チートTS転生したら、碁の神様と出会った俺の人生   作:クロス・クロス・クロス

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燃え尽きたぜ

休日、学校が休みだ。

 

今日はアキラとヒカルは囲碁サロンで対局する約束をしていた。

 

連絡先を交換したあと、ヒカルとアキラは毎日ではないが、対局をしている。

 

だが、今日は少し用事かあって予定よりも遅れた上に人身事故で電車が動かず、かなり焦っていた。

 

――ヒカルは怒っていないだろうか?

 

アキラにとって、自分よりも実力のある同い年の少女との対局はアキラの実力を上昇させ、心にも男の子らしい変化を徐々にさせていた。約束に遅刻して嫌われたりしないだろうか、といった風に。

 

――早く打ちたい。ヒカルと。

 

ヒカルと対局で、向かい合い、ビリビリとした雰囲気での対局は、体力を消費するが。終わった後の充実感は心地好い疲れだった。

 

――今日も楽しみだ。

 

ヒカルと碁を打つ時間は、アキラにとって大切な時間になっていた。

 

実は頭の片隅に、プロにならずにずっとヒカルとだけ碁を打っているのも悪くないかもしれない。と考えはじめていたりする。

 

 

「こんにちは、市河さん」

「あ、アキラくん」

 

囲碁サロンに入ると、困惑した表情の市河がいた。

 

「あれ、どうかしたんですか?」

「そ、それが……」

「?」

 

歯切れの悪い市河が、店内の人だかりのできている一角があったので、アキラは何となく人だかりが出来ている所へ近づく、すると常連達がアキラに気づき、道を開けた。

 

するとそこには、

 

「ヒカル、と……緒方さん!?」

「あ、アキラ。良かった! この状況、どうしたら良いかな?!」

 

アキラの見たもの。それは兄弟子である緒方精次が昔のボクサー漫画みたいに、真っ白に燃え尽きた姿だった。

 

「な、何故、緒方さんが……?」

 

燃え尽きた状態に!? 困惑しているアキラにヒカルが説明し始める。

 

纏めると、緒方がアキラに勝ったヒカルに興味を持つ。

ここ最近、アキラがヒカルという少女と対局し始めて強くなった。

 

なので、ヒカルの実力を試しに、対局をしてみたのだが。

 

互先だったのだが、ヒカルに舐めてかかり、佐為にボコボコにされたのだった。しかもヒカルの提案で序盤は意味がないように思わせ、終盤で牙を剥いてくるような凶悪な罠を複数用意し、それがものの見事に嵌まった。

最初は期待外れ、中盤は思ったよりやるな。

 

終盤は、そんな馬鹿な!? とくるくる緒方の表情は変わった。

 

最初の対局が余程悔しかったのか、負けた直後に緒方は再戦を希望。

 

今度は真っ向からの切り合いのような対局だったが、佐為に切り伏せられた。

 

そして、三度目の対局で、やや緒方に押され気味になったが、佐為は日々成長する。そして、ヒカルは自身には才能がないと思っているが、二人がほぼ同時に新たな一手を見つけ出し、緒方は馬鹿な! と呻いて、投了した。

 

プロ棋士で九段、そんな自分がアマチュアのしかも小学生の女の子に三連敗。

 

あまりの衝撃に、緒方は真っ白になった。

 

「どうしよう、アキラ。さっきから声をかけているんだけど、反応が無い……」

「あー、うん……」

 

どうしよう、とアキラも困惑した直後。

 

「進藤! もう一局だ!」

「うわっ!」

「あ、復活した」

 

突然ガバリ!と立ち上がると緒方は、ヒカルにもう一局と詰め寄るが、ヒカルは「あ、次はアキラと打つので」とアッサリ断る。

 

すると、グルンッ! とホラー映画のように首を動かす緒方はアキラを見てこう言った。

 

「譲ってくれ」

「え?」

「順番、譲ってくれ!」

 

この後、大人気なく騒いだ緒方は、席を立ったヒカルに大人気ない! と、ヒカルに割りと本気で脛を蹴られて、その痛みで彼はようやく冷静になった。

 

 

 

「藤原佐為……」

「聞いたことのない名前ですね」

「まあ、無名だと亡き師匠も言ってましたからね」

 

この日、俺は緒方さんと四回対局して、四勝。アキラとも一回対局して、一回勝った。

 

 

 

プロの緒方さんに勝ったことで、俺もとい佐為の実力に周りの常連はもちろん。緒方さんも驚き、どうやってここまで強くなったのかと問われた。

 

そこで前から佐為と考えていた、偽の設定を使った。

 

簡単に言えば、無名だけど古くから碁を研究している集団の一人だった師匠。藤原佐為という人物に教わった。と言うことにした。

 

更に本当かどうか分からないけど、藤原佐為という名前は偽名もとい、襲名みたいな感じで、受け継いでいる名前とも伝えた。

 

「けど、ヒカルを短期間でここまで強くするなんて、とんでもない方ですね」

「うん、タイトル持ってる人並みに強いと思うよ。結局一度も勝てなかったし」

 

君に無敗って……、とアキラが戦慄している。緒方さんも同じく驚くが、軽く咳払いをして、俺に質問をしてきた。

 

「しかし、何故君の師匠は表に出てこなかったんだ?」

「さぁ? その辺の事情は分かりません。知る前に亡くなりましたから」

「そうか……、ところで進藤はプロを目指すのか?」

「いいえ」

 

アキラには既に話していたので、アキラは驚かないが、少し残念そうだ。

 

緒方さんは驚いているが。

 

「何故だい? 君ならプロとしてやっていけるだろ?」

 

俺はプロに誘われた時の回答は用意していた。

 

「俺は人の人生終わらせるようなことは、したくありません」

「人生を終わらせる……?」

 

アキラには既に理由も教えているので、なにも言わない。緒方さんは難しい表情をしている。

 

「プロの人は全てをかけて碁を打ちます。俺はそうじゃない。仮に全てを碁にかけている人と対局し、俺が勝った後、その人が自殺したら? 将棋のプロでは自殺する人もいるようですし」

 

最近は無いが、調べれば対局に負けて、思い詰めて自殺するプロは過去にはいた。

 

「何より、俺は碁を楽しむためにしています。勝ち負けではなく。もちろん、負けたら悔しいので全力で勝ちにいきますが」

「そうか……」

 

緒方さんはそう言うと何事か考え始めた。

 

「君はアマチュアで活動するのか?」

「はい、それにアマチュアに強い者がいると分かれば、暇な時にでも、プロの方から試しに対局を持ちかけてくるはずです」

 

現に緒方さんが釣れました。というと緒方さんは渋い顔になった。

 

「確かに君ほど強いなら対局をしたいと願うだろう」

「それで、今のところは満足なんですよ」

 

俺は佐為を見ると、緒方さんと良い碁を打てて、満足そうな佐為が頷いていた。

 

それに、佐為とはプロを目指すかどうか話し合って、ならないことを決めた。

 

理由はいつか、佐為が成仏したあと。俺はスキルを使っても、佐為のように碁を打てない。

 

碁を打てないならば、引退するしかない。けれどすんなり引退出来るだろうか? タイトルを手に入れていたりしたら、簡単には辞められないだろう。俺は佐為抜きで戦う羽目になる。

 

もちろん、その時にはある程度は実力をつけて、スキルの負荷や反動を押さえられるかもしれないが、辛い戦いになるのは想像できる。

 

仮に戦えたとしても、俺と佐為の戦い方が違いすぎる。

 

だから、アマチュアで活動するつもりだ。引退もしやすいし。

 

何より、生意気なアマチュアがいるらしい。で、寄ってきたプロ達を返り討ちにしやすいだろう。

 

まあ、気長にやるつもりだ。

 

「では、時間なので帰りますね」

「ああ、ではまた」

「はい、アキラも」

「うん、気を付けてね。ヒカル」

「分かってる、またね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、朝早くからいたお陰で、予想外に緒方プロと沢山碁を打てたけれど、作戦、上手くいくと良いな」

『はい、あの者と是非、対局をしてみたいと思います』

「うん、俺も見たい。佐為が塔矢名人と戦うところ。…九段を倒したんだ。興味を持つはず、その内に会えるかもしれないね。塔矢パパさんに」

『ええ、楽しみです』

 

 

ヒカルはニヤリと、佐為は扇で口元を隠しながら笑みを浮かべる。

 

非公式であろうと、小学生の女の子が緒方九段を倒した。

 

囲碁サロンの常連から話は漏れる筈だ。

 

そこに、塔矢をプロと俺もとい佐為が対局すれば?

 

「そう言えば、アマチュアの大会があったね、出る?」

『良いのですか?』

「うん、もちろん」

 

色々な人と打ちたいでしょう?

 

俺の言葉に佐為はウキウキしていた。

 

 


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