築の仕事もあります。と言っても無限城の方は前に言った通り、適当に鬼にした鬼殺隊員を使い潰すだけなんで、自分でやる訳じゃないですが。

 

 ちなみに兄上は無惨様の介護をしてたので、縁壱が老人になるまで生きてた事を知りません。最後に会ったのは多分、鬼殺隊に所属してた頃ですね。鬼になってからはニアミスはしても会ってはいないはずです。

 

 さてと、今日はこの辺で終わりにしたいと思います。いやー縁壱は強敵でしたね。マジ強敵でしたね……絶対どっかバグってますってあれ……。公式チートって言っても限度があるだろマジで……。

 まあ何とか乗り越えられたんで、あんなバグは忘れましょう! 次回からは鬼ガチャを本格的に回していけると思います! それでは皆さん、ありがとうございました!

 

 

 …………今日は終了宣言の後にガバはなかった……。つまり実質ガバなし! ヨシ!(現場猫並感




今日の主な獲得トロフィー

「万死一生」
 絶体絶命の窮地から生還した者に贈られる。

「鬼を超えた鬼」
 日輪刀で頸を斬られても死ななかった鬼に贈られる。

「天照越え」
 一年以上一歩も外に出なかった者に贈られる。
 

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