チートTS転生したら、碁の神様と出会った俺の人生   作:クロス・クロス・クロス

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アキラパパ

塔矢行洋。塔矢アキラのパパで、タイトルを四つ持っている人物。そんな人と対局することが決まっている。

 

正月の初日は穏やかだけれど、徐々に闘志を燃え上がらせている佐為につられるように、俺も日々の念などの鍛練に力が入る。

 

俺が考えて打つわけではない、だが、ヘラヘラして佐為の邪魔をしてはダメだ。

 

鍛練と平行して、精神鍛練を始める。これからもプロと対局することを考えて、本格的に瞑想を取り入れた。

 

俺は目を伏せて、口を閉じ、鼻でゆっくりと音を出さないように呼吸する。

 

前世のテレビ番組で、ヨガを教えているベテランのトレーナーは「瞑想する時は、自分が今息を吸っている。今は自分は息をはいている。と、意識しながら、徐々に無意識に持っていくと良い」と言っていた。

 

佐為も正座して、瞑想をしていた。あまり長い時間瞑想するのはまだ難しい。

 

それと、本番を想定して、塔矢名人の威圧に負けないように、佐為にお願いして、佐為と向かい合い。本気の佐為威圧を受けて耐える。この訓練のおかげで、対局時の佐為が発する圧にスキルを使わずに、素の状態でもある程度平気になった。

 

明鏡止水の心には遠いが、足は引っ張らないようにしなければ。

 

 

俺の様子がおかしいのに両親も気づいて、何事かと声をかけてきた。

 

少し、迷ったが、アマチュア囲碁大会が近いのと、凄く強い人と対局するとだけ教えておいた。

 

両親はなるほど、と納得し。アキラパパと対局する前日の夕飯がカツ丼だったのは、思わず笑ってしまった。

 

「行こうか」

『ええ、ヒカル』

 

年末に新しく買ったラフな服を着て、俺はアキラの家に向かった。

 

 

 

「いらっしゃい、ヒカル」

「久し振り、アキラ」

 

出迎えてくれたアキラは、品の良いシャツとズボン姿。

良いところのお坊ちゃんだ。いや、女の子にも見えるな。三十年経っても、アキラパパみたいな渋い感じになる想像がつかない。会ったことないけれど、アキラはママさん似なのかな?

 

 

それと、アキラの家は想像していた武家屋敷! みたいな大きさではないが、立派な品のある和風の家だった。

 

俺は持ってきた手土産の紙袋をアキラに渡し、アキラに家に入り、アキラの母。塔矢朋子さんと挨拶をする。

 

軽く話をしたのだが、何故か「髪は伸ばさないの? 普段スカートは履かないの?」などのファッションの話になり困惑した。

 

途中で、アキラが助け船をだしてくれて、アキラに手を引かれながら、アキラパパの元へ。

 

そんな俺達を見て、何故かアキラママが嬉しそうな表情をしていたのが気になったが、今はアキラパパに集中しよう。

 

 

案内されたのは、弟子の皆と研究会で対局する部屋だった。

 

「初めまして、私が塔矢行洋だ」

「進藤ヒカルです、初めまして」

 

お互いに自己紹介を行い、碁盤を挟んで座ると、アキラパパからいくつか質問された。

 

俺の師匠は誰なのか、囲碁を初めてどれくらいなのかなどだ。

 

全てを答えた後、何事かを考えるアキラパパは、

 

「師匠と出会い、約三年でその棋力。信じがたいが……」

「打ってもらえれば証明できます」

「分かった」

 

俺が頷くと佐為が臨戦態勢に入った。

 

 

 

塔矢行洋は、目の前にいる息子と同い年の少女が気迫に空気に思わず息を飲んだ。

 

本当に息子であるアキラと同い年なのか?

 

息子から自分と対局しているようだ。弟子の緒方からは、タイトルホルダー以上の気迫を感じたと聞いていた。

 

普通に考えればあり得ない話だ。

小学生六年生、しかも女子がタイトルを持っている棋士以上の棋力と気迫を放つなど。

 

だが、その少女は現実に目の前に存在する。

 

「名人が黒ですね」

「そのようだ。始めようか」

「はい、お願いします」

 

二人の対局が静かに始まった。

 

 

 

素人の手付きで碁石を置くとアキラパパは、少し驚いていた。

 

けど、対局が進めば気にする暇など無くなったようだ。

お互いにじっくりと碁を打つ。

 

プロの公式戦では時間制限があるが、今日はない。

 

対局が進めばアキラパパと佐為、二人の表情は徐々に険しくなっていく。

 

俺はスキルを使っていないので、対局がどうなっているか分からない、だが出来るだけ佐為の足を引っ張らないように落ち着いて碁石を碁盤に置いていく。

 

アキラパパからプレッシャーが凄い、だが負けない。

 

けど押し返す様なことはしない。受け流す。

白と黒が盤上を埋めていく。

 

アキラパパ、名人と佐為が作り出す世界。

それは、とても美しい世界が創られていく。

 

「素敵ですね」

 

俺は思わず、そう呟いていた。

 

 

 

「素敵ですね」

 

小学生なのに、無駄に息多めで呟くヒカル。

 

二人の対局の邪魔にならないよう、壁際で座っていたアキラはヒカルの表情を見て思わずドキッとした。

 

普段は男勝り、ボーイッシュな少女だが。良い対局になると、盤上を眺めながら額にうっすらと汗を滲ませ頬を紅く染め、うっとりとした表情になる。

 

自分ではヒカルを本気にさせられないことに悔しさと、本気でヒカルと対局出来る父親にアキラは嫉妬した。

 

自分がヒカルを対局中にあの表情したとは数えるほど。

 

「この時間がずっと続けば良いのに」

 

父、行洋を見据えながら、発したヒカルの言葉に、ギッと奥歯を噛ましめるアキラ。自分の実力は分かっている。自分の実力はまだまだ父よりも劣る存在だ。

 

もっと強くなりたい。アキラは心の奥に闘志を燃やした。

 

 

 

 

「ありません」

「あ、ありがとうございました」

 

名人の言葉を聞いて、俺は深い息を吐く。集中力が切れて心臓がバクバクいってる。

 

対局が終わり、名人から対局中に受けていたプレッシャーが無くなったのもあり、俺は疲れが一気に体にきた。

 

佐為も疲労を隠せていない。だが、

 

『勝ちました』

 

絞り出すように言うので、恐らくギリギリの勝利だろう。

 

「ヒカル君と呼ばせもっても?」

「だ、大丈夫です」

「見事な一局だった」

「ありがとうございます」

 

俺が頭をさげ、顔を上げると真剣な表情の名人に俺が少し怯むと、

 

「君は何者だ?」

「え?」

「と、父さん?」

 

名人の言葉に、俺はやはり小学生の女の子が数年で名人に勝つことは、天才の一言で終わらせられる訳がないか。

 

だが、佐為のことを告げても頭のおかしい子供だと思われるか、馬鹿にしていると思われるだけだろう。

 

さて、どうするかな。と素早く考える。

 

「すぅーっ、はぁーっ」

 

俺は深く息を吸い、念を使って軽く圧を出す。

 

俺の纏う雰囲気が変わったことで、名人とアキラが、少し緊張した面持ちで、俺の言葉を待つ。

 

「改めて、自己紹介をさせていただきます。

 

千年前、平安時代から神の一手を追い求める囲碁狂いの集団、藤原一門の最後の一人が私です。そして、亡き師である藤原佐為に、藤原一門の碁の全てを叩き込まれました。更に私はそこにいるアキラ君以上に碁の才能があった。それ故に名人とも互角に打つことが出来たのです」

 

「…………」

 

俺と名人は暫し見つめ合い、名人が目を伏せて小さく息を吐くと、

 

「分かった。ヒカル君、また碁を打とう」

「はい、ありがとうございます」

 

俺はそれっぽいことを言って、誤魔化すことに成功した。

 

 

 

「恐ろしい才能を持つ少女だった」

 

 

その日の晩、塔矢行洋は自室の碁盤の前に座りながら、ヒカルとの対局を思い出す。

 

「表に出ずに一門だけで、神の一手を目指す。途方もないことだ」

 

話を聞いて、あり得ない。と行洋は思った。普通ならヒカルが嘘をついている。と考えただろう。

 

だがヒカルの打ち方は、歴史を感じる打ち方だった。それに、時折定石の型が古かった。それでもヒカルは強く、対局が進むにつれ、此方の一手を学び、どんどん成長していくのを感じた。

 

「プロを目指さないと言っていたが」

 

プロを目指さないのは、残念ではある。だが、そこまで残念ではない。何故ならば、

 

「次の対局が楽しみだ」

 

定期的に碁を打つ約束が出来たのは良かった。

 

予想外なこともあった。息子であるアキラに嫉妬されるとは思わなかったが。

 

「アキラにとって、良い刺激になれば良いのだがな」

 

息子のアキラのヒカルへの反応を思い出し、思わず微笑ましく感じる父、行洋だった。

 

 

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