チートTS転生したら、碁の神様と出会った俺の人生 作:クロス・クロス・クロス
検査入院から退院した後、俺はあかりと遊びながら、佐為に碁を教わった。
それのお礼という、訳ではないが、俺は佐為と共に図書館へ行き。資料を探してみると最新ではないが、現代のプロの対局が纏められた本がそれなりにあり。その本に佐為は興奮気味に喜んでいたので、俺は数日の間、図書館に入り浸った。
あかりも俺が碁を始めて興味を持ち、途中から俺と打ち始め、佐為には本を見せながら、ページを読んだら声をかけてもらい、あかりとマグネット碁を打った。
佐為が読む本はハイレベルなので、俺にはまだ理解出来ない。家に帰ってから、色々と佐為に教えてもらうことにしている。
あかりも碁が楽しいみたいで、はじめたばかりの者同士なかなか良い対局が出来た気がする。
『なるほど、素晴らしい対局ですね』
「(楽しめた?)」
『はい、こんなにも沢山の碁の書物があるとは、そろそろ試したくなってきました』
「(なら、そろそろ俺やあかり以外とも打とうか)」
『そうですね!』
「(なら、まずはアキラを探そうか、知っているなかで恐らく一番強いのはアキラだし)」
こうして、俺は久し振りに塔矢アキラと出会った囲碁サロンへ足を運んだ。
★
「こんにちはー」
「あ、君は」
「お久し振りです」
入り口で受付嬢のお姉さんに挨拶すると、囲碁サロンの店内がざわついた。店内にいた客からは「あの子」「アキラくんに勝った子だ」的な声が聞こえてくる。
「ヒカル!」
俺が店内を見回すとちょうど対局を終えたアキラが立ち上がり、俺の名前を呼んだ。
「やっほー、アキラ。久し振り、良かったら一局打たない?」
「え、あ、うん! もちろんだ!」
俺は受付嬢のお姉さんに料金を支払って、アキラの下へ。
「(佐為、勉強したから、この前よりも強くなった?)」
『ええ、ヒカルのお陰で、ふふふ』
「(なら、全力で……と言いたいけど、加減しなよ)」
『えぇ、分かっていますよ、ヒカル』
この時、俺も佐為もアキラという少年の力を舐めていた。
「じゃあ、前回は俺が勝ったから、黒はアキラね」
「え?」
「ふふふ、全力でかかってくるが良い! 挑戦者よ!」
冗談で魔王のようにやや明るく言ったのに、アキラ何故か勇気を振り絞るような感じで大きく頷き、
「う、うん。分かったよ!」
と、宣言するように、最初の一手を打ってきた。
こうして、俺と佐為は眠れる獅子を目覚めさせることになった。
★
さて、スキルを使っていない俺は、碁は素人だ。
なので、佐為の指示に従い碁石を置いていく。
碁石の置き方が素人なので、周りのギャラリーが最初はソレにざわつく。けど、俺の打った場所でざわつく。
でも、俺はそれを無視して、どんどん碁石を置いていくが、直ぐに佐為が戸惑い、いや驚愕したような雰囲気に変わり。
佐為の表情が一瞬苦悩するような表情を浮かべた後、刀のように鋭い雰囲気になったかと思うと、対局しているアキラの額に大粒の汗が浮かび上がった。
そして、四手目でアキラが微かに震え始めた。
「あ、ありません……」
「え?」
項垂れるアキラに、戸惑う俺に佐為が
『中押しです。アキラは敗けを認めました』
俺は慌ててスキル【囲碁】スキルを五割ほど発動して、盤上を見てみると、
「(い、一刀両断!? さ、佐為! 小学生相手に何を!!)」
『すみません。ですが、そうでなければ……』
俺が佐為に更に言葉をかける前に、
「お、お嬢ちゃん、大丈夫か!?」
「え?」
周りで俺とアキラの対局を
と思った時には遅かった。
――ダラダラと鼻から血が出始めた。
「え、あっ! ちょっ、しまった!」
「え?」
アキラの声が聞こえたが、俺は慌てて両手で鼻を押さえて立ち上がり、
「お、お姉さんティッシュを下さい!」
叫んだ瞬間、
――グラリ、と激しい目眩に襲われた。
鼻血が出ているのに、慌てて立ち上がった為に俺はそのまま、
――バタンッ!! と激しく床に倒れ混むことになった。
★
「いやぁ、ご迷惑をおかけしました」
「もう、びっくりしたわ。けど、大丈夫?」
「ええ、大分マシになりました」
囲碁サロンの端の方に椅子を並べて鼻にガーゼを入れた状態で休んでいる俺。
あの後、ちょっとした騒ぎになったが、内科医のお客さんがいて、軽く診察したあと問題ないと言ってもらえたので皆ホッとしていた。
俺も受付嬢のお姉さん。市河さんに、良くあることだと言って、納得してもらった。
不用意にスキルを使うと大変なことになるね。
ちなみにアキラは心配そう近くの席に座り、俺を見詰めてくる。
「ヒカル」
「ん?」
「大丈夫?」
「大丈夫、大丈夫、それよりもアキラ」
「なに?」
「ごめんな」
「え、なにが?」
「俺、アキラの力を低く見ていた」
俺の言葉に、アキラが苦しそうな表情になった。
「だから、即座に一刀両断することにした。そうしないとこちらが負けた……」
「え……?」
呆けるアキラに俺は言った。
「また打とうアキラ」
俺がそう言うと、アキラの暗い表情だったが、直ぐに笑みを浮かべて、大きく頷いた。
「もちろんだ。ヒカル!」
こうして、俺達は連絡先を交換した。良し、これで佐為を退屈させない相手が一人出来た。俺では一局を全力で打つとそのまま入院するはめになるから助かるよ。
佐為はアキラが将来獅子になるか、龍になるか分からないと言った。
将来のことを考えて仲良くしておいた方が、佐為の為になる。それとアキラはプロを目指すか悩んでいたが目指すことにしたらしい。強い佐為と打てばアキラの修行にもなるので。お互いにWin-Winな関係だ。
あ、ちなみに俺が「アキラは俺と同じ龍にもなるのか」と呟くと、佐為は『ヒカルの場合、龍は龍でも、青龍などではなく、八岐大蛇ですね』とか言われた。
……解せぬ。
「ふぅ、そろそろ平気かな。アキラ。今日はこれで帰るよ」
「あ、うん」
「一人で大丈夫?」
「大丈夫ですよ。市河さん。じゃアキラ、市河さん。またね」
「うん、またね、ヒカル」
「またね、ヒカルちゃん」
この時、俺は疑問に思うべきだった。
アキラが大人が多いこの囲碁サロンの常連と仲が良いのか、囲碁の腕が年齢に似合わず凄まじいのかを。
★
「それ、本当ですか? 市河さん」
「ええ、同い年くらいの女の子でしたよ」
「面白い話ですね」
後日、ヒカルに眼鏡白スーツと心の中で呼ばれる緒方精次はニヤリと笑みを浮かべた。