チートTS転生したら、碁の神様と出会った俺の人生   作:クロス・クロス・クロス

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誤字指摘ありがとうございます!


知らずに好感度が上がる。

――囲碁盤店 前で

 

 

 

「ここで、あってる?」

「うん、ありがとう。えっと……」

 

黒髪和服少女が口ごもったので、自己紹介をしていなかったことを思い出して、改めて自己紹介をする。

 

「進藤ヒカル、小学六年だ、よろしく」

「わ、私は天辻埋、小学五年生です」

 

一つ年下だったか。

 

……俺、今、自然に小学生六年生と自分で認識していたな。ちょっとショックだ。

 

前世と合わせてアラフォー! 前世と合わせてアラフォー! 前世と合わせてアラフォー!

 

良し、アイデンティティー確保。

やはり、今の性別が女で、小学生だというのはまだまだ、受け入れる辛いなぁ。

 

「それじゃあ、入ろうか」

「え?」

「このお店に用事があるんだよね。最後まで付き合う」

「は、はい、ありがとうございます。けどいいんですか?」

「お、わたしも囲碁してるから、ちょっと見たいんだ」

「囲碁、してるのですか?」

「うん、変かな?」

 

俺の言葉に、天辻さん首を横に降った。彼女の表情にはちょっとの驚きと喜びを感じる。女の子で囲碁をしているのは珍しい。

 

「いいえ、私も囲碁を、しています」

「そうなの? なら、時間があるなら、後で打とう」

「は、はい」

 

そして、俺達は囲碁盤店に入る。

 

店内はこじんまりとしてはいるが、高級店のような内装と雰囲気だった。

 

「いらっしゃい」

 

店内に入ると、初老の男性がカウンターに立っていた。

 

「お、おじさま」

「おぉ、埋ちゃん。待っていたよ。おや、そちらは?」

「あ、わたしは天辻さんが、道に迷っていたので案内をしたんです」

「ほぉ、それはありがとう」

 

頭を下げる品の良い初老の男性に「いえ」と答える。そして、隣でかなりそわそわしている佐為の為にも店内を見ても良いか訪ねる。

 

「あの見学しても良いですか?」

「かまわないよ。しかし、御嬢さんが見ても」

「いえ、碁をしていますので」

「ほぉ、それはそれは」

「あ、天辻さん、話を遮ってごめんね」

「う、ううん」

 

軽く天辻さんの背を押すと、天辻さんは初老の男性店員の下へ。

 

俺はそれからしばらく、店内を見て回る。

 

「どんな碁盤が良いの?」

『材質にも色々ありますが、 一番良いのは榧で――』

「ふんふん」

 

それからしばらく、佐為の解説を危機ながら碁盤を見ていく。安いものなら、買っても両親に怪しまれないかな?

 

「あ、これくらいなら、怪しまれずに買えそうだな」

「怪しまれずに?」

「うぉっ」

 

後ろから声を掛けられて、変な声が出た。

 

振り返ると天辻さんが立っていた。

 

「何でもないよ。もう用事は良いの?」

「はい、終わりました」

「そうなら良いけど」

「はい、だから碁を打ちましょう」

「うん、いいよ。じゃあ、どこで打とうか」

 

俺がそう言うと、初老の男性店員が俺達に声をかけてきた。

 

「なら二階の応接間で打つかい? 埋ちゃんを案内してくれたのだし、御茶くらいご馳走しなければね」

「いいんですか?」

「あぁ、勿論だよ。それに、熱心に碁盤を見ていてくれたからね」

「はい、見ていて、面白かったですよ」

「最近は若いお客さんも減ったからね。熱心に見てもらえて嬉しいよ」

 

なるほど、熱心に見ていたから、店員に好印象を持たれたらしい。

 

「では、御言葉に甘えて」

「こっちだよ、二人とも」

 

 

 

二階の応接間は、恐らく上客用の空間なのだろう。

綺麗に掃除されていて、ソファやテーブルなどは高級感があった。

 

そして、出された御茶と御菓子も上品な和菓子だ。

 

「それじゃあ、終わったら声をかけてくれ」

「はい、おじさま」

「それと、ヒカルちゃんだったね」

「はい?」

「負けても気を落とさずにね」

 

え? その言い方はもしかして、天辻さんはかなり強い?

 

「(アキラ並かな?)」

『分かりませんが、油断せずに行きましょう』

「おじさま!」

「ああ、ごめんよ。ごゆっくり」

 

スッとドアが閉まると「おじさまったら」とちょっと拗ねた天辻さん。

 

「まあ、はじめようか」

「はい、それでは握りますね」

 

黒は天辻さんに決まり、俺と天辻さんは頭を下げ。

 

「「よろしくお願いします」」

 

互先での対局。俺はスキルを使わないように気をつける。

 

『いきますよ、ヒカル』

「(あぁ)」

 

 

 

天辻埋は目の前にいる年上の少女を見ながら、少しだけ困っていた。

 

彼女は碁の才能に溢れ、将来はプロになり。タイトルを手にいれることを目標としていた。

 

関西では同世代ではほぼ敵なし。既にプロにもなれる技量があった。

 

折角知り合えた親切な、同じ碁が趣味な女の子。

心を折るようなことはしたくなかった。故に手加減をして勝つつもりだったのだが。

 

「(どうしよう、素人の手つき)」

 

碁の打ち方がどう見ても素人だった。

天辻は落胆した。だが、それも徐々に驚きに変わる。

 

「(え、ええ、そこは!?)」

「……強いね」

「え?」

「片鱗だけだけど、貴女は塔矢アキラ並かもしれない」

 

進藤ヒカルの言葉に、彼女は衝撃を受けた。

塔矢名人の息子の名前。強いと聞いたことがある。その彼を知っている?

 

困惑する天辻。ヒカルは碁盤から顔を上げて、天辻に問いかける。

 

「……どうする? 最初から打ち直す? 全力で戦うために」

 

進藤のその言葉に、碁盤上を確認して、天辻は暫し考え、深く呼吸する。

 

このままでは、負ける。仮にやり直して此方が勝っても、今まで対局した同世代の子達のように負けても彼女は騒がないだろう、と思った。

 

「最初からお願いできますか?」

「うん、今度は最初から全力で」

「はい、いきます」

 

この日、彼女はもう一つの大きな壁と目標を見つけた。

 

 

 

 

「……ありません」

「ありがとうございます」

「……ありがとうございます」

 

 

俺は小さく息を吐き、佐為に視線を送る。

 

『アキラ並、いえ……アキラよりも強いかもしれません』

「(嘘、本当に?)」

『はい、将来が楽しみです』

 

俺はじっと碁盤を眺めている天辻さんを見る。

そうか、それは楽しみだ。

 

「あ、あの」

「何?」

 

遠慮がちに天辻さんは提案してきた。

 

「もう一局、いいですか?」

「もちろん」

 

俺は佐為を見ると、佐為も大きく頷いた。

 

 

 

 

あの後、二度と対局して、囲碁盤店を後にした。

おじさまと呼ばれていた初老の男性店員は、「埋ちゃんに勝った!?」と驚いていた。

 

そして、天辻さんとの三度目の対局を見て、更に驚いていた。

 

おじさまは、プロの対局も多数見ている方なので、俺の強さが分かったらしい。

 

そして、帰り道。

 

「じゃあ、明日の朝に奈良に帰るのか」

「うん」

 

天辻さんは本来は奈良に住んでいるらしく、今は両親の仕事でこちらに来ていたらしい。

 

「じゃあ、連絡先交換しない? また、此方に来たときのために」

「いいのですか?」

「うん」

 

こうして、俺は天辻埋と出会った。

時間があれば、アキラやあかりにも紹介したかったが、今回は諦める。

 

「それでは、私はここで」

「ああ、またね。天辻さん」

「埋です」

「え?」

「呼び捨てで良いです」

 

天辻さん。いや、埋の言葉に頷き。

 

「ヒカルでいいよ」

「はい、ヒカルお姉様」

「ははは、年上だけど様って、柄ではないかな」

「では、お姉さん」

「うん、それで、……それじゃあ、またね」

「はい、また、会いましょう。ヒカルお姉さん」

 

正直なことを言うと、付き合いがあっても、電話くらいだとこの時は思っていた。

 

 

 

生涯に渡って、俺は彼女と付き合うとは、本当に思わなかったがな!!

 

 

 

凄い人だった。碁の神様がいるなら、感謝を捧げたい。

 

「ああ、ヒカルお姉さん……、次は必ずや」

 

天辻は瞳をキラキラさせながらも、その奥には燃え盛る業火のような闘志を宿していた。

 

 

 

 

 

――◯◯年後 某ファーストフード店

 

 

 

「それで? 急に呼び出して、どうしたんだ、アキラ」

 

すっかり、プロの貫禄が出てきたスーツ姿のアキラ。だが珍しく、その表情は暗い。

 

「実は、日中の囲碁交流会で中国に行く、メンバー決まったんだ」

「へー、誰がいく……の?」

 

アキラの様子で、俺はもしかして、と思いアキラと目が合う。

 

「彼女が中国から指名された」

 

その言葉に俺は頭を抱える。

最近、囲碁に限らず、将棋やスポーツでもぶっ飛んだ人間が増えてきた。

 

彼女は普段からぶっ飛んでいるが、国内なので、問題はない。後始末は大変だけど。

 

だが、国外に出るとなると、色々と洒落にならない人物だ。

 

碁の強さで、彼女は世界でも上位に入る実力者。

 

容姿も美しく、礼儀作法もしっかりして、何処に出しても恥ずかしくない大和撫子だ。

 

 

――酒が入っていなければな!!

 

 

「あの娘以外にも居たでしょうに」

「最初は君を呼びたかったらしい」

「え?」

「中国は国を上げて、囲碁を盛り上げている。その中で世界的にも有名な女性の碁打ちは、ヒカルか彼女だ」

「あー、まあ」

「でも、ヒカルはプロではない。だから、断念したんだ」

 

溜め息をつくヒカル。

 

「兎に角、あの娘に酒だけは飲ませないで」

「分かっている、けれど不安なんだ。だから一緒に」

「嫌だよ」

「何で!?」

「今まで何回、あの娘を大人しくさせたと思うの?」

 

俺が微笑むとアキラは黙り混む。

飲ますな! と言ったのに酒を飲まれて、日本刀片手に大暴れ。一升瓶をらっぱ飲みしながら、放送禁止ワード全開。

 

酒さえ飲まなければ問題ないのだが……。

 

「はぁ、分かった。頑張るよ」

 

肩を落とすアキラ。

 

「うん、たまにはゆっくりさせて」

 

 

後日、俺はアキラと緒方さん。日本棋院のスタッフの涙目混じりのHELPに俺は結局中国へと向かうことになった。

 

 

緒方さんまで、涙混じりだったけど、あの子は何をしたんだ!?

 

 


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